暗殺教室 28+1   作:水野治

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第0.2話 相談の時間

 クラス替えから数日がたち、徐々にクラスメイトも互いに打ち解けてきたのかクラス全体の雰囲気も明るくなってきた。それでもE組という負い目からかどこか暗い感じが、授業で当てられたときに答えられなかったときなどはズンとクラスが沈む感じがあった。

 雪村先生は明るく接してくれているが、エンドのE組というレッテルを持った生徒は自信などなくその明るさが返って空回りしさらに雰囲気が暗くなるという悪循環にもなっていた。

 

 俺はというと関係が気まずくなっている1人といまだに話せてないという焦燥感から授業に身が入っていない。

 岡島、前原はもちろんのこと、野球仲間である友人。1,2年生時に同じクラスで比較的話をすることが多かった速水とはE組に来てからも問題なく接することができた。

 

 ただ、中村莉桜とは一言も話せていない。

 小学生のときに天才小学生と呼ばれていた彼女は始業式、終業式など毎回何らかの表彰を受けていた。テストで解けなかった問題で盛り上がってるときに寂しそうな目でこちらを見ていた彼女に話しかけたのが仲良くなったきっかけだった。

 普通がよかった、普通になりたいと言っていた彼女は当時小学生だった俺たちの誰よりも大人だったと思う。そんな彼女とテストの話はあまりできなかったが休み時間に一緒に遊んだり、休日に映画を観に行ったりなど楽しく過ごした。

 小学6年生になったときに椚ヶ丘中学校を受験するという話を聞いてそれなりに頭のよかった俺は1人じゃ寂しいだろ?と岡島も誘って3人揃って中学受験をした。

 3人の合格が決まったときには3人の家族でご飯を食べに行くくらい祝福されたし俺たちも喜んでいた。

 

 そして椚ヶ丘中学校の入学式の時俺は驚愕した。開いた口が塞がらないとは正にこのことだと思った。中村が黒髪を金髪に染めていたからだ。入学式終了後の下校時に一緒に帰った際に中村が言った一言は今でもはっきりと覚えている。

 

「頭が悪くなりたい。バカになりたい。」

 

 小学生のときと同じ寂しい目で言った彼女に俺は声をかけることができなかった。何て言えば正解なのかわからなかった。結局その日以来疎遠になってしまい、何度か彼女に話しかけようと機会を伺っていたら今までと環境が変わったことと前原、速水といった新たな関係が生まれたことで話すことなどなく約2年が過ぎてしまって今に至る。

 俺は誰にも、父さんにも相談することができなかった。だって恥ずかしいじゃないか。女の子となんとなく気まずくなったからどうにかしたいって。思春期にはかなり高いハードルだよ。絶対にからかわれるに決まってる。

 でも俺はE組に来てその考えは捨てようと思った。E組での彼女の浮かない顔、寂しげな目を見たときもう一度彼女と仲良くなりたいと心から思った。

 

 どうすればいいかはわからないが、ちゃんと話を聞いてくれそうな、信頼できそうな人が今は目の前にいる。

 今日の放課後に相談してみようという考えに至り、まずは授業を真面目に聞こうとノートに板書をまとめはじめた。

 

 

 

 

 そして放課後。

 先生に帰りの挨拶をしてみんなが帰り始めてる中、岡島と前原が俺の席にきて、俺たちも帰ろうぜーと言われ俺は言葉を返す。

 

「悪い、この後先生に話があってさ一緒に帰れないんだ」

 

「じゃあ話が終わるまで教室で待ってようか?」

 

「いやどれくらいかかるかわからんし、二人に悪いから先に帰っててくれ」

 

 二人はりょーかーいと間延びした声で返事をし、また明日なと帰ってった。俺はそれに応えるように手を振った。

 

 二人を見送りとりあえず職員室に向かうかと心の中でタメ息をつきながら歩き始める。ギッギッと古い床特有の音が放課後の廊下に響く。その音が俺の心臓を急かしているのか職員室に近づく度に鼓動が速くなる。

