暗殺教室 28+1   作:水野治

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あとオリジナルを1話やって夏休みが終わります。



第31話 陽の香る場所

 

 夏休み某日。俺が本日の待ち合わせ場所である駅に着くと既に今日行動を共にする4人の内の1人が見えたのでそちらに駆け寄る。

 

「よお千葉、一番乗り?」

 

「ああ。まだ誰も来てないよ」

 

「突然誘って悪かったな」

 

「いや大丈夫だ、ちょうど暇してたし。でも動物園なんて久しぶりだよ」

 

「俺も倉橋に誘われなかったら行くことなかったと思う」

 

「倉橋は南雲と2人で行くつもりだったんじゃないか?」

 

「なんか緊張するからとかなんとか送られてきたよ」

 

「倉橋は緊張とかそういうイメージないんだけどな」

 

「それで凛香も誘うって言ってたから俺も千葉を誘ったってわけよ」

 

「そういうことか。さすがの南雲も両手に花はダメだったか」

 

「思春期男子舐めんなよ。てか千葉も女子2人と出かけろって言われたらどうよ?」

 

「無理だな。ていうか考えられない」

 

「だろ?ところで思ったんだけど千葉って倉橋とか凛香とどんな話すんの?」

 

「うーん…倉橋とは話すというより相づちを打ってるって言った方が正しいかもしれない。速水とは前に一度だけ一緒に行動することがあったんだけどその時はお互い終始無言だったかな」

 

「凛香は口数多い方じゃないからなー」

 

「南雲はどんな内容話すんだ?」

 

「俺?俺はなんか思い付いた話題を出して話す感じかな。凛香とは無言になるときもあるけど無言が苦にならないというか。2人きりになって話がなくて気まずいときの魔法の言葉あるけど…聞く?」

 

「聞きたい」

 

「2人きりに無言で気まずくなった場合って恐らくこっちだけじゃなくて相手側もそう感じてると思うんだよ。だから一言『こういうとき何話したらいいか困らない?』って言ったら自分も相手も楽になるってわけよ」

 

「あー確かに。相手が自分と同じく思ってたんだって安心するな。南雲はそれを中学生にして編み出したのか?」

 

「いや父さんの受け売りだよ。…あっ倉橋と凛香来た」

 

 千葉とベンチに座りながら駄弁っていると残りの2人が到着した。今日はこの4人で動物園に行く。

 

「純君、千葉ちゃんおは~」

 

「二人共おはよう」

 

「おは~」

 

「おはよう」

 

「ごめんね、遅くなって」

 

「時間に遅れてないから大丈夫でしょ。なんなら一番早かったの千葉だし」

 

「千葉なんだ。意外」

 

「何分前に着けば正解かがわからなかったから」

 

「それあるよね~。よしそれじゃあ動物園に行こっか!」

 

「列車だっけ?」

 

「うん!下調べはバッチリだから安心して!」

 

「私が動物園のシャトルバスに気付かなかったら目的地の駅から歩いてたけどね」

 

「凛香ちゃんそれは内緒にしてって言ったでしょ~」

 

 券売機で切符を買い改札を通り列車へと乗り込む。子供の時以来動物園には行ってなかったので柄にもなく心を弾ませていた。

 

 

 

 

「本当に今日快晴でよかったね!」

 

「これでちょっとくらい風があったら最高だったんだけどな」

 

「それは俺も思う」

 

「私はスカートだからないほうがいいかな」

 

 凛香が私服着ると女の子らしさグッと増すよねって言おうとしたが、おそらくそれを口にすると平手打ちが飛ぶことが予想されるので口には出さない。

 俺達4人は入場料を払い、現在は動物園入り口にあるデカイ案内図の前に立っている。

 

「ここって何の動物いるの?」

 

「レッサーパンダとかいるよ!」

 

「猫は?」

 

「ネコ科のコーナーがあってチーターとかいるよ~」

 

「だってさ凛香。ネコ科はどうだ?」

 

「…いいんじゃない?」

 

「速水って猫好きなのか?」

 

「他の動物と比べたら一番かな」

 

「素直に好きって言えばいいのに」

 

「ね~」

 

「…まあ、好きだよ」

 

