暗殺教室 28+1   作:水野治

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第0.3話 勝負の時間

 朝目覚めて布団から出て朝食の準備をする。俺の家は父子家庭で二人で家事を分担して行っている。

 炊事について大まかに言うと平日は俺、休日は父さんだ。平日の昼飯は互いに弁当なので前日に作り朝起きて弁当箱に詰めるという方式なのであまり手間に感じない。

 その他の家事については細かい決めごとなどあるが2人で協力して行っているので汚部屋などになることなく生活が送れている。

 

 朝飯ができる時間帯に父さんが必ず起きてくるので揃って朝食を食べるのが習慣となっている。今朝はご飯、味噌汁、前日の夕飯の余り物の焼き魚という和食テイストだ。

 いただきますと互いに言い、テレビをBGMに朝食を食べる。ある程度食べ終わったところで父さんが口を開いた。

 

「新しいクラスはどうだ?」

 

「岡島とかいるし、楽しくやってるよ」

 

「そうか…。楽しいんだったら大丈夫だな。仲良くやれよ」

 

「言われなくてもそうするよ」

 

 それもそうかと父さんは笑う。

 2人ともに食べ終わったのでごちそうさまでしたを言い、それぞれ身支度をし家を出る。

 ちなみに食器は潤かしておいて夕食後に一緒に洗う。これも生活を楽にする1つの方法だ。

 

 既に誰もいない家にいってきますと言い、鍵を閉め学校に向かう。今は自分の考えを纏めている。昨日先生に相談した通り、中村と話し合う予定だからだ。

 

 …しかし何も思いつかない。話すと決めたがどう切り出せばいいかもわからない。こういうときは下手に考えずにそのときに思ったことを口に出せばいいかと思い、考えるのをやめた。

 俺は宇宙空間をさまよう完全生物かよと自分にツッコミを入れ旧校舎へと続く裏山を登り始めた。

 

 

 

 

 午前の授業も終わり、昼休みになった。誰が言ったわけでもなく各々机を組み合わせてグループを作って弁当を食べるのがE組の昼食時の動きとなっている。

 今日は誰と食べようかなと思いながら教科書を片付けていると速水がちょっといい?と話しかけてきた。

 

「どうしたー昼飯でも一緒に食べようって誘いにきたのかー?」

 

「そうだけど…何にやけてるの?私の顔になんかついてるの?」

 

「いや、誘われると思わなかったから。2人きりで食うの?」

 

「バ、バカじゃないの?神崎と話しててあんたの話になって仲良くなりたいって言ってたからよ。カン違いしないでよね」

 

「す、すまん。…女子2人だと緊張するから杉野誘っていい?」

 

「ああ、野球やってる男子だっけ。全然大丈夫。」

 

「うし、じゃあ誘ってくる。」

 

 俺は机を動かす前に杉野のところに行き、一緒に食わないかと誘うと二つ返事で了承を得たので自分の席へと戻り準備を始めた。

 

 

――

 

 

 今俺たちは4人で昼食を食べている。俺の隣に杉野、正面に速水、斜め向かえに神崎という座り位置だ。

 仲良くなった経緯を聞くに速水と神崎は二人とも国語が得意で読書が好きという共通点があるようだ。てっきり神崎がジャズダンスでも得意なのかと思った。

 女子二人の話が終わったところで神崎が質問してきた。

 

「杉野君と南雲君って何がきっかけで仲良くなったの?」

 

「あー友人とは野球繋がりだな」

 

「そうだな、俺が野球部でランニングしてるときにいきなり野球部に所属してなかった純一が話しかけてきたんだよ」

 

「南雲君は野球部じゃないんだ。ちなみに何て話しかけてきたの?」

 

「話しかけてきたというかほぼ技術指導だよ。『お前セットポジションのときに同じテンポで投げすぎだ。相手にバレたらランナーに走られ放題だぞ』っていきなり言ってきてよ」

 

「いや野球部の紅白戦のときに見たらお前まじで同じテンポだったんだよ。メトロノームかよって思ったからさ」

 

 メトロノームという単語が面白かったのか速水が吹き出し、神崎は上品に口に手を当てて笑っている。

 

「二人はそこから仲良くなったんだ?」

 

「まあ最初はなんだこいつって思ったけど、純一は野球で有名人だったから言ってることは間違ってないんだなって。それに言われたところ直したら盗塁されることは減ったし」

 

「そうなの?純一って野球やってたの?」

 

「あれ?速水に言ってなかったっけ?父さんが昔やってたからその影響で小学生のときだけやってたよ」

 

「ふうん。有名人ってことは南雲君野球上手いんだ?」

 

「いや、純一は上手いなんてもんじゃない、化け物だ。何てたって小学6年生のときに少年野球の日本代表として世界大会に出てたんだから」

 

「「…すごい」」

 

「いや、ありがたいけどそんなに褒めるな。それに友人だって部活でエースだったろ」

 

 速水が何あんたたち男同士で褒めあってるのよと苦笑してたら、神崎が当然の疑問を投げかけてきた。

 

「でもそんなに上手だったら何で中学でもやらなかったの?」

 

