暗殺教室 28+1   作:水野治

25 / 42
1:中:木村
2:捕:渚
3:三:磯貝
4:投:杉野
5:遊:南雲
6:二:前原
7:右:三村
8:一:菅谷
9:左:カルマ

打順です。

前編と来たら後編だろと思っていたら中編を間に挟まれたときの虚無感といったらないですね。でも安心してください、全何話かハッキリさせて尚且つ連続で投稿しますので。


第17話 球技大会の時間 その2

『それでは最後に…E組対野球部選抜のエキジビションマッチを行います』

 

 球技大会当日。俺達は本校舎のグラウンドに集まっている。野球部のやつらは見た目から既に気合い十分、試合着を着てこの試合に臨む。

 

「やー惜しかった!」

 

「勝てる感じはあったし次リベンジだね」

 

「ごめんね、私が皆の足引っ張っちゃった」

 

「そんな事ないって茅野さん」

 

「女バスのぷるんぷるん揺れる胸元を見たら怒りと殺意で目の前が真っ赤に染まって…」

 

「茅野っちのその巨乳に対する憎悪はなんなの!?」

 

 女子たちがこちらに合流したがどうやら負けてしまったらしい。茅野の件については触れないでおく。

 

「おっお疲れ」

 

「ごめんね、南雲君。せっかく教えてもらったのに」

 

「気にしないで大丈夫だ。それに皆やりきった顔してるしな」

 

「うん。その代わり男子には勝ってもらわないとね!」

 

「純一、しっかり頼むよ」

 

「凛香に言われないでも頑張るよ。ところで髪結ぶの気に入ったの?」

 

「ビッチ先生と被ってるの嫌だったし、良い機会だからこれからはこうする」

 

「ふーん、似合ってるしいいんじゃね。じゃあ俺はアップしてくるよ」

 

「ありがと、頑張って」

 

 股関節を中心に体を伸ばす。運動前は柔軟などの静的ストレッチよりも軽いダッシュなどの動的ストレッチが良いらしいので動的ストレッチを多めにやる。俺は両方やらないと気が済まないので両方やるようにしているけど。

 

「純一!そろそろ整列だってよ」

 

 友人の声掛けに了解と返し整列する。礼が終わったあと進藤が友人に対して話を始める。

 

「学力と体力を兼ね備えたエリートだけが選ばれた者として人の上に立てる。それが文武両道だ、杉野。お前はどちらも無かった選ばれざる者だ。俺は選ばれざる者がグラウンドにいるのを許さない。そいつら共々二度と表を歩けない試合にしてやるよ」

 

 そう言って進藤はマウンドに登る。

 

「よかったのか友人、何も言い返さなくて」

 

「いいんだ、試合で返すから」

 

「その意気だ!じゃあミーティングしようぜ」

 

「よしみんな、遠近法で殺せんせーがボールに紛れてるから顔色をよく見てくれ。それがサインになってるから。バントとか最低限のものはみんな覚えているな?」

 

 友人の言葉にみんなはおう!と返す。すると殺せんせーが青緑→紫→黄土色と変化した。…何それ?いきなり知らないサイン出さないでくれない?渚はノートをペラペラと捲って解読する。

 

「えーと…"殺す気で勝て"ってさ」

 

「「よっしゃ殺るか!」」

 

「「おう!!」」

 

「「男子頑張って~!」」

 

 殺せんせーのサインと女子の応援で男子の気合いは十分。あとは試合に勝つだけだ。

 こちらの先頭バッターは木村だ。

 

「やだやだ、どアウェイで学校のスター相手に先頭打者かよ」

 

「木村、全員の度肝抜いてやれよ」

 

「まあ、頑張るよ」

 

『E組の攻撃、一番センター木村君。早く打席へ』

 

 生徒会の荒木が実況アナウンスしてる。投球練習終わってないのに打席行くアホいないだろと心の中でツッコミを入れる。

 

 初球の殺せんせーのサインは"待て"。まずは様子見といったところだろうな。進藤が投げた初球はズドンという音と共にミットに収まる。

 

