暗殺教室 28+1   作:水野治

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暗殺旅行、4分の2。
今回の話で今までなんとなくぼかしてたことがハッキリします。

追記
内容を一部修正しました。


第27話 リゾートの時間 その2

 電話の相手と交渉をしている烏間先生。だが交渉が決裂したのか、電話を切るや否や珍しく苛立ちを隠そうともせずに袋に入った殺せんせーを机に叩きつける。

 

「皆、聞いてくれ。今起きていることを説明する」

 

 そう言って烏間先生は説明を始める。

 

・生徒達が苦しんでいるのは人工的に作り出されたオリジナルのウイルスであること。

・治療薬は一種類のみで電話先の相手しか持っていない。

・治療薬は袋に入っている殺せんせーと交換でしか渡さないこと。

・交換場所は山頂にある"普久間殿上ホテル"の最上階。時間は1時間以内で最も背が低い男女(渚と茅野)に持ってこさせること。

・外部との連絡、時間が過ぎた場合は即座に治療薬は破壊する

 

「――という訳だ」

 

「…ひどい、誰なんですかこんなことする奴は!」

 

「…わからない」

 

「烏間さん!」

 

 防衛省の園川さんが烏間先生に報告する。どうやら政府としてホテルに連絡しても一切の情報は答えてくれなかったらしい。

 その理由を烏間先生が説明する。普久間島は通称"伏魔島"とも呼ばれ様々な世界の警察組織からマークされているらしい。山頂の普久間殿上ホテルだけは他の真っ当なホテルとは違い国内外のマフィア勢力、財界人らが出入りしていて政府としてもうかつに手が出せないとのこと。

 

「ふーん、そんなホテルがこっちに味方するわけないね」

 

「ど、どーすんすか!?俺達殺されるためにこの島に来たんじゃねーよ!」

 

「落ち着いて吉田君。そんな簡単に死なないから、じっくり対策考えてよ」

 

 原の言葉に吉田だけでなくE組全体が落ち着きを取り戻す。

 

「こんなやり方する奴等にムカついてしょうがねぇ。人のツレにまで手ェ出しやがって。要求なんざ全シカトだ!今すぐ全員都会の病院に運んで…」

 

「ダメだ寺坂。烏間先生の説明を聞くにおそらくあっちは監視カメラでこちらの様子を見ている」

 

 烏間先生は説明の中で治療薬は袋に入っている殺せんせーと交換でしか渡さないと言っていた。なぜ殺せんせーが袋に入ってると知っているのか。海岸で暗殺を行ってホテルのロビーにしか移動していないのでその短い距離でこちらの様子を把握したとは考えにくい。監視カメラが仕掛けられているとしか考えられない。

 

「南雲の言う通りだ、寺坂。僕は違う観点から賛成できない。もし本当に人工的に作った未知のウィルスなら対応できる薬はどんな病院にも置いていない。無駄足になれば患者の負担を増やすだけだ。対症療法で応急処置はしとくから急いで取引に行った方がいい」

 

「竹林…」

 

 打つ手がなく皆が固まっている。烏間先生は額に手を当て様々なことを考えているのだろうが良い案が出てきてないみたいだ。殺せんせーが動けるのなら手の打ちようがあるが俺達の暗殺が良い所まで行ったせいで身動きが取れなくなってしまっている。

 

「皆さん良い方法がありますよ」

 

「「「え」」」

 

「病院に逃げるよりおとなしく従うよりもです。律さんに頼んだ下調べも終わったようです。敵の意のままになりたくないなら手段はひとつ、動ける生徒全員でホテルに侵入し最上階を奇襲して治療薬を奪い取る!」

 

「ダメだ、危険すぎる。この手慣れた脅迫の手口は明らかにプロだ」

 

「ええ、しかも私は君達の安全を守れない。大人しく私を渡したほうが得策かもしれません。全ては君達と指揮官の烏間先生次第です」

 

「…烏間先生行きましょう」

「指揮はお願いしますね」

「キッチリ相手に落とし前をつけてやる」

 

 俺を始めとして動ける全員がホテルに行く意思を示す。烏間先生はそんな俺達を見てまだ迷っている様子だ。

 

「…見ての通り彼等は只の生徒ではない、ある種の特殊部隊です。さぁ、時間はないですよ?」

 

 殺せんせーの言葉に烏間先生は目を瞑り深く深呼吸をしたあとに目をカッと開き言葉を発する。

 

「注目!目標山頂ホテル最上階!隠密潜入から奇襲への連続ミッション!ハンドサインや連携については訓練のものをそのまま使う!いつもと違うのはターゲットのみ!3分でマップを頭に叩き込め!19時(ヒトキュー)50分(ゴーマル)作戦開始!」

 

「「「はい!!」」」

 

