「はあ、はあ」
潜伏予想箇所の1箇所目は誰もいなかった。次は2箇所目だ。
俺の今の行動は骨折り損かもしれない。それでも俺は自分にできることをやるだけだ。考えても仕方がないことは考えるな。今は神崎と茅野のためだけに動け。そういえば2班のみんなはどうしてるだろうか。最後凛香を無視する形になってしまったから後で謝らないと。ちゃんと許してくれるだろうか。
頭の中で様々な考えが浮かんでは消えていく中、2箇所目に到着した。…ここにもいない。1箇所目と同様またしおりのマップのページを開き場所に目星を付ける。マップを指で追っていると電話が鳴る。慌てて取り出し画面を見ると友人からだったのですぐに出る。
「どうした!?」
「無事に救出できたぞ!」
「本当か!ケガとかは!?」
「ない、二人とも無事だ」
「ふーっ…」
安堵からか俺はその場にしゃがみこむ。
「純一?大丈夫か?」
「…ああ、安心して力抜けただけだ」
「そっか、純一も4班のために動いてたってことを殺せんせーに伝えたらすぐにそっちに行きたいって言ってるんだけど今どこだ?」
「あー…川沿いの空き地というか空き家というか。特に目印もないんだけど殺せんせーに言えば伝わるかな?」
「了解、ちょっと待ってて」
俺はもう一度息をつく。ずっと走っていたせいか脚がなんとなく重い。
「純一?おーい」
「ちゃんと聞いてるから大丈夫だ」
「場所わかったからそっち行くって」
わかったのかよ。心の中でツッコミをいれる。
「じゃあとりあえず電話切るよ、本当に無事でよかったよ」
「ありがとな、純一。じゃあ」
そう言って電話を切ると後ろからヌルフフフと聞こえてきたので振り返る。
「さすが殺せんせー、速いなあ」
「いえいえ、南雲君が行動していたと聞いたのですぐにこちらにも来なければと思いまして」
「俺なら問題ないです。…まあ俺が行動しなくても結果は変わらなかったんじゃないかなって思ってましたけど」
「…つまり自分の行動に意味はなかった、と?」
「結果的に言えばそうだけど、そうじゃなくて。ただ自分が納得したかったから行動しただけなんじゃないかなって。ちょっと自己嫌悪してます」
「…ふむ」
そう言って殺せんせーは思案顔になる。少し間が空いてから俺に語りかける。
「これから先生はいくつか質問します、いいですか?」
「どうぞ」
「南雲君は4班のみんなが心配でしたか?」
「もちろん、友達だから」
「拉致されてる可能性の場所を回ったと聞きましたがその行動は誰のためですか?」
「神崎と茅野のためです」
「それでは二人が無事だったと聞いてどう思いました?何も感じませんでした?」
「何も感じないわけないです、無事でよかったと安堵しました」
「それでは最後の質問です。今までの質問の答えを振り返って君はまだ自分が納得したかったから行動したと思いますか?」
「…いいえ、思わないです」
「ほら、君の心はわかってるんですよ。南雲君、結果的に見れば君は動かなくても今回のトラブルは解決しました。ではもし仮に拉致されていた場所が別の場所だったらどうですか?君が走った場所にもしかしたら二人がいたかもしれない。その時君が行動していなかったら?救出が遅れ二人が傷つけられたかもしれない。そんな可能性だってあったんですよ」
確かに殺せんせーの言うとおりだ。今回はたまたま助かっただけで助からない可能性も十二分にあったのだ。
「君は"ハチドリのひとしずく"という絵本を知っていますか?」
「いいえ、知らないです」
「この絵本はとても短いお話です。簡潔に説明するまでもなく短いので全て話しますが――、ある森が燃えていて、その森に住む動物達は一目散に逃げていきます。みんなが逃げていく中で1羽のハチドリだけはくちばしで水のしずくを1滴ずつ運んでは火の上に落とし、運んでは火の上に落としと繰り返しています。それを見た他の動物達はハチドリを笑います。"そんなことをして一体なんになるんだ"と。それに対してハチドリはこう答えます。"私は、私にできることをしているだけ"。…ここでこの絵本は終わります。南雲君は今の話を聞いてどう思いましたか?」
