執務室の内線電話に、門外のインターホンの通話が入る。門の前には宅配便のトラックが止まっている。
「クソ提督!なんか届いたわよ。」
「すまんー!トイレにいるから代わりに受け取ってくれー!」
「…仕方なわね。今、受け取りに行くから待っててください。」
そういうと秘書艦の曙はドアを開け、階段を下っていく。しばらくして提督が無人の執務室へ戻ってきた。
「手ごわい敵だった…」
「何くだらないこと言ってんの。」
曙が戻ってきた。手には小さな段ボールがあり、綺麗な包装がなされていた。
「お帰り、曙。で、その包みは?」
「大本営からみたい。勲章…じゃないけどその部類じゃない?珍しいわね。」
「なんか鎮守府の扱いが雑になったなあ…まあ、前からそんなもんか。」
「じゃ、机の上にでも置いといてくれ。」
「はーい。」
海峡章は箱から出され、外界に晒される。ついにこの時が来た。
(潜入成功だな…ってこれ、執務室?)
海峡章が置かれたのは、和室のこたつの上、ミカンかごの横だった。
ー潜入開始から数週間後ー
(今日も動向はないのか。)
(ないです…。)
(まあいい、激戦の後だ、そういうこともあるかもしれん…何かあったらすぐ知らせ!)。
(はい了か… あ、切れた。)
一日一回の深海提督との通信が終わる。
(絶対怒ってたよな…)
彼は深海によって送り込まれた諜報員『海峡章』。深海の装備の材質によって作られ一見ただの金属の置物である。しかし、深海側との通信技術を持ち、魂を持った彼は、海峡章として敵鎮守府に送り込まれた。これによって艦娘側の動向を完全に把握し、戦争は深海側に有利なものになる…はずだった。
「ちょっとクソ提督!任務しなさいよ、にーんーむ!」
「今、備蓄期間だ。みんな休め。」
「じゃあ、今手に持ってるスマホは何。」
「クソ…星4しか出ねえ。」
「また課金したの?!クソ提督!」
(帰りたい…)
鎮守府はうるさいものの特に大きな活動はなく、静かな時間が流れていた。それもそのはず、数週間前にはレイテ沖で大規模な戦闘があったからである。ほとんど総力戦であった戦いに鎮守府は疲弊し、備蓄期間に入っていた。しかしそれだけが理由ではなかった。
「だから浪費した資源の備蓄期間って言ってんだろ。」
「あんた、そんなこと言ってこの調子じゃ次イベ間に合わないでしょ。
「うっ」
「そしてどーせ備蓄し終わっても、次のイベ近づいたら『次イベの備蓄期間だー』って言うつもりでしょ?」
「何故それを?!」
「図星なのね…」
見てのとおり、ここの提督はクソ提督であったのだ。昔はもっと真面目に活動していたのだが、スマホゲーなどにはまりなおざりになっている。しかし、昔やってた名残で艦隊練度は結構は高い。秋イベの攻略ができたのもこれのおかげである。その代わり、備蓄は火の車であるが…
提督、もといクソ提督と曙はこたつに入っていた。部屋は和室風、床は半分が畳の簡易畳で、板張りのところには達磨ストーブが置かれている。外は氷点下であったが執務室の温度は快適であった。ちなみに、この部屋は提督の趣味で変えてある。(曙も結構気に入っている。)
曙が執務、といっても雑務の書類の整理をする。その横でスマホゲーをする提督。そして机に置かれたままの海峡章。また静かな時間が始まる。
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(ほんとにここは鎮守府なのだろうか…ってメールだ。)
急いでメールを開封する海峡章。そこには、深海輸送部隊が損害を受けたと言う文面が。驚いた。なぜなら、見てのとおり出撃の動向は全くなかったからだ。そしてそれと同時に執務室へ伊58が入ってきた。
「帰ってきたでち!今日も資源がざっくざくでち!」
「おつかれー」
「って、なんで勝手に出撃してんのよ。」
「新しく来たルイージ・トレッリにオリョクルを教えてきたでち!20周してきたでち!」
「いい心がけだ。」
「また行ってくるでち!」
「少しは休みなさいよ。…ってもう行ってる…ルイージ大丈夫かしら。」
「完全に社畜化の一歩をたどっているな…まあ資源が増えるしいいか。」
「えぇ…」
呆れた曙が執務に戻る。しばらくして提督はキレた曙にWi-Fiを切られ、仕方なく工廠へ建造及び開発の指示を出しに行く。
「あっ!大型建造しないでよねクソ提督!」
「さすがに備蓄期間だし、しないよー。」
ドアの外から返事が来る。と同時にまた鎮守府が静かになった。
(大型建造はしないっと…今日分かったのはこれと雑務の資料だけか。あ、輸送部隊壊滅の件について報告…というより謝罪しなきゃ…)
大きくため息をつき、肩を落とす海峡章。が周りから見るとやはりただの置物であった。彼はメールの返信を書き始めた。深海側へのメールや通信は脳内で思ったことを内臓のコンピューターと特殊通信機で暗号化して送れるのでバレることはない。さすがに提督も怒っているだろうし、長めの謝罪の文章を書きだす。
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(文面はこれでいいかな…やっぱ勝手に動かれるのはきついな…ってなんか熱い??)
