暗殺教室 28+1   作:水野治

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ついに1学期が終わり夏休みに突入します。
話の大半はオリジナルとなっています。


第23話 隣町の隣探訪記

『今日の運勢1位は獅子座のあなた!遠くに足を伸ばすと吉!ラッキーアイテムは襷です!続いて…』

 

 朝食を取りながらテレビを見ていると若手の女子アナウンサーがハキハキとした明るい声で教えてくれる。どうやら今日の主役は俺達獅子座らしい。終業式で午前中の内に学校も終わるのでバスに乗ってどこか行こうかなと考える。

 

「父さん、俺今日出かけるわ」

 

「占いで今日の予定決めるって安直だなー」

 

「安直じゃねーし、てかたまたまだし」

 

「襷は持っていかなくて大丈夫か?」

 

「家に襷があるわけないでしょ。ラッキーアイテムって何で持ってる可能性が低いものばっかりなんだろうね」

 

「『ラッキーアイテムを持ってるのにラッキーなことが起きなかった!苦情を入れてやる!』っていうモンスター視聴者を恐れたテレビ局の陰謀じゃないか?」

 

「何かと炎上しやすい世の中だしね」

 

「テレビ局の陰謀は置いといて出かけるんだろ?お金大丈夫か?」

 

「あーたぶん。足りてると思う」

 

「たぶんか……これで足りるか?」

 

 そう言って父さんは財布から3000円を出してきた。

 

「そんな大金いいの?」

 

「お前は頭良いからな、無駄遣いはしないだろ?それに大金って言ってるってことは物の価値がわかってるってことだ」

 

「まあそういうことなら…ありがとうございます」

 

「いえいえ楽しんでください」

 

 話が終わると朝食を食べ終え準備をしてから学校に向かう。期末の後はほどなく一学期の終業式、中学生活に束の間のピリオドが打たれる。

 

 

 

 

「おお~やっと来たぜ、生徒会長様がよ」

 

 俺達は他のクラスの生徒よりも早く登校し、A組の五英傑を待ち伏せていたのだ。

 

「何か用かな?式の準備でE組に構う暇なんて無いけど」

 

「おーう待て待て、何か忘れてんじゃねーのか?」

 

「浅野、賭けてたよな。5教科のトップを多く取ったクラスがひとつ要求できるって。内容についてはさっきメールで送信したけどあれで構わないな?」

 

「5教科の賭けを持ち出したのはテメーらだ。まさか今さら冗談とか言わねーよな?何ならよ、5教科の中に家庭科とかも入れてもいいぜ?それでも勝つけどな」

 

 寺坂が水を得た魚の如くイキイキとしている。気持ちはわかるが殴りかかられても文句は言えないレベルで憎たらしい顔をしているなと思った。

 

 

――

 

 

「それにしても珍しいな。カルマが全校集会来るなんてさ」

 

「だーってさ、今フケると逃げてるみたいでなんか嫌だし」

 

「まあ次のテスト頑張ろうぜ、俺もお前も」

 

「言われなくても刃は磨くよ」

 

「ところであの見慣れない女子は誰だ?」

 

「あーあれね、偽律だってさ。何でも律が機械だとバレないための必要な工作らしいよ。てか試験中気付かなかったの?」

 

「あんまり周り見てなかったからなー」

 

 カルマと話していると終業式が始まりつつがなく進む。E組がトップ争いをしてしまったためいつものE組いじりもウケが悪い。本校舎の面々がバツの悪そうな顔でE組が堂々とした面持ちという逆の状況が生まれていた。

 

 

――

 

 

 終業式が終わり教室に戻ると殺せんせーが俺達を待っていたのかそわそわとした様子で教卓に立っていた。

 

「殺せんせーただいま~。寂しかった~?」

 

「ビッチがいるせいで終業式に来るなって烏間先生が言うんで寂しかったですよ」

 

「あはは烏間先生そんなこと言ったんだ…」

 

 倉橋と殺せんせーが話しているがたぶん単純に烏間先生は来るなと言っただけだと思う。ビッチがいるからってなんだよ。

 

「それより皆さん、夏休みのしおりを作っておきましたよ!一人一冊です」

 

