えっ!?二度目の転生は真剣恋ですの!   作:鶏肉&人参

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三話

 識は黒板の前に立つ留学生を、ぼけーっと眺めていた。

 Fクラスに留学生が来てから数日後、後を追うようにしてSクラスにも留学生が来た。Fクラスの留学生と一緒に来るはずだったが諸事情で遅れて到着した。

「マルギッテ・エーベルバッハです。よろしくしなさい」

 腰まで届く長髪の赤毛で、片目に眼帯を付け凛々しい顔立ちだった。立ち姿も完璧で折れ目のついた軍服をビシッと着こなしていた。

(なんで軍服来てんだ?軍人かよ!お国のために訓練しとけよ)

 識は心の中で突っ込みを入れた。その間も簡単な自己紹介と質疑応答は進んでいく。

(本物の軍人なんだろうな、本人もそういってるし)

 何より留学生の立ち振る舞いが軍人を肯定していた。ただ立っているだけだが隙が無い。しかも視線から察するに、教室にいる人の戦闘力を押し量っているようだった。

 これでもしコスプレ好きの一般人だったら、識は噴き出す自信がある。

 エーベルバッハは一通り自己紹介が終わると忍足と言葉を交わしていた。旧知の間柄なのか猟犬とか嬢王蜂とか二つ名だかコードネームだか分らん言葉が飛び交っていた。

「あずみ、久しぶりに手合わせしませんか?」

 エーベルバッハから刺すような闘気が放たれる。

「他の奴を当たれ。そんな気分じゃねえ」

 忍足とエーベルバッハの視線が交わり、数秒の緊張を経てエーベルバッハの方が引いた。

「腕に自信のあるものはいないのですか」

 エーベルバッハが教室を見回す。しかし誰一人として視線を合わそうとしなかった。

「留学生が決闘をご希望だとさ、誰か相手をしてあげる人いないの?川神学園を見せてやるみたいな感じでさ」

 宇佐美教諭が助け舟を出すも、誰一人として名のり出なかった。同級生達は先ほどの闘気を浴びて魂で理解してしまった、勝てないと。

(榊原や井上なら勝負の形になると思うんだけどな)

 識は無意識に視線を動かしてしまうというミスを犯した。運の悪いことにエーベルバッハと視線が合ってしまった。すぐに外すもエーベルバッハはまだ識の方を見ていた。

「担任、彼を指名したいのですが」

 エーベルバッハは真っすぐと識の方を指さした。

「竜野相手してやってくれないかな。おじさん助かるんだけど」

「お断りします」

 宇佐美教諭が誘ってくるも、識はノータイムで返事を返した。

「留学生相手に頑張るって内申にいいと思うよ。おじさんなら凄い加点しちゃうなあ」

「…………」

(内申に加点はグラッとくる)

 近い将来まとまって休む可能性の高い識にとって、内申は喉から手が出るほど欲しかった。識の予想通りに進み高等遊民に成れたとしても、高校卒業の学歴ぐらいは欲しかった。

「いいですよ」

 識はワッペンを机の上に置いた。エーベルバッハが識のワッペンの上に自分のワッペンを重ね、決闘が受理された。

 

 識はグラウンドのど真ん中に佇んでいた。周りを見物の生徒に取り囲まれ、気分は上野動物園のパンダだ。新たな留学生が物珍しいのか、はたまたSクラス所属の生徒が決闘するのが珍しいのか、前回の留学生の時より確実に見物人が多かった。

「二人とも準備はいいネ」

 審判は川神学園の体育教師であるルー教諭が務めていた。川神院の師範代で恐ろしいほどの戦闘能力を持っており、前世に比べて弱体化した識ではほぼ勝ち目がない程の使い手だった。

「行けますよ」

「問題ありません」

 エーベルバッハはトンファーを携えていた。

「竜野、武器は使わないのカ?」

 ルー教諭は無手で緊張感の欠片もなく立つ識に声をかける。川神学園には決闘ように刃をつぶした武器が用意されていた。種類も豊富で刀剣類、槍、などのメジャーな武器から大鎌などの際物まで大抵の武器がそろっていた。

