BanG Dream!~1人ぼっちな2人~完結 作:レイハントン
今回は一言で言うといろいろ起こります。
あれ……? 走ったのいつ頃だったけ?
走るのってこんなに疲れるものだったか………。
走って数分。
息が上がっている情けない俺。インドア派には辛い。
自分にここまで体力無いとは思わなかった……。
そんなことを考えながら目指すべき場所に走っているわけだ。
間に合うかどうかはわからない。それでも今はただ走るしかないんだ。
最悪な状況を避けるために。
ちょうど赤信号に差し掛かっかって立ち止まる。
肩を上下させながら信号を待っていた俺はふと思った。
いつから人のために走るようになったんだろう………。
昔から運動はあまり好きじゃなかったし、マラソンは一番嫌いだった。そこは有咲と同じでお互い共感出来ていた。
そんな俺が今は氷川の所に向かうために走ってる。昔の俺じゃ絶対有り得ないな。
信号が青になると同時に再び走り出した。
変な誤解を生まないためにも。今は全力で走るしかないんだ。
限界だと訴える体に鞭を打つように俺は走り続けた。
数10分かけてついたのは、いつも氷川達が練習をしているスタジオ。
息を切らしながらお店の中に入ってカウンターへと向かった。
「はぁ…はぁ。あのっ! Roseliaって…どこで練習してます…か?」
肩を上下させながら店員さんに伝えると、若干驚きながらも場所を教えてくれた。
「3番のスタジオ──」
「ありがとうございます!」
最後まで話を聞かずにカウンターをあとにした。
急いでスタジオに向かい、場所を確認してからドアを開ける。
「お姉ちゃんお姉ちゃんってなんなのよ!」
開けた瞬間に聞こえてきた氷川の大きな声。
俺が急に来たことよりも、氷川が声を上げたことの方が驚きなのかスタジオ内は静まり返っていた。
「憧れられる方がどれだけ負担に感じてるか……わかってないくせに!!!」
「もういい……氷川」
息が切れて思うように言葉が発せない。
俺の存在に気付いてるはずなのに氷川は口を閉じようとはしなかった。
それどころか今まで溜まっていた思いをぶちまけるように大きな声を出す。
「なんでも真似して! 自分の意志はないの!?」
「氷川! それ以上は!」
さっきよりも大きな声で静止するがやっぱり止まらない。
“まるで……あの時の俺みたいに”
「姉がすることが全てなら自分なんて要らないじゃない!!」
止まらない言葉に思わず俺は氷川以上の大きな声を上げていた。
「紗夜!!!」
再び訪れる沈黙。
みんなの視線が俺に集まる中、最初に口を開けたのは今井さん。
こんな状況でも話せるのは正直すごいと思う。
「それって、もしかして、ヒナのこと………?」
「……日菜?」
復唱するように湊も口を開いた。
「……っ!! ……私……」
「あこ……前にも言われたのに……。紗夜さん…ご、ごめん……なさい」
違う……あこは何も悪くない。
そもそもこの問題に悪い人なんて居ないんだ。
氷川の妹だって悪気があって氷川の真似をしているわけじゃないと思う。ただ……仲良くしたいだけなはずだ。
あこが何を言ったかはわからないけど本人に悪気があったとは思えない。
「どんな事情があるか知らないけど、Roseliaに私情を持ち込まないで」
なんだよそれ………。
「それに紗夜。あなたは今日、演奏にも集中できていなかった。帰ってちょうだい」
「そんな言い方ないだろ!?」
「いいのよ……。返す言葉もないわ。お先に失礼します。迷惑かけて、ごめんなさい」
そう言うと氷川は食い下がることもなく、あっさり認めて帰る準備を始めた。
俺はこんな状況にするために来たのか? いや違う。最悪な状況を未然に防ぐために来たはずだ。
