「寺坂、何があった?お前何をした?」
現状を見て苛立っているのか少し冷たい声音だなと自分でも思った。寺坂は声を震わせながら話す。
「俺は…な、何もしてねぇ。話が違げーよ…イトナを呼んで突き落とすって聞いてたのに…」
イトナってことはシロ関係か。話してる内容的にどうやら聞かされてた計画とは大きく違うことが起きてるらしい。
「なるほどねぇ、自分で立てた計画じゃなくてまんまとあの2人に操られてたってわけね」
カルマの正論とも言える言葉を聞いて寺坂は違うと叫びカルマに詰め寄る。
「言っとくが俺のせいじゃねーぞカルマ!こんな計画やらす方が悪りーんだ!皆が水に流されてったのも全部奴等が――」
ゴッという拳の鈍い音が響く、カルマが寺坂を殴り諌めたのだ。
「ターゲットがマッハ20で良かったね、でなきゃお前大量殺人の実行犯にされてるよ。流されたのは皆じゃなくて自分じゃん。人のせいにする暇があったら自分の頭で何をするべきか考えたら?」
そう言ってカルマは騒ぎの方へと走っていく。残された俺は呆気に取られてる寺坂に声をかける。
「今回の騒ぎは寺坂、お前一人が起こしたことじゃない。クラスで居心地悪そうにしていたお前を放置してた俺達全員の責任だ。ただそこにつけこまれただけだ。それに今回の出来事の責任をクラス全員で割れば27分の1だから気にすんな」
「その計算はおかしいだろ…」
「でもそう考えたら楽になったろ?…お前が始めた暗殺だ、嘆いてないで行くぞ」
「ああ、すまねーな。…南雲ひとつ聞いてくれねーか?」
「手短にな」
「…俺は自分が強いと思ってた。ガタイと声がデカいだけで大概のことは有利に運んだしたまたま勉強もできたし椚ヶ丘に入学したよ。だけど――ここじゃその生き方は通じなかった。本当は俺は弱かったんだ。」
「本当に弱いやつは自分を弱いとは言わないらしいぞ。それは…そう言う人は強くあろうとする者って言うらしい。まあ、俺の言葉じゃないけどな」
俺の言葉に寺坂は何も返さなかった。府に落ちたというか少なくとも先程のように狼狽えた様子はないので大丈夫だろう。あとはシロ達をどうにかするだけだ。
俺と寺坂はカルマのあとを追って走るとすぐに追い付いた。いや追い付いたというよりは全員が動けない状況になっていたところに合流したという感じだ。
皆の視線の先を見るとイトナと殺せんせーが前に行われた教室での試合のように戦っていた。だが前回と決定的に違うのは殺せんせーがかなり押されぎみということだ。
「触手の数を減らしてパワーとスピードに特化させたからね、より操りやすく一撃を鋭くしたんだよ。片や君は生徒を助けたことにより全身が濡れ動きが鈍っている。心臓を破壊するのも時間の問題だ」
シロの懇切丁寧な説明のあとに寺坂がそれだけじゃねえと言葉を続ける。
「力を発揮できねーのはお前らを助けたからよ、タコの頭上を見てみろ」
あれは…
「村松と吉田と原!」
「それに原が今にも落ちそうだ!」
「あいつらの安全に気を配るからなお一層集中できない。おそらくシロはそれも計算に入れている」
淡々と説明する寺坂を前原が問い詰める。
「のんきに言ってんじゃねーよ!マジで危険なんだぞ!お前ひょっとして今回の事全部奴等に操られてたのかよ!?」
「フン、あーそうだよ。目標もビジョンもねぇ俺みたいなやつは頭の良いやつに操られる運命なんだよ」
自嘲気味に笑って言う寺坂を皆は少し睨む。だがそれに怯むことなく寺坂は急に覚悟を決めた真面目な顔になって言葉を続ける。
「だかよ、操られる相手ぐらいは選びてえ。だからカルマに南雲!テメーらが俺を操ってみろや。お前らの頭脳で俺に作戦を与えてみろ!完璧に実行して全員助けてやる!」
指名されたカルマと俺は顔を見合わせ軽く笑う。カルマはいつものいたずらっ子がするようなずるい笑顔のまま口を開く。
「良いけど…実行できんの俺の作戦?死ぬかもよ?」
「やってやんよ、こちとら実績持ってる実行犯だぜ?」
「カルマ、寺坂だけだとあれだから俺も使えよ」
「ふーん、南雲もいるなら大丈夫だね」
カルマと俺の言葉を聞いて寺坂は文句を言いたげだったが指示を待っている状態だ。10秒くらい経ったあとにカルマがよし!と言うとそのまま作戦を言い始めた。
「原さんは助けずに放っとこう!」
え?俺と寺坂のみならずクラス全員がポカンとなる。
「カルマふざけてんのか?原が一番危ねーだろうが!ふとましくヘヴィだから掴まっている枝も折れそうだ!」
[寺坂さぁ昨日と同じシャツ着てんだろ?同じとこにシミあるし。やっぱお前悪だくみとか向いてないよ」