 あれしおりなの?分厚すぎてアコーディオンみたいになってるけど。

 

「これでも足りないぐらいです!夏の誘惑はいとまがありませんから。――さてこれより夏休みに入るわけですが皆さんにはメインイベントがありますねぇ」

 

「ああ、賭けで奪ったコレのことね」

 

 莉桜がドヤ顔気味に学校のパンフレットを取り出し掲げる。

 

「本来は成績優秀クラス、つまりA組に与えられるはずだった得点ですが今回の期末はトップ50のほとんどをA組とE組で独占していますので君たちにだってもらう資格は充分あります」

 

 みんなは殺せんせーの話を聞いてるようで聞いていない様子だ。なんと言っても中学生の俺達としては魅力的なメインイベントでありご褒美だからだ。

 

「夏休みに行われる椚ヶ丘中学校特別夏期講習!沖縄リゾート2泊3日!とても楽しみです!――君達の希望だと触手を破壊する権利はこの離島の合宿中に行使するということでしたね。触手7本の大ハンデでも満足せず四方を先生の苦手な水で囲まれたこの島も使い万全に貪欲に命を狙う。…正直に認めましょう、君達は侮れない生徒になりました」

 

 殺せんせーは触手で額を掻きながら嬉しそうな表情になる。俺達は成長したことを告げられ明るい表情だ。

 

「親御さんに見せる通知表は先ほど渡しました。これは先生からあなた達への暗殺教室としての通知表です」

 

 殺せんせーはA4用紙にものすごい速度で何かを書き教室にバッとばら蒔いた。それは二重丸が書かれた紙だった。まるで桜吹雪のように教室いっぱいに舞っている。

 

「一学期で培った基礎を存分に活かし夏休みも沢山遊び、沢山学び、そして沢山殺しましょう!――暗殺教室!基礎の一学期!これにて終業です!」

 

 殺せんせーが夏休みの始まりを告げる。それと共に俺達は達成感の満ちた顔になる各々下校をする。もちろんアコーディオンみたいな夏休みのしおりは置いていく。俺は鼻唄を歌いながら忘れ物がないかなど鞄を整理してから教室を後にした。

 

 

 

 

 家に戻り昼食を食べ終えた俺は自転車で駅へと移動しバスが来るのを待っていた。程なくしてバスが来たので乗り込んで後ろの二人掛けの座席に座りイヤホンを装着しぼうっと外を見る。

 テストから時間が経ったとはいえ徹夜して勉強してた疲れと夏休みに入ったという安心感から眠気があるなと思っていると肩をとんとんと叩かれた。

 

「あっすみません、もう少し詰めます」

 

「あはは、南雲君私だよ」

 

 俺が顔をあげるとそこには小さめのバッグを肩にかけた私服姿の矢田がいた。

 

「ビックリした。てっきり座席が狭くて詰めろって言われたのかと」

 

「広いくらいだったから全然大丈夫だよ。それより南雲君もどこか用事があるの?」

 

 そう言いながら矢田は膝の上にバッグを移し俺の隣に座る。

 

「隣町の本屋に行こうと思って」

 

「奇遇だね!私も一緒だよ!」

 

「へ~何か買うの?」

 

「うん!ビッチ先生が薦めてくれた本買いに行こうかなって、朝の占いで遠くに足を伸ばすと吉って言ってたし!」

 

「えっひょっとして獅子座?」

 

「そうだけど…もしかして南雲君も?」

 

「8月5日生まれでな、矢田は?」

 

「私は8月1日だよ、誕生日近いね」

 

「一足先に軽く祝っちゃう?」

 

「いいね!500円以内で祝うっていうのはどう?」

 

 冗談で提案したのにノッてきたことに少し驚く。

 

「えっまじで?俺はいいけど矢田は小遣いとか大丈夫か?」

 

「フッフッフッ、修学旅行のお小遣いを残してあるから余裕があるのだ」

 

「なんか矢田って世渡り上手だよな、さすがビッチ先生の一番弟子というか」

 

「ちゃんと親には返そうとしたんだけどね。そしたらお小遣いにしなさいって言ってもらえたから」

 