「ふーん、そうなのか」

 

「じゃあまずはネコ科が集まってる場所から回るか?」

 

「いいの?」

 

「いいよ~」

 

「俺も速水が行きたいのでいいぞ」

 

「じゃあ行くか。それでネコ科の場所はどっちだ?」

 

 案内図を見るとここからさほど離れてないところにあることがわかったので向かう。

 

「13時過ぎからイルカのショーあるから見たい!」

 

「いいよ。男子2人もいいよね?」

 

「「うん」」

 

「純君と千葉ちゃんはどこか見たいところないの?」

 

「俺はデカイ動物が見たい」

 

「純一なんか子供みたい」

 

「子供のときは大きく感じたけど今はどう感じるかなって思ったんだよ」

 

「俺は…鳥かな」

 

「千葉は鳥か。どうして?」

 

「うーん…なんとなく?」

 

「なんとなくかい。まあでも千葉って鳥っぽいな、鷹っていうの?そんな感じ」

 

「あーわかる」

 

「鷹か。初めて言われたよ」

 

「能ある鷹は爪を隠すっていうし千葉ちゃんにピッタリだよ!」

 

「あ、ありがとう」

 

 褒められ慣れてないのか千葉が少し照れている。

 

「動物で例えたらみんなは何になるんだろうな」

 

「じゃあ鳥でみんなを例えてみよっか!」

 

「凛香は…なんだろうな。飛んでるっていうよりは地に脚が着いてる鳥って感じだな」

 

「あっそれちょっとわかる」

 

「どういう意味?」

 

「いや悪い意味ではない。孔雀とか?」

 

「凛香ちゃんはヘビクイワシ!」

 

「「ヘビクイワシ?」」

 

「うん。……こういう鳥だよ」

 

 倉橋が手慣れた操作でスマホを操作しこちらに見せてくる。

 

「あースレンダーな感じが凛香っぽい」

 

「なんか堂々してるしな」

 

「…ありがとう」

 

「ヘビクイワシは地球上で最も美しい生物って言われてるんだよ」

 

「「へぇ~」」

 

「そうなんだ」

 

「あっ満更でもない顔になった」

 

「私はいいから次いこ。倉橋はなんの鳥?」

 

「なんだろう…愛玩系?」

 

「ほら、あれ…冬場の雀。あの丸っとして可愛くなってるやつ」

 

「あーわかる」

 

「可愛いか~、えへへ」

 

「私は倉橋は鳥の雛って感じかな」

 

「陽菜乃だけに?」

 

「ただの偶然だから」

 

「じゃあ南雲は?」

 

「うーん…」

 

「なんだろう…」

 

 必要以上に頭を悩ます3人、ちなみに自分でも全く思い付かない。

 

「いや、そんなに真剣にならんでも。目的地着いたぞ?」

 

「動物園にいる間に思いつけばいいな」

 

「まあ期待しておく。ほら凛香、猫だぞ」

 

「ネコ科ね。…可愛い」

 

「猫可愛いね~」

 

「チーターってなんかドヤ顔してるみたいだな」

 

「俺には勇敢な顔に見える」

 

「見方の相違だな」

 

「だな」

 

「もっと可愛いとかないの?」

 

「可愛い上でドヤ顔だな」

 

「それ付け足しただけじゃない?」

 

「まあまあ凛香ちゃん。次行こー!」

 

 そこから4人でネコ科のコーナーをグルッと一回りした。俺は色々な種類の動物を見ながらイヌ科とかネコ科はどうやって区別してるんだろうかと考えていた。なんだろう、見た目か?

 

「ふぅ、満足」

 

「次行く前に休憩するか?昼飯もどこかで食べなきゃだし」

 

「そうだね~。2人もいいかな?」

 

 千葉と凛香の2人は無言で頷く。

 

「えっと、案内図はどこだ…っと」

 

「南雲、マップをさっき回収しておいたから手元にあるぞ」

 

「おっナイス千葉。どれどれ」

 

「いくつか休憩場所みたいなのあるな」

 

「俺はどこでもいいけど」

 

「じゃあ一番近いところにする?」

 

「そうだね~」

 

「えーと場所は……見えてるな」

 

「見えてるね」

 

「純一はボケてるの?それとも素?」

 

「今のは素だよ」

 

「もっとわかりやすくボケたら?ボケてるときだけ挙手するとか」

 

「ボケてるっていうよりそれやったらただのバカじゃないか?」

 

「そう?名案だと思ったんだけど」

 

 ひょっとして今のは凛香なりのボケだったのか?

