莉桜との関係が回復したのは金曜日だったので土日に休み週明けの月曜日に登校すると、何やら教室が騒がしかった。誰が騒いでるのかと思い教室の戸を開けると騒がしさの中心にいたのは莉桜だった。おはようと声をかけるとおはよーとアホっぽい感じで返事が返ってきた。
先日まで比較的大人しかった莉桜が元気になったのもやっぱり心のつっかえが取れたからだろうとうんうんと納得しながら席に向かうと急に制服が引っ張られた。てめーと振り返るとやはり犯人は莉桜だ。
「莉桜、制服を強く引っ張るんじゃあない。服が破けちゃうだろうが」
「そんなに簡単に破けるわけないじゃない」
俺の一言に不破が、あっジョジョと進撃だと小声で言った。さすが自己紹介のときに漫画が大好きと言ってただけはある。
「そんなことよりあんたは渚の性別どっちだと思う?男か、それとも女か!」
「いや、どう考えても男だろう。確かに可愛い顔はしてるがズボン履いてるし」
「…その言い方だとズボンじゃなかったら女ってことになるけど」
ふとスカートを履いた渚を想像してみる。うん、これは…
「女だ、間違いないね」
「ちょっと!南雲君!」
「悪いな、渚。お前の可愛さが眩しくて俺は庇うことが出来そうもない」
そう言って渚に親指をたて今度こそ席に向かう。鞄を開けて忘れ物がないかを確認していると神崎がおはようと話しかけてきた。
「おはよ、神崎。俺に話しかけるなんて珍しいな」
「うん、昨日せっかく仲良くなったしね。あと凛香ちゃんから南雲君も結構本を読むって聞いたからもっと仲良くなってどんなの読んでるのかなって聞きたくて」
「ああ、なるほど。俺はわりと幅広く読んでるよ。エッセイからミステリーまで」
神崎がクスっと笑った。うーむ、可愛い。 笑った理由を尋ねると、
「本を読む幅でエッセイって言う人始めてだったから面白くて」
なんだ、そんなことかと俺も笑った。それでと神崎は話を続ける。
「今は何か読んでたりするの?」
「今は…これだな」
と、言い俺は鞄から本を取り出す。
俺の今読んでいる小説は読書家でなくてもおそらく子供のときなどに耳にしたり、あるいは絵本を読んだりなどして絶対に目にしたことあるものだ。
「オズの魔法使いだね、話が分かりやすくておもしろいよね」
「そうなんだよ、だからこそ絵本だったり人形劇だったりで幅広い年齢層に受けてるんだろうな。俺も正直絵本でしか知らなかったから小説を読んで懐かしく感じることもあったり新しい発見があって面白いんだよ」
「へぇ~、読み終わったら今度貸してもらっていいかな?」
「おう、いいぞ。じゃあ神崎もなんかオススメあったら貸してくれ」
「ふふっ、南雲君が満足する一冊があるかな?」
「読書家の神崎のオススメなんだから間違いないだろ」
それじゃあ約束だよと神崎は笑顔で小さく手を振って自分の席に戻っていった。本の話なんて誰かとすることがあまりないから楽しかったなと思った。漫画だったら前原とかと話すことが結構多いんだけど。
さて本でも読むかと開こうとしたら、岡島がオイオイオイオイと俺の下へと来た。お前は露伴先生か。
「純一ひょっとして中村と仲直りしたのか?」
「いや、別に喧嘩してたわけではないからな?昨日の帰りに話をして関係が回復したよ」
「いやーよかったよ。小学生のときの大人しさはどこへやらだが元気になったからな」
「そうだよな、女の子はやっぱり笑顔じゃなきゃな」
俺がそういうと前原にいきなり肩をポンと叩かれ、わかってるじゃないかと言われた。やかましいわと俺は前原に軽くパンチし会話を始めた。どうやら前原は片岡以外のE組全女子に声をかけたが玉砕したらしい。ざまあみろ。
話していると教室の戸が開いてみんなおはようと笑顔で雪村先生が入ってきた。みんなはおはようございますと返したとき、先生は騒がしくしている莉桜を見たあとに俺を見てきた。
俺は報告代わりに笑顔のVサインで応えた。それを見た雪村先生もVサインを返してくれた。前原はお前もしかして雪村先生とデキてるのかと嘆き、岡島はあの2つの大きな夢はお前のものだったのかと崩れ落ちていた。
前原はまだいいとして岡島、お前はぼかして言ったつもりかもしれないけど周りの女子がドン引きしてるからね。仲間と思われたくないから離れてくれない?俺の願いが通じたのかは別として始業のチャイムが鳴りそうなので二人は自分の席へと戻っていった。
