ベンチプレスとスクワットの自己ベストを更新したので色々とやる気に満ち溢れています。
7月が終わると同時に3月を待たずして地球が終わるんじゃないかと思うくらい暑い日に俺は前原と共にある場所へ向かっている。
「だから俺は旅行に着て行く服のどこかに遊びを取り入れたいんだけど、今持っているもの以外にもっと良いのがある気がするんだ」
「ふーん、まあいいんじゃねえの。俺は普通にラフな格好で行くよ」
「とりあえずモテるために純一との被りは避けたいから服を見るだけじゃなくて似たようなものだったら言ってくれよ」
「了解」
暗殺旅行のために前原に買い物に付き合ってくれと言われた俺。なんでも旅行に来ていく服にイマイチ納得がいってないらしい。
「1,2年の頃はこうやってたまに一緒に出かけてたけど最近はめっきりなくなったよな、なんでだろ?」
「そんなの前原が女の子により夢中になったから以外にないだろ」
「…そう言われてみれば。原因は俺か」
「まあでも中学に上がってから告白してくる人増えた気がする」
「あー確かに、小学生の頃はたまにだったけど。やっぱり男女を意識するからかね」
「十中八九そうだろうな」
「純一も自分の顔をもっと有効活用しろよ。やろうと思えば取っ替え引っ替えできるだろ?」
「俺はそういうのには誠実でいたいんだよ。前原だって絶対に二股とかはしないだろ?」
「…うん」
なんとなく歯切れが悪い気がしたがたぶん気のせいだろう。
「言い訳するとハッキリとした浮気ではないんだ。ただ付き合ってるときに他の女の子に目移りしちゃうときがあってそれが過っただけだ」
うーん。綺麗な人がいたら目で追ってしまうのはわかるからしょうがないとは思うけど…人によっては嫌なんだろうな。
「そんなこと言ってたら目的地に着いたな」
「ああ」
「前原の服って全部ここで揃えてるんだっけ?」
「そうだよ。マルイで揃えるのが俺の流儀だ」
俺達が目指していた場所はマルイ。マルイとは全国各地に大型商業施設を構えていて、プライベートブランドだけでなく有名ブランドもテナントで入っている日本のデパート業界の大手だ。
「とりあえず見て回るか。まずはこっちからだ」
「うぃ」
前原の先導について行く。あまりマルイには来ないので店内のどこになにがあるかなどはほとんど覚えていない。
「ちなみに純一はどういう服装なんだ?3日もあるから完全に被らないのは無理だろうけど系統は別にしたいからな」
「たぶん3日とも七分丈のパンツスタイルだな、膝より上の短パンあんまり好きじゃないから。それにシャツをアウター感覚にするつもり」
「ふーん、俺もシャツをアウターにするから似た感じだな」
「俺は綺麗めな感じでいくから前原はモテカジ系でいいんじゃね?」
「あーそうするかな。綺麗めは磯貝の土俵だしな」
「とりあえずさっき言った系統で探すか」
「シャツとかは家にあるので大丈夫だからパンツだけでいいよ」
「あんまり金使うとデートにも行けないしな?」
「わかってるじゃん」
半分冗談で言ったんだが中々侮れない男だな。
前原に似合うパンツを探すこと数十分、パッとするものが見つからなかった。何着か試着してみると確かに似合うことには似合うのだがなんとなく違うと言って前原がNGを出していたからだ。
「前原、ひょっとするとなんだが…今日何も見つからないんじゃないのか?」
「奇遇だな、純一。俺もそんな気がしてきていた」
「そんな前原に俺が竹林から教えてもらった素晴らしい言葉を授けよう」
「どんな言葉だ?」
「『何を着たって自分は自分』…だそうだ」
「えっ竹林がそんなこと言ったのか?どんな状況?」
「いや普通に会話してて服装の話になったんだったかな?その時に竹林が言ってた」
「ほー。いやちょっと見直したよ」
「なんかのアニメの受け売りらしいけどね」
「へぇー、何を着たって自分は自分か。…よし!旅行へはいつも通りの服装に行くことにする!」
「…単純なやつ」
「うるせー。確かにどんなに良い服を着てたって中身が伴ってなかったら意味ないんだよ」
「なんで急にお前まで良いこと言ってんだよ」
俺が前原の頭を軽くチョップすると前原がアハハと笑う。店員さんにチラ見されたので会釈をして謝る。