「あァ!?」
「でもな、バカでも体力と実行力持ってるからお前を軸に作戦立てるの面白いんだ。まぁ南雲っていう上位互換がいるけど。それでもお前の方が面白いよ。だから俺を信じて動いてよ、悪いようにはならないから」
「ふん、いいから早く指示よこせ」
「わかった。みんなにも動いてもらうから指示をちゃんと聞いてよ――…」
カルマが一通り説明し、皆は無言で頷きそれぞれの持ち場へと移動し、作戦の起点である寺坂は殺せんせー達の下へと行く。
「さて足元の触手も水を吸って動かなくなってきたね。とどめにかかろうイトナ、邪魔な触手を全て落としその上で心臓を」
「おいシロ!イトナ!よくも俺を騙してくれたな!」
「…ああ君か。まぁそう怒るなよ、ちょっとクラスメイトを巻き込んだだけだしE組で浮いてた君にとっては丁度良いだろう?」
「うるせぇ!テメェら許さねぇ!イトナ!俺とタイマン張れや!」
「やめなさい寺坂君!君が勝てる相手じゃ…」
「すっこんでろタコ!」
「布切れ一枚でイトナの触手を防ごうとは健気だねぇ。黙らせろイトナ、殺せんせーに気を付けながらね」
イトナは寺坂に対して触手を振るう。だが寺坂はそれをシャツを盾のようにして受け止めることができた。なぜなら死ぬ威力ではないからだ。今までのシロの言動から生徒に振るわれる触手の威力は明らかになっていて生徒が生きてるからこそ殺せんせーの集中が削げるというのがカルマの見解だ。どうやらその通りだったらしい。
「よく耐えたねぇ、ではもう一発だ」
気絶する程度の触手に死ぬ気で喰らいつくのが寺坂の仕事、そして俺の仕事は寺坂への追撃を防ぐこと。狙撃銃の乾いた発砲音がプールに響いた。2本しかないイトナの触手の片方を破壊することに成功する。直後イトナは激しくくしゃみを繰り返す。作戦の成功を確信したのかカルマが得意気に語り始める。
「寺坂のシャツが昨日と同じってことは教室で撒いたスプレーの成分をたっぷり浴びたってことだ。殺せんせーと同じく触手を持つイトナだってタダで済むわけがない。――で、イトナに一瞬でも隙を作れば原さんは殺せんせーが勝手に助けてくれる。殺せんせーと弱点が同じなら後は同じ事をやり返せばいいだけだ」
カルマが身ぶりで指示を出すと個別の作戦を実行した俺と寺坂以外のE組全員が高いところから水へと飛び込みイトナに水を吸わせる。イトナの触手は見る見る内に膨れ上がっていく。
「だいぶ水吸っちゃったね、これであんたらのハンデは少なくなった」
イトナだけでなくシロも表情には出さないが動揺が見て取れる。
「で、どーすんの?賞金持ってかれんのも嫌だし皆あんたの作戦で死にかけてるし。まだ続けるつもりならこっちも全力で水遊びさせてもらうよ」
「……してやられたな、丁寧に積み上げた戦略がたかが生徒のせいでメチャメチャだ。ここは引こう、皆殺しにするのは容易いがモンスターがどう暴走するかわからないしね。帰るよイトナ」
シロの言葉を聞いてもイトナは動こうとしない。むしろ怒りに肩を震わせ今にも殺せんせーに飛びかかりそうな様子だ。
「どうです?皆で楽しそうな学級でしょう?そろそろちゃんとクラスに来ませんか?」
「…フン」
イトナは殺せんせーの言葉を聞くと呆れ返った表情に変わりシロとそのまま去っていった。それを確認した全員は安堵の溜め息をつく。
「なんとか追っ払えたなー」
「良かったね殺せんせー、私達のお陰で命拾いして」
「ヌルフフフ、もちろん感謝してます。まだまだ奥の手はありましたがねぇ」
殺せんせーのいつものにやついた笑みを見て本当に騒ぎが収まったんだなと実感する。渦中にいた原がそういえばと寺坂に詰め寄る。
「寺坂君さっき私の事さんざん言ってたね。ヘヴィだとかふとましいとか」
「い、いやあれは、状況を客観的に分析してだな…」
「言い訳無用!動けるデブの恐ろしさ見せてあげるわ!」
「あーあ、ほんと無神経だよな寺坂は。そんなんだから手の平で転がされんだよ」
「うるせーカルマ!高いところから見てんじゃねー!」
そう言うと寺坂はカルマを水の中へと引きずり込む。カルマはぶっと普段からは想像できない声を発して着水することになった。
「はぁァ!?何すんだよ上司に向かって!」
「誰が上司だ!南雲の狙撃による保険があったからと言って触手を生身で受けさせるイカれた上司がどこにいる!」
「水に濡れてないのは南雲も一緒だろ!」
「いや、俺は上司というか業務を任された下請けみたいなもんだから」