「ちゃんと報告する辺り偉いな」

 

「その辺はちゃんとしないとね」

 

 そう言って矢田は片目でウインクする。こういう仕草はE組の女子の中で一番うまいなと思う。

 

「それにしても乗客俺達以外いないな」

 

「平日のお昼過ぎだからね、朝とか夕方だったら利用者は多いと思うよ」

 

「そっか。普段利用しないから知らなかったよ」

 

 すると出発時間になったのかバスが動き出す。

 

「本屋ってことは降りるところ同じだよね?」

 

「そうだな、なんか流れで一緒に行動する感じになってるけど矢田はいいのか?」

 

「うん!普段あまり喋らないし沢山話そうよ!」

 

 矢田の発言はなんか勘違いしそうになるな。狙って言ってる感じもしないしビッチ先生の教えを受ける前からおねだり上手というか男子のツボを押さえてるんだろう。

 

「確かにあまり話さないな」

 

「でしょ?陽菜ちゃんの横とか凛香の横で話を聞いてる感じだし」

 

「倉橋はわかるけど凛香と仲良いよな、なんか接点あるの?」

 

「ダンス仲間なんだよ。体育の空き時間とか二人でステップ踏み合ってるんだけど…見たことない?」

 

「ないなー、体育の時は烏間先生の動きを見て盗むようにしてるから」

 

「あはは、私はビッチ先生の一番弟子だけど南雲君は烏間先生の一番弟子って感じだよね」

 

「その自負はある」

 

「言い切るんだ!…そういえば私が来る前にイヤホンで何か聴いてたよね?」

 

「ああ、ピロウズ聴いてたんだ」

 

「ピロウズ?」

 

「うん。ロックバンドなんだけど…知らない?」

 

「うーんわからない。…ねえ聴かせてもらっていい?」

 

「いいよ、ハイ」

 

「ありがと、じゃあハイ」

 

 俺がイヤホンと携帯を渡すと矢田が携帯とイヤホンの片方を渡してきた。

 

「何となく察したけど片耳ずつ聴く感じ?」

 

「だってなに聴いたらいいかわからないもん。それにこっちのほうがどの部分を聴いてるかわかるでしょ?」

 

「あー確かに。じゃあ聴くか、音量は大丈夫?」

 

「…もうちょっと大きい方がいいかな。南雲君は大丈夫?」

 

「矢田に合わせるから心配しなくていいよ」

 

 俺はとりあえずピロウズに興味を持ってほしかったのでなんとなく一番ウケやすそうな"Tiny Boat"を流す。

 二人の間に会話はなくなったが無言なのに心地良い空気感が流れる。サビが終わった辺りで矢田が一言「私好きかも」と言ったので俺も短く「それはよかった」とだけ返した。

 ――1曲目が終わり2曲目に移りサビに入った辺りだろうか、矢田がコクコクと舟を漕ぎ始めた。それを見て少し笑った俺だが瞼が重くなってるのを感じた。

 ――…今何曲目だろうか?気付いたら俺は完全に意識を手放していた。

 

 

 

 

「…ここどこ?」

 

「…終着だって」

 

 俺と矢田は結局降りるべき停留所を寝過ごしてしまい終点に着いてから運転手に起こされた。停留所の名前を見ると全然知らない地名が書かれていた。

 

「バスってぐるぐる同じところ回ってると思ってた」

 

「俺もそう思ってたが違ったらしいな。世の中知らん事だらけだ」

 

 そう言いながら停留所に張られている時刻表を確認する。

 

「後30分くらいで帰り方向のバスが来るって」

 

「本当?」

 

「本当も本当。いやそれにしてもよく寝たから疲れが取れたよ」

 

「私も。テストの疲れとか色々溜まってたところに心地良い音楽だからね、寝るのも仕方ないよ。それよりバスが来るまで30分かー」

 

「…なあ、せっかくだしこの町を歩いてみないか?」

 

「…本当?」

 

 矢田の目が子供のようにキラキラと輝く。そのせいか何歳か幼く見える。

 

「俺達獅子座の今日の運勢は"遠くに足を伸ばすと吉"だからな。これも何かの縁だと思って」

 