「せっかくこうして出かけたしな、色々と回ろうぜ」
「あっそれだったら俺なんか甘いもの食べたい」
「この辺だったら確か…」
「さすが前原さん、知ってるんですね?」
「そらそうよ、女の子が突然スイーツ食べたいとか言ったら困るからな。確か近くにある大きめの公園に人気があるクレープの販売車がよく来ているからそこに行ってみるか。そこで噴水とか見ながら食べるのが乙なんだよ」
「ほーん、じゃあ行くか。どれくらいで着く?」
「20分くらいだな。男二人だからもう少し早いかもだけど」
「じゃあのんびり歩きながら行きますか」
「おう、店を出て少し真っ直ぐ行ったところにある公園だから」
「少しって言ったって20分かかるんだろ?」
「それは女の子と歩いたとき」
揚げ足を取るようにからかうと今度は前原が俺の肩に軽くパンチしてくる。
予定が変わったので2人で並んで歩いて目的地へと向かう。
「なんで休日なのに男と並んで歩いてるんだろうな」
「忘れてるかもしれないけど言い出しっぺはお前だからな」
「冗談だよ、それに今はフリーだしな。だから南の島にかけてるんだ」
「E組の中には良いと思う人いないのか?」
「うーん…全敗してるからなぁ」
「そういえばそうだったな。岡野はどうなんだ?他のE組女子とは違う感じで接してる気がするけど」
「あー岡野は違うんだ。女子というよりは男子同士で馬鹿を言い合うみたいな、そっちに近いな」
「いやわかんないぞ?これは俺の言葉じゃないけどその人との会話や思い出が蓄積していって好きだということに気が付くらしい」
「それじゃあ俺も岡野のことを好きになる可能性もあるってことか」
「そういうこと」
「そっかあ。ところでそういう純一はどうなんだよ」
「俺?俺は…わからん」
「そっか」
「…思ったより突っ込んでこないんだな」
「友達の恋を掻き乱すのは野暮だろ?」
「意外と分別あるのな」
「ナチュラルに失礼だな。俺はE組のみんなが大事だからそういうからかいとかで関係が壊れるのは嫌なんだよ。…俺から純一に一つ言うとしたら難しく考えるなってことだな」
「難しく考えているつもりもないんだけどなあ。好きな人いないじゃダメなのかね」
「ダメじゃないさ。きっかけや好きのラインなんて人それぞれだし」
「ちなみに前原の好きだなって思うラインは?」
「うーん…その人ともっと話したいとか手を繋ぎたいとか友達以上の関係を望むってことかな。上手く言えないけど」
「なるほどね、参考にしとく」
「いや本当人それぞれだよ。1日に3回その人のことを考えたら恋っていう人もいるし」
「あはは、なんだそれ」
真面目な顔なのに言ってる内容が少しぶっ飛んでて思わず笑ってしまった。そんな俺を見て前原も笑う。
「よし次の話題に移ろうぜ」
「話ってそうやって移ってくもんだっけ?」
「細かいこたあいいんだよ。それで純一なんかないか?」
「そうだな……前置きとして前原サッカー部だったよな?」
「そうだよ。おかげで暗殺の基礎体力もばっちしだ」
「そこで質問なんだけど飲み物でミロってあるだろ?あれって何でサッカーのパッケージなの?」
「たしかサッカー以外のパッケージもあった気がするけど」
「まじで?」
「うん。それでパッケージが何でサッカーかは知らないけど名前の由来は知ってるぞ。古代ギリシアのミロンだかって人から取ってるらしいぞ」
「へぇ~。そのミロンはサッカーやってたの?」
「いや古代オリンピックがどうとかだったかなー…。サッカーの監督が言ってたのを覚えてたからうろ覚えだよ」
「なるほどな」
「ミロってさ上手く混ざらなくね?上にダマが出来ちゃうから飲むっていうよりはそのダマを食べる感じになっちゃわないか?」
「あのダマうまいよな。単体で出したら売れるレベルで」
「な?正直ダマがミロの本体になっちゃってる感がある」
「前原ひょっとしてココアとか作るときも上手く混ざってないだろ」
「えっ何でわかったの?」
「俺も昔は上手く混ざらなかったから。今ではミロでもダマなく作れる方法を編み出したんだよ」
「一応教えてくれよ。最初に言っておくけどお湯で混ぜるのはなしな」