チャイムが鳴ると起立して改めておはようございますと挨拶をする。今日も頑張りますかと心の中で呟き、一時間目の準備を始めた。
*
SHRが終わると雪村先生は両手をパンと叩き、素晴らしい提案をするかのように言った。
「みんなある程度クラスに馴染んできたと思うので今日は席替えをしようと思います!」
素晴らしい提案をするかのようにと言ったが素晴らしい提案そのものだった。
E組の現在の座席は出席番号順で廊下側から縦に数えて奇数列が男子、偶数列が女子となっている。俺の席は3列目の一番後ろで男子と女子の人数の関係で俺の両隣は誰もいない。これが中々に寂しかった。普段は良いのだが授業中に何となく暇になったときなどにどうしようもできないのだ。小声で話すことも出来なければ、イタズラもできない。そんな小さな不満持っていたからこそこの席替えは非常に嬉しかった。
雪村先生が席替えの説明をしていた。女子の人数が少ないことで不人気の前側の席になる可能性が高いことから女子の座席全てに番号を振り出なかったところを空席とすると説明をした。
いや、そこは別に重要ではない。とにかく俺の隣に誰かが来てくれればそれでいい。そんなことを考えていると左斜め前に座っている凛香が俺の方を向いて、隣になれるといいねと小声で言ってきた。そんなことを可愛い女子に言われたら舞い上がっちゃうだろ。俺は凛香の言葉に笑顔でそうだなと返した。凛香は照れたのか顔を赤くしてすぐに前を向き直した。
くじを引く順番は男女それぞれの出席番号の頭とケツがじゃんけんで決めるみたいだ。男子は磯貝と吉田が、女子は岡野と矢田がじゃんけんをした。じゃんけんの結果男女ともに番号が若い方から引いてくことになったが、俺は番号が中間らへんなのであまり変わらないなと思いながらくじが回ってくるのを待っていた。
――
「何も変わらないじゃあないか…」
俺はそうぼやいた。席の位置が変わらなければ、両隣には誰もいない。ちなみに凛香は前までの席の一個前に移動とあまり変わっていない。
席替えの移動も終わって各々準備をしていると俺の前の席となった千葉が小さくよろしくと言ったので、俺もよろしくと返した。
午前の授業が終わり、みんなは昼食の準備をしている。なにやら雪村先生に矢田と倉橋は何かを聞いていた。まあ、大方授業でわからないことでもあったんだろうと思い準備をする。
今日は前原と岡島、そして磯貝という男のメンバーで昼食をとる。岡島が下の方向に暴走しないようにだけ気をつけようと俺は3人のところへと弁当片手に行った。
*
今は弁当を食べながら3人の話を聞いている。磯貝は自己紹介で感じた通り、話の随所にイケメンらしさが見える。テニス部だったらしく今度一緒にやろうぜと誘われたのでありがたく誘われておいた。
そのまま話をしていると片岡と倉橋と矢田の女子3人が磯貝の下へと来て片岡が話しを始めた。
「磯貝君ちょっといい?」
「片岡さん、どうしたの?」
「倉橋さんと矢田さんが雪村先生に旧校舎の前にある花壇を整備して花を植えていいかって聞いたら了承を得たから男子の学級委員の磯貝君にも言っておこうかと思って」
「そういうことか、じゃあ手伝うよ!」
イケメンな委員長は快諾し、その場でクラス全体に放課後に花壇の整備をするから手伝ってくれないかと呼びかけた。半分くらいのクラスメートがいいよーとそれに応える。スムーズに快諾するのもそうだが、クラスに呼び掛ける姿は正にイケメン。俺の中での磯貝のあだ名は"椚ヶ丘のジュノンボーイ"に決定した瞬間だった。
女子三人がありがとうと手を振って戻っていくのに手を振り返す磯貝。それを見た俺はここだけ少女漫画の世界かなって思った。
磯貝はお前らは放課後大丈夫?と聞いてきたので俺と岡島は大丈夫と返した。しかし前原はすまんと両手を合わせて謝ってきた。
「今日は他校の女子とカラオケに行く約束があるんだ!だから手伝えない!」
「そっか、お前らしいな」
そう苦笑いする姿も絵になる男、磯貝。お前の爪の垢を煎じて煩悩の岡島とチャラ男の前原に飲ましてやりたいと思った。あるいは磯貝の切った爪を瓶にいれて保管すればいいのに。…吉良かよとセルフツッコミを入れていると友人と渚にキャッチボールに誘われた。俺はいいよと昼食を共にした3人に一言言ってから準備を始めた。なんでも旧校舎の用具室に野球道具が一式置いてあったらしい。
