宿毛泊地提督の航海日誌 -memories alive-   作:謎のks

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 此処より先は、人の「常識」は通じない。

 人の「理」も通じない。

 かと言え、モノの「論理」という訳でもない…


 過去、現在、未来。


 それら「不確定要素」を束ね、混ぜ合わせ、やがて一つになる。


 …神の業は、これ程までに「理解不可能」であったか……。


02.蘇る過去

 突如、凶暴性が急増した深海群は日本への「強硬侵攻」を開始する。

 

 彼女たちの異常を確認するため、そして日本の防衛に当たるため、宿毛泊地から「水雷戦隊」が派遣された。

 

 

 

 

 

・・・・・

 

「…さて、そろそろですね?」

 

 水雷戦隊旗艦、軽巡「神通」は偵察用の水上機の発進準備に取り掛かる。

 右腕に専用のカタパルトを取り付け、そこに模型サイズの妖精搭乗員の乗る偵察機が取り付けられる。

 

「頼みますよ?」

「ミィ!」

 

 彼女の期待の言葉に、敬礼で答える妖精搭乗員。

 神通が天高く腕を構えると、カタパルトから勢いよく発射される偵察機。あっという間に空の彼方へ飛び去った。

 

「ふぅ…」

「神通さん、お疲れ様です」

 

 神通に声をかけるのは、特型駆逐艦「吹雪」。彼女は宿毛泊地で提督の秘書艦を務めている。

 秘書艦は提督の身の回りの世話に限らず、有事の際には一艦娘として出撃する…彼女も例外でなく、様々な作戦や異常事態に率先して参加している。

 

「吹雪さん、其方は異常ありませんか?」

「はい! でも…いつもの海のように見えて、今回は何故か空気がピリピリしてるような?」

「それは私も感じています。何か…肌に張り付く嫌悪感を」

 

 果たして、それが何を意味するのか。

 

 今は分からないが、それでも現状の把握には直接視認するに限る…泊地の提督執務室にて、モニターで見守る提督たちも、固唾を飲んでいた。

 

「さて、何が出て来るか? それこそ鬼や蛇で済みますか…」

「………」

 

 徳田はいつものように、それでいて焦りを感じさせる台詞を。提督はいつもとは違い、ただ無言であった。

 彼には、何か嫌な予感がしていた。直感には自信があるが、これにはそれ以上に心を騒つかせるモノがあった。

 

「……ふぅ」

「…どうしました? らしくないですねぇ? そんなに黙り込んで」

「ん? おお…何でもないわや」

 

 いつも以上に素っ気ない言葉を返す提督。今の彼には、そんな言葉しか思いつかない。

 隣で控える大淀は、提督の異変を感じ取り少し心配そうにしていた。

 モニターを見つめる二人。そこには近海の警戒をする宿毛泊地水雷戦隊の姿が。

 

「さて、何が出てくるかねぇ?」

「……」

 

 キョロキョロと目視による見張りを続ける駆逐艦「江風」、そして「ヴェールヌイ」。

 その後ろには同じく駆逐艦の「磯風」と「照月」が周囲を見回しながら続く、並びは先頭を神通、次に吹雪、そこから江風と「単縦陣」の陣形である。

 

「アタシゃ早く敵さんとやり合いたいンだけど?」

「ふっ、気が合うな江風。私も滾っている所だ」

「二人とも、任務は「偵察」だ。任務以外の行動はあまり好ましくない」

 

 ヴェル(ヴェールヌイ)が江風と磯風を嗜める。二人は自制心はある方だが前に出過ぎる傾向にある為、終始冷静な対処ができる彼女が手綱を握っているようだ。

 

「気持ちは分かるがぁオメェらぁ、少しばっかし空気を読めいょぉう?」

 

 照月の方から声がする。男の声…彼女の艤装に備え付けの「長10cm砲」のノリちゃんであった。

 

「私も、いつもどおりに真面目にやるよー!」

「オメェもだ、照月ィ?」

「ええ〜!? 私は違うでしょ〜う? もうノリちゃん壊れちゃった?」

「どぉの口が言ってやがんだぁ? 全く…」

 

 口(?)に加えた葉巻(のようなもの)をぷはぁ、と吹かすとノリちゃんはいつもより低いトーンで話す。

 

「…気合い入れてけぇ? 今回はマジにやべぇかもしれねぇ…何せあの「くう」の嬢ちゃんがやられちまったんだからなぁ?」

 

 ノリちゃんは今回の異常事態、その危険度を、ボロボロの状態で泊地に運ばれたくうさんを引き合いに出して示した。

 

