えっ!?二度目の転生は真剣恋ですの!   作:鶏肉&人参

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四話

「死ねぇ、うりゃああ」

 天使が物騒な叫び声とともに、目の前の男めがけてゴルフクラブを全力でフルスイングした。

「動きが雑になってるぞ」

 目の前の男――釈迦堂刑部は苦も無くゴルフクラブを弾いた。

 釈迦堂は元川神院の師範代で識が勝てないだろう数少ない人物の一人だ。初めて実力の一端を垣間見たときは中学時代とはいえ、一方的にボコボコにされるほどの実力差があった。恐ろしい使い手で、戦闘が好きな野獣のような男だが普段は少し厳ついおっさんだった。

 定職には付いておらず、素質がある板垣家の人たちに武術を教えていた。

 識の実力を知っているため気兼ねなくどつき合える仲だった。今でもほとんど勝てないのが痛いところだが。

「師匠強すぎんよ」

 吹き飛ばされ、草むらに転がった天使が荒い息で愚痴る。今日何度目になるか、かなりの回数転がされていた。

「そら、師匠だからな。ちょい休みな」

 釈迦堂は天使を見て飄々と言った。

 起き上がった天使は息を整えてはいるがもう少し時間がいるのは確実だった。

「識何してんだ?」

 釈迦堂が識に声をかける。

「気の変換?」

 識は右手を胸の高さまで持ち上げ眉間に皺を寄せていた。

「できてねえじゃねーか」

「ちょっとは出来てるだろ」

 識の右手が不自然に光、疎らに放電を繰り返していた。素人目に見ても不完全なのは明らかだった。

「実戦で使えないのは出来てるとは言わねえよ。でも識位の使い手なら出来るんだがな。やっぱ、妙な性質持った気のせいか?」

 識の気――識は竜闘気と呼んでいるが、普通の気に比べて冷気や熱、衝撃などに耐性があった。格上の釈迦堂の炙り肉、雪達磨と言う属性技を防いだ実績があった。その後竜闘気の性質に気づいた釈迦堂に普通にどつかれて負けたが。

「そうだと思いたいな」

 識は変換を止めて右手をプラプラと振った。

(前は魔法力さえあったら簡単に属性攻撃できたのにな。今回の俺が戦士タイプで魔法力が無いのか、そもそもこの世界に魔法力と言う概念が無いのか、たぶん後者だよなあ)

 識は心の中でため息をついた。

「何気にしてんの?」

 復活した天使が近づいてきた。

「ちょっとな」

 識は全然大したことじゃないように言った。心の中では猛烈に気にしているが。

「おっ、復活したのか。もういっちょやるか」

「うちばっかじゃん!次は辰姉だろ。つーかーれーたー」

 天使は口を尖らせて文句を言った。

 三人の視線が河川敷に寝転がる少女に集まった。板垣辰子――百八十センチ近い身長とメリハリのある身体を持った少女がそこにいた。板垣家の次女で家事全般が得意でゆっくりとしたテンポの喋り方と柔らかい雰囲気が特徴だった。趣味は寝ることで普通に接する分には近所の優しいお姉さんといった感じだ。しかし、戦闘力は素質のある板垣家の中でも飛び出ており、パワーだけなら識よりも上だった。

「辰子はのびのび育てる方針なんだよ」

「差別だ差別!識からもなんか言ってやんなよ」

 天使はふくれっ面で文句を言った。

 釈迦堂と天使のやり取りを眺めていた識にパスが回された。

「今日はお開きにします?結構やりましたし」

 識は苦笑しながら言った。識も気の変換を不完全にやり続けていたせいで結構疲労がたまっていた。天使もふざけた言い方だが、その辺の運動部程度ならぶっ倒れる運動量はこなしていた。

「そうするか」

 釈迦堂はあっさりと了承した。

「イエーイ!識、帰る前にゲーセン行こうぜ」

 天使は先ほどの様子とは打って変わってイキイキとし始めた。

「識、最後に一戦やるぞ」

 いい笑顔を浮かべた釈迦堂が闘気をみなぎらせていた。小学生が見たら夢の中に出てきそうな表情だった。

 

 川神駅付近のアーケード街を識と天使は並んで歩いていた。休日も会いまってかなりの人数が集まっており、動く方向が制限されるほどだった。流石、神奈川第二位の平均乗員人数をほこる駅の周辺だけのことは有った。

「いつつ」

 識は顔をしかめながら、自分の頬を撫でた。そこには腫れは引いたがくっきりと痣がのこっており痛々しかった。遊びに行く前だからと言って、手加減するような気づかいは釈迦堂に存在しなかった。