なのになんにも防げなかったりあげく、氷川に声まで上げちまった。
最悪なのは俺の方か………。
ギターをケースにしまうと氷川は何も言わずにスタジオを出て行ってしまった。
遅かれ早かれこうなってたのかもな。
もっとちゃんと氷川の話聞いてやれば良かった。カッコつけて見守ってれば良いなんて思ってた自分に腹が立つ。
「あ……どうしよう? あこ、たぶん紗夜さんの嫌なこと、言っちゃったんだよね?」
「いや……。あこがなんて言ったかはわからないけど、たぶん違うと思う」
「市ヶ谷君の言うとおりかも。うちの学校に紗夜の双子の妹が居るんだよ。氷川日菜。聞いたことない?」
「あ、ずっとテストで1位で有名な人……」
ずっとテストで1位? どんな勉強したらそんな風に成れるんだよ。
………居たわうちに。要領よく勉強して学年1位の妹が。
運命ってやつは怖いな。妹が両方とも学年1位とか。
「休憩時間は終わりよ。何度も言うけどらRoseliaに私情は禁止。これ以上話したいなら、あなた達にも帰ってもらう」
こんな時にでも平常運転かよ。
尊敬したくなくても尊敬しちまうよ全く………。
少しは仲間のことを心配しろよな。
この先も同じようなことがあるかもしれないのに。
「あなたも早く帰ってちょうだい」
「なん──悪かった。練習邪魔して」
ここで人に当たってもしょうがない。また人に当たるわけにはいかないんだ。
あの時みたいに……。
俺も何も言わずにスタジオを出て行った。
お店を出た俺はどこに向かうわけでもなく、ただ黙々と歩いている。
氷川が出て行った時点で追いかけるという選択肢はなかった。本人1人で考える時間がほしいだろうし。
現に俺がそうだから。
だからと言っていつまでもほおって置くわけにもいかない。
こういう時こそ話をする相手がほしいはずだ。
………それにしても。氷川があんなことを思ってたなんてな。
憧れられるのがどれだけ負担かなんて……俺にはわからない。
そもそも俺と氷川は似てるようで似てなかったってことだよな。ただ妹にコンプレックスがあるって点だけが一緒なだけ。
勝手に思い込んでいたのか。
真実を知れば知るほど……思ってたことと違う。
ポケット手を入れて歩いていると、右手でスマホを触れた瞬間──丸山に返信を返してないことを思い出した。
「やべ……さすがに返さないと」
スマホを取り出してメッセージアプリを開いた。なぜか今井さんからメッセージが届いていた。
メッセージが届いた時間は数分前。俺がスタジオを出てきたのはさっき。出てすぐに送ってきたということだ。
確認するとこう書かれていた。
『あとで話出来ない?』
たぶん氷川のことだろう。
……今井さんには話しても大丈夫そうだな。
『わかった。場所はどうする?』
とだけ返して、次は丸山とのやりとりを開いた。
『返事遅れて悪い。ポスター、驚いたよ』
これ以上いい返事が思いつかなかった俺はそのまま返した。
明日会った時に謝ろう……。
謝ることいっぱいあるな。
数時間後。
どうやらRoseliaの練習が終わったらしく待ち合わせ場所、Circleのカフェに来てくれている。
俺は練習とかないから先に着いて待っている状況だ。
「ごめーん! 待ったよね?」
スマホに連絡が来てないか確認しようとすると、ちょうど今井さんが来た。
「いやいや。練習のあとなんだから遅れるのは仕方ないって」
「ありがとー♪」
お礼を言ってから俺に向かい合うようにテーブルに着き、ギターケースをテーブルに立てかける。
決して軽くはない物を持って遅れないように来てくれたことには感謝しないと。
「話って…氷川のことか?」
