BanG Dream!~1人ぼっちな2人~完結 作:レイハントン
俺は一旦男子トイレに逃げ込んだ。
校内に張り出されたポスター。ご丁寧に俺の名前だけ書かれていて、写真まで貼ってある。
1枚は昨日街で松原と会った時の写真。もう1枚は朝方に花園さんにあった写真。
両方とも目に黒い線が入っていて、誰かはわかりづらい。
俺にだけ迷惑がかかるのはいい。出来ればかからない方がいいけど。
こうやって他の人に迷惑がかかる方がもっと嫌だ。
男として最低なレッテルを貼られるだろうけど、今はポスターを全て剥がすのが先決だ。
意を決してトイレを出る。一番近いポスターは自分の教室の前。
今、自分が居る距離からでもわかる程人がわんさか居る。
重い足取りがさらに重く感じる。通りかかる人達はみんな視線を逸らしてゆく。
2、3人居る時はコソコソと話始める。
「最低な人ね」
「もとからそういう理由で来たんじゃないの?」
「うわー。ありえないわ」
息が詰まりそうだ………。
この時──俺を見つめる人物に気付くことはなかった。
教室の前に行くと、ざわつきが増し始める。問題の人が登場したらまぁそうなるよな。
人ごみの中には生徒だけではなく、先生も2、3人来ていた。
「市ヶ谷君。悪いんだけど職員室に来てくれるか?」
「あ、はい」
怒られんのかな………。悪いことしてないのに。
憂鬱だよ……全く。
結果から言うと、先生への誤解は解けた。だけど、喜んでばかりはいられない。
今俺は1人、帰路についている。先生達が今日の所は帰っても構わないと言ってくれたのが大きい。
正直今日は学校に居たくない。鞄を取りに戻る途中も視線が痛かった。教室のみんなも。
落ち込んでばかりはいられない。
松原と花園さんに謝らないといけないし。
それにこの騒ぎを落ち着かせないと。これ以上騒ぎが大きくなれば松原達の立場が危うい。
いや…この場合は俺の立場だけか。
2人はかわいそうな人。俺は最低な人というレッテルが貼られて終わり。
最悪俺は構わないけど、松原と花園さんに支障をきたすのは嫌だ。
それよりもだ。いったい誰がこんなことを………。俺を恨んでる奴っていうのは間違いない。
でも、思い当たる節がないんだよな~。
恨みを買わないように過ごしてきたつもりだけど…そうはいかないのかも。
「あーきっつ」
誰も居ない道の真ん中で声を出す。
特に答えてくれる人は居ない。
「真面目な兄貴がサボりですか」
あれまー。答えてくれる人居たわ。
「お前こそサボりかよ有咲」
「今日は早退する日なだけ」
「そうかよ」
早退した人がここまで走って帰ってくるかね。
有咲の額にはうっすらと汗が滲んでいた。
早く帰りたかったって言われたらそれまでだけどさ。少しは心配してくれたっていいわけじゃん? 別に罰は当たらない……と思う。
「お前、あれ…俺がやったと思うか?」
「はぁ? そんなこと兄貴に出来るわけないじゃん」
「今のはグサッときたわ~。お兄ちゃん落ち込んじゃうよ?」
「気持ち悪っ」
気持ち悪っ、ってなんだよ。キャラでもないことやってるんだぞ? たまには乗ってくれてもいいんじゃね?
そんなことがこの妹にわかるはずもなく、ただ俺の横を通り過ぎてゆく。
ホント、可愛くねぇな。
心の中でボヤキつつ有咲の横に並んで歩き始めた。
こうして並んで帰るのは何年ぶりだろう。
「……どうするの?」
「どうするって?」
お互い顔も会わせずに話を進める。
「浮気疑惑のこと。兄貴不利じゃん」
「あのなー。別に松原とは付き合ってない。不利なのは不利だけど」
「結局不利じゃん」
まぁ不利だ。でも覆せないこともない。だって俺は浮気してないもん。
そこが狙い目だ。
「真実をどうみんなに伝えるかだな。このままじゃラチがあかないし」
「でも兄貴の言葉を信じてくれる人って居るの? 無理じゃね?」
「やってみなくちゃわからないだろ? 何事も挑戦だ挑戦。やらない後悔より、やる後悔ってな」
「結局後悔してんじゃん………。どうせなら後悔しない方が良くね?」
「確かに………」
鋭いな妹よ。だけどな──
「俺は戦うよ。このまま逃げたら相手の思うツボだからな」
「ふーん。……カッコいいじゃん」
最後の方の言葉は小声でよく聞こえなかった。
「今なんて?」
「別に」
「なんだよそれー」
「うるせぇ!」
なぜか顔を赤くして否定された。いったい何を言ったんだ有咲。
それがわかる日は永遠にこなそうだ。
────────☆
昼休み。羽丘学園の教室にて。
「ん~気のせい……か?」
オレ、羽沢修平は自分の席でスマホを見ながら1人唸っていた。
SNSに流れてきたこの事件? 疑惑? かはわからねぇけど、やり口がなんとなく似てる………。
中学の頃に起きた出来事。
1人の男子生徒が女子生徒を襲ったという疑惑。
長い間騒がれてたけど、結局証拠不十分でその男子生徒はなにも咎められることはなかった。
でも、そんな疑惑が出たもんだから女子からは嫌われ、当時付き合っていた女子とも別れたらしい。
根は真面目な人がそんなことをするわけがないって今でも思ってる。
「なに唸ってるの? 修平」
上を見上げると、同じクラスの今井リサがオレを上から覗き込むように立っていた。
「いや、ちっとな。これが気になってさー」
スマホをリサに渡すと、「あーこれね」と声が聞こえてくる。
余談だけど、リサとは小学生からの腐れ縁。後1人居るけど。
「これって本当なのかな?」
「さぁー。花学に友達居ないのか?」
「いくらアタシでも居ないかなー。でも友希那がその事件見て、良いザマねって言ってたんだよ」
「あの友希那が? この市ヶ…谷? と知り合いなのか?」
「アタシも気になったから聞いたけど、他人よってひと蹴りされちゃったー」
なんじゃそれ。で、結局本当かどうかまではわからないか。
………今日の放課後は暇だったはず。部活やってないし、友達と遊ぶ約束もない。家の手伝いは知らん。
………よっしゃ!
