川神市のホテルの一室、フランク・フリードリヒ中将の関係者が集まっていた。高級そうな室内は既に隅々までチェックされており、盗聴の可能性を残さないという徹底ぶりだった。
「クリスを含め出場した全員が本戦に進めるとは私も鼻が高いよ」
フリードリヒ中将は満足そうに頷いていた。
「は!ありがとうございます」
マルギッテが代表して受け答えをする。その後ろには猟犬部隊が整列しており、その一糸乱れぬ態勢は称賛すら覚えるほど美しかった。
コジマ・ロルバッハ――百四十二センチ金髪紫眼。細身で美人というよりは可愛いというのが似合う可憐な容姿だった。しかし戦闘になると小柄な身長からは想像できないような攻撃力を発揮し敵を震え上がらせた。先天性による怪力を生かして戦闘では先陣を切って戦うスタイルだ。
リザ・ブリンガー――百六十六センチ銀髪金眼。スタイル抜群で、モデルとしても生きていけそうな見た目だった。ハナがよく利き、それは文字通り匂いに敏感なだけでなく自分の危機などを敏感に察知することもできる。普段は諜報活動と偵察任務担当だが、戦闘もダガーなどを駆使して完璧にこなす。敵からは“欧州ニンジャ”“西洋ニンジャ”と呼ばれ恐れられていた。
テルマ・ミュラー――全身鎧に包まれた防衛戦の達人で、防御力は想像を絶するものがあり、テロリストが扱う携帯火器程度ではビクともしない頑強さを誇る。百九十センチを超える巨体を生かして他の隊員を守る。
フィーネ・ベルクマン――灰色に近い銀髪で冷たい印象を受けるタイプの美人で合理主義者。普段は指揮担当だが剣術の腕も並大抵のものでは無く幾人もの敵を屠ってきた。
ジークルーン・コールシュライバー――ピンクブロンドの碧眼で百八十三センチという
恵まれた体格を持っている。初見の人物は威圧を感じるかもしれないが美しい容姿をしているのは間違いなかった。治療専門で、どうすれば早く治るか見分ける能力を持っている。今回の武道大会には未参加だ。
「今は非公式の場だ、楽にしてくれて構わんよ。それにその方がクリスも喜ぶ」
フリードリヒ中将は真顔で親馬鹿全開の発言をする。しかし周りも慣れたもので直ぐに雰囲気ががらりと変わる。先ほどまでの雰囲気が戦闘前のブリーフィングとしたら今は家族団らんのお茶会といったところだ。
「マルさん達もこっちに来て一緒に食べよう」
クリスは美味しそうなお茶うけに目を輝かせていた。
マルギッテ達がクリスの周りに集まってくつろぎ始める。その様子はまるで家族――年の離れた姉妹のようだった。
本戦当日、識は充実した選手控室でソファーに腰を下ろしていた。例年までの川神武道大会と違い、九鬼が大量の資金を投入した結果、控室は高級ホテルのラウンジのような場所に変わっていた。
無料のドリンクや軽食が用意されており、控室にいるメイドに声をかければ直ぐに持ってきてくれた。
そんな至れり尽くせりの状況で識は顔を顰めていた。原因は同じ控室で納豆の宣伝をしている女のせいだった。
(松永燕……もう完成しているのか?……平蜘蛛が……)
平蜘蛛――天才松永信久が九鬼の莫大な財力をつぎ込んで作った超兵器。素の戦闘力なら同じ武道四天王である九鬼揚羽に劣るであろう松永燕が、川神百代を打倒するために用意した最強の武器だ。
「どうしたの?難しい顔して~」
辰子が識に飲み物を手渡すと隣に腰かけた。川神武道大会に板垣家も参加していたが予選を突破できたのは辰子ただ一人だった。
「強そうな人がいるなって」
識は礼を言って飲み物に口につける。口に含むと爽やかな茶葉の香りが鼻孔を擽った。きっと自分なら買わないようなお高い茶葉なんだろうと思う。
「そうなの?私そういうの今一分からないから」
辰子は気持ちよさそうにソファーに身体を沈み込ませる。この後試合が無かったらそのまま寝てしまいそうな様子だった。
「うん。結構ヤバい奴がいる。強さを感じ取るのは……慣れかな?」
識はある程度相手の力量が分かるが言葉にして説明することはできなかった。何時の間にか身についていた技能で慣れというしかなかった。
「選手の皆さん時間が来ましたので順番に入場してください」
従者部隊の人間が選手を誘導し始めた。
識と辰子も誘導に従い控室を後にした。
「全選手入場!」
試合会場にメイドの声が響き渡る。
「本場の騎士道精神を見せてやる!レイピアの扱いなら任せろ!遠い異国からの留学生クリスティアーネ・フリードリヒだ‼」
「職業は特殊部隊隊員!可憐な見た目から繰り出される脅威の怪力!コジマ・ロルバッハだ‼」
「職業は特殊部隊隊員!ヨーロッパニンジャは本場を超えてしまった⁉リザ・ブリンガーだ‼」
「職業は特殊部隊隊員!防衛戦の達人、驚異の防御力!テルマ・ミュラーだ‼」
「職業は特殊部隊副長!指揮官が戦えないと誰が決めた!鋭い剣術が敵を切り裂く!フィーネ・ベルクマンだ‼」
「職業は特殊部隊隊長!隊長が強いのは当たり前!トンファーの達人!マルギッテ・エーベルバッハだ‼」
「伝説の傭兵集団曹一族が今ベールを脱ぐ!史文恭だ‼」
「若くして梁山泊の天暗星を襲名した豪傑!楊志だ‼」
「デカさは強さ!全米格闘王が殴り込みだ!カラカル・ゲイルだ‼」
「南米の雄!太陽の子の異名を持つ武術の達人!メッシだ‼」
「忍者は諜報だけじゃない!戦闘もお手の物!鉢屋壱助だ‼」
「智勇を兼ねそろえた出世街道を進む英傑!天神館の総大将石田三郎だ‼」
「速さは強さ!スピードクイーンの橘天衣だ‼」
「納豆が強さの秘訣⁉どんな武器でも扱って見せる!武道四天王松永燕だ‼」
「強さの秘訣は眠ること⁉怪力無双板垣辰子だ‼」
「優勝以外興味なし!有言実行なるか!川神学園所属竜野識だ‼」
選び抜かれた十六名の選手が続々と舞台に上がっていき、会場の熱気は最高潮に上がっていった。