「冷たい牛乳だけでいけるよ。ちなみに前原の入れ方を教えてくれ」
「粉をスプーンで数杯取ってそこに牛乳を飲む分だけ入れる」
「カップは用意しないのか」
「してるに決まってるだろ!用意してる前提だよ!」
「冗談冗談。ところで入れ方だけどちょっと違うわ。牛乳は少量入れて混ぜてから飲む分だけ入れるんだよ」
「へぇー」
「少量の牛乳で粉を混ぜるとペースト状になるんだよ、そのあとに飲む分だけ入れて混ぜれば普通より溶けやすいからダマがないミロ、またはココアの完成」
「手順一つでなかなか違うんだな」
「ちゃんと混ざってるから味も変わってるんだよ。体感だけど」
「今度やってみよーっと。良いこと聞けた」
「話が随分と変わるけど今日前原と合流する前に理事長に会ったわ。A組に来ないかって」
「えっ」
俺の突然の告白に間の抜けた返事をし、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をする前原。
「もちろん断ったけどね。成績良かったから声をかけたんだと思う」
「おま、いきなりこんな重要なことぶっこんでくるか普通」
「ごめんごめん、でも答えはわかりきってただろ?」
「それはそうだけど…。なんか理事長って大人の汚さというかずる賢さがあるよな、この間の俺が本校舎の連中と少し揉めたときもさ」
「あの人は俺が今まで出会ってきた人の中で群を抜いて頭が良いと思う。殺せんせーとか烏間先生は置いておくとして純粋な一般人であれだけの人って中々いないよな。前原が言ったように大人の汚さみたいなのもあるけど理事長の場合は完全にそれらを理解して使いこなしてる気がする」
「確かに…。あっ公園見えてきたな」
「見えてきたっていうか到着したな。クレープ屋来てるかな」
少しでも遠くが見えるように背伸びをする俺と前原。正直意味がない行動だなと思ったがなんとなく背伸びをしてしまうのは人間の習性なので仕方がない。
「来てるな、純一早く行こうぜ」
「急がなくても逃げないだろ。前髪しかないわけではないだろうし」
「それってなんだっけ?」
「チャンスの神様」
逃げはしないだろうが気持ち早歩きになる俺と前原。販売車の下へと着くと車の横側に記載されているメニューを見る。
「前原さん、おすすめはなんです?」
「そうですね純一さん、イチゴとバナナが美味ですよ」
「何で前原さんまで敬語になってるんです?」
「純一さんが敬語になったんじゃありませんか」
「…似非貴婦人というか今の俺等かなり馬鹿っぽいな」
「…そうだな、やめておこう」
店員さんに何にしますかと聞かれたので俺はオススメと言われたイチゴを選び前原はバナナを選んだ。お金を払い溢さないように気をつけてくださいとクレープを手渡される。生地が焼きたてらしく温かい、そして何より見た目がよく美味しそうなので人気なのも頷ける。最初に説明された通り噴水の近くのベンチに腰かけて食べる。
「これは……かなり美味いな。イチゴの酸味とチョコと生クリームの甘さが絶妙」
「だろ?別の味を頼んで女の子とあーんし合ったりするのが定番だ」
「ほーん。前原のバナナクレープも一口くれよ」
「いいよ。純一のイチゴも一口くれ」
という訳であーんで食べさせ合う。他意はない。
「あっ前原、お前今二口食ったろ」
「いやいや、今俺が食べた場所にイチゴが乗ってなかったんだよ」
「風味あるだろ」
「風味じゃダメだろ!ていうか純一は俺のほうに乗っているバナナ食べたしこれでフェアだろ?」
「まあ気にしてないしいいよ、単純に突っ込んだだけ。バナナのほうも美味いな」
「人気ナンバー1と2だからな。当然だ」
「あーそういえば手書きのポップで書かれてたな」
「販売しているお姉さんらしい可愛い字だったな」
「いや知らんけど。後ろで作ってる男の人が書いてる可能性もあるぞ」
「やめろ!夢を見させてくれ!」
「なんか今の会話で思い出したことがある」
「ん?なんだ?」
「よく飲食店とか行ったらさメニューに"店長のオススメ!"って書かれてるじゃん。人気ナンバー1とかとは別に」
「あー確かに書かれてるな。それがどうかしたか?」
「いやあれってさ、店長だけがオススメしていて他の従業員は反対してるんじゃないかとか考えちゃうんだよな」
