宿毛泊地提督の航海日誌 -memories alive-   作:謎のks

8 / 12
 果たして、運命とは「回る」のか…?

 一繋ぎの線のように、切り取ってしまえばそれで終幕か。


 …否、運命とは「信じるもの」


 そうであれと願えば、線は弧を描き回り続ける…。




──尤も、それが自身の望む形かは、知る由もないが。


08.運命

 日本を包囲する姫の影、その軍勢を潜り抜け、深姫の待つ太平洋の中心へ急ぐ宿毛艦隊。

 提督と、操舵係の明石の乗る「とさすくも丸」を囲んで進む吹雪、照月、磯風。

 

 …そんな彼らの前に、薄っすらと人影が見え始めた。

 

「っ! 司令官、前方に敵影らしき物体を発見!」

「そうか、敵はどのぐらいだ?」

「えっと…あ」

 

 吹雪が言い終わる前に、敵はその姿を見せる。

 

「…離島」

 

 提督が呟く。そう、今まで以上の憎しみを湛えた…いや、愛憎を滲ませた顔で離島棲姫が待ち伏せていた。

 

『…………』

「私たちは、この先へ司令官をお送りしなければなりません! そこを退いて下さい」

『…行ッテドウスルノ?』

「…何?」

 

 離島は口角を歪ませ、艦隊を睨みつけながら恨み節の如く綴る。

 

『深姫様…イイエ「アノ娘」ハモウ人間ジャナイ…ソレドコロカ、自分ガ何ナノカモ分カラナイ哀レナ存在…ソンナ彼女ニ、今更何ヲシヨウトイウノ?』

「それは…」

「そんなこと関係ない」

『ナニ…?』

 

 提督は真っ直ぐ離島を見つめる。

 

「オレは…約束を守る、その為にここまで来た、それだけだ」

『約束? ハッ! 下ラナイ。ソンナモノノ為ニワザワザ死ニニ行クノ?』

「大丈夫さ。あの娘はえい子だから、それに…今のオレは「死なないよ」?」

 

 提督の不思議な圧力に、思わずたじろぐ離島。

 

『ック! 私ノ総督ヲ奪ッテオイテ…巫山戯ルナ!!』

「…どいてくれ、離島」

『嫌ヨ! モウスグ世界ハ終ワル…貴方タチハ総督ヲ奪ッタノニ、何デ私ガ世界ヲ滅ボシタライケナイノ!?』

「まさか…総督の仇討ち、それだけの為にこんな蛮行を?!」

 

 磯風の問いに、口角を歪ませ嘲笑う離島。

 

「エエ、貴方タチノ行イダケガ許サレルナンテ、コノ世界ハ狂ッテイルワ! …ダカラ私ハアノ人ノ意思ヲ継グ! 愚カナニンゲン共ニ鉄槌ヲ下スノ!!」

「貴女はおかしくなっているだけ、あの歌のせいで…人間たちに争いを止めてほしいっていうのが、貴女たちの願いじゃないの!?」

 

 照月が叫ぶも、まるで聞く耳を持たなかった…。

 

『五月蝿イ! …モウ貴女タチハ終ワリヨ! 消エナサイ!!』

 

 離島が天高く右手を上げると、海中から出現する姫たち。

 

『………』

 

 戦艦棲姫、重巡棲姫、駆逐棲姫、そして集積地棲姫と、今までに数々の激闘を繰り広げたモノたちが、黒い靄を纏い立ちはだかる。

 

「そんな…皆さん……」

「うう、やりにくい……」

 

 吹雪たちは足踏みしていた。如何におかしくなったとはいえ、戦いながら絆を育んで来た彼女たちに、おいそれと攻撃出来なかった。

 

 しかし、今現在向こうにそのような容赦があるとは思えない、つまり万事休す。

 

『フフフ…何モ出来ナイデショウ? ソレガ貴女タチノ墓場ヲ作ルノヨ! ハハッ、アハハハハ!!!』

 

 離島が高らかに笑うと、それに待ったをかける人物が。

 

『ちょっと待つっす』

「っ! くうさん!?」

 

 提督たちを守るように現れたくうさん。

 

『ック! 裏切リモノガ何ヲシニキタ!!』

『うっせ、ウチはお前らを引っぱたきに来ただけっすよ』

「くうさん…」

『提督、ここはウチに任せて、早く行きな?』

「でも、怪我が…」

『急ぐんしょ? 二度は言わねっすよ?』

「…ん、分かった。ありがとな? くうさん!」

『ヘッ! いいからはよいけ!』

 