 

「とうちゃーく!」

 

「先にとりあえず席確保しよ」

 

「じゃあ俺確保しとくから食べるもの選んできていいよ。俺の分は何でもいいから」

 

「何でも?嫌いなものとかってある?」

 

「ポテトサラダの中の玉ねぎ」

 

「たぶんそれはないだろうから大丈夫だな。じゃあ席は任せた」

 

「飲み物は持ってきてるから買わなくていいよ」

 

 俺の言葉に3人は頷き販売場所へと向かう。席を探そうとしたが別にその必要はなかった、そこそこに空いていたからだ。とは行っても急に人が来たら席がなくなる可能性もあったので座って3人を待つこととした。

 待ってる間にそういえば写真を全然撮っていないことに気づく。ここの動物園は写真の撮影自体は禁止しておらずフラッシュに関して禁止しているのみなので普通に撮影する分には問題ないだろう。ということで午後からは午前分も撮ることにしよう。

 

「ここにいたんだ~」

 

「あっ場所を連絡し忘れてた」

 

「いやあんまり混んでないしすぐに見つけられたから大丈夫だ」

 

「それならよかった。それでいくらだった?」

 

「600円」

 

 俺の問いに千葉が答えたのできっちりと金額分を支払う。買ってきたのはホットドッグとサンドイッチだった。

 

「お手軽な感じでいいな。他には何があったの?」

 

「カレーかな」

 

「へぇ~。他には?」

 

「がっつり系はカレーだけで他は細々としたのだったよ」

 

 腹持ちで言ったらカレーが一番なんだろうが匂いがな。もし食べようものならその後はカレーの香ばしい匂いと行動を共にしなければならないから選択肢には入らないなと思った。他の3人も当然のようにカレーは選んでいない。

 

「じゃあいただきます」

 

「「いただきます」」

 

 号令をかけたわけではないが図らずも声が被ってしまった。

 食べてる最中は互いに何を言うわけでもなく黙々と食べていた。たまに倉橋が凛香に一口頂戴と言うのみであとは無言、だが嫌な感じの無言ではなく心地の良い雰囲気だった。

 

「おいしかった~」

 

「そうだね。こういうところの食事も捨てたもんじゃないね」

 

「場所によってはもっと力を入れてるところもあるらしいよ」

 

「へぇ~」

 

「私ちょっとお手洗いに行ってくるね」

 

「あっ私も~」

 

「行ってらっしゃい」

 

 残された男2人。飲み物を飲んだあとにリフレッシュがしたかったためミント味のタブレットを2粒ほど口にする。千葉にもいるか聞くといると答えたため2粒あげると同じく口に含む。

 

「そういえばさっきポテトサラダの玉ねぎが嫌いって言ってたけど生の玉ねぎがダメなのか?」

 

「うーん…そうだな、苦手かも」

 

「かもってことは食べれるのか?」

 

「食べようと思えば食べれるけど…まず玉ねぎを生で食べる機会ってそんななくないか?サラダ以外で」

 

「たしかに」

 

「ポテサラの味に生の玉ねぎ感が広がるのがダメなんだ。あと見た目では入ってるようには見えないから思い切って一口でいこうと思って口にしたら生の玉ねぎのザクッとした食感と共にあの玉ねぎの風味よ、むしろ食べられる方がすごいと思うけどな」

 

「俺食べられるけど」

 

「まじ?コンビニ弁当とかのポテサラも?」

 

「うん」

 

「今後俺のポテサラを千葉が食べることに決まった瞬間だった」

 

「なに言ってんだよ」

 

 そう言って口許を綻ばせる千葉。

 

「いやいやまじで。適材適所ってやつだよ」

 

「そんな都合の良い適材適所聞いたことないぞ」

 

「細かいことは気にすんな」

 

「…まあ別に食べても良いけどさ」

 

「てんきゅ」

 