「そんな捻った考え持ってるのは純一くらいだろ」
「えー」
「いや、えーって。…まあでも店長のオススメとか書いてるけどただ単に在庫というか売りたいやつを薦めてるだけじゃないかとは考える」
「前原のほうがよっぽど捻くれてるというか汚い考えだな」
「なんでだよ!大人というか商売人はそういうところ汚いだろ!」
「いやいや、前原。お前の考えが汚いだけだ」
「えぇー…」
互いの考えを貶しあうという何とも生産性のない会話をしてしまったなと思わず苦笑いをする。
クレープを食べ終わったのでゴミを近くに設置されているゴミ箱に捨てに行く。
「いやークレープ美味かったな」
「気になる子いたら誘ってきてみろよ。きっと喜ぶぞ」
「考えとくよ。……前原、あそこ。ベンチのところ見てみろ」
「ん?……女の子が泣いてるな」
「どうする?」
「女の子が泣いてるんだからすることは決まってるだろ」
前原の言葉に俺は頷き泣いている女の子の下へと行く。近くで見ると遠くで見たときより小さく見えた、年齢は小学校低学年くらいだろうか。とりあえず女の子に声をかけてみる。
「グスッ、グスッ」
「どうしたの?どこか痛いの?」
「グスッ、ちがう」
「ひょっとして迷子?」
「グスッ、ちがうもん」
女の子の反応に俺と前原は顔を見合わせ無言で会話する。俺がどうすると目で訴えると前原がクレープがある方角を顎でクイッと示す。つまりクレープを与えてまずは泣き止ませようということだ。俺は無言で頷き買いに行く。再び買いに来た俺に店員さんは少し驚いた様子だ。
「いらっしゃいませ…って、あら?さっき二人組で買いに来てた子だよね?」
「あっ覚えてましたか」
「その日に販売したお客様の顔は忘れないよ。君達の場合はメニューを見て面白いやり取りをしてたから尚更ね」
「あ、あはは」
あの下らないやり取りを聞かれてたかと思うと作った苦笑いしかできなかった。
「それで買いに来たんだよね?そんなに気に入ってくれたの?」
「確かに美味しかったんですけど、またこれには訳がありまして…」
俺が事情を説明すると女性店員は偉い!と褒めて言葉を続ける。
「そういうことならタダでいいよ!ねっいいよね?」
クレープを作ってるお兄さんに確認するともちろん!と男性の声が後ろから聞こえる。
「いや、そんな悪いですよ。こんなに美味しいクレープをタダでなんて」
「いいのいいの!その代わりちゃんと女の子の件を解決するんだよ!」
「ありがとうございます。そういえば僕と一緒にいた奴がお姉さんの字を褒めてましたよ」
「あっこの字?あはは!この字を書いたのは私じゃないよ、後ろの彼だよ。顔に似合わず可愛い字書くでしょ?」
前原…、嘘から出た実というかまじでお姉さんじゃなかったぞ…。
「それじゃあ…ハイこれ!イチゴ味にしたから女の子も食べれると思うよ!」
「ありがとうございます。では」
お姉さんからクレープを受け取ると溢さないように前原達の下へと戻る。心なしか会ったばかりの時よりも泣き止んでる気がする、さすが前原。
「ハイこれ、美味しいよ?」
「…いいの?」
「うん。イチゴは食べれる?」
「…すき。…ありがとう」
女の子にクレープを渡すと少し笑った。それを見て安心すると前原が袖をクイッ引っ張ったので小声で話す。
「…純一わざわざクレープ買ってきたのか?」
「…わざわざって前原が顎で示したろ」
「…あれはそこの自販機で飲み物を買えって意味だよ」
「…確かにクレープ屋行く途中にあったけどさ」
やはり言葉にしないと意思疎通は出来ないようだ
「…それで女の子からなにか聞けたか?」
「…名前ぐらいしか」
「…充分だ、それで名前は?」
「…あおいちゃんだって」
「…あおいってどういう字書くんだ?」
「…知らんわ。小ボケを挟むな」
俺が前原と小声で会話を続行しているとあおいちゃんとやらはクレープを食べ終わったので出来る限り優しく質問をしていく。
「どう?落ち着いた?」
「…うん」
「名前あおいちゃんって言うんだって?」
「…うん」
「あおいちゃんはどうして泣いてたの?」
「…えっとね、…グスッ」
あっやべ、また泣きそうになってる。選択肢ミスったか?
