自分はなぜ生きているのだろう。
なぜ呼吸をしているのだろう。
何の為に…
ふと考えてみる。父が哲学者なんて呼ばれる仕事をしているせいだろうか。
たまにこういう事を考えてしまう。
時計の針は、その時すでに夜の10時を指していた。
「もうこんな時間か」
普段なら私は、今頃お風呂にでも入って呑気に鼻歌でも歌っているだろう。
だけど今日はそんな場合ではなかった。
なぜなら、すぐ近くの海辺で花火大会があるからだ。
飲み捨てられた缶ジュースが無造作に散らかっていた。それを見てやっと自分の部屋なのだと気づく。
どのくらいの間考え事をしていたのだろうか。30分ぐらいか。いや、それ以上かもしれない。
喉が渇き、外の自動販売機にジュースを買いに行く為に財布を探す。
手慣れた手つきでサッと髪を梳かし、いつものストレートヘアにする。そして、薄いTシャツと履きなれたホットパンツというラフな服装で外に出る。
空には欠けた月が浮かんでいる。幸い、ここはそれほど都会じゃないせいか星はそこそこ見ることができる。
私が3分ほど歩いた時突然―――
「うわーー!海で人が!」
私のマンションの隣の部屋に住んでいる中年のおじさん…山田さんがいつもの少し火照った顔色を真っ青にして、部屋へ駆けこんでいった。
山田さん以外にも次々と人が走り去っていく。
この町の花火大会は県では有名で、毎年数万人の見物客が来る。
何か花火の暴発でもあったのだろうか。
嫌な予感がした私は、急いで部屋に戻り私の部屋の702号室から外を覗く。
「嘘でしょ…」
いつもは月の光でキラキラ輝いている海が、まるでなにかに侵食されているかのようにジワジワと真っ赤に染まっていく。
それに伴い私の胸の鼓動もはやまっていく。
人の死…これほど残酷な事は無い、と、初めて私が思った瞬間であった。
――――――――――
あの事件の1週間後に、深海棲艦なるものの仕業だという事が分かった。
その頃はまだ、我々人類はその存在すら知らなかった。
事件のすぐ後に国が旧日本軍の士官学校を改装し、海軍の育成や新しい兵の募集などを行った。
私は事件の現場を見てしまったのでそれまでのパティシエになる夢を追うのをやめ、今の新しい夢…提督になる事を目標とした。
男女雇用機会均等法が制定された今でも女性差別は残っており、新海軍となる少し前までは女性が軍隊に入る事はできなかった。
だが、今のこの世の中では兵隊になりたいという若者の割合が今までのデータよりも格段に低くなっており、
女性も加入させて少しでも兵力を補強したいというのが政府の見解だった。
そこで、私はもう二度とあんな悲劇を繰り返さない為に海軍に入る事に決めたのだった。