「そうと決まったら行こっか!別に30分後のバスじゃなくてもいいよね?」

 

「俺はいいけど矢田は大丈夫か?女の子だし親御さん心配しない?」

 

「ちゃんと連絡しておくから大丈夫だよ!それより南雲君は襷は持ってる?」

 

「持ってない、ていうかよくラッキーアイテム覚えてたな…」

 

 切り替えが早い矢田が先導する形で歩き始める。

 

「矢田ちょい待ち」

 

「どうしたの?」

 

「知らない町だからな、迷ったら困るし今いる停留所の地点を登録しておく」

 

「そういうところしっかりしてるよね、南雲君って」

 

「イタズラをするときは逃走経路を複数用意するし何事も下準備が大事ってね。言うなれば第二の刃だよ」

 

「あはは、殺せんせーはそう言うつもりで言ったんじゃないと思うよ」

 

「よし、今度こそ行くか!」

 

「なんだかワクワクするね!」

 

 矢田も共に歩く。家がただ並んでいるだけでも新鮮に感じ、なんとなくノスタルジックな感情が生まれる。

 

「なんだか不思議な感覚だね」

 

「わかる」

 

「普段目にしないし来ないから意識しないけど、私達が学校で過ごしてるときもこの町はここにあって機能してるんだよね…、なんて!らしくないかな?」

 

「いや俺も似たようなこと考えてた。子供のときって目に入るもの全部新鮮で、今と同じ気持ちだったのかなって」

 

「そうだね、……あっ川だよ!」

 

「名前は……この川俺達の街にもあるな。例え迷っても川沿いに歩けば帰れるんじゃね」

 

「私達の街に着く頃には足が棒になってるよ、きっと」

 

「そうならないために地図に停留所登録したからな」

 

「第二の刃じゃなかったの?」

 

「そうでもある」

 

「もう適当だな~。川を見て思い出したことあるんだけど…聞く?」

 

「矢田がどうしても話したいなら聞く」

 

「そうかそうか、南雲君はどうしても聞きたいのか~。ならしょうがない、話してあげよう」

 

「…そういうことでいいよ」

 

「子供のときってさなんだかわからないけど怖いものってなかった?」

 

「押し入れが怖いとか?」

 

「そうそう!そういうの!私の場合はさ、川が怖くて近づけなかったんだよね」

 

「へぇ、どうしてまた」

 

「昔読んだ絵本でさ、河童が川から出てきていたずらっ子を懲らしめるっていうのがあったんだけどお母さんに悪いことしたら絵本の中の子供と一緒で河童に懲らしめられるわよって言われて。それで川が怖くなっちゃってさ。今はもう平気なんだけど」

 

「子供のときってさ大人の何気ない一言とか絵本で色々連想しちゃって怖いものを自分で産み出しちゃうよな」

 

「そうなんだよね。南雲君もなにかそういうのある?もしかして押し入れ?」

 

「そのまさか、押し入れが怖かった」

 

「ちなみにどうして?」

 

 矢田はいたずらっ子のような笑みを浮かべて尋ねてくる。俺もそうだがおそらくこういう今とは違うその人が持っている昔話などが好きなのだろう。

 

「絵本でさ、『いるのいないの』っていうのがあったんだけど知ってる?」

 

「あー怖いやつだよね!知ってるよ!でもあれって押し入れじゃなくて天井の暗がりじゃなかったっけ?」

 

「よく覚えてるな。それで幼稚園のときにその絵本を読んでなんとなく暗がりが怖くなったんだよ。夜に家の中の電気がついていない暗い部屋に入れなくなったりさ」

 

「うんうん。その感じわかるよ」

 

「それでまた別の日に違う絵本を読んだんだよ。今度は『おしいれのぼうけん』ってやつ」

 

「あー!確かイタズラをした子供二人が押し入れに入れられちゃうってやつだよね!」

 

「そうそう。押し入れに入れられた子どもがよくわかんないけど冒険に出るってやつなんだけど、俺は押し入れがどこか別の世界に繋がっているって考えちゃったんだな。暗いということも合わさって俺の中で押し入れという名のモンスターの誕生だよ」

 

「あはは、本当はなんてことないのにね。子供のときって不思議だよね」

 