 くうさんに言われるまま、宿毛艦隊はそのまま深海群をすり抜けて行く…。

 

「くうさん」

 

 くうさんの横をすり抜け際、提督は彼女を心配する。

 

「…あんま無茶するなよ?」

『…ああ』

 

 少しそっけなく、心配する彼を見送るくうさん…「絶対死なせないから」と小声が彼女の耳に入った気がするが、よく分からなかった…。

 

 …彼らの後姿を見送りながら、くうさんは離島に向き合った。

 

『……何ノツモリ?』

『あ?』

『見テワカラナイ? 貴女一人デ私タチヲ相手ニスルツモリ? シカモ…貴女ハモウボロボロダトイウノニ!』

 

 嘲笑い事実を突きつける離島。修復の間に合っていない、傷だらけのお前では何も出来ずに沈むだけだ、と。

 

『…そっすね』

 

 あっけらかんとそう言い放つくうさん。

 

『でも…ウチはアイツらが無事なら、別に良いんじゃね? って思ってるっすから』

『何? オ前ハ死ニタイト、沈ミタイトイウノ?』

『違うよ。ウチは…時間を稼げて全部が丸く収まるなら「それでいい」って言ってるんすよ?』

『…ック、ヤハリオ前ハ…! 前カラ気ニイラナカッタノヨ!!』

『お互い様っすね? …んじゃ、ケリつけるっすか?』

『沈ムガイイワ! 人間ニ組スル裏切リモノガァ!!!』

 

 離島の咆哮で動き出す深海群、そんな彼女たちを、くうさんは虚しげに見つめていた…。

 

 

 

『…馬鹿野郎が』

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・

 

 くうさんの助力もあって、遂に太平洋、その中心にたどり着いた宿毛艦隊。

 

「…っ! 司令官!!」

 

 吹雪が叫ぶ。やはりというべきかそこには深海駆逐艦群が大量に配置され、物量の壁を作り一行を遮っていた。

 

「…ふむ、切り込むか」

「だ、駄目じゃないかなぁ?」

 

 磯風と照月が交互に話す。一筋縄ではいかないこの状況だったが。

 

「…提ェ督よぉ、これからどぅするつもりだぃ?」

 

 ノリちゃんも提督の考えを聞く。提督は…。

 

「…うん、このまま進もう」

「っ!? し、司令官!!?」

 

 吹雪たちが驚愕の表──情で提督を見つめる…ここで突っ込めば駆逐艦群の黒波に呑まれるだけだ。

 

「皆、信じられないかもしれないけど、とにかく「オレを信じて」進んで」

 

提督の言葉に動揺するが…少し考えた吹雪は。

 

「…分かりました、行こう皆」

「…そっか、分かった! 提督だからね!」

「応、我々は司令を信じているぞ」

 

 三人は息を合わせて、そのまま深海群の波に突っ込んでいく…。

 

『■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■------!!!』

 

 深海群の「当然の」迎撃。だが…。

 

 

 

 ──………ゅぅぅぅぅうううううう!

 

 

 

 ──ズウウゥゥゥウウン!!!

 

 

 

『■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■-----!!?!?!』

 

 深海群の頭上より突然の爆撃…頭上には「基地航空隊」が

 

「あ、基地航空隊!」

「司令はこれを予期していたのか!? 何という慧眼だ!!!」

 

 各々が目の前の波に一直線の道が出来上がったことに驚きを隠せない状態であった。

 

「…提督、今しがた横須賀から連絡があって「そちらの艦隊を借りたお礼だ」とあります」

 

 半ば呆然気味に明石が横須賀からの伝令を伝えた。

 

「…ん。そっか、ありがとうって伝えとって?」

「は、はぁい…」

 

 その間、提督は改めて「頭の中の会話」を反芻し情報を整理する…

 

 

 

 

 

・・・・・

 

 …つまり、オレが危険なことになったら「自動的に」それを回避するってこと?

 

「マ、オオムネハナ。チョイトテイセイスルト、おまえガシニソーニナッタラ「ソウナラナイヨウニ」ウンメイヲタグリヨセルワケヨ?」

 

 ええ? …ん~~???

 

「ダヨナ、バカダモンナ」

 

 人をバカバカ言うな!?

 

「きき! ワリィナ? ヨースルニおまえガノゾミネガエバソノトオリニ「コトガハコンジマウ」ワケ、ヨ?」

 

 へぇ、すごい力だったんだなぁ…。

 

「きき! ダガアマリツカイスギハスルナヨ? ドッカデチョウジリヲアワセニャアナランカラナ?」

 

 …? どういう意味だ

 

「イイカ? ウンメイッテヤツァソーカンタンニカワリャシネェ。ソレヲヤルナラ「ダイショウ」ガイルワケヨ? …ツマリ、ツカエバツカウホド「ワマリガフコウニナル」ッテワケ? イイカ?」

 

 …なるほど。って駄目じゃんその力!?