「バッカ、こういうのは徐々にいくんだよ。これだから一人っ子は」
「…お前も一人っ子だろ」
「姉二人いるわ」
「マジで?」
姉が二人いるっていうここに来ての衝撃の告白。だから女性に対して抵抗なしのチャラ男になってしまったのか。
「大丈夫だよ。嫌だったら話さなくていいから」
「…ううん、だいじょうぶ」
「そっか。あおいちゃんは強いね」
そう言ってあおいちゃんの頭を撫でる前原。これが一人っ子とそうでない者の違いか。
前原の神対応によって話始めたあおいちゃんの話を要約すると、あおいちゃんが持ってきていたお気に入りの人形を一緒に遊びに来ていた友達が羨ましがったらしく人形をちょっと見せてくれと頼んだらしい。あおいちゃんはちょっとだけならと人形を渡したらそのまま返してくれずいなくなってしまったので泣いていたところを俺達2人が発見という流れだ。
なんというか、物を羨ましがってる奴にそれを渡したら返してくれないのは目に見えてるというか想像つくけどなあと思った。
「あおいちゃんはその子のこと怪しいなとか思わなかったの?」
「だってみずきちゃんはトモダチだし…」
「そっか、あおいちゃんは優しい子だね」
少しも疑わないのか。俺もこうだったのだろうか。
「おにいさんたちの名まえなんていうの?」
「俺は南雲純一だよ」
「俺は前原陽斗」
「ジュンイチとヒロトはこういうときどうする?」
「まあその子と…みずきちゃんと話すかな」
「俺も同じかな。どうしてこういうことするの?って」
「…なかなおりしたいけどみずきちゃんいないし」
「みずきちゃんとは二人で一緒に公園に来たの?」
「…うん。あおいはこうえんにきたことあったからいっしょにあんないしてあげたの」
「ならきっとみずきちゃんは戻ってくるよ。一人じゃ帰れないからね」
「みずきちゃん来るまでお兄さん方とお話ししよっか」
「いいの?あおいとおはなししてくれるの?」
「もちろん!」
「やった!えっとね、このあいだがっこうでね!――
――それでね、あおいはユウキくんよりヒロキくんのほうがカッコいいとおもうんだけどカナちゃんはユウキくんのほうがカッコいいっていうんだ。でもそれって――
――たいいくのときにユウキくんがあおいにさか上がりおしえてくれだけど、それでユウキくんのほうがいいなって思ったんだ!」
な、長ぇ。そして中身がねえ。わかったことと言えば、
・あおいちゃんは小学1年生
・カナちゃんだかはユウキ君推し
・最近のあおいちゃんの押しもユウキ君
以上3点。なんで女子小学生はこっちも知ってる前提で登場人物を話の中で増やすんだ。ユウキ君もヒロキ君もカナちゃんも知らんよ。辛うじてこの3人は覚えれたけどあおいちゃんの怒濤の小学生事情のせいで何も頭に入ってこんよ。
それでも俺と前原は頑張ってあおいちゃんの話に相槌を打ち続けた。俺達中学生が中身のある会話をしてるとは思わないけど話の起承転結って大事だなと実感させられた。あおいちゃんの話は起起起起ばかりでたまに承が入ってくる。当然転結などありはしない。
「へぇ~あおいちゃんはヒロキ君よりユウキ君のほうが好きなんだね」
「ヒロキ君のほうがカッコいいよ。ヒロトはちゃんとお話きいてなかったの?」
前原…お前は悪くない。俺が前原に同情の視線を送っていると前原が何かを見つけたように俺にあっちを見ろと口パクで伝えてくる。示された方向を見ると人形を持った女の子がこちらを伺うように少し離れたところから見ていた。俺はあおいちゃんに飲み物買ってくるねと言ってその少女の下へと向かう。とりあえず途中にある自販機でココアを2本買ってから話しかける。