「おかげさまで押し入れは明るいときも苦手だったよ。その時の名残で夜寝るときにクローゼットが少しでも開いていたら気になっちゃうんだよ」

 

「誰かが覗いているとか?」

 

「そうそう!そういうのってホラー映画によくあるだろ?ちょっとの隙間から殺人鬼が覗いていたりベッドの下に何かが潜んでいたり」

 

「もしかして意外と怖がり?」

 

「うーん…怖いのは平気なんだけど色々と連想しちゃうっていうのはあるな。矢田は平気なのか?」

 

「へっちゃらだよ。弟がいるしお姉ちゃんの私がしっかりとしないとね!」

 

「お姉ちゃんは強いな」

 

「えへへ、まあね!」

 

「川からずいぶん脱線したけどとりあえず散歩を継続するか」

 

「そうだね!じゃあ行こ!」

 

 そう言って矢田は俺の手を握って引っ張る。俺は驚いて咄嗟に引いてしまった。

 

「あ、ごめん。年が離れた弟がいるからクセになってるんだ。…嫌だった?」

 

「いや、ビックリしただけ」

 

「それならよかった!それより手握る?」

 

「花のJCなんだから好きな人のために取っとけ」

 

「冗談だよ、それに私だって握る相手は選ぶよ。南雲君は大丈夫」

 

「それは褒め言葉として受け取っておくよ。それより手握るのはなしで。俺の心臓が持たない」

 

「私もちょっとドキドキしちゃうかな。南雲君って正直者だよね、金の斧と銀の斧両方もらえそう」

 

 矢田の言葉に俺は思わず吹き出して笑ってしまう。矢田がそんな変なこと言ったかなと口を膨らませている。そんな矢田に俺は歩きながら笑った理由を説明する。

 

「正直者で泉の精を連想するっていうのが個人的に面白かったんだよ」

 

「むー、だってそう思ったんだもん」

 

「まあ確かに俺は金の斧と銀の斧の両方をもらえると自分でも思うよ。ただイソップ寓話とは違うもらいかたをする」

 

「どんな風にもらうの?」

 

 俺はわざとらしく咳払いをし寸劇を始める

 

「泉の精が『あなたが落としたのは金の斧ですか?それとも銀の斧ですか?』って尋ねてくるから俺はこう答える。『私が落としたのは普通の斧ですが金の斧も銀の斧も欲しいです!』ってな。そんな正直者の俺を見て泉の精は『なんて正直者なんでしょう!』と感動して斧をくれるってわけよ」

 

「正直者すぎない!?」

 

「両方もらって俺は更に続ける。『一本ずつと言わずもっとほしいな~』泉の精は『本当に正直者なんですね!』ってな感じで追加でもっと斧をくれるってわけよ」

 

「あはは、現代版イソップ寓話作ったら?他のお話もいじって」

 

「そうだな、その時の監修は矢田に頼むぞ」

 

「私プロデュースなんだ!?」

 

「もちろん。…あっ和菓子屋だ。寄ってみてもいい?」

 

「うん。行こ行こ」

 

 川から少し歩いたところに住宅地の中にある和菓子屋を見つけたので店内に入ってみる。そこにはいかにもなお婆さんが営んでいる店だった。

 

「あっきんつばだ!美味しそう!」

 

「和菓子って無性に食いたくなるときあるよね。…これなんだ?」

 

「それはべちこ焼きって言うんですよ」

 

 俺の疑問にお婆さんが答える。和菓子といえば和菓子なのだが見た目の色がカラフルで今まで見たことのない物だったので目を引いたのだ。

 

「へぇ。この町の名物かなにかですか?」

 

「いえいえ、そんな立派なものじゃありませんよ。私が作ってなんとなく命名したお菓子ですよ」

 

「じゃあべちこ焼き2つください」

 

「ハイ、240円になります」

 

 俺が会計を済ませると矢田にひとつ手渡す。

 

「えっいいの?」

 

「矢田も食べたことないだろ?」

 

「うん。ありがと!」

 

「ありがとうございました、またのご来店をお待ちしております」

 

