~烏間視点~
「防衛省から通達済みだと思いますが…明日から私も体育教師でE組の副担任をさせていただきます。奴の監視はもちろんですが…生徒達には技術面精神面でサポートが必要です。教員免許は持ってますのでご安心を」
「ご自由に、生徒達の学業と安全を第一にね」
こちらを見向きもせずに理事長は答える。理事長室を後にすると同僚の鶴田が口を開く。
「ものわかりのいい理事長ですねぇ」
「フン、見返りとして国が大金を積んでるしな。だが都合が良いのは確かだ。地球を壊せる怪物がいて、しかもそいつは軍隊でも殺せない上に教師をやっている。こんな秘密を知ってるのは我々国と理事長とE組の生徒だけでいい」
「それもそうですね」
廊下を歩いていると成績について話している生徒を見かけた、どうやらこれ以上成績が落ちたらE組行きとなるらしい。言葉の端々からE組への尖った言動が見られる。
俺はこの生徒達を見て、なるほどと思う。
極少数の生徒を激しく差別することで大半の生徒が緊張感と優越感を持ち頑張るわけか。
合理的な学校の仕組みだし、我々としてもあの隔離校舎は極秘暗殺任務にうってつけだが切り離された生徒達はたまったものではないな。
それに個人的にもこの差別的な対応には首を傾げたくなる。
*
E組の校舎へと行くと何人もの生徒が棒などを持って忙しそうにしていた。何だろうと思っていると茅野さん…だっただろうか、1人の生徒が声をかけてきた。
「あ、烏間さん!こんにちは!」
「こんにちは、…明日から俺も教師として君らを手伝う、よろしく頼む」
「そーなんだ!じゃあこれからは烏間先生だ!」
「…ところで奴はどこだ?」
「…それがさ、殺せんせーがクラスの花壇を荒らしちゃったんだけど、そのお詫びとしてハンディキャップ暗殺大会を開催してるの」
茅野さんが指差す方向を見て俺は言葉を失った。木に吊るされ縛られた奴が生徒達の攻撃を避けている。
…これはもはや暗殺と呼べるのだろうか。
そう思っていたら木の枝が折れて奴が地に落ちた。このチャンスを逃すまいと生徒達は一斉に襲ったが奴は校舎の屋根上へと逃げ延びた。
その様子を見ていた渚君がなにやらメモを取っていたので見せてもらうと弱点を記していた。今のところは3つ。
・カッコつけるとボロが出る
・テンパるのが意外と早い
・器が小さい
暗殺に直接使えるかは別として、先程の奴の慌てようを見るに確かに弱点だなと思う。渚君にはこの調子で弱点を調べてくれと頼む。
今まで一番惜しかったのかクラス委員である磯貝君を中心にクラスが盛り上がる。
…中学生が嬉々として暗殺のことを語っている、どう見ても異常な空間だ。――だが不思議だ。生徒の顔が最も活き活きしてるのは本校舎の生徒ではなくこのE組だ。
*
~南雲視点~
「八方向からナイフを正しく振れるように!どんな体勢でもバランスを崩さない!」
今は烏間先生の体育の授業中でナイフの素振りをしている。…正直殺せんせーの授業より楽しい、殺せんせーは身体能力が違いすぎて異次元すぎる体育の授業を展開していたからだ。それに今までやっていた授業とは全く別の内容なので新鮮さもある。
殺せんせーはというと烏間先生に砂場へと追いやられていた。心なしか悲しそうに見える。
「奴も追い払えたし授業を続けるぞ」
「でも烏間先生こんな訓練意味あんすか?しかも当のターゲットがいる前でさ」
「前原君の言い分もわかる。しかし勉強も暗殺も同じことだ、基礎は身に付けるほど役に立つ。具体的には…そうだな。磯貝君と前原君、そのナイフを俺に当ててみろ」
「えっいいんですか?」
「2人がかりで?」
「ああ構わない、そのナイフならケガの心配もないしな。かすりでもすれば今日の授業は終わりでいい」
そう言うと3人は模擬戦闘を開始する。正直2人がかりなら当ては出来なくてもかすりくらいはするかなと思っていたがそんなことはなかった。烏間先生は2人の動きを完璧にいなして制圧したのだ。素直にすごいしカッコいいと思った。
「俺に当たらないようではマッハ20の奴に当たる確率の低さがわかるだろう。それにクラス全員が俺に当てられる位になれば少なくとも暗殺の成功率は格段に上がる。ナイフや狙撃など暗殺に必要な基礎の数々は体育の時間で俺から教えさせてもらう!」
そう烏間先生が言うと授業が再開される。
凛香と倉橋が烏間先生がカッコいいという旨のことを言っているのを見て殺せんせーはハンカチを噛み締めていたのが少し笑えた。
ナイフの扱いを実践していたら5時間目の終わりを告げるチャイムが鳴った。俺たちは疲れたーと言いながら教室へと戻る。ていうか次の英語は小テストだな。
ふと見ると校舎の前にはいちご煮オレを飲んでいる生徒がいた。…見覚えがないということは停学明けの赤羽か?