『これはすごい!ピッチャー進藤君、さすがの剛球!対するE組の木村は棒立ち!バットくらい振らないとカッコ悪いぞ~!』

 

 実況がやかましいがE組いじりはいつものことなのと殺せんせーのささやき戦術のおかげで俺達は誰一人として気にしていない。荒木が俺達の秘密でも暴露しない限りは問題ない。

 おそらく殺せんせーからサインが出たのか木村は帽子のつばを触る。サインを確認したということの合図だ。

 

『さぁ進藤君2球目…投げたッ!』

 

 コォン、という金属バットの渇いた音と共に木村は快足を飛ばす。殺せんせーのサインはセーフティーバントだ。

 

『あーっとバントだ!良い所に転がしたぞ!内野誰が捕るか一瞬迷った!……セーフ!これは意外、E組がノーアウト一塁だ!』

 

 よしよし、練習通りだ。俺達の作戦はバントで出塁からの友人か俺の一発だからな。

 

『2番キャッチャー潮田君――ピッチャー投げて…今度は三塁線に強いバント!前に出てきたサードが脇を抜かれた』

 

 強豪っていう割にバント処理が甘く、いかに進藤のピッチングに頼って勝ってきたのかが感じられる。単純に俺達のバントが上手いっていうのもあるが。

 続く磯貝もバントを決めノーアウト満塁のチャンスが出来る。

 

『満塁だーっ!調子でも悪いのでしょうか進藤君!そしてE組の4番の杉野君が打席に入る!』

 

 進藤が俺達の攻めに動揺しているのが目に見える。友人が打席に入ったときはポーカーフェイスとは無縁なくらいに顔が歪む。

 友人は最初からバントの構えをする、だがバントをするわけではない。バスター打法というやつだ。しかし野球部連中は三連続に完璧にバントを決められているのでヒッティングではなくバントの可能性も捨てきれない。ノーアウトということもあり攻め側の選択肢は多くなる。その事から外野は定位置よりやや前、内野は中間守備とも言えなくもない微妙な守備位置となっている。

 

『進藤君、やや間を開けて第1球……打ったァー!深々と外野を抜ける!』

 

 よし!思わず拳を握る。

 

『走者一掃のスリーベース!E組3点先制ー!』

 

 戻ってきた渚達とハイタッチをしていると打順が次の前原が鼓舞してきた。

 

「純一!お前も続けよ」

 

「打つに決まってるだろ」

 

「みんな見てるからな!」

 

「打てなかったら逆立ちで甲子園まで行ってやるよ」

 

 俺の一言を不破だけはわかったようで満足げな顔で頷いている。

 

『5番ショート南雲君、野球部はここから立て直したいものだ!』

 

 果たして立て直せるか?タイム取って無理矢理にでも空気を変えないと流れが戻らないぞ。

 俺は配球に目星をつけて打席に臨んでいるがその必要はない。今の動揺しているバッテリーならまず間違いなく初球はストレートだ。その初球を俺は仕留める。殺せんせーも初球からいけというサインを送ってきた。

 

『進藤君1球目…投げたッ!』

 

 きた。予想通り。

 バットを振ると金属バット特有の打撃音がグラウンドに響く。

 

『快音響くッ!――これは!レフト、センター共に見送っている!』

 

 俺は一塁に向かって走るが確信があったので全力では走らない。感触は間違いない。

 

『入ったッー!!まさかのE組から左中間へのホームランです!』

 

 E組ベンチが沸いている。それもそうだ、ホームランは打撃の花形だ。盛り上がらないわけがない。その様子を横目に俺はダイヤモンドを一周する。ホームでは友人が待っていた。

 

「相変わらずすごい打球だな」

 

「打つのが俺の仕事だからな。頼むぞ、ピッチャー」

 

「おう!」

 

「純一!お前本当に最高だな!」

 

「今のはカッコよかったよ!」

 

「南雲君カッコいい!」

 

「みんなありがとう。でもほら、次は前原だからって…ん?」

 