「なんか動物豆知識ないのか?いつも教室とかで結構小ネタとか話してるイメージなんだけど」

 

「動物豆知識か~。なんかあっかな」

 

 千葉に言われ俺は頭を働かせる。本などで得た情報の中で面白いものはないか記憶を呼び起こす。

 

「あー1つだけ思い出した」

 

「おっじゃあ頼む」

 

「いいけど…聞かなきゃよかったとか言うなよ?」

 

「えっ。カバは実は凶暴とかそういうの?」

 

「いやそれとはベクトル違うんだけど…レッサーパンダっているじゃん?この動物園にもいるけどさ」

 

「あーいるな。それがどうしたんだ?」

 

「一時ニュースで立って歩くレッサーパンダが話題になったじゃん?でもレッサーパンダって普通に立つらしいぞ」

 

「そうなの?」

 

「ああ。威嚇や警戒をするときに尻尾を器用に使って立つらしい」

 

「へぇ~。でも別に聞かなくてよかったとはならないな」

 

「レッサーパンダの見方が変わるとか言われても困るからな。まあつまり、レッサーパンダは客寄せとかのために人間に立つのが珍しい動物っていうレッテルを張られた可哀想な動物なんだよ。本当はそんなことないのに」

 

「まるで俺みたいだな」

 

 目元が見えないから直接はわからないが、千葉が昔を思い出して遠い目をしてる気がした。

 

「俺も『あいつだったら大丈夫だろう』とか勝手な信頼押し付けられたりしてさ、わからない問題があっても周りには聞きづらいし先生とも上手くコミュニケーション取れてなかったし。それで結局成績が落ちてE組落ちだよ」

 

「でも今はそんなことないんだろ?そんな顔をしてるぞ」

 

「ああ。ここではそのプレッシャーを共有できる仲間がいるし、何より殺せんせーがいる」

 

「そうだな」

 

「……俺さ、心のどこかで南雲は完璧超人だと思ってたんだ」

 

「そんなことないだろ」

 

 千葉の突然の言葉に思わず苦笑いをしてしまう。

 

「模擬戦闘ではトップクラスだし、射撃の成績も俺に次いで良いし」

 

「まあ、うん」

 

「でもリゾートでの暗殺のときに改めて確認できたんだ、南雲も俺達と同じ中学生なんだって。だからさ、もっと俺達を頼ってくれよ。お前が頼ってくれないと俺達も南雲を頼れないんだよ」

 

 この言葉は恐らく俺にずっと言おうと思っていたんだなと思わせるくらいに普段の千葉からは想像もつかないほど流暢に発せられたその言葉は、俺の心にスッと入っていった。

 

「…ああ、もちろんだ。千葉も困ったら…いやそうでなくても誰かを頼れよ」

 

「…そうするよ」

 

 真面目な話はここで打ち切るという意思表示のために不必要なくらいにハッキリと話題を転換させる。

 

「ところで、凛香たち帰ってくるのも遅いし勝手に次に行くところ決めておくか」

 

「そうだな。たしかデカイ動物が見たいんだっけ?」

 

「そうなんだけど…13時からイルカを見るはずだからその前に回りやすい場所から行くべきかな」

 

「あーたしかに。じゃあなんかイルカの場所向かう途中に流れでって感じの方がいいかな」

 

「それでいこう」

 

 

 

 

 ~速水視点~

 

 

「ご飯美味しかったね~」

 

「そうだね」

 

 お手洗いという名のお色直しに行った私達は男子がいない神聖なところで身だしなみを整えていた。

 

「倉橋から誘われたときは突然だったからビックリしたよ」

 

「…うん、凛香ちゃんと有希ちゃんは誘わないとダメだと思ったから。残念ながら有希ちゃんは予定があって来れなかったけど」

 

 いきなり倉橋の口から有希子の名前が出てきたので思わず心臓が跳ねてしまった。たぶん表情の変化は悟られていないと思う。だけど、私は倉橋が誘ってきた理由をなんとなく察していた。察していたけど面と向かって言われるとは思っていなかった。

 

「倉橋は…純一と2人きりじゃなくてよかったの?」

 

「本当は2人きりがよかったけど…抜け駆けみたいでズルい気がしたから。だから声をかけたんだ」

 