「もしかしてみずきちゃん?」
「そうだけど…おにいさんはなんでみずきのことしってるの?」
「あおいちゃんから話を聞いたからだよ」
「…あおいちゃんおこってた?」
「ううん、仲直りしたいって言ってたよ」
「ほんと?」
「本当だよ。でもその前にどうしてあおいちゃんの人形を取ったのか教えてくれる?」
「…だってうらやましかったから。さいしょはちょっとみせてもらうつもりだったけど…手にもったらほしくなっちゃって…」
「そっか、でもどうして戻ってきたの?そのまま帰っちゃわなかったんだね」
「だってあおいちゃんにわるいことしたなっておもったし…かえりみちもわからなかったし…」
「悪いことしたってわかってるならみずきちゃんは大丈夫だね。それじゃあどうしたらいいかわかる?」
「あおいちゃんにあやまる…」
「お!わかってるなんて偉い!」
俺がそう言って前原の真似をしてみずきちゃんの頭を撫でる。すると少し俯いてしまったのでまた選択肢をミスったかと焦る。
「あおいちゃんゆるしてくれるかな…?」
「大丈夫だよ、お兄さんが一緒に行ってあげるから。それなら行ける?」
「…うん。おにいさんなまえなんていうの?」
「南雲純一だよ」
「ジュンイチありがとう」
あおいちゃんと同じく呼び捨てかい。妹いないからわからないけどいたらこういう感じなんだろうか。
「どういたしまして。じゃあ行こっか」
手を繋いで前原達の下へと向かう。なんとなくみずきちゃんの手が震えてる気がした。
「あっ帰ってきた」
「ジュンイチおそい!…あっ」
みずきちゃんを見てばつが悪くなったのか急に大人しくなった。とりあえず早く仲直りしてほしいから助け船出しますか。
「みずきちゃんが言いたいことあるんだって、聞いてくれる?」
「うん…」
「ほら、みずきちゃん」
「…おにんぎょうさんとってごめんね」
「ううん、あおいもちょっとじまんしちゃったから」
「…なかなおりしてくれる?」
「うん」
「ありがとう、これおにんぎょうさん」
「いいよ、ふたりであそぼ?」
「…うん!」
2人のやり取りを見て思わず笑みが溢れる俺と前原。
「2人とも仲直りして偉いな。ハイこれ」
「あっココアだ!」
「ジュンイチいいの?」
「いいよ。喧嘩せずに仲直りした2人へのご褒美だから」
「「ありがとー!」」
「どういたしまして」
「じゃあわたしたちいくね!ヒロトもありがと!」
「おう!今度は喧嘩しないようにな?」
「うん!じゃあバイバーイ!」
2人に手を振り別れる。ようやと一段落ついた俺達はベンチに座り深く溜め息をつく。
「あー疲れた」
「女子小学生ってあんなに扱い大変なのな」
「その割に手慣れてた感じがしましたけど?前原さん?」
「俺達が狼狽えてたらあおいちゃんも戸惑っちゃうだろ」
「たしかに」
「思いの外すんなり仲直りしてよかったな」
「そうだな。…俺達って喧嘩したりとかして先生とかに怒られてさ、とりあえずポーズみたいな形で謝るじゃん?」
「その場限りの取り繕いみたいな感じでな」
「そうそう。でもあおいちゃんとかは幼いからそういうのわからないと思うんだよ。
「あーたしかにな」
「相手が謝ったら許すっていう教えられたことを当たり前のようにやってるけどさ、なんか年齢を重ねるにつれて難しくなってくるよな」
「俺も岡野に直接謝れなくて純一経由で謝ったしな」
「そういえばそんなこともあったな」
「だからあの二人を見てたら眩しいものを見せつけられた感じがしたよ。純一も俺が悪いことしたらちゃんと許してくれよ?」