 

「ききき! ぎぶあんどていくッテヤツダ! (…細かく言うと若干違うが?)」

 

 …そっか。でも、それは他人にも譲渡出来んだろ?

 

「マァ「タニンノキキヲジブンノキキニオキカエル」コトハカノウダゼ?」

 

 …じゃあさ? そうなる前にオレの力を相手に………? アレ? あってるよな??

 

「きき! ダナァ? ダガ「チカラ」ハおまえのもんダ。タイテイノコトハシリゾケテモ「ゼッタイテキナサダメ」ハタニンニャサケラレン…ソレコソ「シ」ハナ?」

 

 そうか…よし! もしそうなっても、オレが守ってやりゃいいんだよな!

 

「きき! マ、セイゼイガンバンナ!」

 

 おう、ありがとうな? 色々教えてくれて?

 

「……ア? キモチワリィナ?」

 

 人がありがとうって言ってんだから、素直に返してくれよ…;

 

「ききき! ワーッタヨ? マ、アトハおまえシダイダ。スキニヤリナァ? きき、ききききき!!!」

 

 

 

 

 

・・・・・

 

 今なら解る…自分たちがここまで勝ち進んでこれたのも、オレが命の危険にあっても死ななかったのも、この「力」のおかげだ…。

 

 提督はそう思いながら、握り拳を作り、強く握った…。

 

「…!」

 

 ふと、眼前に広がるシルエットに、提督たちは目を見開いた。

 

「あれって…!?」

 

 吹雪は驚愕した。そこには…。

 山のように巨大に聳え立つ、いつかの「霊子波動収束射出装置」のようであったから…

 

「こ、これは…!」

 

 提督は目を凝らす。その巨人は自分たちと向かい合うようになっており、何かの「機械の駆動音」も海に木霊する囁きとして聞こえてきた。(爆発の予兆だろうか?)

 

 …その巨人のちょうど胸の辺り、そこにはまるで肉の壁に「磔にされた」ように埋め込まれた人の姿が。

 

「美海!!」

「え! あれが…!?」

「確か、提督の幼馴染ちゃんだったよね?」

「うむ、斯様な運命の再会があるとは信じがたいが…」

 

 提督は意を決して、変わり果てた彼女に呼びかけた。

 

 

「美海ーーーーーーーーーッ!!!!!」

 

 

 …磔にされた少女の身体、それが「ピクッ」と動いたような気がした

 

「…ッ!」

 

 

 

 

 

 …頼む、教えてくれ、オレの「力」よ!

 

 アレが彼女なら…オレの知っているあの娘だというのならっ!!

 

 彼女に…あの頃の「心を」取り戻させてやってくれ…!!!

 

 

 

 

 

『…………ニ………チャ……ン?』

 

 

 

 

『……オニイ…チャ……………ッ!!?』

 

 

 

 

 …何ということか。彼に眠る力は、怪物になり果てた少女の「心」を取り戻すほど強力であった……。

 

『ア、レ………ワタ、シ………?』

「美海ーーーーーーーッ!!!」

『ッ!?』

「美海さーーーん!」

「迎えに来たよ――――! 美海ちぃーーー!!」

「やっと目覚めたか? 寝坊が過ぎるぞ!」

 

 見慣れない光景…知らない娘が「私」を知っている…?

 

 少女の理解を越えた世界。だが、それでも……「一つだけ」変わらないものが。

 

「みーーーーーうーーーーーーーーーッ!!!!!」

『…ッ! ………アア』

 

 昔と変わらない、あの頃の…。

 

『ッオ兄チャン! オ兄チャーーーーーン!!!』

 

 自分が「兄」と呼んだ大切な人…やっと、やっと会えた。そう感極まっていた…。

 

 

 

『──……!?』

 

 

 

 ──大丈夫だ、お父さんがお前を………

 

 

 ──さぁ、私と共に……

 

 

 ──貴女ノ力ガ必要ヨ……!