「んー…他にやりたいことあったからかな。それに友達と仲良く遊んだりとかしたかったし。野球やってたら土日がほぼ潰れちゃうからさ」

 

 そっかと神崎は納得した。友人が弁当を食べ終わったのか片付け始めた。しかしどうやらお腹一杯になっていないらしく、俺にお菓子持ってない?と聞いてきたので飴ならあると俺は制服のポケットから出すとそんなんで腹が膨れるかと断られた。こいつ、人の好意を無下にしやがった。

 

 杉野君、いいものあるよと神崎が笑顔で板チョコを出すと友人は顔を赤くしながら、えっい、いいの?あ、ありがとうとチョコを受け取った。

 今の一連の流れを見た俺と速水は目を合わせ、こいつ完璧に堕ちたなと思った。

 神崎がところでと新たな話を切り出してきた。

 

「南雲君は速水さんのことどうして名字で読むの?速水さんは南雲君のこと純一って呼んでるのに」

 

「ちょっと!神崎!?」

 

「あーそれはだな、神崎…」

 

 隣の友人を見るとまだ浮かれている。俺はなんて言おうかなと思った。まさか1年生のときに"はやみん"とか"凛香ちゃん"とかとふざけて呼んだときにぶっ叩かれ、それから名字でしか呼べなくなったなんて言おうものなら速水に処刑されるかもしれない。

 俺の頭がフル回転してるのを感じる。脳が震える。そこで出てきた言い訳は自己犠牲だった。

 

「それは俺が女子に不馴れで緊張しちゃうからだ」

 

 そうなんだと神崎は納得してくれたみたいだ。速水を見ると少し申し訳なさそうな顔をしている。友人はそういえば純一が名前呼びしている女子がいない気がすると小さな声で漏らしている。そして神崎はまたも爆弾を投下してきた。

 

「じゃあ、これからは名前で呼んだら?南雲君の苦手の克服になるし凛香ちゃんも喜ぶし♪」

 

「神崎!ちょっと待って!」

 

「純一…男を見せろ」

 

「そうだな…克服に繋がるなら仕方ないな」

 

 俺はこの状況を楽しむことにした。女子に苦手意識はないつもりだし仲の良い相手を名前呼びするなんてイージーだ。赤子の手を捻るものだ。

 さて、景気よく名前を呼ぼうと思い速水、いや凛香の目を見て口を開く。

 

「……り、り、凛香」

 

「…はい?」

 

 顔を赤くしていた凛香だったが俺の不馴れな様子と赤い顔を見て普段の呆れ顔に戻った。その様子を見ていた友人と神崎は二人して笑っている。

 

「純一本当は女子が苦手だったの?」

 

「いや、そんなつもりはない。本当に。ただなんか凛香の目を見たら緊張してしまってな」

 

「かしこまって名前を呼ぶことって普段ないからね。恥ずかしくなってもしょうがないよ」

 

 天使や。ここに天使がおるで。フォローしてくれた神崎を拝みたくなった。すると天使はじゃあと話を続けた。

 

「私のことも有希子って名前で呼んでもいいよ?」

 

「…いやそれは勘弁してください」

 

 天使じゃなくて小悪魔だったみたいだ。背中の白い羽が黒に染まっている。

 覆水盆に返らず。吐いた唾は飲めぬ。二度と取り返しのつかないという言葉が俺の頭を駆け巡る。どうやら女子に不馴れで緊張してしまって名前で呼べないというキャラが出来てしまった。

 仕返しではないが赤面した凛香が見たかったため、俺の提案で凛香と神崎はお互い名前で呼び合うようになったが、赤面を拝むことはできなかった。

 そんなこんなで4人で楽しく昼食兼昼休みを過ごし、休み時間の終わりを告げるチャイムが鳴った。

 3人にじゃあまた今度と言い、机を片付けて自分の席へと戻る。神崎はおしとやかで美人だが見た目に反して結構ぶっこんでくるなと思いながら次の授業の教科書とノートを机に並べた。

 

 

 

 

 そして放課後。

 雪村先生がみんなの挨拶に手を振って応えてるとき、俺と目があった。

 

 口パクで頑張れと言ってくれた。俺は小さく頷き、中村の下へと言って声をかけた。

 

「中村、一緒に帰らないか。ちょっと話したいことがあるんだ」

 

「!…いいよ」

 

 中村は驚いたかのように目を見開いてすぐに返事をしてくれた。まずは第一ステージクリアと心でガッツポーズをし、先生さよならーと二人で教室を出る。

 先生はまた明日ねと言いながら片目でウインクをして手を振る。中のシャツはダサいのに着てる本人はなんてカッコいいんだと俺は思いながら旧校舎を後にする。

 

 

 *

 

 

 中村と二人で並んで山を下りながら話すタイミングを伺っていた。いや、というよりも何て切り出せばいいのかを考えていた。

 

 雪村先生の言葉を思い出す。"勇気を持って向かい合う"たったこれだけなんだ。何を怖がる必要がある。

 俺はふうと息を吐き切り気合いを入れ、話しかける。

 

「中村あのn…「純一ごめん!」

 