 

 

 

 各々が動きやすい服装に素早く着替えてホテルを出る。磯貝と烏間先生が全員が出るまで出口で待機してるが最後の一人は俺だった。

 

「南雲まだか?」

 

「いや、今行く。…おっと!」

 

 何もない場所で躓いてしまった。

 

「大丈夫か?南雲?」

 

「ああ、大丈夫だ……うわっ」

 

 立とうとするとまたしても足元が覚束ないのかよろけてしまった。それを見た磯貝と烏間先生は怪訝な表情に変わる。

 

「なあ南雲、お前もしかして…」

 

「いや大丈夫だ。熱は出てないし目眩も起こしていない」

 

「南雲君。ちょっと目を瞑って両足でその場に立つんだ」

 

 俺は言われるがままに目を瞑り両足を地面につける。すると頭がグラグラとしているのが自分でもわかった。倒れそうになったので目を開けバランスを保つと何かを察した表情の2人がいた。

 

「間違いない、感染している。能力が突出している君が来れないのは心許ないがここに残れ」

 

「…まじですか」

 

「南雲、俺達を信じてくれ。お前に及ばないにしろそれぞれのエキスパートがいるんだ。烏間先生もいるしきっと上手くいく」

 

「で、でも――」

 

「こうしている間にも君を含めた生徒みんなの病状は悪化していく。南雲君、わかってくれ」

 

「…わかりました。…磯貝頼んだぞ。みんなを守ってやってくれ」

 

「もちろん。烏間先生行きましょう」

 

「ああ。南雲君、君もロビーに戻って安静にしているんだ、決して無理はするんじゃないぞ。こちらに何か問題が起きた場合には必ず律さんから連絡がいくものと思ってくれ」

 

 俺は2人を見送ったあとしばらくその場から動かなかった。激しい自己嫌悪が襲ってくる。なんだよ、暗殺だけじゃなくクラスの皆が苦しんでいる状況でも俺は足手まといなのかよ。

 物を破壊したい衝動に刈られるが物に当たっても何も意味はない。目を瞑り深く息を吐き気持ちを切り替える。俺に今できることは何か。それを考える。個人差からか俺には高熱や目眩などは起きていない、ならば竹林、奥田と共にみんなの治療に当たるのが最適解か。

 出口から回れ右をして患者の下へと向かうと竹林と奥田が驚いた顔をして患者から離れて俺に近づいてくる。

 

「南雲、君は行かなかったのか?」

 

「ああ。俺は感染している」

 

「そんな!今すぐ休んでください」

 

「幸い重い症状はまだ表れていない。だから手伝わせてくれ」

 

「…わかった。でも体調が悪くなったらすぐに休んでくれ」

 

「ありがとう、竹林。それで俺は何をすればいい?」

 

「竹林君が男子を、私が女子を治療しているので南雲君は飲み水を持ってきてもらっていいですか?」

 

「わかった。すぐ持ってくる」

 

 奥田の指示を受け言われた通りに動く。いつもは自分から動かない竹林と奥田が率先して動いているのを見て俺はすごいなと思った。この緊急事態に自分に何ができるかを考え動いている、その姿勢がカッコいいなと思った。

 

「すみません、冷たい水をもらえますか?」

 

「ハイ、今すぐお持ちいたします」

 

 ホテルの従業員はすぐに裏に行くとペットボトルに入ったミネラルウォーターと氷がたくさん入った容器の2つを持ってきてくれた。従業員は運ぶのを手伝おうかと申し出てくれたが伝染(うつ)したら困るということで丁重に断ると何かできることがあったらすぐにお申し付けくださいと言ってくれた。俺は再度深く頭を下げ水と氷を運び、コップへと注ぎみんなに渡していく。

 

「南雲、一先ず君も休んでくれ」

 

「わかった竹林。何かあったらすぐに言ってくれ」

 

 言われた通りに俺も椅子に腰掛け水を飲む。幸いまだ熱などの症状は表れていない。その中で俺は考える。

 いったいこのウィルスはどこから感染したのだろうか。ホテルの食事というのは考えられない。なぜなら夕飯を食べずに動画を編集していた岡島と三村が感染しているからだ。…ダメだ、ヒントが圧倒的に足りない。それになんとなく頭が働かない。

 

「あっ純君だ…」

 

「倉橋、大丈夫か?感染してるんだから無理するな」

 

「純君は…感染してないの?みんなと一緒に潜入に行かないの?」

 

「俺は……俺はみんなの護衛を頼まれた。万が一ここに敵が来たら困るからって烏間先生から言われたんだ」

 

「えへへ。なら大丈夫だね…。純君はいつも守ってくれるから」

 