「でもマジすげーな、もう腫れは引いてんじゃん」

 天使は識を見上げながら言った。

「あの野郎おもいっきりぶん殴りやがって。次は絶対倍は殴る」

 識は恨み言を漏らしていたが、その表情はどこか楽しそうだった。

「うわっ、ボコボコにされたのに嬉しそうにしてる……。亜巳姉紹介しようか?」

 亜巳姉こと板垣亜巳は板垣家の長女でSMクラブの女王様だった。人をいたぶるのが趣味で、その手の男たちからはたまらない人物だった。

「紹介も何も、もう何回もあってるは」

 識はすぐさま突っ込みを入れた。面倒見の良い人と思うが識にいたぶられる趣味は無かった。

「でも、亜巳姉識のこと良い身体だって舌なめずりしてたよ」

「嘘⁉」

 突然のカミングアウトに識は真顔になった。

「うん、嘘」

 天使はよほど真顔の識がよほどツボに入ったのか、人目も気にせずケラケラと笑っていた。

「…………」

 識は無言でヘッドロックをかけた。身長差があるためちょっと腕を回すだけで面白いようにかかる。

「痛だだだ」

 “ギブギブ”天使はそう言いながら識の腕をバシバシとたたいた。

 識が外すと乱れた髪を両手で整えていた。

「師匠といいうちの扱いわるくね?」

 識をジト目で見つめてきた。

「気のせいだろ」

「そっか、まあいいや。今日はガンシューからな」

 天使は屈託のない笑顔をうかべた。

 人混みと自動ドアに阻まれているのにゲームセンター独特の喧騒が聞こえ、識のテンションも上がってきた。

 自動ドアをくぐるといきなり音の波が押し寄せ、大音量で二人を歓迎した。

 お目当てのガンシューティングにたどり着くと丁度開いており、天使が手慣れた手付きで識に2Pのコントローラーを渡した。

「俺この台初めてなんだけど」

 識は受け取ったコントローラーをマジマジと見る。

「うちも」

「マジかよ」

「ガンシューなんて似たようなもんだって。それにチュートリアルがあるって」

 天使は筐体金を突っ込む。数回ボタンを押すと仰々しいオープニングとともにチュートリアルが始まった。

「確かに簡単だな」

 操作は非情にシンプルなものだった。敵に狙いをつけてトリガー引いて倒し、残弾が無くなると画面外でトリガーを引いてリロード。初見の人にも優しい仕様だった。

「だろ」

 天使は画面をいまかいまかと食い入るように見つめていた。画面が暗転しステージ一と表示される。

「よっしゃ、死ね」

 天使は物騒な掛け声とともにトリガーを引いた。画面ではゾンビだかモンスターだか分からん異形の敵が、緑色の体液をまき散らしながらどんどん倒れていく。

 識は天使が討ち漏らした敵を的確に打ち抜いていく。

(二人用としてはなかなかいいゲームだな)

 識はコントローラーの反応速度をチュートリアルで確かめていた。その結果コントローラーが認識するギリギリの反応速度で操っても、一人では敵の処理が追い付かないことに気づいていた。正しく二人で協力しないとクリアできないゲームなのだ。

 その後も二人は破竹の勢いで敵を倒していく。道中も多数のギミックが仕込まれており、時々ヒヤッとするがそれも含めて爽快感が心地よかった。

「うちにたて突くなんて百年はやい」

 天使はボス戦前のボスのセリフを無情にも飛ばした。

「識は周りの取り巻き頼む」

「了解」

 二人のコンビネーションは初めてのゲームにしてはいい感じでかみ合っており。ボスののライフが目に見えて削れていった。ボス戦も達成感のスパイスになる程度に苦労してクリアした。

「あー、楽しかった」

 天使はボスが捨て台詞を言っているのもお構いなしに、コントローラーを置いてゲームを終わらせた。

「だな」

「次行こっか、プライズは最後な」

「じゃあ、ダンスゲーで」

 識は言い終わらないうちに腕を天使に引っ張られ、ゲームセンターの中を移動する。

 その表情はドキッとするほどの良い笑顔だった。

 二人はダンスゲーを終わらせた後格ゲーなどを冷やかし、締めのクレーンゲームにたどり着いた。

 台を慎重に吟味して一つの台にたどり着いた。積み上げられたお菓子を崩すと言う単純な物なのだが積み方に偏りがあり(おそらく店員が手を抜いて積んだ)狙いさえ外さなかったら一発で行けそうだった。案の定一発で十数個のグミが落ちてくる。

 識と天使はハイタッチを決めた。

 

「最後ぼろかったな」

「それな、でもいいのか?うちがこんなにもらって」

 識のポケットには先ほどの戦利品が二つほど入っていた。ふっちょの中でも気に入ってるソーダ味とコーラ味だ。

「いいって。でも一気に食うなよ、晩飯食えなくなるぞ」

 識はちゃかしたように言う。

「うちはそんな子供じゃねぇ。じゃあまたな」

「ああ」

 二人はいつもの親不孝通り交差点で別れそれぞれの帰路に就いた。

 

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