「なんか…今の俺みたいですね。ハチドリも、ハチドリを笑った他の動物達も」
「そうですね、では南雲君はハチドリの行動は間違っていると思いますか?」
「いいえ、問題を解決しようと行動しているので間違っていないと思います。むしろ出来ることを全うしているので笑われる謂れがないです」
「先生もそう思います。先程南雲君はハチドリも他の動物も自分みたいだと言いました。ええ、その通りです。でも南雲君、ハチドリのように素晴らしい行動をしたのだから自分の行動を他の動物達と同じように笑わないでください、卑下しないでください。君と同じように友達のために行動できる人はそういない。ましてや中学生の君がだ。行動に点数をつけることはできませんが今日の君の行動は百点満点ですよ」
「…ありがとうございます」
「心は晴れましたか?」
「はい、充分すぎるほどに」
「それはよかったです、では旅を続けますかねぇ」
そう言うと先生は飛んでいった。俺は川を見て一息つく。一度こうと決めたら、自分が選んだのなら決して迷わないようにしようと思った。選んだのなら目標に向かって進み続ける、そう心に決めた。
俺は携帯を取り出すと凛香にメッセージを打ち込む。
南雲:無事に解決した、さっきはごめん
やっぱり怒ってるかな?てかそもそも返信返ってくるのか?そんなことを考えていると携帯が鳴る。
凛香:解決してよかった、大丈夫だから気にしないで
凛香:それより会えない?
南雲:ああ、これから2班のみんなと合流するけど
凛香:そうじゃなくて、
凛香:2人で抜け出して会わない?
*
俺は今指定された場所で待っている。先程凛香から抜け出さないかと提案を受けたときはビックリしたが謝るのであれば二人きりのほうが何かと都合がいいので了承した。莉桜とかに変な茶々を入れられる心配もないしな。
待ってる間は暇なので俺は内ポケットからイヤホンを取り出し携帯に繋げて音楽を聴く。"音楽とは精神と感覚の世界を結ぶ媒介のようなものである"と言ったのはベートーベンだったかモーツァルトだったか。――そんなことを考えながら聴いていると肩をトントンと叩かれた。
「ごめん、待った?」
そこには少し走ったのか、軽く息切れしている凛香がいた。
「いや、今来たとこ」
「嘘、音楽聴くくらい待ってたでしょ」
「そんなに待ってないよ、10分もかかってないくらい」
「やっぱり待ってるじゃん、ごめんね?」
「いいって、気にすんな。むしろ俺のほうが謝りたいし」
「映画村でのこと?あれはもう大丈夫だよ」
「それでも、直接謝らないと違う気がするんだ。ごめんな、凛香」
「そういうことなら。気にしないでいいよ、純一」
「ありがとう。そういえば俺いなくなったあとみんな何か言ってた?」
「色々言ってたけど覚えてない」
「そっか、まあ旅館戻って合流したらまた言い訳するよ」
「…抜け出した本当の理由みんなに言わなくていいの?」
「言うほどでもないし、誘拐されましたなんて広まったらいくら仲がいいって言っても神崎と茅野は嫌な気持ちになる思うしいいかな」
「そっか、そこまで気回らなかった」
「心配してくれてありがとな」
「ん」
それきり無言が続く。今いる場所は駅の近くの公園だが人通りが少ないこともあり車などの環境音だけが響く。
「私――」
「ん?」
「私、純一がいなくなってからすごい不安だった。純一が事件に巻き込まれたらどうしようとか有希子たちが傷つけられてたらどうしようとか。マイナスなことしか頭に浮かばなかった。その中で色々矛盾したこと考えちゃって、もう…なんかよくわかんない」
「…わかんなくていいんじゃねーの」
「…え?」