「話を逸らすなカルマ!大体テメーはサボり魔のくせにオイシイ場面は持っていきやがって!」
「あーそれは私も思ってた」
「この機会に泥水もたっぷり飲ませよう」
周りの同調もあり急遽カルマを水に叩き落としたりするなどの遊びが始まる。
俺はそれを見て安堵する。寺坂が乱暴で直情的なままだがクラスに馴染んでいたからだ。その事が内心嬉しくて遠くから見て笑っていると神崎が来て話しかけてきた。
「南雲君なんだか嬉しそうだね」
「ああ、やっとなんかクラスが1つになったていうか。それが嬉しくて」
「確かにやっと1つになったって感じだよね。…さっきの狙撃カッコよかったよ」
「てんきゅ、あのときら訓練通り当たってよかったなって顔には出さないけど安心してたよ、任されたからにはそれに応えるしかないから。それより神崎も皆と一緒に水に飛び込んだの意外だったな」
「そうかな?でも確かに普段しないことだから場にそぐわないけど内心楽しんでたかも」
「神崎って意外と茶目っ気あるよな。てか俺達は水遊びしてるわけじゃないからこのままここにいたら神崎は体が冷えるな。校舎に戻って着替えるか?」
「ううん、もうちょっとここにいたいな。せっかく皆楽しそうだし」
「そっか。じゃあこれ、上着羽織れよ。何もないよりましだと思う」
俺が制服の上を渡すと神崎はありがとうと一言言ってそのまま着る。貸しといてなんだけど匂いとか大丈夫だろうか?気を遣ってはいるが汗とかかいたし心配になってきた。
「あー神崎。匂い大丈夫か?汗とか欠いたから不安になってきた」
「ふふっ大丈夫だよ。良い匂いだしなんか安心する」
「そっか、それならよかった」
それきり二人の間には言葉がなくなり無言の時間が流れる。バカ騒ぎしている生徒を見ていると神崎が不意に言葉をこぼす。
「海、行きたいね」
「海?海水浴?」
「うん」
「そうだな、クラス全員で行けたら楽しいだろうな」
「……そうだね」
「それよりさ、ちょっといいか?」
「?、どうしたの?」
「あまり大きい声では言えないんだけど…」
俺が小声で相談すると神崎は驚き、そして笑った。
「そんな変なことではないと思うんだけどなぁ」
「ううん、南雲君はやっぱり優しいなって。私も色々と考えてみるね」
日々の忙しさですっかり忘れていたなと自分を叱りたくなった。だが期限までにはなんとかなりそうだったのでテスト勉強はもちろんそれに向けても準備をしっかりとしないとなと考える。暦はすでに7月。俺達にどんなことが起きようと時間の流れは止まってくれない、その事を実感した。
*
~個人トーク~
千葉:よくイトナの触手を破壊できたな
南雲:イトナが結構動揺してたからな
南雲:寺坂の頑張りがあったからだよ
千葉:撃つ時ってなに考えてる?
南雲:照星と照門を合わせて目標をよく見るってことくらい
南雲:ていうか千葉の方が成績良いから俺が聞きたいくらいだよ
千葉:ちょっとでも人のコツを取り入れて命中率が良くなったらそれだけ殺せる確率が上がるからな
南雲:仕事人だな
千葉:仕事人って響きいいな
南雲:いいよな
千葉:うん
南雲:うん
千葉:オウム返しか
南雲:まあ返信に困ったからな
千葉:それだったら無視してくれてもいいのに
南雲:まあまあ
南雲:ちょうど勉強の休憩してたからさ
千葉:俺も勉強しなきゃなあ
南雲:千葉は実は勉強してそうだけどな
千葉:本格的には始めてないかな
南雲:それはほぼやってるようなもんだろ
千葉:殺せんせーの授業面白いからさ
千葉:今までとなんか違うんだよな
南雲:確かにそれは感じるな
南雲:じゃあ勉強に戻りますので
千葉:わからないとこあったら聞くから
南雲:答えや解説を見てくれ
南雲君が神崎さんに相談したことは次の話で明らかになります。
思ったよりボリュームが少なかったのでオマケで個人トークを書きました。作者の中で千葉君は射撃に関して貪欲なイメージがあります。なので他人の射撃とかを見て良いところは自分の中にどんどん取り入れてるんじゃないかなって勝手に考えています。
南雲君の射撃の成績に関しては速水さん以上千葉君未満という設定です。南雲君何でもできてチートやんって感じてる方もいると思いますが原作での各種成績を見るとカルマ君や磯貝君、片岡さんはオールラウンダーで全ての成績がトップクラスです。地味に速水さんも射撃だけでなくナイフ術や勉強の成績も良いです。
なので作者の中では全然チートではないつもりで努力をするカルマで且つ精神的に落ち着いていて本番に強いタイプと考えて執筆しています。