 もしも、彼女がやられたことと今回の深海群の謎の侵攻に関係があるのなら…。

 

「…そうだね? だが何にしても緊迫しすぎてもいけない。いつもと同じように、私たちは任務に従事するだけだ」

「…そぉだなぁ? 悪りぃなぁ、少しオレも気を引き締めすぎてたかぁ?」

「いや、君の言っていることは正しいよ? ノリちゃん…私も同じ気持ちさ」

 

 ヴェルが優しく肯定する頃、先頭では神通が彼女の偵察部隊の連絡を受けていた。

 

「っ! ……」

 

 

 

──敵艦、発見セリ。

 

 

 

 数、駆逐十五、軽巡十、重巡五、重巡ハ前方展開、軽巡、駆逐ハ中心二「ナニモノ」カヲ護ルヨウニ円陣ヲ組ム…──

 

 

 頭の中で電文が打たれるや、偵察機から見える映像と思われる光景が映る。

 そこには、報告にあった通りの水上部隊が有った。恐らく後方にいる円陣の中心が旗艦であろう。

 

「…成る程」

 

 

 

──了解、直チニ帰還セヨ

 

 

 

 短く返答すると、映像が反転するのが分かった…偵察機は直ぐに戻るだろう。

 

「神通さん?」

「ここより先に、敵の水上部隊と思われる深海群があります。先ずは其処へ…しかし、どうか慎重に。なるべく戦いは避けるように」

「…はいっ! 皆、聞こえた?」

「おーぅ! いっちょやったろーぜ!!」

「…江風?」

「わ、分かったって…怒るなよヴェル?」

 

 一行は針路を真っ直ぐに、謎の深海群水上部隊に迫る…。

 

 

 

 

 

・・・・・

 

 しばらくして、目の前にそれらしい影を捉える神通たち。

 横目から視認出来た…前方に重巡リ級、後方には軽巡、駆逐艦の大群がぐるりと何かを囲んでいた。

 あまりに大勢でひしめき合うようにあるせいか、中心のモノは視認できなかったが。

 

「いましたね…?」

「確かにそうみたいですね? でも…」

「ああ…何だろうな、この感じは? この気配は…」

「とりあえずさ、やっちまって良いンだな?」

「駄目だ。数が多い、せめて中心が見えれば…」

「…ん?」

 

 一行が思い悩むと、何処からともなく「歌声」が響いた。

 

「……!?」

 

 

 

 

 

──o …yem………aze…m

 

I……b…ata…tuh…

 

eur………u…k

 

e……rak…i

 

ek………eg……a…n

 

 

 

 

 

 それは、歌声というより「囁き」。

 身体の内側から湧き上がる、本能的な恐怖を感じる…海上に不気味な音階が木霊した。

 

「一体何が…?!」

 

 一行が前を見やると、そこには黒い靄(もや)が集まり、ナニカを形成しようとしていた。

 …それは、彼女たちが思い描いていた「最悪の事態」を上回る光景だった…!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・

 

 テキカンタイ、ハッケン

 

 クラス「ヒメ」、ケンゲン………!

 

 

 

深海双子棲姫・「怪」

 

北方水姫・「怪」

 

欧州棲姫・「怪」

 

防空埋護姫・「怪」

 

 

 

・・・・・

 

「これは…!?」

 

 そこに在ったのは、今までに倒して来たはずの深海の姫たち。

 一層濃い靄に包まれてる為か、身体は黒一色、黄金色の目が凶々しく輝いた。

 それは、影がそのまま現れたような風貌。

 

「おいおい、何がどうなってンだい!?」

「これって…徳田先生が言っていた「怨念型」…?」

「いえ、これは…あまりにも邪悪に感じます。これでは」

 

 

──ソウ、コレハ「悪霊」。

 

 

「!?」

 

 声のする方へ振り向く。

 そこには…同じく黒い靄に包まれる「離島棲姫」が…!

 

「貴女は…?!」

『コレラハ「ニンゲン」共ノ罪ノ結晶…逃レラレナイ、断罪ノ刻…!』

「おい、何か感じ変わったか? アンタ?」

 

 江風が問いかけるも、反応はない…遠目で見るに目が据わっているようだった。

 

『フ、フフフ…フハハハハハ!』

「あれ? なんかおっかない感じ?」

「あのもやの影響か、それとも…」

 

 

 

── o…w……ute……m……ah……

 

 

「この「歌」が原因か? いずれにしろ、厄介なことになったな…!」

 

 磯風が言うと、一行に向かってくる影の大群が…

 