 E組ベンチは盛り上がっているが相手ベンチが何かあったのかこちらとは違う騒がしさがある。――理事長だ。

 

「審判タイムを」

 

 理事長は空気をリセットするべくタイムを取り野球部面々をベンチへと集合させる。

 

『……今入った情報によりますと野球部顧問の寺井先生は試合前から重病で…野球部員も先生が心配で野球どころじゃなかったとのこと!それを見かねた理事長先生が急遽指揮を執られるそうです!』

 

「こういう時さらっと出れるのカッコいいな~」

「野球部も今から頑張れ!」

「まだ始まったばかりだぞ!」

 

 空気が変わったな。少なくともE組の押せ押せムードではなくなった。ていうか重病って、あの監督ベンチでふんぞり返ってただろ。

 

「一回表からラスボスか~」

 

「たぶん、いや絶対にこちらとしてはよろしくないよね」

 

「なーに大丈夫だ。友人がいる」

 

「俺をドラゴンボールみたいに言うなよ!」

 

『――いくつか指示を出して理事長先生が下がりました!さぁここからはどのように…こっこれは何だ!?守備を全員内野に集めてきた!こんな極端な前進守備は見たことない!』

 

「バントしかないって見抜かれてるな」

 

「とは言ってもダメだろあんなに至近距離で!目に入ってバッターが集中できねえよ!」

 

「いや、岡島。ルール上ではフェアゾーンならどこ守っても自由なんだ。審判がダメだと判断すれば別だけど…それは期待できない」

 

 友人がみんなに対して説明を入れる。そうこう言っていると勢いが戻っている進藤が投球を開始する。

 

『おおっと!内野のプレッシャーにビビったか6番前原!真上に打ち上げてワンナウト!』

 

 しゃーない前原。続く三村が困った顔で打席に向かいつつ殺せんせーを見る。俺達もどのようなサインを出すのか気になったため同じく殺せんせーを見る。

 

(((…………打つ手なしかよ!!)))

 

 殺せんせーは顔色を変えるでもなく両手で顔をおおってしまった。

 

『――あっという間に3アウトチェンジ!ピッチャー進藤君完全に復調です!』

 

「よしっみんな切り替えていくぞ!」

 

「そうだな、5点もリードしてるしな。気楽に行こーぜ」

 

「さすが経験者2人は行動が速いね」

 

 一回表が終了し俺達は守りに入る。

 昔の友人しか知らない野球部面々をテンポよく三振を取り既に2アウトだ。

 

「さすがだな、杉野。このまま勝てるんじゃないか?」

 

「磯貝、次からクリーンナップだから打球が来る可能性が高いぞ」

 

「わ、わかった。少し後ろに下がるよ」

 

「それに理事長が進藤を改造してるからな。どーなることやら」

 

 俺の言葉に磯貝は苦笑いで返す。

 

『バッター2ストライクまで追い込まれてしまった!このまま三者凡退なのか!?』

 

 三球目、変化球に対応してきたバッターのバットから快音が響く。

 

『打球は三遊間!これは抜けたでしょう!』

 

 そうはいくか。

 俺は素早く動き、片膝を地面につきつつ打球を逆シングル気味に捌きファーストに送球する。結果は――

 

『ショート投げて……アウトだーっ!またしてもE組からスーパープレイが飛び出しました!』

 

 三遊間に打球がいってアウトにするのはショートをやってるときの醍醐味だからなと小さくガッツポーズを作る。

 

「南雲!ナイスプレー!」

 

「ありがとう、磯貝ももう少しで捕れそうだったな」

 

「純君カッコいい~!」

 

「さっきからおいしいところ持ってってねーか!?」

 

 そんなことはないと思ったが実際否めなかったので否定の言葉を口にはしなかった。

 

「カルマ、なんとか頼むぞ」

 

「なんか殺監督に頼まれたしね、まあ見ててよ」

 

『二回の表!相変わらず鉄壁のバントシフト!』

 

 …あれ?カルマのやつなかなか打席に入らないな。あれが殺せんせーの指示か?