「内容による」
「そこは許せよ!」
2人で馬鹿みたいに笑い合う。
笑いながら俺は小さいときのことを思い出していた。昔の記憶を手繰っても幼いときの喧嘩で解決しなかったものは1つもなかった、全て仲直りという円満解決のみだった。
しかし最近ではどうだろう。仲違いするような喧嘩はしてないが、仮にしたとして果たして先程のようにスッと仲直りすることができるだろうか。素直に首を縦に振ることができない俺は大人へと近付いているということなんだろうか。
色々と考えていたが前原の声に俺は現実に引き戻される。
「なんか安心したら腹減ってきたな。またクレープ食べないか?」
「そういえばな、前原」
「なんだ?」
「クレープ屋さんの字な、お姉さんのじゃなかったわ」
「え?てことは…」
「後ろのお兄さんの字だ」
「バ、バカ野郎!そういうことは知ってても言わないもんだろ!」
「あはは!悪い悪い!」
「ちくしょう!夢壊しやがって!許してやらねー!」
前原はこんなことを言ってるが少し大人に近付いている俺は知っている。言葉とは裏腹に前原があまり怒っていないこととすぐに許してくれるということを。そういう建前がわかるようになってる辺り大人になるのも悪くないなと思った。
今回2人の小学1年生が登場しましたが小学生特有の言葉の意味をイマイチ理解していない感を出すためにおそらく習っていない、知らないだろうという漢字はセリフの中でも平仮名で表記するという無駄なこだわりを取り入れたためにただでさえ読みにくい文がより読みにくくなってしまいました。申し訳ないです。
タイトルにあるガラスの脳は手塚治虫の短編漫画のタイトルから取りました。
内容は全く異なり手塚治虫のガラスの脳のあらすじをザックリ言うと、「62年の生涯の内たった5日間しか目覚めることができなかった女性由美を研究の為に解剖すると彼女の脳はガラス細工のように綺麗なものだった」というものです。
主人公との恋愛関係も短いながらに書かれていますがまとめるとこのような内容です。
今回の話で言うガラスの脳とはあおいちゃんを指しています。まだ幼いことから疑わず人形を貸してしまったり、仲直りを求めてきた友達を本心からすぐに許したりと大人になった作者視点で見てもちょっと考えられないなという行動をとります。
皆様も幼いときに覚えがあると思いますが、人を疑うという行為をきっとしていなかったと思います。それが年を取るに連れて汚い部分などを学び嘘をついたりなどするようになっていったはずです。
由美の脳がガラス細工のように綺麗だったのは5日間しか人間に触れず、雑念や人間の汚さなどを学ばなかったからガラスのような綺麗な脳だったんだと作者は解釈しています。所々あおいちゃんと南雲君達の考えを対比させることでそれを表現しているつもりですが、如何せん文才がないもので伝わり切らなかったため後書きにて解説している次第です。
前原君に美人な姉が2人いるというのは公式設定です。
ちなみに倉橋さんは2冊の公式ブックで一冊は男兄弟に挟まれている、もう一冊は兄代わりにドーベルマンがいるという矛盾が生まれてしまっているので一人っ子でドーベルマンを飼っている設定を採用しています。第0.7話で説明し忘れていたので遅れながら報告しておきます。
途中南雲君と前原君の会話の中で出てきた美味しいココアの作り方は作者自身が編み出した方法ですのでダマになってしまうという方は一度試してみてください。正直最初に少量のお湯で溶かすのが一番ですがそれが面倒だという人向けの飲み方です。