遠まわしに聞いてもしょうがない。ここは真っ正面から聞くことにした。
「ん~それもあるけど、まずは市ヶ谷君と紗夜の関係から聞きたいな~って」
まぁそうなるよな。
外から見たら俺と氷川はどんな関係なのか気になる人がほとんどだろうし。
今のご時世、男女で一緒に居ると付き合ってるのかな? なんて思われる時代だし。
「付き合ってはない。ただの友達かな」
「いつから友達なの?」
「小学の低学年」
「そっか~。長い付き合いなのに苗字呼びなんだね。どうして?」
どうして? ・・・確かになんでだろう。友達になってからずっと苗字呼びだな。
「名前で呼ぶ機会がなかったから……かな。それにずっと苗字だったから今更感もあったし」
「なるほど。2人の関係はだいたいわかったけど、少しは気にしてあげてね?」
「苗字呼びをか?」
「うん」
気にするって言ったって何年氷川って呼んでると思ってるんだ? 今更変えるのは結構勇気要るぞ……。
「なぁ紗夜。明日暇か?」
「なによ急に」
あーダメだダメだ。なんか違う気がするんだよなー。
1人シュミレーションをしていると、今井さんが次の話を振ってきた。
「話を元に戻すけど、紗夜のこと聞いても大丈夫?」
「話たいのは山々なんだけど、大元の理由は本人から聞くのが一番だと思う。だからおおよそのことだけで構わないか?」
「うん。大丈夫だよ」
じゃあどっから話すか………。
あんまり深いことを話しても本人から聞いてくれって言った意味がなくなる。
かと言ってペラペラなことを話しても伝わり辛い。
とりあえず起きたことを中心に話すか。
「氷川が怒った理由だけど、たぶんこれを見たからだと思う」
スマホを操作して氷川の妹が写っているポスターを今井さんに見せた。
「これって……」
「氷川の様子がおかしかったのはこのポスターを見たからだと思う」
「ポスターが原因なの? でも日菜しか写ってないし……」
普通の人から見れば普通なんだろう。だけど、俺と氷川からすれば目を疑うことが書かれているんだ。
「ギターの担当は氷川日菜」
「ギター? ……紗夜と同じ」
「そう。氷川は前に“ギターしかないって”言ってた。ギターは氷川にとって唯一の物だったんだ。妹がやってない唯一の……」
“それだけ”って言ったらそれまでだ。でも、氷川からすれば“それだけ”で済まない。
ごめんねで済むなら警察が要らないのと一緒。
「それに加えてあこのお姉ちゃんへの憧れの話。ああなっても仕方ない」
「そっか……。なんで市ヶ谷君は紗夜が怒るってわかったの?」
「それは……」
今井さんになら…いいか。
あっちこっちで話すような人には見えないし。
自分の過去を話すのは……初めてだな。
中学生の頃。
この時俺は世に言う反抗期というやつだった。
毎日のように有咲と口喧嘩。親が帰ってくれば親と口喧嘩。
どれだけ飽きられたことか。
この日も俺の部屋でお母さんと口喧嘩していた。
「なんであんたはいつも反抗ばっかりするのよ」
「たまにしか帰ってこないくせに指図するなよ」
「なによその口の聞き方」
昔から仕事が忙しいのはわかっていたし、それで帰ってこないことも何度もあった。
頭ではわかっているのに口では正反対のことをよく口にしていのを覚えてる。
「はぁ……有咲は手がかからない良い子なのに。あんたと来たら……」
「なんだよそれ……いつもいつも有咲のことばっかり!! 俺はいったいなんなんだよ!! あんた達のなんだ?! 道具かなにかか?!!」
ずっと嫌だった。有咲ばっかり甘やかすくせに、俺には「お兄ちゃんでしょ」とか「お兄ちゃんなんだから我慢我慢」とか。
それでほっといていい理由になるか?