「俺もさっき殺せんせーと話してさ、自分が正しいと思って行動したんだったらそれを卑下するなって言われて。それに凛香の場合は行動しようとしたのに俺が止めちゃった部分あるしさ。何をどう考えたのかとか詳しく聞かないけど、自分のことを一から十までわかってる人なんていないんじゃないか」
「そうかな?」
「俺が偉そうに言えたことでもないけどね」
そう言って笑うと凛香も小さく笑った。その微笑を見て俺は鞄の中から綺麗に包まれた物を取り出し手渡す。
「なにこれ?」
「絵葉書。ここに来る途中で買った。なんか色々考えたら凛香が好きなもの買って行こうかなって思って」
「ありがとう、開けていい?」
「どうぞ」
両手を差し出すようなジェスチャーをしつつ開けるよう促す。ここに来る途中で土産屋に寄った際に目に止まったのを買ったのでたぶん良いものだと思う。たぶん。
「綺麗」
「感想一言だけだったら簡素すぎません?」
「いや、本当に綺麗だなって」
「そっか、それならよかったよ」
俺が買ったのは伏見稲荷大社の千本鳥居の絵葉書だ。気に入ってもらえたならよかった、これでディスられたらみんなより1日早く帰るところだった。
「そういえばだけど、凛香」
「なに?」
「なんで抜け出そうなんて提案したんだ?」
「んー…なんとなく?」
「なんだそりゃ」
「特に理由なんてないよ、なんとなくだから」
「そうか、それならしょうがないな」
「うん」
「じゃあとりあえず旅館帰るか、時間的に一番早いだろうけど」
「そうだね」
そう言って並んで歩く。なんだろうか、修学旅行してんなあとと思った。トラブルがあったり自由行動を抜け出して女子と二人きりになったり。物語でよく見るシチュエーションを体験したような気分だ。
「なんか機嫌良さそうだけど絵葉書そんなに嬉しかったの?」
「えっ?う、うん、そうだよ」
「そんなに喜ぶなら渡した甲斐あったよ」
「私あんまり顔に出ない方なのによくわかったね」
「2年も同じクラスで付き合いあるからそれくらいわかるよ」
「そっか」
それきり会話もなく旅館へと向かう。関東と関西、同じ日本なのに雰囲気はもちろん、風が吹いたときの印象が随分と違うということを肌に感じながら歩いた。
*
旅館についたあと部屋が違うため凛香と別れる。案の定一番早く着いたためとりあえず風呂に入ることにした。というのもやはり疲れがあるからだ。走ったのもそうだけどやはり昨日の枕投げで体力を使いすぎたなあと思う。
この旅館は見た目と中身がそこそこボロいが浴場は意外や意外。天然温泉だかなんだかわからないがちゃんとした湯らしい。そこそこ広いし修学旅行生を受け入れるだけあるなというのが素直な感想だ。ましてや今はそれを独り占めできているわけで評価はうなぎ登りだ。あー最高、将来は布団か風呂と結婚したいなー。でも布団はダメだな、あいつ誰とでも寝るらしいし。
そんなくだらないことを考えているとのぼせそうになってきたので風呂から出て部屋へと向かう。とりあえずみんなが戻ってくるまで寝ようと思う。ガチ寝したら困るので布団ではなく部屋に常備されてる座布団を並べて簡易的な敷き布団のような形にし1つの座布団を2つ折りにして枕にすれば寝床の完成。修学旅行最終日の前夜は長い。その長き戦いに備え眠ろう。
"私は疲れてしまったから、ちょっとご免こうむって眠りたい"と花嫁にメロスが言ってたなぁと思いながら俺は意識を手放した。
投稿したものを読み直してるんですが誤字脱字が多くて申し訳ないです。
たぶんPCではなくスマホで書いて投稿しているので誤字脱字が多いっていう言い訳をしておきます。今後読み直しはタブレットで行っていくのでたぶん減ると思います。
南雲君と殺せんせーの話の中で登場させた"ハチドリのひとしずく"という絵本は本当にあります。今は道徳の授業で使われてるとかなんとか。興味のある方は図書館や本屋で是非手に取ってみてください。殺せんせーが言っていた通りのあらすじで本当に短いです。