宿毛泊地提督の航海日誌 -memories alive-   作:謎のks

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 物事は「表と裏」で構成されている。

 だがして、その比率が常に均等であるとは限らない。

 裏で隠された「希望」は、絶望であり標。

 そして裏世界(アンダーグラウンド)は常に、我々の隣で手招きしている。




──君の「望み」はここにある、と…。


04.求めしモノ

──宿毛泊地、作戦会議室…

 

・・・・・

 

「…さて、全員揃いましたね?」

 

 会議室に集まったメンバーを見つつ、徳田は確認を取る。

 全員、会議用のテーブルを囲みながら座っていた。そこにいたのは…先ずイヨとヒトミ、そして…。

 

「…神通さん、貴女は何故ここに? 失礼ですが呼んだ覚えは…?」

「徳田先生、仰りたいことは理解出来ます。ですが…提督の現状を作り出したのは、私の不徳の致すところ。本来ならこの首を、と言いたいところですが、私も彼を助ける方法を知りたいのです」

「神通さん、そんなに思いつめなくても」

「イヨさん、ありがとうございます。でも心配は入りません、私も皆さんと同じ気持ちです」

 

 神通が慈愛に微笑む顔を向けながら辺りを見回す。

 

 その目には、ヴェールヌイと隣に座るガングートが

 

「…ね? ヴェルさん?」

「…ああ」

 

 帽子を上げる動作で肯定を示すヴェル。

 

「…貴様、遂に話すのか」

「まあ、成り行き上ですがね?」

「…そうか」

 

 徳田に対し心配の視線を送るガングート。

 

 ヴェルたちの隣には、アークと蒼龍が

 

「私も来ちゃって良かったのかなぁ…?」

「Soryu. 私が来て欲しいと言ったんだ。むしろ堂々としていればいい」

「ん〜? まぁいいか。それで話って何?」

 

 蒼龍の問いかけは、目の前に座る涼月と満潮。

 

「…徳田、言われたとおりにしたわよ?」

「お二人とも、ご苦労様でした。…さて、何から話しますか?」

 

 奥の椅子に座り、集められたメンバーを見渡しながら、彼は次の言葉を探していた。

 

「…先ずは、ここに集まったのは「私の話を聞く」という事になりますが…今から話すことは全て「真実」です」

 

 全員が頷く。

 

 徳田はそれを確認すると、一言ずつ、重い口を開けて話す。

 

「簡潔に言うと、何故提督が彼女を見て「あのような反応」をしたのか、そして何故塞ぎ込んでしまったのか。それは分かりません」

「えっ!? なぁんだ」

 

 蒼龍が肩を落とすと「しかし」と徳田が続ける。

 

「彼女…深姫とは何モノなのか、それはお教え出来ます」

「…どういう意味だい?」

 

 ヴェルが問う。徳田は意を決して言葉を紡ぐ。

 

「それには少々お時間を頂きたいです。少し……長い話になりますので?」

「構いません。如何な話や真実でも、私たちは受け止めます」

 

 神通の言葉に、全員が肯定の意を返した。

 

「ありがとう…では」

 

 遂に、徳田から話される真実。そこには「何」が隠されているのか…?

 

 

 

 

 

・・・・・

 

──貴女たちは、ご自分が何なのかはご存知ですね?

 

 …そう「艦娘」。人間の身体に軍艦の魂が宿った存在。

 

 深海群を打倒し、人類に救済を与えるモノ。

 

 

 …しかし果たして、そうなのでしょうか?

 

 

 考えて下さい。

 

 何故貴女たちのような「戦う少女」が生まれたのか

 

 何故深海群は人を襲うようになったのか

 

 何故世界が混沌とする中「日本だけ」安寧を保てたのか

 

 

 その答えは…とある「機関」が関係しています。

 

 

 その機関は「政府の息のかかった」ある新兵器を造る集団でした。

 

 

 

 

 

──話は変わりますが…私は昔、医学を志す若者でした。

 

 世界の先進医療技術を学ぶ為、当時の私はその機関の研究者として招かれました。

 

 というのも、私が聞かされたのは、医学を含めた世界中の技術を結集させた「究極の医療」を極めるための機関、と言った話だけ。

 

 そこで何をやるのも聞かされてはいませんでしたが…それでも、各技術を学ぶため集められた、同じ志しを持つ仲間たちと一緒に、先端医療の歴史にこの身を奮うことが出来る。それだけで満足でした。

 

 しかして…実際そこで行われていたのは「非人道的」と言われても仕様のない光景でした…。

 

 

 

 

 

・・・・・

 

「何を考えているんですか!?」

「………」

「主任、私は納得出来ません! 私は医術を学ぶためここにいるのです!他の人たちも各々の学ぶべきことを学びたいはず! それを…」

「徳田くん」

「………」

「…君の言いたいことは分かる。だが政府が…国が望むのは「各技術の更なる躍進」などではないのだよ」

「それでも!!」

「ああ、そうだろうな? …馬鹿げている、そう「人型の人造兵器」を造れなど「普通の感性」なら到底理解出来まい」

「そうです! 医者を志すものとして! 生命を繋ぐのは未だしも「弄ぶ」など! 断じてあってはならないのです!」

「分かっている!!」

「…っ!」

「だが…邪道が必ずしも間違いであるとは思えん。少なくともこの研究は我々人類の未来を変えることが出来ると思っている」

 