「よー渚君久しぶり」
「カルマ君…帰ってきたんだ」
「うん。わ、あれが例の殺せんせー?すっげ本トにタコみたいだ」
そう言うと赤羽は俺たちの間をすり抜けて殺せんせーの下へと行く。
どうやら挨拶をしてるみたいだ、握手を求めている。赤羽と殺せんせーが握手をすると同時に先生の触手が破壊された。俺を含めた生徒全員が驚き2人の動きを見る。
「へー本トに効くんだ、このナイフ。細かく切ってて貼っつけてみたんだけど。…けどさぁ先生、こんな単純に手に引っ掛かってそんなとこまで飛び退くとかビビりすぎじゃね?」
赤羽を見て俺は一種の感心というか尊敬の念を抱いた。殺せんせーに単独でしかも初めてダメージを与えたからだ。
「殺せないから殺せんせーって聞いたけど、せんせーってもしかしてチョロい人?」
赤羽の挑発を受けて先生の顔はどんどん赤くなっていく。まあ、あんだけ挑発されたら顔色を見るまでもなくキレる人のほうが多いと思うけど。
「ねえ渚、私知らないんだけど彼どんな人なの?」
「…うん、1,2年の時に同じクラスだったんだけど2年生の時に続けざまに暴力沙汰で停学食らってさ。このE組にはそういう素行不良の生徒も落とされるんだ。…でも今この場じゃ優等生かもしれない」
「…どういうこと?」
「凶器とか騙し討ちの基礎なら多分カルマ君が群を抜いている」
2人の会話を聞いて俺は確かにと思う。赤羽のケンカっ早さは割と有名だしケンカ慣れしてるっていうことは渚の言う通り騙し討ちなどの基礎もあるということだ。
でも俺は疑問に思った、果たしてあの殺せんせーにそれらが通用するのだろうかと。
*
ブニョンという音が6時間目の小テスト中の教室に響き渡っている。騒音に耐えきれなくなったのかついに岡野が殺せんせーにうるさいと注意した。
俺はというと問題を全て解き終わったのでテスト用紙にドラえもんなどを描いて時間を潰している。すると赤羽も終わっているのか話しかけてきた。
「ねー南雲君さー俺のこと覚えてる?」
「赤羽とは直接面識なかったと思うけど」
「覚えてなかったかー。喧嘩してるときに1度やり過ぎだって止められたんだけど」
「喧嘩してる奴を止めた記憶はあるけど誰かまでは覚えてないな」
「ふーんそっかー」
「というか君付けこそばいから呼び捨てでいいよ」
「じゃあ俺もカルマって呼んでよ、名前気に入ってるんだ」
「こらそこ!テスト中にお喋りしない!」
「ごめんごめん殺せんせー、俺らもう終わったからさジェラート食って静かにしてるわ」
そう言うとカルマは俺にジェラートを渡してきた。うむ、うまい。
「そっそれは昨日先生がイタリア行って買ったやつ!」
殺せんせーのかよ。てかカルマは勝手に人の物を食べるなよ…。って俺もか。
「どーすんの?殴る?」
「殴りません!残りを先生が舐めるだけです!」
そう言いながら先生がこちらに詰め寄ってくる、すると先生の脚の触手が破壊された。いつの間にか床に対先生BB弾がばらまかれていた。
「何度でもこういう手使うよ、授業の邪魔とか関係ないし。それが嫌なら…俺でも俺の親でも殺せばいい。でもその瞬間からもう誰もあんたを先生とは見てくれない。ただの人殺しのモンスターさ」
確かにカルマの言うとおりだ。前回ぶちギレた時に俺たち以外に何をするかわからないと言ったが実際に手を出されたら先生と見なくなる。それこそ犯罪者を見るかのようになるだろう。
「はいテスト、多分全問正解。じゃあ先生~明日も遊ぼうね~」
そう言ってカルマは帰っていった。
――カルマは頭の回転が速い。今も先生が先生であるがためには越えられない一線があるのを見抜いた上で駆け引きを仕掛けている。殺せんせーはカルマに押し付けられたジェラートをハンカチで拭いている。
「殺せんせー元気出してよ、俺のジェラートあげるからさ」
「南雲君ありがとうございます。でもこれは先生のジェラートです」
「…そうでした」
――
カルマによる先生への暗殺というか嫌がらせはカルマの早退により打ち切られた。なんというか先生に対するカルマの暗殺の姿勢は執念じみたものを感じる。なんにせよここは暗殺教室なのだから生徒が暗殺を積極的に行うのは良いことだと思う。
時刻は放課後、俺は烏間先生に用事があるので職員室を訪ねる。
「すみません、烏間先生今いいですか?」
「南雲君か、どうしたんだ」
「今後の体育の授業で防御術みたいなのってやるんですか?」
「…いや暗殺にとって優先度が低いから教える予定はないな、どうしたんだ」
「いえ授業でやらないのであれば放課後などの烏間先生が空いている時間で教えていただきたいなと」
「ふむ、俺は構わんが…どうしてだ?」
「怪我をしたくないので授業でやらないのであれば個人的に教えてほしくて」