*
放課後俺たちは腕捲りをしたり男子は制服のズボンを折り畳んで動きやすい服装を作って花壇に集まった。雪村先生は花壇の整備道具と花の種を持ってきてくれた。用事があって手伝えないのと謝っていたが、みんなは大丈夫だよとか準備してくれただけでもありがとうございますなど言っていた。先生は頑張ってね、水やりとかは率先して手伝うからと帰っていった。
集まったメンバーは出席番号順に、
男子は磯貝、岡島、木村、渚、友人、千葉、俺
女子は奥田、片岡、神崎、倉橋、莉桜、凛香、不破、矢田の計14人だ。
磯貝がさて、と口を開く。
「さっそく整備するか。ところでちゃんとした花の植え方とか知ってる人いる?」
磯貝の問いに倉橋がハイハーイと元気よく手を挙げた。それに矢田も小さく手を挙げていた。
「いきもの好きだし、花も好きだから詳しいよ~」
「私は小学生のときに花壇のお世話係だったから…陽菜ちゃんほど詳しくないけど…」
倉橋と比べて矢田は控えめに言っていたが知識が0なのと多少経験してるのは雲泥の差だ。磯貝も同じことを思ったのか矢田に頼りにするよと言っていた。
倉橋がみんなにやり方を説明し、片岡がそれぞれに役割を振って整備がスタートした。俺の仕事は土作り。土の状態が良いらしいのでフカフカにして肥料だかを加えるだけでいいらしい。
詳しいやり方についてははあまり説明していなかったので、とりあえず野球のグラウンド整備と同じ要領でやったら倉橋からちがーう!とツッコミが入った。それを見た友人は危なく注意されるところだったと胸を撫で下ろしていた。ただ倉橋さん、やり方の説明をするときに俺に抱きつくような指導は中学男子である俺には刺激が強いのでやめてもらっていいですか?それを見た岡島がけしからんとか言ってるし、周りの女子引いてるじゃん。お前はもっと女子がいる前では煩悩を隠せよと思った。
――
作業がほぼ終わりに近づいたので俺は休みながら種を蒔いてるクラスメートを見ていた。花壇の看板作りをしていた千葉も休んでいたので俺は千葉にようお疲れと話しかけた。
「イメージ的に千葉が花壇の手伝いにくるとは思わなかったからビックリしたよ」
「…まあ俺も花が特別好きって訳じゃないから」
「へー、じゃあどうしてだ?」
「…俺は将来建築士になりたいから。設計するだけじゃなく外観にも拘る必要があるだろ?…庭が欲しいっていう家庭もあるだろうから」
だからかと俺は思った。手伝いに来た理由を聞いただけなのに将来の夢を言われたから俺は驚いた。俺なんかに夢なんて話してよかったのかと聞くと千葉は少し考えたのか間を開けてから答えた。
「…南雲は何となくただ生きてるだけじゃなくてやりたいこととか目標がある気がして。…なんかそんな感じがしただけだから間違ってたら申し訳ないけど」
「バレたか。誰にも言ってないけど…、千葉が将来を言ったから俺も言おうじゃあないか」
俺は自分の夢を千葉に教えた。千葉の目は前髪に隠れて見えなかったけど、たぶん見開いたと思う。
そりゃ驚くのが当たり前だ。俺の夢は誰もが憧れるけど世界が違うからと将来の夢の選択肢にすら入れない。それくらい大きな夢だ。
何となく間が空いて、しんとした空気が流れた。そうしたらいきなり千葉にお前ジョジョ好きだろって聞かれたからどうしてわかる?と返したら語尾でわかると言われた。確かにわかるわな、あからさまではないにしろ知ってる人がいたら語尾の違和感に気づく。
俺はジョジョを知っている人がいるというのが嬉しくてついテンションが上がって声が大きめになってしまったら、不破も会話に入ってきた。千葉は有名どころの漫画を読んでいて、不破は少年誌だったら幅広く何でも読んでいるらしい。
3人で話していたらどうやら完成したらしく、かんせーいと倉橋を中心としてみんなが言った。まだ花は咲いていないけれど、整備された花壇は前と比べて見違えるほどだった。差し入れの飲み物の買い出しに行っていた磯貝と木村も戻ってきてみんなで飲み物を飲んで完成を祝った。中心となっていた倉橋と矢田が咲くのが楽しみだね~という言葉にみんなは同じことを思ったのか頷いている。
「みんな今日はありがとう!水やりとかの当番はまた明日話し合おう。決まるまでは私が責任持ってお世話をするから」