 

「……ねーえ、これズルくない理事長センセー。こんだけ邪魔な位置で守ってんのにさ、審判の先生何にも注意しないの一般生徒(おまえら)もおかしいと思わないの?…あーそっかぁ!お前等バカだから守備位置とか理解してないんだね」

 

「小さいことでガタガタ言うなE組が!」

「たかだかエキジビションで守備にクレームつけてんじゃねーよ!」

「文句あるならバットで結果出してみろや!」

 

 この抗議には何か意味でもあるのか?単純に揺さぶりなんだろうか。

 2回表のE組の攻撃は9、1、2番の打順だったがなす術なく凡退した。

 そして2回裏、野球部の攻撃は4番進藤の三塁打を始めとして集中打を許し3点を返され5対3と射程圏内まで追い付かれる。

 

『3回表、E組の攻撃は3番の磯貝君からだ!ここで追加点がなかったらサヨナラ負けだぞ~』

 

 実況の荒木が煽ってくる、しかし言っていることは的確だ。実際理事長が監督になってからというものの流れは完璧に野球部にいってしまっている。何より打球を前に飛ばされてしまうと守備が完璧ではないE組では対処しきれないので次の回からは打者が一巡しているので友人の球に慣れられていた場合は危険なのだ。

 

『4番の杉野君も三振!絶好調の進藤君!このまま三者連続三振か!?』

 

「悪い、純一」

 

「気にすんな。それと友人、お前が進藤より優れているのを証明してやるよ」

 

「えっ、どうやって…」

 

「まあ、塁に出れないとダメなんだけどな」

 

 そう笑って俺は打席に向かう。今野球部バッテリーを相手にするにはこちらも配球を予測するなど本気でいかなければならない。少なくともストレートだけということはあり得ない。ストレートを前の打席で完璧に捕らえているので初球はまずはカーブで様子見だろう。

 

『進藤君、第1球投げて……おおっと!ここでカーブだ!獅子は兎を捕らえるにも全力を尽くすとは言いますがまさに今の進藤君は獅子!一切手を抜きません!これが強者の風格だ!』

 

 幸い低めに外れたのでカウント0-1。もう1球様子見もあり得るので次もタイミングを取りつつ見送るのがセオリーだな。

 

『進藤君、第2球……カーブです!しかも今度はストライク!すぐにコース修正が出来るのか!?』

 

 カウント1-1。カーブを2球連続…次はストレート?球速差で振り遅れる可能性があるから始動を速くしないとな。

 

「進藤君、第3球……またしてもカーブです!バッターはファールにするのが精一杯のようです!」

 

 カウント2-1。予想と違ったから後ろに体重残してカットしただけなんだが。まぁ、それは置いといて3球連続か――理事長のおかげで次の球がわかったよ。あの人の洗脳を受けている今の進藤ならこれで間違いない。

 

「進藤君、第4球投げて……バッター打ったーっ!外野の間、左中間を抜ける!」

 

 やはり読み通りストレートだ。たぶん理事長なら色々と小細工をしてくる俺達E組を容易く捩じ伏せる圧倒的強者を見せたがるだろう。ならば決め球は見る者誰もが、それこそ素人の観衆でもすごいとわかる進藤のストレート以外ありえない。

 

「打ったバッターは2塁へ!たまたまヤマが当たったのでしょうか!?」

 

 塁に出ることも出来たし、友人のほうが優れてる部分を見せてやるか。それこそ観衆はわからないだろうな。

 

『続くバッターを押さえて、ここで切ることが出来るでしょうか!?いや、出来る!それこそが我らが誇る野球部です!そして進藤君第1きゅ…いや、なんと!既にランナー走っています!しかし投球モーションを始めてしまっては牽制することはできない!ランナー暴走でしょうか!?たまたま牽制されなかったものの死にに行ったようなものです!』

 