「なるほど、ではこれから互いの都合のいいときにやるとしよう」
「ありがとうございます」
「ではさっそくやろうと思うが、今日は何か予定があるのか?」
「いえ、お願いします!」
*
「やべー遅刻ギリギリだ」
昨日烏間先生と放課後に訓練をしたため疲れが溜まり、なかなか布団から出られなかった。
山を小走りで登り教室に滑り込む、するとクラスにいつもの騒がしさがなかった。みんなの視線の先を見ると教卓の上に蛸がナイフを刺された状態で乗っけられていた。…ほーん、犯人はカルマだな。あまりこういうのは好きではないが暗殺の一貫なのだろう。
そう思っていると始業のベルが鳴り殺せんせーが教室に入ってきた。
「おはようございます…ん?どうしましたか皆さん?」
殺せんせーが蛸を見るのを確認すると案の定カルマは喋り始めた。
「あっごっめーん。殺せんせーと間違えて殺しちゃったぁ、捨てとくから持ってきてよ」
「…わかりました」
そう言うや否や殺せんせーはマッハで蛸を調理しカルマの口のなかにたこ焼きを入れていた。
「あっつ!」
「その顔色では朝食を食べていないでしょう、そのたこ焼きを食べれば健康優良児に近付けますね」
「……」
「先生は暗殺者を決して無事では帰さない。手入れするのです、錆びて鈍った暗殺者の刃を。今日1日本気で殺しに来るがいい、その度に先生は君を手入れする。放課後までに君の心と身体をピカピカに磨いてあげよう」
――
結論から言うとカルマの暗殺は全て失敗に終わった。
1時間目の数学では殺せんせーが板書を書いている間に背後から撃とうとしたところ止められネイルアートが施された。
4時間目の調理実習ではスープを鍋からひっくり返すと同時にナイフで急襲しようとしたところスープをスポイトで吸うと共に味の調整、カルマ本人はハートが大きく刺繍されたエプロンを着用させられた。これには俺と菅谷も笑いを堪えるのが大変だった。
5時間目の国語では朗読をして教室を歩いている先生がカルマの目の前を通る瞬間襲おうとしたらしいがおでこを押さえられ席を立つこともままなっていなかった。ちなみにこのときは髪を七三分けにされていた。
そして今は放課後となり俺と渚とカルマの3人は椚ヶ丘町を一望できる崖付近にいる。
「カルマ君、焦らないでみんなと一緒に殺っていこうよ」
「そうだぜカルマ、個人マークされたらどんな手を使ってもマッハの殺せんせーは1人じゃ殺せないぜ」
「…やだね、俺が殺りたいんだ。変なとこで死なれんのが一番ムカつく」
そう呟くカルマに俺と渚は黙る、すると殺せんせーがしましま模様で近づいてきた。
「さてカルマ君、今日は沢山先生に手入れをされましたね。まだまだ殺しに来てもいいですよ?もっとピカピカに磨いてあげます」
「……先生ってさ命をかけて生徒を守ってくれる人?」
「もちろん!先生ですから」
「そっか良かった。なら殺せるよ、確実に」
そう言うとカルマは銃を構えて崖から飛び降りた。
俺と渚は焦って崖の下を見る。人が空を飛んでいる、いや落ちている。初めて見る光景だ。
カルマが地面と近くなったところで地面の近くにクモの巣のようなものが突如現れた。…殺せんせーの触手だ。
――殺せんせーに無事に受け止められたカルマは崖の上に戻された。
「カルマ君平然と無茶をしたね」
「別にぃ…今のが考えてた限りじゃ一番殺せると思ったんだけどしばらくは大人しくして計画の練り直しかな。少なくとも先生としては死なないし、殺せない」
「ええ、もちろんです。南雲君と渚君にも言っておきますが見捨てるという選択肢は先生にはない、いつでも信じて飛び降りてください。それにしてもカルマ君、もうネタ切れですか?君も案外チョロいですねぇ」
うわー煽りよる、良いこと言っていたのに台無しだ。カルマも苛立ったのか殺意が湧いている感じだ。…けどさっきまでとなんか違う、健康的で爽やかな殺意だ。事実殺すと言ったカルマの顔が先程までと打って変わって明るい。
「帰ろうぜ、南雲に渚君。帰りにメシ食ってこーよ」
「ちょっそれ先生の財布!」
「だからぁ職員室に無防備で置いとくなって」
…確かに無防備に置いとくのも悪いが盗る方が悪いだろ。俺は苦笑しながらクラスに戻ってきた祝いとして奢るよというとカルマは素直に殺せんせーに財布を返した。中身を全部抜いていたらしいが。
暗殺に行った殺し屋は暗殺対象にピカピカにされてしまう。それが俺たちの暗殺教室、明日はどうやって殺そうか。
仕事は別に問題ないんですが、家での余暇の時間全てモンハンに費やしてるので投稿が確実に遅れます。
ストーリー自体は既にクリア済みなのであとどれくらいでプレイ時間が落ち着いてくれるかってところですね。