なるはずがない。なっていいわけがない。
たまに帰って来ることがあっても有咲とばっかり話す。
いつしかそれが普通になった。
「あんた達を親だなんて思ってねぇからな」
お腹を痛めて産んでくれた母親に対して最低なことを言ったのはわかってる。
それでも中学の頃の俺には理解するのが無理だったんだ。
「ってなことがあったから。楽になろうと思ったことをどんどん吐き出すように言ったよ」
「……そう…なんだ。ごめんね? 辛い話させちゃったよね」
「別に。今はなんとも思ってない。俺と同じ思いを氷川にさせたくなかったんだ」
「そっか。……市ヶ谷君の気持ちはよくわかった。練習中は紗夜のこと気にかけてみるね」
なぜ最後にウインクをしてのかは謎だけど、今井さんなら大丈夫そうだ。
次になにかあってもなんとかしてくれそうだ。
……もしもの時は俺も手伝えばいいし。
「じゃああとのことは頼む」
「お姉さんに任せて♪」
お姉さんって……それ自分で言うか普通。
「あっ、今引いたでしょ」
「べ、別に……個性的でいいんじゃね?」
「なにそれ~」
この時の話を聞いていたのは今井さんだけと、てっきり思っていた俺は近くにある人の存在があることを気付かなかった。
ウェーブのかかったピンク色の髪の子に。
「ん~………」
次の日の朝。
いつも通りに起きて、準備を終わらせたまでは良かった。
俺はスマホとにらめっこをしている。なぜ朝からスマホとにらめっこをしていると思う?
別にゲームしてるとかじゃない。
『今日は1人で学校に行きます。ごめんなさい』
そう。氷川のメッセージとにらめっこをしていたのだ。内容からして明らかに距離をとっているのがわかる。
確かに俺は昨日、氷川に大きな声を上げてしまった。
謝るためにも会いたかったけど、今日はそうもいかないみたいだ。
「さすがに学校行ったら大丈夫……だよな?」
フラグってのはいつもこういう言葉から生まれるんだろうな。
「なぜだ……」
昼休み。
屋上で1人柵に寄りかかって空を眺めていた。今日は昨日と違って雲が多い。太陽が隠れたり出たりの繰り返し。
天気があんまりよろしくないからか人は少ない。
学校での氷川はものすごく話かけづらい雰囲気をかもし出していた。
トゲがあるから、避けて触れたら表面に毒塗られてましたーみたいな感じ。
どっちにしろ危ないんだよ。
話どころじゃない。まずは接触しないとどうにもならないのに、氷川は昼休みになると1人でどっかに行ってしまった。
一応探したけど足取りは掴めず。逆に白鷺に捕まって少し話込んだくらい。
「ちくしょー……放課後が最後のチャンスか」
最初で最後のチャンス。絶対成功させないと。
気合いを入れ直し放課後に備えた。
待ちに待った放課後。
よし………。今日はRoseliaの練習はないって今井さんから教えてもらったし、チャンスはここしかない。
帰りのホームルームが終わったと同時にクラスの人達は自分の席を離れていった。
氷川も同様に鞄を持ってさっさと教室を出て行こうとする。
「氷川。ちょっと待ってくれ」
なんとか氷川の前に立って声をかけた。
「ごめんなさい……今日はもう」
顔を合わせることなく言い放つと俺の横を通り過ぎていく。
「そんなこと言わずにさ。少しだけで良いから話を聞いてくれ」
ここで引き下がるわけにはいかない。再び前に立って話しかける。
「少しだけよ……」
「少しだけだから。とりあえず屋上に行こう」
なんとか氷川を捕まえて屋上へと向かったが、そこに会話は全くない。
やっぱり昨日のことがあるから少しばかり気にしてるんだろう。俺もそうだから………。
屋上に続く階段を登ってドアを開けると、ありがたいことに屋上には誰も居なかった。
ここでなら話せる。
ドアが閉まるのを確認してから氷川に向き合った。
「話ってなに?」
「わかってるだろ? 昨日のことだよ。……ポスター見たんだろ?」
すると氷川は核心を突かれたのか顔を逸らす。それでも構うことなく俺は話を続ける。
「唯一の物を“日菜”もやっていた。それが嫌だったんだろ?」
「なによ……それが悪いこと?」
「別に悪いとは言ってない。俺だって氷川と同じ立場だったら嫌だ」