「! しまった!?」

『貴女タチヲ許サナイ…! 私ハ…彼女ト共ニ世界ヲ破壊スル!! アノ人ノ居ナイ世界ハ…壊レテシマエバイイノヨ!!』

 

 深海水上部隊、謎の黒い姫たち、そして変わり果てた離島棲姫。

 宿毛泊地水雷戦隊は、押し寄せる敵に取り囲まれようとしていた。

 

「く…!」

 

 神通が吹雪たちを守るため、その身を挺しようと身構えたその時。

 

「攻撃隊、発艦!」

 

 威勢の良い声が轟く。味方の援護爆撃機と思われる飛行物体が敵上空を通過、制空を確保しつつ爆弾の雨をお見舞いする。

 

 『■■■■■■■■■■■■■■■■■■ーーー!!?』

 『aaaaaaaaaaaaaーーー!?』

 

 敵に隙が出来た時、一行に近づくモノが二人。

 

「アンタたち無事!?」

「満潮ちゃん、涼月ちゃんも!」

 

 吹雪の前に、救援部隊として満潮、涼月らが後から追いかけて来ていた。

 

「全く、無茶するんじゃないっての!」

「ご、ごめん…でも、向こうがどうなっているのか、せめて大本だけでもと…」

「お気持ちはお察しします。ですが、敵は想定以上に凶悪になっています。ここは退避が得策かと」

 

 涼月が凛とした態度で艦隊に退避を告げる。普段の彼女からは想像出来ない冷静な対応であった。

 

「…そうだね。まさかここまでになっていたなんて…」

「うむ、何があったかは知らないが、その辺の事情はくうさんに聞くべきか? とにかく、我々だけでは説得も防衛も無理だ!」

 

 一行が満潮たちに連れられその場を離脱しようとした時、離島が叫ぶ。

 

『サア、今コソ世界ヲ天秤ニカケル時! ドウカ愚カナ奴等ニ裁キヲ!』

 

 

 

──深姫様!

 

 

 

「深姫? ……!?」

 

 駆逐、軽巡の深海群をかき分けて…いや、「深海群が道を開けていく」…それは、王の御前にひれ伏す者どものように見えた。

 

 そこに現れたのは…

 

「…え?」

 

 一見は可愛らしく、しかし血の通わない冷たい肌色の少女。

 深海群風の意匠を凝らした黒基調のドレスを着る小さな少女は、その双眸に虚無と絶望を湛えていた。

 

『Ow………uo…b……us………te…z』

 

 頭には王冠のつもりか、巨大な一つ目のデザインが目を引くティアラをつけていた。

 今までの深海の姫と比べて、明らかな雰囲気の違いに身体が張り付いた感覚になる一行。

 

 それどころか、何か「心のざわつき」を感じる…

 

「……くっ!」

「なんか…むかむかしてきた…!」

「っ! いけない! 彼女の声に耳を傾けては駄目!」

 

 涼月の叫びに、危うく正気を失いかけた一行はハッとする。

 

 深海の新たな女王…「深姫」と呼ばれた少女の囁きは、どうやら聞くモノの感情に何らかの変化を呼びかけているようだ。

 泊地のモニターから見ていた二人も彼女を視認出来た…だがその瞬間、二人とも固まってしまう。

 

「どうなされました? お二人とも…?」

 

 大淀が声をかけるが、まともな返事は返って来なかった…。

 

「…馬鹿な、何故「彼女」が…!」

 

 徳田は眼を見張りながら驚愕といった声を漏らした…そして

 

「…「美海」?」

 

 提督がその名を口にした、瞬間…──

 

 

 

──ズギィ……!

 

 

 

「!? ぐぁ…あぁああ!!?」

 

 頭の内に強烈な痛みが走る提督、両手で額を押さえて苦しみに悶え始める。

 

「! 提督!?」

「な!? しっかりしなさい! 何があったのです!?」

 

 徳田と大淀が心配の声を掛ける。歯を食いしばり玉の汗が吹き出して来た提督は…?

 

「オ、お…れ……アイツを…………み、ぅ……!」

 

 苦しみの重圧に耐えかねてか、そのまま気を失ってしまう…

 

「て、提督!? ああ、どうしましょう…!」

「くっ、こんな時に…! 誰か! 担架を!」

 

 近くにいた艦娘の力を借りて、提督は医務室に運ばれる…──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・

 

──オレは……何で忘れちまったんだろう、アイツのことを…?