 丁寧なお婆さんの店を後にする。店を出たところで買い食いのように食べながら散歩を再開する。

 

「ウマイなこれ」

 

「優しい味だね」

 

「隣町だったらリピーターになるかも」

 

「更にその隣だから車とかじゃないと来るのが辛いもんね」

 

「ネットで売ってたらなー」

 

「そうすれば願ったり叶ったりなのにね。和菓子といえばたい焼きって頭から食べる?それとも尻尾から?」

 

「頭からかなー」

 

「あっ一緒だ。ちなみに理由は?」

 

「頭から食べたら餡が尻尾まで行き渡るから。矢田も同じ理由?」

 

「ううん違うよ。餡がたっぷり入った頭から食べて最後にカリっとした尻尾を食べるのが通の食べ方ってテレビでやってたから同じ食べ方してるんだ」

 

「頭から食べたら餡が尻尾までいかないか?」

 

「そこはほら、微調整するんだよ」

 

「ガバガバじゃんか」

 

「むー。だってたい焼きも店ごとに微妙に違うじゃん」

 

「それを言われたら何も言えないな」

 

 どんなに下らない話をしようと歩みは止めない俺達。商店街のようなものが目に入ったのでそちらに進路を変更し尚も歩き続ける。

 

「矢田大丈夫か?歩き疲れてないか?」

 

「大丈夫だよ。心配してくれてありがとう」

 

「俺は体力に自信がある方だからさ、イマイチ加減というかどのくらいで普通の人が疲れるかってわからないんだ」

 

「心配しなくても大丈夫だよ!これでも訓練してますから」

 

 そう言って矢田は胸を張るが、如何せん発育が良い方なので目のやり場に困る。

 

「今日はもう本買えなさそうな雰囲気だな」

 

「だね。でも普段とは違う体験出来てるから私は満足してるよ」

 

「占い当たってるな」

 

「今までは良い占いだけ信じてたけどこれからは何でも信じちゃいそうだよ」

 

「俺はラッキーアイテムは信じないけどな」

 

「私もそこはちょっとだけ考えるかな?…あっそこにある雑貨屋さんに寄っていかない?」

 

「いいよ。ついでにそこでお互いのプレゼント買うか」

 

「いいのあるかな~」

 

 入り口のドアを開けると小気味いい鈴の音のような音がドアの開閉に合わせて店内に響く。いや違う、鈴じゃない。たしかウィンドチャイムだ。

 

「それぞれで買い物して店の外で交換するってのはどうだ?」

 

「おっいいね~。プレゼントは開けてみるまでわからないってやつだね」

 

「そういうこと。じゃあ俺はこっちから見て回るから」

 

 そう言って暫し矢田と別れる。

 500円という制限があるため豪華なものは買えないので普段使うものから選ぶのが妥当だろうか。矢田が普段使うといったらポーチだろうか?いやでも既にお気に入りのものがあったらあまり使われなくてもったいないな。矢田といえば…ポニーテールだな。髪留めはありだな、わからないがいくつあっても困らないだろうし。

 購入する物が定まったのでファッションコーナーへと足を伸ばす。そこには所狭しと多種多様なヘアゴムなどのアイテムが陳列されていた。小学生がするような派手なものから大人がするようなシンプルで落ち着いた雰囲気のものまである。どれがいいだろうかと手に取ろうとしたその時南雲に電流走る。

 誤算!ヘアゴムとシュシュの違いわからず!

 矢田がいつも髪をまとめているのはシュシュっぽいやつだと思うのだがあれは果たしてシュシュなんだろうか?派手なヘアゴムなんだろうか?そもそも女物のファッションアイテムに詳しくないことに気付く。そんな状態でプレゼントを送って微妙な顔をされたら俺はどんな顔をすればいいんだろうか。笑えばいいのか?