 倉橋のまっすぐさに心臓を掴まれたような感覚になった。私が純一に秘密裏に送ったプレゼントがバレているのではないかと思った。

 

「私ね…純君のことが好き。大好き。……凛香ちゃんも…そうなんだよね?」

 

 まるで本人に告白しているかのように顔を少し赤らめ上目遣いに私を見る倉橋が、…彼女が私が願ってもなれない存在に思えた。

 互いに純一に気があるということは一度も話したことがない。けれど何となくわかっていた。それは有希子にも同じことが言えた。

 

「…うん。私も純一のことが好きだよ」

 

「…やっぱりそうだよね。うん、そうだと思った」

 

 倉橋は何か納得したような表情になってからまたいつもの笑顔に戻って言葉を続けた。

 

「同じ人を好きになっても…私達友達だよね?…上辺だけじゃなくて、心の底からそう思える」

 

「うん、もちろん」

 

「……よかったぁ」

 

 力が抜けたような顔で笑う彼女を見て私も思わず笑みがこぼれた。すると倉橋は今までできなかったことを許された子供のようにはしゃいで身を乗り出して質問をぶつけてきた。

 

「ねぇ凛香ちゃんは純君のこと好きなの?」

 

「私は…気づいたらかな」

 

「そっか~。私はね――」

 

「鷹岡から助けてもらったときから、でしょ?」

 

「え、え~!なんでわかったの!?」

 

「わかるも何も倉橋に関しては端から見ててもわかるよ」

 

「純君も気付いてるかな?大丈夫かな?」

 

「さあ?純一は鈍くもないと思うけど…わからないかな」

 

「うーん…でも仮に私の気持ちに気付いてて一緒に遊んでくれるってことは好印象を持たれてるってことだよね?」

 

「ふふっそうだと思うよ」

 

「よーし、これからも頑張ろう!凛香ちゃんも頑張ろうね?」

 

「そうだね」

 

「じゃあ戻ろっか!純君と千葉君待たせちゃってるし」

 

「あの2人は待たせても大丈夫なタイプだと思うよ、きっと」

 

 私が読んだことのある少女漫画では、友達と好きな人が被ったら仲違いをすることがほとんどだった。でも私達は前よりも本音で話せる関係に進展したように感じ、なんだかそのことが純一と一緒にいることよりも嬉しく思えた。そんな風に感じる私はきっと、恋する乙女失格なのかもしれない。

 

 

 

 

 ~南雲視点~

 

 妙に機嫌が良い凛香達が戻ってきたあとは千葉と話した通りにイルカの場所に向かう流れで色々な動物を見た。図鑑でしか見たことのないものだったり、デジャブのように昔見た記憶があるものだったり様々な感情が押し寄せた。

 イルカショーも恙無く終わり、現在は俺が当初見たいと話していたデカイ動物ことキリンがいる場所に向かっている。

 

「イルカと飼育員のお姉さんの息ピッタリだったね~」

 

「予想以上に頭よかったなイルカ」

 

「カルマだったら寺坂より頭が良いとか言いそうだけどな」

 

「たしかに」

 

「寺坂が聞いたら怒りそう」

 

「いつもちょっと反論するだけだけどね」

 

「あっキリン見えてきたね」

 

「本当だ」

 

 話に夢中になっていると目的地に着いたらしい。自分達が立っている場所より低い囲いのような場所にいるのに俺達より少し高い位置にキリンの顔があることから、いかに俺達と比べてデカイ存在なのだということを実感させられた。俺が少し言葉を失っていると横にいる女子2人が感嘆の声を漏らしていた。

 

「恐竜とかも目の前にいたらこれくらいデカイのかな~」

 

「自分が思ってたよりでかくてびっくり」

 

「どうだ南雲、感想は?」

 

「デカイとしか言えねえ」

 

「あはは、もっと他にないの?」

 

「他に?…えーと、キリンの柄で四色問題出来そうだなって」

 

「あーたしかにできそう」

 

「「四色問題?」」

 

 数学に強い千葉とは対照的に頭を傾げる女子2人。

 