 えっと俺は驚き中村を見る。彼女は立ち止まってこちらに頭を下げている。

 

「えっちょっ頭上げて!中村は俺に頭下げるようなことはなにもしてないし、ただ互いに気まずくなってただけじゃん」

 

「…そんなことないよ。入学式の日以降勝手に壁作ってたし、心配して話しかけようとしてくれた純一を避けてたから…」

 

「そうだったのか…俺は全然気にしてないけど中村が気にしてるんだったら謝られておくかな」

 

 出来るだけ彼女が気負わないように笑顔でそう返した。改めてごめんと言われたので俺はおう、もう俺のことは避けるんじゃないぞとおどけながら彼女の頭にポンと手を置いた。

 彼女は頭に手を置かれたことに驚いたのか、こちらを見てきた。

 

「あっ悪い。小学生のときの癖で…。嫌だった?」

 

「…嫌じゃないよ。ただ懐かしいなって」

 

 そうかそうかと俺はそのまま頭をワシャワシャと撫でる。まるで昔に戻ったみたいだなと思った。

 今でこそ10センチ以上身長が離れてるが、2年前小学生だったときの彼女の身長は約160センチで俺の身長は164センチと彼女よりやや高かったが、女子である彼女に身長を抜かれるのではないかと危惧した俺は彼女の頭を撫でる度に心で『縮め!縮め!』と唱えていた。

 ちなみに頭を撫でる理由付けとして、親しい間柄で相手を褒めるときには頭を撫でなきゃいけない、考えてもみろ、親は撫でてくれるだろう?という謎理論を展開し俺と彼女はテストで満点を取ったときなど互いに撫であっていた。

 

 昔と違い互いの知らないことが増えたため、俺と中村はゆっくりと歩きながら多くのことを話した。

 バカばかりやってたら勉強の仕方や点の取り方も忘れて本物のバカになっちゃってE組に落ちたこと。親の涙を見て失ったものの大切さに気づいたこと。俺の知らないことがいっぱいあった。俺もE組に落ちた理由を言うと純一らしいねと笑われた。

 

 色々と話しているとそろそろ互いの帰り道が別れるところが近づいてきた。

 ふと中村はあっと思い出したかのように話し始めた。

 

「あんたそういえばはやみんのこと今日から名前呼びすることにしたの?」

 

「お前は凛香と友達なのか、はやみんって…。そうだな、流れとして仕方がないから名前呼びだな」

 

「ふーん、そっか。じゃあ私のことも名前呼びに変えてよ」

 

「いいよ別に。ところで名前なんだっけ?」

 

 俺が笑いながらふざけてそう言うと、てめ~と言いながら脚を軽く蹴ってきた。

 

「冗談だよ、莉桜。これからよろしく」

 

「…っ。不意撃ちすんな。…こちらこそよろしく!純一!」

 

 莉桜の笑顔を見て俺は思った。俺たち二人の間に壁なんて元々なかったんだなって、勝手にあると勘違いして思い込んで捕らわれてただけなんだなって。

 雪村先生が言った通り簡単なことだったなと思いながら歩いていると帰りが別れるところに着いたようだ。

 

「…純一あんた今までに彼女いた?」

 

「俺に?いないよ。どうして?」

 

「2年間純一とは話してなかったけど、結構女子の間で話題になってたからさ。それに告白だってされてたでしょ?」

 

「…まあ確かにたまにされてたな」

 

「断ってたってことは好きな人でもいるの?」

 

「いないよ。異性と手を繋ぐとかすら考えたことないからな」

 

「…まさか男が好きなの?岡島とか前原とか杉野とか」

 

「ちげーよ!単純に考えたことがないってだけだ!ちゃんとそう言って断ってたし!」

 

 ふーん、そうなんだと莉桜はにやにやしながら俺を見ている。この2年間で随分変わったな。俺が知ってる莉桜は純粋そのものだったのに。

 

「じゃあ面白いことも聞けたし帰る!改めて来週からよろしくね!純一!」

 

「おう、気をつけて帰れよ」

 

 莉桜が敬礼してきたので敬礼で返し、互いの道を帰る。俺は週明けの学校がより楽しみになり、脚を弾ませながら家へと帰った。

 

 

 

 

 ~中村視点~

 

「純一、色々と大きくなってたなー」

 

 歩きながら、そう呟いた。2年前より伸びた身長、そして二回りくらい大きくなった手。頭を撫でられたことを思い出し顔が赤くなる。

 

 そういえばと純一が言っていた言葉を思い出す。

 告白してきた相手に付き合うことを考えたことがないって言ってたんだっけ?告白してきた相手にその返しはつまり"そういう目で君を見たことがない"って言ってるようなもんだよね。告白してフラれた女の子に少し同情する。

 

 純一との壁も解消され、E組に落ちたことに対するショックがなくなり心が軽くなっているのを感じた。心地良い気分のまま私は昔見たCMの曲を小さく口ずさみながら家へと向かう。




文中で南雲君に言わせてますが、中学生のときの悩みって人から見たら大したことないってのが多いと思います。
中学生は半径100メートルの見えてる範囲が自分の世界って感じなんで正に思春期だなって思います。
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