 失敗する可能性を考慮した俺は別のコーナーに移動し第2候補を購入することにした。

 

 

――

 

 

 俺がプレゼントを購入し店の外に出て5分ほど経ってから矢田も店から出てきた。

 

「ごめん遅れちゃって」

 

「俺が早かっただけだから」

 

「じゃあ交換しようか。せーので出す?」

 

「掛け声は任せた」

 

「私一人で言うの?」

 

「二人で言ったら息が合わずグダグダになりそうだから」

 

 矢田はもうっと頬を膨らますと後ろに隠したプレゼントを持ち直すように姿勢も正したので釣られて俺も背筋を伸ばした。

 

「いくよ?…せーの!」

 

 バッとプレゼントを互いに出すと同じ店で買い物したはずなのに二人の包装の仕方が全く別になっている。理由は明白だ、なぜなら――

 

「南雲君レジで自宅用って答えたんだね」

 

「矢田はプレゼント用なんだな」

 

「だって南雲君に渡すし」

 

 こういうところで男女の性格の違いが出てくるなと感じる。俺はすぐに渡すものだしいいかと思い自宅用と答えた。

 

「それじゃあ俺から開けるわ」

 

「気に入ってもらえるといいんだけど…」

 

 俺は丁寧に包装されたラッピングを崩さないように開いていく。なんとなくがさつな男と思われたくなかったからだ。中身を取り出すと紺色のシンプルなタオルが出てきた。大人になっても外で使えるような落ち着いた色だなという印象を受ける。

 

「ありがと!今必要なものランキングベスト3に入ってたよ」

 

「よかった!ちなみにベスト3ってことは他にもあるんだ?」

 

「うん。1位は襷かな」

 

「嘘ばっかり」

 

 矢田はそう言って無邪気に笑う。ちなみに襷が1位な訳がない、ランキングベスト100にすら入らない。

 

「襷は嘘だけどタオルが欲しかったのは本当だよ。ありがとう」

 

「えへへ、じゃあ私も開けるね。……わっ!ハンカチ?」

 

 俺が迷いに迷って買ったものはハンカチ。これもいくつあっても困らないだろうかと思い選んだものだ。

 

「仮にハンカチじゃなかったとしたらグレードダウンしたタオルだな、大きさ的に」

 

「色が薄ピンクなのは私の名前から?」

 

「それもあるけど単純に矢田っぽいなって」

 

「ありがと!嬉しい!」

 

 矢田が子供のように笑うのを見て俺も思わず笑みがこぼれる。

 

「結構いい時間になったし停留所に戻るか?」

 

「そうだね。それか川沿いに歩いて椚ヶ丘に帰る?」

 

「よし!そうするか」

 

「待って!冗談だよ冗談!」

 

「あはは、わかってるよ」

 

 俺は停留所に戻るためスマホであらかじめ登録しておいた地点を確認する。地図で見るに停留所を始点として円を描くような形で歩いていたらしい。それほど停留所から離れていない場所にいることがわかった。

 

「まあバスがなかったら歩くことになるかもね」

 

「え、嘘、バスあるよね?歩くことになったら私大変だよ?」

 

「時刻表を見ないことにはわからんな」

 

 ちなみに1時間に3本程度走ってることはここに来たときに見た時刻表で確認しているので俺は答えを知っている。

 

「ここから歩いて10分ないくらいだからとりあえず停留所に向かうか」

 

「大丈夫かなー…バスあるかなー…」

 

「なかったら川沿いに歩けばいいだけだから」

 

「…南雲君妙に落ち着いてない?」

 

「……いや?」

 

「変な間があったよ!ていうことはバスあるんでしょ!」

 

「……ないよ?」

 

「その反応はあるでしょ!」

 

「……いや?」

 

「もー!」

 

 半分答えを言ってしまってるようなものだがあえて口には出さない。矢田の反応が見ていて単純に面白いからだ。あるでしょないよ問答を繰り返しながら10分ほど歩くとスタート地点でありゴール地点でもある停留所が見えてきた。矢田は走って一足先に時刻表を見るとやっぱりあるじゃん!と頬を膨らましている。

 太陽が真上の辺りにあったのが今では低い位置にまで来ていて、それを見て時間の経過を実感しているとバスが到着したので乗り込む。二人で椅子に座ると矢田はふぅーと軽く筋肉を伸ばす。

 

「疲れたん?」

 

「うん。久しぶりにあんなに歩いたよ」

 

「そんな矢田に……ほれ」

 

「えっチョコレート?」

 

「えっ嫌い?」

 