 サードベースに滑らずとも楽々セーフ。俺は進藤がセットポジションに入り始動をする前からスタートを切れた。なぜか、答えは単純。進藤はランナーがいても投げるペースは一定。あとはその秒数を数えて走るだけ。俺が昔友人に指摘したものと同じだ。友人は球速こそ遅いもののフィールディングや牽制など投球以外の所作についてはかなり研究しているので進藤よりも遥かに優れている。だが経験者はそういった部分がわからない。いや、わかるはずがない。なぜならそんなところ見ないし気付かないからだ。

 俺はベンチの友人にガッツポーズを送る。それを見た友人もガッツポーズで応える。

 

『少し想定外のこともあったものの危なげなく三振を取りました!いよいよ最後野球部の攻撃を残すのみ!』

 

 さてあとは守るのみだ。

 

「友人、気楽に投げろよ」

 

「サンキューな純一。みんなも頼んだぞ!」

 

『野球部の攻撃は1番の橋本君からだ!――あーっとバント!?今度はE組が地獄を見る番だ!同じ小技なら野球部のほうが遥か上!E組の守備では守りきれません!当然楽々セーフです!』

 

 ――確かに野球部が素人相手にバントは見てる生徒も納得しないだろうが俺達が先にやったからな。大義名分を与えてしまったようなもんだ。

 

『あっという間にノーアウト満塁!一回表のE組と全く同じ!最大の違いはここで迎えるバッターは我が校が誇るスーパースター進藤君だ!もとは同じ野球部で競いあった2人!しかし杉野君はE組に落ち部活も追放、ここでもやはり負けてしまうのか!?』

 

 流れ最悪だな。だがここで押さえる以外に勝機はない。

 

「磯貝、監督から指令~。南雲はサードが空くから持ち前の守備範囲でカバーしてくれってさ」

 

「…任された。」

 

 そう言ってカルマと磯貝はホームへと歩いていく。これは――

 

『この前進守備には見覚えがあるぞ!?』

 

「明らかにバッターの集中を乱す位置で守ってるけど、さっきそっちがやったときは審判は何も言わなかった。文句ないよね理事長センセー?」

 

 なるほど。さっきクレームをつけたのは同じことをやり返しても文句を言わせないための布石か。妨害行為と見なすかは審判の判断次第だがさっきのクレームを却下した以上は黙認するしかない。

 

「ご自由に。選ばれた者は守備位置ぐらいで心を乱さない」

 

「へーえ、言ったね。じゃ遠慮なく」

 

『ち、近い!!前進どころかゼロ距離守備!振れば確実にバットが当たる位置で守っています!』

 

 こんな守備だったら集中も冷めちゃうな。理事長の洗脳も意味がなくなってしまう。

 

「フフ、くだらないハッタリだ。構わず振りなさい進藤君。骨を砕いても打撃妨害を取られるのはE組の方だ」

 

 進藤の顔に動揺が見て取れる。

 友人が投げバッターの進藤がバットを振るが2人はほとんど動かずかわす。それもそのはず、2人の度胸と動体視力はE組でもトップクラスだ。

 

「だめだよそんな遅いスイングじゃ。次はさ、殺す気で振ってごらん」

 

 カルマの煽りを受けた進藤の顔が大きく歪む。この時点で理事長の戦略に体がついていけなくなった。同様にランナーも観客も野球の形をした異常な光景に呑まれていた。

 

「う、うわああっ…」

 

『腰が引けたスイングだぁ!』

 

 カスった当たりをカルマが取り素早く渚にトスするとホームベースを踏む。

 

『三塁ランナーアウト!』

 

 ホームを踏んだ渚はサードベースのカバーに入った俺に送球。…ナイスボールだ。

 

『二塁ランナーアウト!』

 

「菅谷っ!」

 

 俺はファーストの菅谷へと送球を送る。結果は――

 

『バッターアウト!ト、トリプルプレー!ゲームセットです!なんとE組が勝ってしまった!』

 

「「「やったー!」」」

 

「「男子すごい!」」

 