「そう。隣接する領域が異なる色になるように塗り分けるには4色あれば十分っていう数学の定理なんだけど…簡単に言ったら同じ色が隣にならないようにすればいいってこと」

 

「そんなのあるんだ~」

 

「キリン見てそれ思い付くって純一ちょっと疲れてるんじゃない?大丈夫?」

 

「なんで素直な感想を言ったのに心配されてるんだよ」

 

「だって…ね?」

 

「俺もちょっとだけ速水と同じこと思った」

 

「千葉、お前もか。…まあ言葉を失うくらいにはデカイことにビックリしたよ」

 

「そうだね、本当にデカくてビックリ」

 

 そう言って再度キリンを見上げる俺達。小学校や公園の遊具は大きくなった今目の前にするとこんなにも小さかったのかと驚きを隠せないが、キリンなどの大きなものはそれを感じさせない。

 

「そろそろ次行こっか」

 

「そうだな」

 

 そこからは動物園を隅々まで回った。レッサーパンダはもちろん日本にはいない動物も見た。

 昔見た動物が結構いたが、日常とはかけ離れた環境ということもあってか目に映る全部が新鮮に感じられた。その感覚がなんだか子供のときに戻ったみたいでくすぐったかった。

 気がつくと時間は人によっては夕方と言ってしまうくらいのものとなっていた。誰が言い出すでもなく今日が終わる雰囲気が流れている。

 

「今日楽しかったね!」

 

「そうだな、倉橋誘ってくれてありがと」

 

「みんな楽しんでる様子だったし誘ってよかった!今度はまた別のとこ行こうね!」

 

 倉橋の言葉に俺を含めた3人は頷く。

 

「じゃあ帰るか」

 

「ないとは思うけど落とし物とかないよね?」

 

「たぶんない」

 

「俺も」

 

「私も~」

 

「そう、よかった」

 

「凛香も大丈夫か?」

 

「私は大丈夫」

 

「よし、ならバスに乗るか」

 

 バスに乗り込むとまもなく出発した。俺はだんだんと遠ざかる動物園を見ながら残りの人生であと何回動物園に来る機会があるのだろうかとセンチメンタルなことを考えていた。

 

 

――

 

 

「悪い、ちょっとコンビニ寄っていい?」

 

「大丈夫だよ~」

 

 駅に着くと同時にコンビニが目に入ったおかげで買わなければいけない物を思い出した。

 俺は3人を外に待たせてコンビニに入ると他の商品には目もくれず目的の物を手に取ると素早くレジに向かう。幸いレジは空いていたので会計もすぐに終わり、過去最速と思われるほどの買い物スピードを記録したなと心の中で思った。

 

「目的の物なかったの?」

 

「あったよ、ほら」

 

「…リップって。それにしても早すぎない?」

 

「待たせたら悪いから最短を心がけた」

 

「カラスの行水みたいだな。本来の使い方とは違うけど」

 

「「あ~」」

 

 千葉の言葉に女子2人は納得したように相槌を打つ。

 

「動物園で純一の例えだけ出なかったけどカラスでいいんじゃない?頭いいし」

 

「カラスって…。素直に喜べないのはどうしてだろう」

 

「え~カラス可愛いよ?」

 

「倉橋、そういう問題じゃあない」

 

「とりあえず南雲は暫定カラスっていうことで。とりあえず列車に乗り遅れるから行こう」

 

「そうだね」

 

 釈然としないものがあるが嫌というわけではないので、まあ…いいかといった感じで納得してしまった。もっと俺に合う鳥がいると思うんだが。

 

「…俺にとっては油揚げをさらっていった鳶かな」

 

「ん?千葉なんか言ったか?」

 

「いや、何でもないよ」

 

 列車に乗り込み席に座ると歩き疲れたせいか目を開けるのが辛くなってきた。横を見ると千葉はわからないが倉橋と凛香も眠そうに見えた。間もなく全員寝るだろうという希望的観測のもと俺は目を瞑った。意識がなくなる最中、写真を全然撮ってないことに気づいた。記録より記憶に残る一日だったということでいいだろうと自分に対して言い訳をしながら夢の中へ旅立った。




GWが終わって次の祝日いつかなとカレンダーを見ると7月の海の日までなくて思わず溜め息が出ました。
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