 心臓の鼓動と汗ばんだ手に気付き、柄にもなく緊張していることを情けないと感じた。職員室に入る前にハンカチで手を拭き、息を吐ききることで気合いを入れて失礼しますと俺は職員室の戸を開けた。

 

 

――

 

 

 職員室に入るとハーイと明るく返事をした雪村先生はどうしたの?と聞いてきた。先生の鞄が机の上に置いてあり、ひょっとして帰ってしまうのだろうか、今日中に相談したいんだけど。

 

「先生に相談があって来たんですけど…ひょっとしてもう帰っちゃいますか?」

 

「いやいや!大丈夫だよ!私の用事なんかより生徒の相談の方が大事だよ!」

 

 と、体の前で小さく手を振りながら言葉を返してくれた。

 よかった、今日相談できると安堵した俺はふうと息を吐いた。そして雪村先生に悩んでいることを包み隠さず現在に至る経緯までを話をした…。

 

 

――

 

 

 話し終わると先生は顎に手を置き、むむむと唸っている。先生には申し訳ないけど正直可愛いなと思っていると先生は口を開いた。

 

「つまり中村さんと話をして蟠りを解きたいってことだよね?」

 

「そうです。それでどうすればいいかなって。」

 

「それはね、簡単にできるよ♪」

 

 先生はウインクをしつつ手でOKマークを作りながらそう言った。俺が訝しげにそんな簡単にいくんですか?と言うと幼子を諭すように話し始めた。

 

「結論から言うとね、中村さんと向かい合って話をすればすぐに解決するの。でも君たちは思春期だし思ってることを素直に言えないのが普通なのね。大人でも気まずくなっちゃって話が出来なくなることだってあるけど結局は話し合いでしか解決できないんだー。だからね、勇気を持って中村さんに話しかけてみよ?」

 

「でも…拒絶…というか向き合ってくれますかね。」

 

「その点は心配ないよ♪」

 

 また同じ仕草をして雪村先生は言う。再度俺は訝しげな視線を送りながらどうしてですかと尋ねると雪村先生が優しい笑顔で

 

「たぶん中村さんも同じ事を考えているからだよ。言って良いのかわからないけど中村さん休み時間に何回も南雲君のこと見てるもの。普通関わりたくない人なんて見向きもしないでしょ?だからきっと大丈夫。」

 

 と、言ってくれた。

 

 俺は嬉しくなって思わず笑顔になった。悩みが解決することもそうだが、先生がちゃんと俺たちのことを見てくれてるんだってことがわかったから。

 満足そうな顔をした俺を見て先生は大丈夫?解決できそう?と聞いてきた。俺はもちろん!と答え、

 

「これで解決できなかったら男じゃないですよ」

 

 と、続けた。

 

 うんうんと先生は笑顔で頷いた。相談が終わり油断している先生に俺は、早く帰らなくて大丈夫ですか?用事あるんですよね?と聞くと、先生は時計を確認して、いけない!と焦り始めた。

 さっきまで頼れる先生の顔だった人が正反対の顔になったので俺は思わず声を上げて笑ってしまった。先生はもうバカにしてと頬を膨らませながら急いで鞄に私物を入れていた。

 

「先生ありがとうございました。話し合ったら先生にまた報告します。」

 

 帰り支度をしている先生にそう言うと頑張ってねとエールを送ってくれた。失礼しますと職員室を出ると、いつのまにか心臓の鼓動が元に戻っていた。こんな簡単に胸のつっかえが取れるんだなと俺は帰り道を歩いた。

 明日の放課後中村を捕まえて話し合うぞと小さく拳を握った。




思春期のときってなかなか人に相談しづらいですよね。
作者が中学三年生の時は野球で特待生の話が来ていて、道外に行くかなど一人で決めれないことがほとんどだったので相談しまくってました。
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