茂野吾郎を甲子園に連れて行きたい   作:破壊王子

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この小説はMAJORの二次創作です。

これからの展開もまだ完璧には決まっていませんが、色々と考えていたら楽しいです。


【第9球】決断

 

 

 

 

 

『もっと脇を締めてスイングしたほうがいいですよ』か。このくらいのアドバイスなら小学生でもできそうだ。しかし今のオレにはそれしか言えることはなかった。そう、大事なのは内容ではない。いかに藤井先輩を奮い立たせることができるか、だった。

 

 結果はわからない。

 確かに藤井先輩の目つき、打席での存在感などは多少良くなった気がする。しかしそれだけだ。これで打てなければ何の意味もない。大事なのは『結果』ただそれだけだ。

 

 茂野先輩は振りかぶる。

 顔を見ればわかる。疑う余地すらない。この1球は間違いなく『真っすぐ』だ。

 そして指先から放たれたストレートは真ん中、やや内角気味のコースに向かい、そのまま通過しそうだった。

 

 が、そうはならなかった。

 藤井先輩の渾身の一振りが炸裂し、金属バットの真芯に当たったボールは大きなアーチを描いて飛んでいった。

 

 ホームラン───とまでは行かないだろうが、確実にセンター後方までは飛んでいた。

『練習の甲斐があった』と初めて思えた瞬間である。

 

 

 

「やった…やったぞーッ!!!」

 

 

 藤井先輩は飛び上がって喜んだ。

 相手が投げてきたボールを打ちにいき、それを見事に弾き返す。その感触がどれほど気持ちいいことか…オレにはわかる。あの一件があってもそれだけは忘れていなかった。いや、もしかするとあのままだったらコレすら忘れていたかもしれないと思うと背筋がゾッとした。

 

 茂野先輩は打たれたにも関わらずに笑っていた。先程ように多少嫌味が含まれている笑いではなく、まるで初めて子供の野球観戦に行き、その子供がホームランを打った様を喜ぶような父親のように。

 清水先輩も同様だった。この2人は野球というものの楽しさ、素晴らしさを藤井先輩に知ってもらいたかったんじゃないかな。

 

 

「野球…やれよ藤井!」

 

「……ああ!」

 

 

 清水先輩の一言をグッと心に()みさせた後、藤井先輩は大きく頷いてそう答えた。勝負に負けたからではなく、自分から野球を始めようと一歩踏み出していた。

 

 

 

 

 しかしオレは───

 

 勝負とはいえ、このままあっさりと了承できるのか?

 

 過ちを償わなくていいのか?

 

 

 わからない。

 自分のことなのに、全くわからない。考えたくない。ああ、今オレはどんな顔をしてるんだろう。きっと青ざめたような表情なんだろうな。全くみっともない。

 

 

「球也!」

 

「…ッ!」

 

 

 ビクッと肩を震わせたのを気付かれたかもしれない。全く、さっきまで偉そうに藤井先輩に助言していたのにいざ自分の事になればこの体たらく。時間が経って少しは変わったかと思ったけど、何も変わってはいなかったようだ。

 

 茂野先輩がこれから何と言うかわかる。

 

 《約束どおりに野球部に入れ》

 

 こう言うに違いない。元からそういう約束だったからだ。しかしオレの中でそれになんと応えるかが纏まらない。

 

 

「わりい…俺はお前に嘘をついてた」

 

 

 え…?

 想像してたこと違う事を言われて頭が回らない。ええい、ここは一回深呼吸だ。もちろん小さくバレないように。

 

 …よし、これでいい。

 

 

「嘘…とは?」

 

「……ハッ…!」

 

 

 真剣な眼差しを向けていた茂野先輩だったが、すぐに目線を外して、さっきまでキャッチャー代わりにボールを受け止めていた壁に向かったボールを投げた。

 ボールは壁に当たった後、コロコロと茂野先輩の元に戻って行き、再びそれを拾い上げた。

 

 

「俺がホームラン打って、27個三振取れば──ってやつな。もちろんそんな事本当はおもってねーよ。ありゃお前の気を引こうと思って言っただけだ」

 

 

 あれ…嘘だったのか。

 いやさすがに1人でそんなこと出来ると思い込んでるわけないか。

 

 

「まあ、やろうと思えばやれるかもしれねーけどよ」

 

 

 やれるのかよ。ホントになんだこの人は。

 

 しかし──オレは過去のオレと茂野先輩を重ねてあの時怒ってしまった。まんまと気を引かれたわけだ。この人意外と策士だな。

 

 

「でもな…コレに関しちゃできるかできねーかじゃねえんだ。だってよ、1人で勝っても楽しくもなんともないだろ(・・・・・・・・・・・・)?」

 

「……!」

 

「勝った時に喜びを分かち合える、そんな仲間が居るからこそ楽しいんだ。勿論、本当に野球が好きな仲間とな。

 …お前の過去の事も親父さんから聞いたよ」

 

 

 やっぱりあの時話してたのか。

 全く余計なお世話…いや、違うな。これは父さんなりの思いやりか。

 

 

「けどな…お前なんか勘違いしてねーか?」

 

「勘…違い?」

 

 

 オレが勘違い?一体何を?