 倉橋が力なく笑ったのを見て俺は自分に対して怒りが湧いてきた。こうして信頼してもらえてるのに俺は何をしているんだ?肝心の暗殺では引き金を引けず、ウィルスに感染してみんなを助けに行くこともできない。

 頭を冷静に今一度俺にできることを考え直す。なにか、なにか必ずあるはずだ。ホテルの設備に何があったか、その設備はどのように利用できるか。南の島に来てからの会話の中にヒントはないか。

 思考の渦の中で1つの活路というか道が見えた。そのための障害は敵の監視カメラだ。

 そこで俺はある1つのことに気付く。監視しているならばクラスの他の者達が潜入しているのに気付くはずだがなぜ気付いていないのか。俺の中で導き出された答えは単純明快なものだった。設置したカメラの数が少ないから俺達全員の動きが把握できていないんだ。つまりカメラの位置と数、その映る範囲が特定できれば俺は行動することができる。ちょうどこちらにはその手伝いができる者が残っている。俺は席を立ち岡島に話しかける。

 

「岡島、おい岡島」

 

「…純一か。何でここにいるんだ?潜入は?」

 

「そんなことは後回しだ。ちょっと手伝ってもらいたいことがある。お前にしか頼めないことだ」

 

「…わかった。こんな状態の俺でもよかったら」

 

「すまん。手伝ってほしいのは監視カメラの発見とその視野角にについてだ」

 

「?、…とりあえず監視カメラを探せばいいんだな」

 

「ああ。歩くのが辛いなら俺に寄りかかれ」

 

「…わかった」

 

 岡島に肩を貸す形でロビーをぐるりと周り監視カメラが仕掛けてある可能性があるところを全て探す。すると1つだけ天井の照明のところに発見することができた。

 

「岡島、あのカメラはどれくらいの範囲映るかわかるか?」

 

「…普通のカメラだな。魚眼ではないから狭いアングルでおそらくそこからそこまでは映っていて音は拾っていないタイプだな」

 

 岡島は映る範囲を指で指し示す。

 

「了解、体調が悪いのにすまない」

 

「…いいんだ。それより純一何をするんだ?」

 

「まあお楽しみってことで。みんなには監視カメラの範囲に気を付けるようそれとなく言っておいてくれ」

 

 俺は岡島を元の場所へと運ぶと再度従業員のところへと行き、あるものを持ってきてほしいとお願いする。数分待つと頼んだものを持ってきてくれたので俺はお礼を言ってみんなの下へと向かって準備をする。

 

「南雲どうしたんだ?ギターなんて持って。体調は大丈夫なのか?」

 

「竹林はさ、音楽の力って信じるか?」

 

「音楽の力?」

 

「ああ。ジョン・レノンは音楽で平和を歌った。ある音楽がきっかけで戦争が一時的に休戦になった。胎教でも音楽が密接に関係があると言われている。つまり――」

 

「つまり?」

 

「ここで歌わなきゃ俺じゃねえ」

 

「全く話が繋がってないんだが…」

 

「みんなの苦痛を和らげるために俺がギターを弾いて歌うんだよ。みんなが苦しんでいるのを黙っては見てられない。だから俺はやる。オーケー?」

 

「…わかった」

 

 俺はギターのチューニングをする。そして準備完了。全員に聴こえるように出来るだけ中央で演奏をする。だがその前に――

 

「あーあー。みんな聴こえるか?」

 

 俺の声に俯いている者は顔をあげ、そうでないものは何をしているんだ?という不思議な顔でこちらを見ている。

 

「…純一?何するんだ?」

 

「これから弾き語りで歌うから出来る限り耳を傾けてくれ。そうすれば辛いのも多少は軽くなると思う。だから…俺を信じてくれ」

 

「…私は信じるよ。純君のこと」

 

「…何を歌うの?」

 

 神崎の質問に俺は出来る限りの笑顔で答える。

 

「楽しい気分にならなきゃ辛いものも和らがないからな。だからみんなが1度は耳にしたことがあって口ずさみたくなるような曲だ――」

 

 そう言って俺は演奏を始める。短いイントロから聴き覚えのある歌へと入っていく。

 

「…これビートルズだっけ?」

 

「CMで聴いたことあるな」

 

「…英語の発音きれい」

 

 みんなは口々に曲について言葉を発する。そしてサビへと入ると倉橋や前原が声は聞こえないが口をパクパクとさせて口ずさんでいるのがわかった。

 

 サビを歌い終えるとみんなが何の歌かわかったみたいだった。俺は思わずしたり顔になるが演奏と歌うことはやめない。曲を歌い終えるとまばらながらに拍手が送られる。

 