痛覚などは持たないので熱くてきついという感情はないが一応、周囲の状態は把握できる(でないと偵察できない)。彼はいつの間にか移動していた。そこはカップ麺の上であった。
「あ、赤城さんここでカップ麺作らないでください。書類とかあるし、」
「寮の方で食べてると、加賀さんに怒られるから…」
「加賀さんが赤城さんに怒るって…どれだけ食べたのよ。」
「乙女の秘密です!」
結局、海峡章はカップ麺の蓋の重しにされたまま3分待たなければならなかった。ふと、暇だった赤城の目が海峡章へとまる。曙がそれに気づき話し出す。
「ところでこれって何ですか?」
「海峡とか書いてるし、この間のレイテの勲章じゃないかしら?」
「赤城さんも知らないのか…だったら重しにしないでください。」
「もしかして食べれたり…」
「しません。多分、」
どうやら、海峡章はボーキサイトではできていないので食べられない。そうわかるとあきらめた赤城はできたカップ麺を一瞬で食べ終え、執務室を後にした。また静かな時間が続いた。念のために、動き(まあ表面上変化はないが)を最小限にとどめていた海峡章が活動を始める。
(バレなく…いや食べられなくてよかった。ってあれ)
いつの間にか曙は眠りにつき、外は大雪になっていた。提督も何か用事でもあったのかまだ帰ってこない。
(やることがない…にしても静かだなぁ…)
海峡章も活動レベルを下げ、仮眠についた。
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しばらくして、沈黙を破る大きな音がした。階段を登る音だ。それも、どうやらかなり急いでいる様だ。
「ん…クソ提督…?」
(これは…何かあったのか?!本部への通達の準備だ!)
驚いた曙と海峡章が起きる。しばらくして、勢いよく開けられたドアから提督が出て来た。頭には雪が積もっており、手には大量の何かが入ったバックが持たれていた。驚く二人(一人と一個)が黙っていると、不思議に思った提督が提督が震えながら話しだす。
「今日は鍋だ!」
「え。」
(えぇ…)
「急いで7駆を呼んで来い!鍋パだ!」
「いつもクソ提督は急なのよ…」
「いいだろ、寒かったんだから。マジ寒い。あ、あと鍋とコンロも…」
「自分で取ってこいクソ提督。」
などと言いながら嬉しそうに部屋を出ていく曙。提督はストーブの前で暖をとる。しばらくして、提督が鍋とコンロをもってきた。7駆の残りの3人も集まる。そして鍋の準備が整い鍋パが始まった。海峡章はこたつの端に追いやられる。あっけにとられている海峡章に通信が入ったという知らせが来た。まだ通信が安定してないのかノイズがひどい。しばらくして安定してきた。
(…あ深海側とつながった。忘れてた…)
(***ーーーかーー何かあったのか!)
(すいません勘違いでした…)
(くっ…まあいい。ちょうど通達することがあったからな。)
(何でしょうか?)
(明日から1日1回の通信は1週1回に変更だ。それも直接私じゃなくて秘書艦のル級につなげ。)
(了解しました!)
(何かあったら知らせろよ!)
荒い音を立てて受話器を置く音が聞こえ、通信が終わる。
(こりゃ、とんだ窓際部署に配属されちまったな。)
気を落とす海峡章。その横では華やかな鍋パか続いていた。5人のにぎやかな会話が聞こえてくる。
「さーざーなーみ!なんたちょっと詰めなさいよ!私もおこた入りーたーい!」
「押さないでよボノ~あ、提督の横空いてるじゃん。」
「こっち来ていいぞ。」
「クソ提督は黙ってろ!」
(まぁ。これはこれで退屈しなさそうだし、いいか。)
そして夜は更ける。皆、鍋パも終わったので自室へと戻る。また執務室と海峡章に静寂が訪れる。
続く…?
作者です。海峡章をカップ麺の上に置きたかっただけです。
カップ麺の蓋はやかんの蓋の底で温めるとぺりぺりが復活するぞ!(注意:カッ〇ヌード〇はできない。あと、やかんでやけどしないように注意。)ちなみに作中の鍋は豚と白菜を巻き巻きしたやつ(名前は知らない)です。どうでもいいね!
続きのねたが思いついたり、冬イベで何か使い方がわかったら続きを書きたいです。(今のところなにも思いつかないので、続編は気長にお待ちください。)