 

 

 

 

 

『…嘘』

 

 走馬灯のように駆け巡った自身のこれまでの記憶…それは今自分の置かれた現状を完全に理解できる程だった。

 

「美海! 大丈夫か!? 今助ける!!」

『来ナイデ!』

「…え?」

 

 突然、一行の救援を拒絶する美海。

 

「美海さん、どうして…」

『…オ兄チャン、アリガトウ。私ヲ…迎エニ来テクレタンデショ?』

 

 美海は血の通わない顔で笑顔を作る…それは生前のあの「笑顔」…。

 

「美海…やっぱりオマエは」

『デモ、モウイイ…モウイインダヨ?』

「っ!? どうしてそんなこと!」

『私ハモウ…人間ジャナイノ。総督ッテ人ガ作ッタ「爆弾」…近ヅイタラ、コノ体ハアナタタチヲ攻撃スルノ』

 

 美海の頭上では、骸のような巨大怪物がギラリと目を光らせていた…。

 

「そんな…」

『オ兄チャンガ傷ツク姿、私ハ見タクナイ…ダカラ、モウ私ハ放ッテオイテ! ココカラ離レテッ!!』

「そんなこと出来るわけないだろう! オレはオマエを必ず助ける!!」

 

 あの時の約束…今度こそ守ると誓った。

 

 今の彼には、その約束を守ることが全てだった。

 

 …だが、美海の表情は一向に晴れない。

 

『私ハ…モウイナインダヨ? 今ノ私ハ……』

「そんなことどうでも良い!」

 

 美海の言葉を遮るように提督は自身の決意を口にする。

 

「…美海、オレさ…提督になったんだ。可愛い部下も出来た、今まで皆で色んな困難を乗り越えて来た…だから、今のオレを信じて欲しいんだ!」

『…オ兄チャン……』

「全部片付いたら、一緒にあの浜辺に行こう? また二人で…いや、皆で「遊ぶ」んだ!」

『…! ………ッ、ウンッ………ヴン!』

 

 涙ぐみながら、彼女も決意を固める…もう一度、彼らと一緒に帰ると。

 

『──Gyuwoooooooooo!!!』

 

 怪物の咆哮が耳を劈く衝撃波となる。

 

 余りの強大さにたじろぐ一行、しかしそれだけではなかった。

 

「…? あれ? 大きくなってる?」

 

 照月が言う通り、怪物の身体は一回りか成長した模様。

 

「どういうことだ?」

「まさか…溜まった怨念が爆発するんじゃ…?」

 

 そう、この姿…巨大な怪物に至ったこれこそが、作戦の最終段階。

 膨張した負のエネルギーは、怪物を形作り、そして臨界を越えた時、それが一気に放出され辺りを焦土とするだろう。

 今の状態は、邪魔モノにそれを妨げさせない「自衛システム」の段階…このままいけば「不味い」というのは、一目見て分かった。

 

『ッ! 止メテ!!』

 

 美海が必死に己の半身に呼びかけるも、そもそも理性云々で止められるか怪しかった。

 

『Gyawoooooooooooo!!!』

 

 また一回り大きくなっていく…時間が惜しかった。

 

「前は蒼龍さんたちが、弱点らしかった部分を攻撃したんだっけ?」

 

 照月が言うも、怪物の身体を見回してもそれらしいモノは無かった。

 

「うーむ、となると…深姫、いや…美海をアレから引っぺがすしかないか?」

 

 磯風の言葉には理があるが、同時に危険も伴った。

 美海が埋め込まれた怪物の中心…そこまで飛ぶにせよ何にせよ、余りにも高すぎる、現実的ではない。

 更には例え辿り着けたとしても、彼女を助け出せるか、そして爆発が始まる前に速やかにその場を離れることが出来るか。

 いずれにしろ、理屈で考えれば考えるほど、この状況を打破するのは「不可能」であった。

 

 

 

──そう「理屈では」…。

 

 

 

「…皆、諦めるのか?」

「し、司令官?」

「オレは…オレは諦めたくない、最後まで…アイツが助かる方法があるなら…「神頼み」でもなんでもやってやる」

「提督…」

「司令…」

「磯風、お前の「冷静さ」を、照月、お前の「元気」を、吹雪…お前の「根性」を!」

 

 

 

──オレに貸してくれッ!

 

 

 

「「「…はいっ! (応ッ!)」」」

 

 提督は強く念じた。この状況を打破出来る展開を、どうか「引き寄せて」欲しい…と。

 

 …そして意を決して、宿毛艦隊に号令をかける。

 

「行くぞ…! 暁の水平線に勝利を!」

「ああ、そして我らに武運を!」

「行こう!」

「司令官、必ず助けましょう! あの娘を!!」

「おうッ!!」

 

 互いの闘志を確認すると、提督たちは勢いよく敵の懐に飛び込む…果たして、この先の展開とは…?

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。