「今の曲は知ってる人も多いと思うがビートルズのOb-La-Di, Ob- La-Daだ。ちょっと解説すると市場に勤めるデズモンド・ジョーンズと、バンドで歌手をしているモリーが恋をして結婚する物語だ。ポップな感じで口ずさみやすいかなって思ったからこの歌をチョイスした」

 

「ギターも歌も上手いけど密かに練習してたの?」

 

「密かにってわけじゃないけど…まあ理由は全てが解決したら話すよ。次の曲も口ずさみたくなるようなものだ。それでは、『can't take my eyes off you』」

 

 俺の言った曲名にみんなは聞き覚えがあるようだった。でも日本で知られてる曲名は原題とは少し違う。

 『can't take my eyes off you』は日本では『君の瞳に恋してる』と和訳されている。原題をそのまま訳すと君から目が離せない、それを君の瞳に恋してると訳すのは洒落ているというか何だかロマンチックだなと感じる。

 曲の中盤辺りからだろうか、体温が上がっているのがハッキリとわかった。おそらくこれはテンションが上がってるからではなくウィルスの症状が表れてきてるからだ。だがここまで来たら関係ない、潜入してくれている皆が帰ってくるまで演奏を続かせてちょっとでも病人が楽に感じるようにするだけだ。そのためには体調不良を悟られてはならない。

 

「汗かいてきちゃったからちょっと水を飲ませてくれ」

 

 2曲目を終えると同時に水を飲む。体との温度差がかなりあるせいか氷を飲んでるように感じた。

 

「次からは一人一人のリクエストに応えていこうと思う。俺が知ってる曲だったら大丈夫だから…倉橋なにか弾いてほしい曲はあるか?」

 

「…えーとね、…『ベイビー・アイラブユー』が聴きたいな」

 

「TEEの曲だな、オーケー。確かに南の島にいるっぽいていうか海が見えるところってイメージの曲だな」

 

 指先の感覚はハッキリとしている。喉の調子も悪くない。いつもと違うのは体調が悪いということだけだ。みんなが戻ってくるまで意地でも弾き続けてやる。それこそが俺が敵に対して唯一できる抵抗だ。

 

 

 

 

 ~神崎視点~

 

 倉橋さんのリクエストを受けて南雲君は歌い始める。

 私は彼の夢を知っていたから他のみんなほど驚きはしなかったけど、自分が考えていた以上に夢に対して真摯に取り組んでいたんだなと別の意味で驚いた。

 彼が歌い始めてからは確かに体が少し軽くなったというか気が紛れてるように思う。いや、彼の歌は気が紛れるなどと形容してはいけないレベルのものだ。私は正直音楽には疎いがそんな私でもそのような印象を受ける。

 

 私は彼の声が好きだ。教室でもどこでも彼がいると思ったら彼の声を探してしまい、そして聞き入ってしまう。そのような状態や脳の働きのことをカクテルパーティー効果だということをビッチ先生が授業の中で話していた。

 でも彼の歌声は普段のものとは別次元のものであるかのようだった。耳を傾けずにはいられない、ずっと聴いていたいと思えるくらい惹き付けられるものがあった。

 

 彼は今ラブソングを歌っているが私の心は嬉しさよりも嫉妬の気持ちが勝っている。なぜなら倉橋さんのリクエストで彼がラブソングを歌っているからだ。

 この非常事態に現状晒されている問題よりも自身の恋愛事情を優先させてしまうだなんて自分は案外図太い人間だったんだなと思わず口許が緩んでしまう。

 クラスの皆が体を張って頑張ってくれているという事実を思ったら私の今の状態なんて大したことのないように思えた。せめて皆の頑張りに報いれるよう自分の意識は覚醒させ続けようと心に決めた。

 

 今私にできるのは南雲君の歌を聴くこと。どうか歌っている彼の意識の片隅にでも私がいてくれたら…そう思わずにいられなかった。

 




第0.4話で触れた南雲君の将来の夢についてやっと回収できました。本作を執筆する前から暗殺旅行はこうすると決めてたのである種の達成感を感じています。

詳細については次の話の本編にて触れるので割愛させていただきますが、なんかギター演奏して歌うとか突然じゃないかと感じた方のために解説させていただきますと、所々ヒントというか南雲君が音楽に携わっているとわかっていたら府に落ちる場面を各所に張り巡らせています。
いくつか挙げますと、

・第4話にてロックを一番聴くと言った南雲君に対して千葉君が『だと思った』と返す。
・飴を常備している描写が各所に存在。飴を舐めるのは喉が大事だから。
・音楽に関わる描写が各所に存在。

など色々あります。正直作者も把握しきれていませんが書いた当初はその事を意識して書きました。

その1でトロピカルジュースを飲んだ南雲君が感染したのを隠して寺坂君同様潜入すると思わせておいて潜入させませんでした。良い意味で読者の皆様を裏切りたかったのです。
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