 

 

 

「おい、しっかりしろ!」

「ああ、坊や! 可愛そうに…アンタ、この子は?!」

「…不味いな。力が暴走していやがる、封印を食い破ろうとしてるのか! コイツの「力」は!?」

「そんな! この子はどうなるんだい!?」

「吸い尽くされる…コイツの「生命」も!」

「あぁ…そんな……!」

「仕方ねぇ…もう一度封印をやるしかねぇ!」

「それって「二重封印」てヤツかい? そんなことしたら…」

「ああ、どうなるか分からんが…コイツの生命にゃ変えられねぇだろ!!」

「アンタ…」

「何が「代償」になるか分からねえが…それでも俺たちは、お前に生きて欲しいんだ…!」

 

 

 

 

 親父…そうか、オレは……

 

 

 

『──マァ、ソーイウコッタナア?』

 

 !?

 

『おまえヲタスケルタメ、やつらハおまえノ「キオク」ヲショクバイニ、ダイニノフーインヲホドコシタッツーシダイヨ?』

 

 …オマエは誰だ? オレなのか?

 

『きき! おれノコトハイインダヨ…ソレヨリ、アノムスメ。ヤットコサオモイダシタカイ? マーアムリモナイ、がきノコロノキオクデフーインヤッタンダカラ、オモイダシタクテモ「デキナイ」ダローガ?』

 

 封印? 何かそういう「力」みたいなヤツなのか?

 

『ソンナダイソレタもんジャネーヨ。マ、カタアシハツッコンデル…カモナ?』

 

 …オレにそんな力が?

 

『ダカラチゲーッテ! 「ソレ」イガイハおまえハヒヨワナにんげんダヨ? ヨノナカソンナアマクネーッテノ!』

 

 そっか…いや! それはいい!! あの子は、あの娘は一体…?

 

『ア? ソリャおれノアズカリシラヌコトダゼ? マ、ハタカラミテモアリャヤベェナ。モウ「コノヨノもん」ジャネーヤ』

 

 …アイツはオレの……ッ! じゃあ、アイツがああなったのは、オレの……?!

 

『シラネーッテ。デモマ、ミタカンジムカシノおんなッツーヤツカ? ソリャおまえガワリィナ! おれガおんなダッタラワスレタコトゼッテーウラムシ?』

 

 ……オレのせいで、あの娘は…美海は……!

 

『…ッケ、オモシロクネーノ。マ、「ヒニク」ダケドナ! おまえラノフウインノオカゲデ、おれノハンコウスルダケノチカラガソギオトサレチマッタカラナッ!』

 

 ……オレの…せいで…アイツは………っ。

 

『アーア、ダメダコリャ。マ、ナンニシテモモウカンゼンニオモイダセンダロ? セイゼイユックリト「オモイダシテ」ナ! きき! ききき!!』

 

 ……オレは…お、れ……は…!

 

 

 

 

 

──美海…ッ!

 

 

 

 

 

・・・・・

 

「はい…分かりました。通信を終了します」

「どったの吹雪ちゃん?」

「司令官が…いきなり倒れたって」

「そっかーまぁ提督だsってえええーーー!?」

「そうですか…では即刻この場を離脱しなくてはなりませんね?」

「ンでも神通さン? 目の前に深海群の大量と離島と、深姫っつーわけわかンねーヤツがいるのにどうやって…?」

「…みっちーさん?」

「ええ、そろそろのはずよ」

 

 上を見上げると、満潮の言う通り空から鉄翼の大群が

 

「あれは…基地航空隊か!?」

「徳田から連絡があったの。「支援として基地航空隊が来るから、後は持ち前の戦力で何とかしなさい」って」

「…あれ、あの艦載機って…?」

 

 照月が言う、その目の先には、基地航空隊に紛れて「艦娘のモノ」と思われる艦攻機等が見られた。

 

「ああ、それ蒼龍さんのよ。さっきのもそうだから」

「呼んだー?」

 

 こちらに近づいてくるのは、正規空母「蒼龍」と「アークロイヤル」。

 

「蒼龍さん!」

「…蒼龍さん、お手数おかけします」

「んもぅ神通ちゃん、固いってば! 仲間だから当たり前だよ? ね?」

「Of course. さぁ、急いでここを脱出しよう! やることも色々あるからな…」

 

 そう言いながら弓の弦に手を掛ける二人は、そのまま矢を構えて放つ。気持ちの良い風切り音が響くと、矢は上空へ舞い上がりそのまま艦載機に姿を変えて、一行が窮地を脱するための突破口を開く。

 

『■■■■■■■■■■■■ーーーーー!?』

「今です!」

 

 爆撃に敵が怯んでいる間、すぐさまその場を離れる艦娘たち。

 …その間、吹雪は浮かぬ顔で自らの提督の身を案じるのだった…。

 

「司令官………」

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