「放課後、コイツに会ってこようかな」
「え?! いきなりどうしたの?!」
「んー気分」
「絶対嘘だ」
さすが幼なじみ。オレの嘘を見抜くとは。
妹と比べるとまだまだだがな! はっはっはっ!!
そんな話は捨てといてだ。本当の理由は、中学の時に起こったことと似てるから。
ゴシップ大好きメガネが言ってた。犯人は華山早妃じゃないかって。
「もし、中学の事件と犯人が一緒だったら?」
「っ! それはヤバいよね……」
「だから本当にこの市ヶ谷って奴がやってないのならば、可能性は高い。華山早妃は花学に進学したって聞いたし」
「そっか。応援してるね♪」
「おうよ! 任せておけって!」
目の前で苦しんでた奴を助けてやれなかった分、この市ヶ谷って奴を助けたい。
犯人がコイツだったらそれはそれでとっちめるけどなっ!
ってことでー。
「市ヶ谷彰兎? に合わせてくれ友希那」
もう1人の幼なじみ、湊友希那が教室に戻ってきたので言ってみた。
「他人ってリサに言ったはずよ。あんな奴の居場所なんて知らない」
「えー?! 知ってるのか知らないのかどっちだよ!!」
「知らないわあんなゴミみたいな男」
知ってる奴の言い方じゃんかーそれ。ていうか、なんで友希那にそこまで嫌われてるんだ?
他人には冷たい態度とるやつだけど、ここまで嫌ってるってよっぽどだな。
市ヶ谷彰兎……なかなかヤバいやつかもな。
帰りのホームルームが終わると同時にオレは教室を飛び出した。
他のクラスはすでに終わっているみたいだ。
真っ先に向かったのは──
1年生の教室。マイラブリーエンジェルの妹。羽沢つぐみに会うためだ。
え? 市ヶ谷彰兎に会いに行くんじゃないのかって? そんなもん妹が優先に決まってるだろ。
つぐみの居るクラスにたどり着き中を覗く。するといつものメンバーが揃って話していた。
「つぐ~! 人探し行ってくっから、家の手伝い無理ってばば……お母さんに言っておいてくれ」
「えっ?! お、お兄ちゃん?!」
言うだけのことは言った。さらばかりだつぐみよ!
妹の返事も聞かずにオレは再び教室を飛び出した。
廊下を走り、階段を駆け下りて昇降口に向かう。
「あっ! しゅうくんだ!」
「おー日菜かー! 今日も元気だな!」
「ただ名前呼んだだけなのに……?」
日菜の言葉も聞かずに通り過ぎてゆく。
今のオレは、誰にも止められないぜ!
勢いは大切だ!
─────────☆
「お前はいいよな~。寝るのが仕事とか羨ましいよ………」
庭で駆け回るハヤテを縁側で眺めながらただぼーっとしている。
結局あれから良い案は出てこなかった。ただ1日唸って終わったとか先が見えん。
お先真っ暗ってこういうことを言うんだな。
誰かー俺に救済処置をしてくれー。
そんなことを思っても今の状況は変わらない。
ため息ばかり吐いていると、今日も戸山さんが走って来た。
因みに流星道左側の道を通ると家の敷地内に来れる。いちいち門から入ってもらうのも面倒だから、裏から入って良いって許可を出した。
「彰兎先輩、こんにちは!」
「こんにちは」
今朝あんなことがあったのになんでいつもと同じ態度なんだ?
少しくらい気まずいはずなんだけど………。
「私、彰兎先輩があんなことやってないって思ってます! だから元気出してください!!」
「お、おう。ありがとね。あとで飲み物、蔵に持ってくから」
「はい!」
返事をすると、戸山さんは蔵の方へと走って行った。
後輩に元気づけられる先輩って・・・・まぁ、良い後輩が持てたってことでいいか。
後輩という単語を思い出すと気になるのは花園さんのこと。
今頃なにもなければいいけど。
なんて考えながら寝転んだ。
すると隣に置いておいたスマホが震えた。
画面に表示されているのは連絡アプリから来たメッセージ。
送り主は丸山だった。
『私は市ヶ谷君は何もしてないってちゃんと思ってるよ!
だからまた明日学校でね♪』
「はは…。お前らしいな…丸山」
よく見るとあと4件来ていた。しかしそこには氷川からのメッセージはない。1つずつ確認するためにロックを解除してアプリを開く。
「おいおい……なんだこれ」
上から丸山、白金、あこ。同じ高校の男友達からもメッセージが届いていた。
『市ヶ谷君がやってないって信じてるから』
『なんか大変なことになってるみたいだけど、頑張ってね! あこ応援してるからっ!』
なんであこまで知ってるんだ?
白金から聞いたとかなら納得出来るけど。
実際こういう風に言ってもらえるのはすごいありがたいことだ。
もっと頑張らないとって思える。
なんか対策考えないと。
それぞれに返信を返した俺はスマホをポケットにしまった。
「ワン! ワン! ワン!」
「どうしたハヤテ」
明らかにいつもと吠え方が違う。
視線を向けると、そこには知らない奴が立っていた。
「あんたが市ヶ谷彰兎か?」
この流れは………。