「同じこと考えてたんだってびっくりしてる」

 

「同じことってことはもしかして矢田も――」

 

「うん……ハイこれ」

 

 矢田も同じくチョコレートを取り出す。それは互いにプレゼントを買った雑貨屋のレジに置かれていたものだ。歩き疲れた帰りのバスで食べようと思って買っておいたのだがまさか矢田も買っているとは。

 

「私達思考回路似てるのかもね」

 

「かもな。占い見て行動決めるとかな」

 

「私はたまたまだよ」

 

「俺もたまたまだ」

 

 俺達は顔を見合わせて笑う。今日一日だけで矢田とかなり話した気がする、まるで今まで話していなかった分の埋め合わせをしたかのように思えた。

 

「なんだか今日デートみたいだったね!」

 

「そうだな、彼女とか出来たら今日みたいな感じなのかね」

 

「きっとそうだよ」

 

「まあ今のところは縁はないがな」

 

 そう言って俺は窓側に座っている矢田越しに外を見る。少し間があったあとに矢田が俯き気味に言葉を呟く。

 

「…南雲君はさ、優しいからその人の気持ちに気づいてもきっと見て見ぬ振りをしたりとか、もしかしたら一人を選ぶことができないかもしれないと思うんだ」

 

 矢田の呟きに俺はひどく動揺した。自分の中の核心をつかれた気がしたからだ。

 

「私は…まだ誰かを本気で好きになったことがないからわからないけど、でも好きな人が出来たら返事に関わらずちゃんと答えてもらいたいって考えると思う。…だからもし誰かから想いを告げられたらちゃんと向き合ってほしいんだ。…これは私のワガママなんだけどね」

 

「…そうだな」

 

 俺は矢田の言葉を聞きながら3月の終わりに岡野と話したことを思い出していた。

 

「…選ぶって残酷だよね」

 

「…ああ」

 

「……うそうそ!今の全部私の独り言!忘れて!」

 

「忘れられそうにないけど…」

 

「そうだ!私行きと同じく音楽聴きたいな!ピロウズだっけ?また聴かせて!」

 

「わかったよ」

 

 ポケットからイヤホンを取り出し今度はちゃんと片方だけを渡す。

 

「2曲目にかかってたの聴きたい!なんて曲?」

 

「"パトリシア"って曲だけど…あの時もう寝てなかった?」

 

「か、完全には寝てなかったよ!」

 

「そっか。……矢田、ありがとな」

 

「…だから独り言だってば」

 

 矢田がおそらく言いたかったのはE組内で俺のことを好きな女子が複数いるということだ。そして一番言いたかったのは返事のイエスノーに関わらずちゃんと向き合って答えてあげてほしいということだった。俺はまだそれに関しての答えは持ち合わせていないが、だからと言って曖昧に返事を濁すのは相手だけでなく自分をも傷つける結果になるというのは理解している。理解はしているが――。

 

「そういえば、結局ラッキーアイテムの襷は必要なかったね」

 

「いや案外そうでもなかったぞ」

 

「えっどういうこと?」

 

「さあ?」

 

 矢田は今日小さめのショルダーバッグを持っていた。それを肩が疲れないように右に掛けたり、左に掛けたり、時には斜めに掛けたり。襷その物はなかったが俺にとっては充分眼福だったのだ。

 こうして俺と矢田の獅子座コンビによる小旅行は占い通り良い結果に終わった。




話の中に出てきた"べちこ焼き"というお菓子は現実にはありません。それでも町は廻っているという漫画の中に出てくるのをそのまま引用しました。

矢田さんと速水さんがダンス仲間なのは本当です。公式のキャラクターブックに書かれていて待ち時間などに無言でステップを踏み合ってるそうです。ただ矢田さんが子供のときに川が怖かったっていうのは作者が勝手に作りました。

ちなみに細かくてどうでもいいことですが"LOSTMAN GO TO YESTERDAY"というピロウズのアルバムを南雲君達が聴いていた設定です。"Tiny Boat"の次は"パトリシア"というセットリストとなっています。

余談ですが書き終わったときの文字数が2万近かったので可能な限り会話をカットしまくりました。それでも多いと思いますが。
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