「いらないです」

 識はこの決闘で全力を見せるつもりは無く、無手で戦うつもりだった。最も、仮に全力で闘うにしても耐えられる武器が有るとは思えなかったが。

「そうカ。では両者構えテ」

 識は取り合えずボクシングのファイティングポーズっぽい恰好をする。付け焼刃どころか見た目をまねた程度のレベルだが。

「始メ!」

 両者の間に緊張が走るも互いに動かなかった。

「来ないのですか」

「隙を伺ってるからね」

 識はトンファーを構えるマルギッテをジッと観察していた。

「私に隙などないと知りなさい」

 マルギッテが一直線に識に突っ込んでくる。降りぬかれたトンファーは一切のためらいなく識の顔面を狙っていた。

「初手顔面とか殺意高すぎない?」

 識はエーベルバッハの腕の内側を弾き、軌道をそらすとバックステップで距離をとる。カウンターを警戒してか追撃は無かった。

「問題ありません。手加減はしていました」

「おやさしいのな」

「予想以上に使えるようですね」

「そう?」

「では、もう少し本気で行きます。捌いてみなさい」

 手加減というのは本当だったらしい、先ほどより数段速い速度で識に襲い掛かってきた。

 迫りくる攻撃を弾き、いなして対処していく。 

「やりますね」

「そりゃどうも」

 言葉を交わしながらも応酬は続いていた。ほとんどの攻撃を捌けてはいるが、いくつかは間に合わず腕で防御する羽目になった。木製のトンファーとは思えない重い一撃が、識の腕を打ち据える。骨の芯まで痺れるような一撃で、防御をしていては先がないことを理解させられる。

(竜闘気を使わなければこの程度の攻撃でもヤバいな。しかもまだ全力じゃないし)

 識はこの決闘に勝つつもりは元から無かった。内申点は受けた時点でもらえるはずで、勝利しても特に得られるものは無いからだ。このレベルの使い手に勝つには実力の一端をさらさなければならず、識から見れば勝ちに行く方が損をする程だ。

「しかし、先ほどより随分余裕がなくなりましたね」

「流石ですね。年の功ってやつですか」

「トンファーキック!」

 鋭く直線的で鋭利な蹴りが識の腹部を捉えた。上半身の攻防に意識が行っていたため、回避も防御も間に合わなかった。咄嗟に腹筋を固め後ろに自ら飛ぶことで威力を軽減する。

(トンファー関係ないだろ)

 識は内心で悪態をつく。

 追撃を警戒し直ぐに態勢を立て直すもエーベルバッハは一歩も動いていなかった。

「女性に年の話をするのは失礼だと知りなさい」

「すんません」

 識は素直にあやまった。エーベルバッハはSクラスに来るだけあって日本語をほぼ完璧にマスターしていた。それはしっかりと諺の意味も理解できるレベルだった。

「素直でよろしい。褒美に最後は私の全力で葬ってあげましょう」

 眼帯を外したエーベルバッハを赤い気が包み込んでいく。

「えっ⁉」

「学生にしては中々でした。誇りなさい」

 全身に気を巡らせ、先ほどとは比べ物にならない程強化されたエーベルバッハが迫りくる。

「そこまで!勝者エーベルバッハ」

 リー教諭は一瞬で二人の間に入り、気で強化されたエーベルバッハの一撃を片手で苦も無く受け止めた。

 目の前で止められた攻撃を見て、識は安堵のため息をもらした。もう少しで竜闘気を使う羽目になっていたからだ。識は心の中でリー教諭にありったけの称賛を送った。

「私の勝ちですね」

 勝利宣言とともにエーベルバッハが戦闘態勢を解いた。

「そうだね。これからよろしく。川神学園は有意義な日常を約束するよ」

 識は右手をエーベルバッハに差し出す。

 一瞬キョトンとしたエーベルバッハも、直ぐに不敵な表情に戻り識の右手をガッチリと握り返してきた。川神学園流の歓迎が綺麗に終わった瞬間だった。

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