氷川は何も言わずに顔を逸らしたまま。
「“日菜”だって悪気があって氷川の真似をしてるわけじゃ───」
「……っ! なによ! 結局あなたも日菜の味方じゃない!!」
昨日と同じように大きな声で俺に訴えてきた。
別に俺は日菜の味方をしているわけじゃない。あくまで中立的な立場で話たいだけなのに。
今の氷川には言っても逆効果のようだ。
「何年も一緒に居る私のことは苗字で呼ぶじゃない! 日菜のことは名前……私の何がいけないの?!!」
結局今井さんの言うとおりだったってわけか……。なにやってんだよ俺は。
「……苗字で呼ばれるの気にしてたのか?」
「最初は気にしていなかった。でもあなたが日菜って呼ぶ度になんで? って気持ちだけが大きくなって………。自分の気持ちがわからない………」
同じだ……自分の気持ちがわからないのが。
「悪い……全然気付かなかった。名前のことを気にしてたなんて」
「それくらい……気付いてよ」
結局俺は何にも気付いてやれなかった。氷川がなにを思っていたのか、なにを悩んでいたのか。
名前で呼ぶって些細なことも出来なかった。
なにやってんだろう……俺は。
これじゃあなにも変わらない。
「見守るのが氷川のためだって思いこんでた。でも違ったんだ」
見守るじゃない。俺自身が守りたいって思うようになった。
あれ? もしかして俺って……。
「いつの間にか勝手に距離とって……」
やっとわかった……氷川のことをどう思ってるか。
氷川は仲の良いただの友達でも、お互い理解しあえる親友でもない。
俺にとって大切な想い人だったんだ。
「大切な人から逃げてた」
「大切な……人? 私が……?」
「ああ……」
なんで今まで気付かなかったんだろう。
男と居たらどうしようとか、付き合ってる人が居ると勘違いをした時点で胸を針で刺されたような感じがしたときに気づくべきだった。
その関係が崩れるのが嫌だったんだ。もし……気持ちを伝えて断られた時に。
「氷川……俺はずっと気づかないふりをしてた。お前のことが──」
「好きだってことに」
突然の告白に氷川は顔を真っ赤にしてあわあわし始めた。
「えっ?! わ、私のことが……す、好き?!」
「ああ。氷川のことが好きだ」
もう1回好きって言うと、さっき以上に顔を真っ赤にした。顔から煙が上がるんじゃないかってくらいに。
その姿を見て、俺が言った言葉の重大さに気付くき心臓が早鐘のように動きだす。
今までにない速さで内心驚いている。
「そ、その……私は……」
「あっ…いや…。返事は…その……。今すぐじゃなくていい。いろいろ落ち着いてからでも構わないから」
「……こんな時も優しいのね。ありがとう」
まだ赤い顔を懸命に俺に向けてくれた氷川。いつも見ている顔なのに今日はどこか違った。
これまで以上に意識しているのかもしれない。
見慣れているはずの氷川の顔を見ると、俺まで顔が赤くなるような感覚に襲われる。
実際には赤くなっているんだろう。
「今日は……もう帰ろう」
「え、ええ……」
来たときと会話が無いというなにも変わらない状況の中、俺と氷川は屋上をあとにした。
屋上のドアを閉めて、横に並んで階段を降り始めた。
時折触れるお互いの手。いつもならお互いに距離をとるはずなのに今は距離をとるどころか、スッと手を握った。
「昨日は……悪かった。その…大声出して」
「いいえ……。私も……謝らないと」
「そうだな。あこなら許してくれるさ」
「ええ……」
1階下がり、もう1階下がろうと階段に右足を着いた瞬間──一緒に歩いていたはずの氷川が1人、前に飛び出した。
階段で躓いて転んだ? いや……氷川に限ってそんなことは──
「えっ……?」
「氷川!!!」
俺は右手を伸ばすのではなく、両手で氷川を自分側に引き寄せた。
そのまま階段を転がり落ちる。全身に痛みが走る中、一瞬だけ見えた人物。階段の上でニヤリと不気味に笑う──藤紫色の髪の子。
お前が氷川を───
階段を転がり落ちる中、強く頭を打ちつけた。その瞬間俺の意識は飛んだ。
犯人はいったい……
次回──最終話 1人ぼっちな2人
彰兎はどうなってしまうのか………