 

 

「チームプレイを出来ずに、事実上チームを崩壊させちまった。それで野球部を辞めた。そして二度と野球部には入らない。

 それで終わりか?それで過ちを償ったつもりか?」

 

 

 何が言いたいんだ。

 

 これ以上オレにどうしろと?野球部のみんな(あいつら)に土下座しろとでも?

 

 

 恐らく、オレの過去の話を知ってるのは茂野先輩だけだろう。それでも話の流れから察し、藤井先輩と清水先輩は黙って聞き()っていた。

 

 

 

「俺はな球也。野球で犯した過ちは野球でしか償えねえと思うぜ。辞めさせる事で償わせる事ができるんなら俺だってあん時…」

 

「……」

 

 

 茂野先輩は遠い目をしながら空を見上げていた。昔に何かあったんだろうか。

 

 それにしても…野球は野球で、か。考えた事なかったな。オレはなんて狭い視野の中で生きてきたんだろう。

 

 

「別にチームメイトだった奴らもお前の事を人間として嫌いだったわけじゃねえんだろ?だったら…成長したお前を見せつけて、いつかまた一緒に野球をやりゃいい。それが本当の償いってもんじゃねえか?」

 

 

 確かに野球部を辞めた後もあいつらと急激に仲が悪くなったわけじゃない。話しかけられたりもした。一緒に帰ろうと誘われたりもした。しかしオレはそれを全部拒んできた。自分から距離を取っていたんだ。それを1つの償いだと、またこいつらに迷惑をかけてはいけないと、そう思いやりをもっていた。

 

 しかしそれは全くの間違い。全ては怖かっただけだ。陰で何か言われてるんじゃないかと怯えていた。その怯えが、この男子の少ない聖秀へと進学する事を決めたに違いない。

 

 

 

 

 あいつらと真正面と向き合う事が、何よりの償いだったんだ。それに気づいてなかったオレに、茂野先輩はそう教えてくれた。

 

 

「また一緒に…野球を…」

 

「ああ!俺はそうするつもりだぜ(・・・・・・・・・・・)

 

 

 あいつらが何処の高校に行ったか、そもそも連絡先すら知らない。だがまだチャンスはある。オレの存在をこの神奈川に知らしめれば、絶対にあいつらも気付く筈。そんな実力は持ち合わせていないが、それでもやるしかない。

 

 勿論、1人では不可能だ。茂野先輩達と一緒にそう出来ればオレは一歩進むことができる。

 

 

 

 

《ダメだよ、球也。それじゃ勝てない。いや勝っても楽しくない》

 

 

宗吾(そうご)のこの言葉が真理だったんだ。しかし当時のオレはそんな言葉に聞く耳を持たなかった。いや、今更悔いてもしょうがない。もう前に進むしかないんだ。

 

 

 

 

「茂野先輩。オレは───」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ─────────────────

 ────────────

 ───────

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 ──

 

 

 

 

「球也ー晩御飯よー!降りてきなさーい!」

 

 

「…いいよ、オレが呼んでこよう」

 

「あら、悪いわねアナタ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 階段を上がってくる音が聞こえる。そして二回のノックの後に、部屋のドアが開かれた。父さんだ。

 

 

「なんだ…起きてたのか。晩御飯でき…ん?何してるんだ?」

 

 

 胡座をかいて、ドア側に背を向けたまま何かをしていたオレに疑問を持ったんだろう。隠すつもりなどない。オレはこれから正々堂々と生きるつもりだ。

 

 

 

 

「球也…お前…」

 

 

「父さん。オレ、野球部に入るよ!」

 

 

 

 いつもより入念に手入れしたグローブを大袈裟に見せながら、張り切った声でそう宣言した。

 




はい、第9球でした。

ついに球也くんの決断!しかし大変なのはこれからだと、まだ気づいていないのだった。

ではお疲れ様でした。
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