 

 

──彼の言いたいことも尤もだった。

 

 

 

 この研究…「人型の人造兵器」は所謂アンドロイドの括りではなく「完全な生体」を人が一から造り出す物……一見それは「神の叡智」に挑む蛮行だと思われるが…。

 当時でも、世界の生体技術は凄まじかった。表に出ないだけで、クローン技術、遺伝子操作、更には人体部品(頭脳、臓器等)の複製、再生も「可能」なまでに進化していた。

 …そう、それらを駆使すれば人間がニンゲンを造ることなど「容易い」、実際に成功例もあるらしい。

 この機関…「TW(トゥーダブリュー)機関」の創設者である者が、人体…いや「人」を造り出すことに成功しているらしいが、その者は研究資料を纏めた後、謎の失踪を遂げていた。

 何故そうなったのか、考えると恐ろしいので頭を回さなかったが…大体の察しはついていた。

 …話を戻して、その研究が完成に至れば、如何なる病や傷害であろうと…そう「死」であろうと、もう人間が恐れるものでは無くなる…彼が言いたいのはその一点だろう。

 

 

 では、どうするか。

 

 

 幸い創設者の残した資料は我々の手元にある。そこまで出来ているなら後はそれを真似れば良い…不可能では無かったが…「足りなかった」のだ、我々には。

 

 

──どう足掻いても「心」を再現することが出来なかった。

 

 

 資料にもそれらしい記述は無かった…人間がそれ足らしめるものは「心」。動力源が無ければ何モノも動かない…それが出来ないのなら新武装でも造れば、そのほうが安上がりだ…

 

 だが、コストは高いがそれを造る価値はある。

 

 激変していく世界情勢…私も詳しい方では無かったが、日本を取り囲む各国も様々な技術を発展、進化させていった…

 早い話が「太刀打ち出来ない」のですね。周りには日本の領土を狙う国も多い、それらに対抗することができるのが「新兵器」だったのです。

 見た目は我々と同じ、だが心は機械。

 そんな理想の「侵略兵器(アーミー)」こそが、貴女たちの前身となるモノたちです。

 

 

 

 

 

・・・・・

 

「…成る程」

「驚かないのですね?」

「うーん、実際遠いところの話に聞こえてさぁ?」

「蒼龍さんの言う通り。まぁ私たちも兵器だし、その位は」

「…ふっ、満潮さんなら直ぐに怒るものと思ってましたが?」

「アンタ、私を何だと思ってんのよ…?」

「えっ」

「ちょっとヴェル! 聞き捨てならないんだけど!? 今の「えっ」は何?!」

「まーまー! 落ち着いて!」

 

 神通や満潮たちは、いつもの調子で現実を受け入れようとしていた…しかし

 

「……」

 

 イヨ、ヒトミ、涼月はどこか困惑した表情で、ガングートやアークに至っては、強張った顔を崩さなかった。

 

「…? アンタたち?」

「…ねえ徳田、それってさ?」

 

 イヨが気まずそうになりながらも問いかけると、彼はニコリと微笑んだ。

 

「そうですね…話の途中でしたね? では、続きを」

 

 一言ずつを綴り合せながら、彼は再び重い口を上げていく…。

 

 

 

 

 

・・・・・

 

 感情とは、人間の脳波が作り出す精神の波…。

 

 それらは再現出来なかった…いっそアンドロイドでも、と本気で考えたが…私としては、そう簡単に言えなかった。

 

 ”無から生命を創り出す”…これが究極の医療に繋がると、当時の私も信じていた。…外道じみている事は百も承知だったが、それでもこの先の多くの命を救えるのなら、是非もなかった…。

 

 

 

──そんなある日であった。

 

 

 

「徳田くん、これを見てくれ」

 

 そう言う主任が拡げて見せたのは、線グラフに色が付いた何らかの資料だった。

 

「これは?」

「感情だよ。「無機物」のね」

「!?」

 

 私は耳を疑った。これが無機物…「モノの心」を表す物だと彼は言ったのだ。

 

「専用の装置を付けて会話してみたのだが、ほら、ここを見て欲しい。これは感情…喜怒哀楽に色を付けたものだ。例えばこの赤色は「怒り」…最初は貶してみたんだ、そうしたらこのグラフになる。数値が高いほど波が激しい、これは「興奮」しているのだと思う」

 

 

 …信じられなかった。

 

 

 主任は嘘を付かない実直な人柄であることは理解していた…だがこれは余りにも突飛な事柄であった。

 