片岡の一言でみんなはじゃーねとかまた明日と言って解散した。俺も帰るかと思い教室に鞄を取りに戻ると凛香が俺を待っていて一緒に帰らない?と言われたので俺はいいよと言って二人で帰ることにした。凛香と帰るのは1,2年のときに数えるほどしかなかったので誘われたのに驚きを隠せなかった。
*
花が咲くの楽しみだな~とか他愛もない会話をしながら歩いている。凛香が一緒に帰ろうと誘ってきたのは何か話したいことがあるんじゃないかなと思った俺は長く続きそうな話題は避けていた。会話が終わり、少し間が空いたあと案の定凛香が重々しく口を開いた。
「…実は純一が千葉と話していた内容聞こえてきたんだ」
俺と千葉が話していた内容でなんか重くなるようなことなんてあったかなと考えて、それがどうかしたのかと聞くと凛香は浮かない顔で言葉を返してきた。
「…勝手に聞いてしまってたことを謝りたいのと、私って将来何をやりたいのかとか目標がないからさ。二人の夢を聞いて私って何も考えてないなと思って」
凛香の言葉を聞いて俺はこれはちゃんとした言葉で返さなきゃダメだなと思った。上辺を取り繕った言葉じゃなく、俺の言葉で。少し考えたあと、俺は凛香の目を見て言った。
「盗み聞きした訳じゃないんだから気にするなって。やりたいことが今の段階で決まってるやつのほうが少ないだろ。それに将来の夢が決まるきっかけなんて大したことないぞ」
「そうかな…うん、そうだね」
凛香が笑ったので俺も笑った。
雪村先生に相談したときもそうだけど、中学生の俺たちは他人から見たら大したことないでも自分の中で難しく考えすぎてしまうんだなと思った。たったの十数年しか生きてないから答えが出せないのは当たり前だ。周りに頼ればいいのにそれに気づかない。色々と経験して成長して大人になってくんだろう。そしてまた下の世代に伝えていく。きっとそれの繰り返しだ。
頭の中で小難しいことを考えていたら凛香が話しかけてきた。
「そういえば席替え隣になれなかったね」
「しかも俺の両隣は誰もいないしな。席は離れたけど俺のことを構ってくれよ」
「当たり前でしょ。1年からの付き合いなんだから」
「よろしくな、はやみん」
「その呼び方はやめて」
凛香のジト目になったのを見て俺はしてやったりと思った。それでと話の中で気になったことを聞いてみた。
「俺の将来の夢ってみんなに聞こえちゃったかな?だとしたら恥ずかしいんだけど」
「その点は問題ないよ。私と有希子にしか聞こえてないと思うから」
「まあ凛香と神崎なら大丈夫か」
「みんなには言わないから安心して、有希子にもそう言っておくから」
神崎は注意しなくてもたぶん言わないと思うけど、ありがとうと凛香に伝える。
「どういたしまして。ところでさっき夢が決まるきっかけなんて大したことないって言ってたけど純一のきっかけは?」
「あーそれはだな…」
俺は凛香にきっかけを話すと凛香は堪えきれなかったのか口を開けて笑った。
「本当に大したことなかったね」
「うるせー、そんなもんなんだよ」
「ふふっ、ところでこの理由って他に誰か知ってるの?」
「いや、誰にも言ってないから知ってるやつはいないな」
俺の言葉に凛香は、じゃあ…とウインクをしながら人差し指を口に当ていたずらっ子のような顔で俺に言った。
「このことは二人だけの秘密だね」
*
凛香と別れたあと、俺はふぅと息をついた。最後に言われた言葉もそうだが、普段見せない仕草に俺はめっちゃドキッとした。
漫画とかで読むギャップ萌えの破壊力は現実でも効果があるんだなと思った。普段は悪い粗暴な性格や行動をするが、いざというときにいい人キャラになる。"ジャイアン映画版の法則"を体験することができた。ジャイアンと凛香を一緒にしたら怒られるなと苦笑いしながら俺は家へと帰った。
改変あります。
席なんですが原作では最初から出席番号順ではなくバラバラに座っているので雪村先生のときに席替えしてそのまんまだろうという設定で書いています。
ちなみに南雲君の席は原作でのカルマ君の位置です。カルマ君には窓際2列目の一番後ろのイトナが本来座る位置に移動してもらいました。
あと色々な作品(漫画、アニメ、小説、映画など)の小ネタと言いますか台詞などを引用してるのが多いので探してみるのもまた1つの楽しみかたかなと思います。