 ベンチの女子たちがハイタッチをするなど盛り上がっている。一方男子はというと勝ったという達成感より試合が終わったという安心感が強い様子だ。

 本校舎の面々はつまらないなどの文句を口にしながらゾロゾロと帰っていく。だが知るよしもないだろう。試合の裏で行われていた2人の先生の数々の戦略のぶつかり合いを。

 

「進藤、ゴメンな。ハチャメチャな野球やっちまって。…でもわかってるよ。野球選手としてはお前は俺より全然強いし、これで勝ったとも思ってないよ」

 

「だったら…なんでここまでして勝ちに来た。結果を出して俺より強いと言いたかったんじゃないのか」

 

「んー…E組の皆すごかったろ?渚なんて俺の変化球取れるし純一はめっちゃ打つし。でも勝って結果を出さなきゃ上手くそれが伝わらない。…要はさ、ちょっと自慢したかったんだ。昔の仲間に今の俺の仲間のことを」

 

 友人が照れながら笑うと進藤は虚をつかれたかのように目を見開き、その後口許に笑みを浮かべてゆっくりと口を開く。

 

「覚えとけよ杉野。次やるときは高校だ」

 

「おうよ!」

 

「それと南雲。お前にもいつかリベンジするからな」

 

「…俺はもう野球やってないっての。…進藤1つ聞くが、お前は自分が一番だと思ってただろ?」

 

「…ああ、その自信があった。だが負けては意味がないな」

 

「いいんだよ進藤、自分が一番だと思うその考えは間違ってない。たった一回負けたくらいでそのエゴを曲げるな。俺は友人のような協調性のあるピッチャーもいいと思うが、自分を一番だと信じマウンドを譲る気持ちがないエゴなピッチャーも好きだぞ」

 

「…結局何が言いたいんだ」

 

「思い上がりは若者の特権だ。だから自信持ってやっていこうぜ」

 

「お前に言われるまでもなくそうするよ」

 

「そっか。じゃ、次対戦するまでに同じテンポで投げる癖直しとけよ」

 

 そう言葉を残すと俺と友人はその場を後にする。

 進藤は中学だけでなく高校でも活躍し、もしかしたらプロ入りするかもしれない。そんな選手がE組に負けたというだけで腐るかもしれないと考えるとエールを送らずにはいられなかった。まあ、あの様子だったら友人の言葉だけで十分だった気がするけど。俺は進藤という一人の選手に対して敬意を払いたかった。あの豪速球は才能にあぐらをかいてるだけでは身に付かない、それこそ血の滲むような努力があってこそだ。

 

「…高校で勝負って言ってたけど、それまで地球あるかな?」

 

「地球がなくならないように俺等が頑張ってるんだろ?」

 

「そうだった。球技大会に夢中で忘れてたよ」

 

「しっかりしろよ友人。今日のヒーローだろ?」

 

「ああ……なあ、ちょっと気付いたこと言っていいか?」

 

「どうした」

 

「純一は俺が神崎さんに活躍を見せれるようにってことで4番を譲ってくれたけどさ、純一の活躍で俺の印象薄れてないか?」

 

「さあ?でも友人の評価が下がったってことはないだろ?」

 

「うーん…なんか釈然としないが…ま、勝ったしいいか」

 

 友人と歩いていると校舎を彩る木々の木漏れ日の密度が濃くなっていることに気付く。本格的な夏の始まり、7月が来ることを木々が教えてくれたのかなと感じた。




実況の荒木君が良い仕事してるなーと思いながら書いてました。
作者が野球をやっていたときに一番言われたのが体重を増やせってことで、某甲子園常連校では体重が70kg以下だったら練習に参加させてもらえないそうです。体験に行った時にその様子を見てさすが強豪だなと当たり前のように考えていましたが、第三者から見ると異常な光景だと思います。
あと高校球児が眉毛を弄る理由ですが身だしなみもありますが坊主で髪が弄れない分眉毛に皺寄せがいっています。でも眉毛を弄るなっていうのもどうなん?って思っているので身だしなみ程度に整えろとは指導しています。
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