「良いかい? 我々の感情は「電波」であると考えよう。人の感情は必ずしも口から発せられるものでなく、顔や動作からも感じ取れる…それは、必ずしも正しい情報ではないが、ともあれそれらを受け取るアンテナは我々の精神の中に確かに建てられていて、それらは我々の「次元」だからこそ受信出来るものなのだよ」

「主任…話の筋は分かりますが、これは…」

「まぁ聞いてくれ、半信半疑で良い。…つまり、物にはモノ専用のアンテナがあり、それらは彼らの次元でしか送受信が出来ない…我々が無機物に対し何も感じないのはそのためだ」

「その話が本当として…万物には魂が宿る。とはよく言いましたね」

「ああ、日本独自の思想だと私も思っていたが…この機関の創設者も、どうやら同じ結論に辿り着いたらしい」

「っ! では」

「ああ…このデータを基に我々の研究に反映出来れば…」

 

 物の精神が出来上がる過程、その詳細が観測出来れば、それを基軸に人体に心を作ることが出来る…!

 

「…うーむ」

「ん? どうしました、主任」

「いや、これは…物の精神をそのまま「人体に移植」は出来ないものか?」

「っ!? 主任! 悪い冗談はやめて下さい!?」

「う~む……」

 

 この人は一度言い出したら「結果を出すまで」諦めない…だからこそこの立場まで上り詰めたのだが、その発想力は私には到底理解の及ばないものだった。

 

 しかし確かに、それが出来れば余計な工程を省くことが出来るし、何よりも…。

 

(少し…面白そうではあるな)

 

 …今にして思えば、この考えは私の若気の浅はかさであったのだろう。

 

 

 

 

 

・・・・・

 

 そこから我々は、一定の成果を見出すことに成功した。

 

 物の感情電波の観測、それらから導き出した結果を用いて、幾度となく実験を繰り返していく…。

 精神の波…我々はそれを「データ」として捉え、専用のプログラミング装置に情報をインプットし、擬似的に精神の波を作ることが出来た…だが。

 

「…何度やっても失敗か」

 

 心と身体、それらを「一体」として統一させることが不可能だった…我々が打ち出した理論では可能なはずなのに、だ。

 

「試行錯誤を繰り返すしかない、か…ふぅ」

 

 私が悩ましく溜め息をつくと、その横で写真を見つめてニヤける男。

 

「…何ですか、主任?」

「んー? …は。あぁ失礼! 娘の写真を見ていてね?」

「娘? お子さんがいたのですか?」

「まぁ離婚した妻の子なんだが、妻がそのまま行方をくらませてね? 今は実家に預けてあるんだが、可愛いんだこれが」

「へー、そーなんですねー」

「おいおい…その言い草はあんまりじゃないか?」

「主任、今の私たちは…」

「分かっているよ。さて、どうするか…物のデータは何でも構わないのだが」

「まだ言っているのですか、主任。あり得ないですよ、モノが人間になるなど」

「モノ…道具……兵器………! そうか!」

 

 急に椅子から立ち上がる主任。

 

「どうしました?」

「徳田くん、この機関の表向きの目的は何だ?」

「えっ!? ……70年前の大戦の二の舞にならないように、日本政府が立ち上げた「防衛兵器研究機関」…でしたか?」

「そう、だから「TW」機関…そうだよ! そこなんだよ!」

「何が……! まさか」

 

 驚く私をよそに、主任はどこか楽しそうに話す。

 

「こういう逸話を聞いたことがある…大日本帝国の戦艦「長門」には、数多の英霊の魂が宿っていたと」

「クロスロード、ですか? …しかし」

「いや「可能」だよ。日本政府が所有する軍艦のデータ、それらを基に「彼女たち」の魂を我々が作り上げる!」

「っ! それは…」

 

 確かに可能。だがそんな話ではない…。

 私には「嫌な予感」がしていた。このまま行けば、奈落の底に叩き落されるような…

 

「…確かに、一から心を作るより「完成された精神」を模倣する方が効率的だと思います」

「そうだろう!」

「ですが主任…それは作る、というより、むしろ……」

 

 私が言い淀んでいると、彼が近づいて私の手を取り、ジッと私の顔を覗き込んだ。

 

「徳田くん、この研究が成功すれば…どれだけの多くの人が救われるだろうな?」

「!!」

「我々がやること…確かに肉体や精神を弄ぶのは外 道(ネクロマンサー)の所業だろう…だが、病に苦しむ者は腐る身体を捨てられる。肉体や精神に障害を持つ者は、完全な四肢を得て、新たな人生を送れるのだろう」

「主任…」

「君が目指す「究極の医療」が、その切っ掛けが今、目の前にあるんだ! …なぁ、徳田くん」

 

 私には、彼の目は据わっているように見えた。

 

 …分かっている、自分が何をしようとしているのかは

 

 

 

 ……だが、だ…がッ!

 

 

 

「…主任」

「どうだい?」

「……その研究、私も最後までやらせて下さい」

 

 私は勝てなかった…多くの人を救うという使命感に、そして……。

 

 

 この先の研究に待つものは何なのか、それを見てみたいという…己の愚かな探求心に…っ!

 

 

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