3月の中旬にクラス替えをしてから日を重ね、2年生として学校に通うのも残すところあと2日となった。今日はいつも通り授業を行い、明日は終業式で明後日には春休みへと突入する。などと今後の予定を頭で考えながら俺は今登校している。
話は変わるが俺はいつもイヤホンで音楽を聴きながら登下校している。一人で歩いてるときに耳が寂しいからだ。登校中にクラスメートに出くわしたときや誰かと帰るときにはもちろん外して会話を楽しむ。
ジャンルはアニソンから洋楽まで幅広く聴いている。本を読むときもそうだが、俺は何かをするときに幅広く何でもやるということに重点を置いている。それは父さんの教えだ。父さんは俺に一つのことを好きになるのは重要だけど、色々と好きになったほうが人生楽しめるぞと教えてくれた。俺はなるほどと思い、その教えを愚直に実践している。某狩りゲーでは片手剣からガンナーまで、インクが銃弾のゲームではローラーからチャージャーまで。
出来る幅が広がるのも楽しいが、一つ一つのやり方が異なるので長く楽しめるっていうのが一番の利点に思える。
歩いていると後ろから肩をトンと叩かれた。叩かれた方向を見ると指が俺の頬の形を変えた。俺はクスっと笑ってイヤホンを外しながら挨拶をする。
「おはよ、莉桜」
「おはよー、なに聞いてるの?」
そう言って莉桜は俺が外したイヤホンを奪って聴き始めた。
「大迷惑って曲。今の莉桜にピッタリな曲だよ」
「むむっ、朝から可愛い女子が構ってあげてるというのに何て言い草だ」
「可愛いとか自分で言ったらダメだろ。…いや、可愛いって言われてそんなことないですよ~って否定しまくるやつのがダメだな」
「純一は何言ってるのさ。ところでこの曲テンポが激しいね、歌詞もなんか嘆いてる感じだし」
「まあ昔の曲だから、父さんの影響で聴いているだけだよ」
「あんたのとこ親子仲いいもんね、羨ましい」
そう言った莉桜を見て、失言だったかなと思ってたら莉桜がすぐにその考えを否定した。
「いやいや、気にしないで!今はギクシャクしてるけどその内解決するからさ。純一さっき女子が可愛い云々って言ってたけど、あんたも女の子を見て可愛いとかって思うの?」
「そりゃそうだ。思わないわけないだろ」
「へぇ~、じゃあクラスでは誰が一番だと思う?私的には渚を推すけど」
「渚は男だろ…。まあ、男子の一番人気は神崎だろうな」
「渚じゃないのか~。じゃあ純一今日神崎ちゃんに可愛いって言ってみてよ、言われ慣れてそうな人がなんて返すか気になるし。」
「えー、言わされるのはなんか違うだろ。言うんだったら俺がそう思ったときに言いたい。言ったことないけど」
「純一は変な拘り持ってるね。…ってことは神崎ちゃんを可愛いって思ったことあるんだ?」
「そりゃあるよ」
「二人とも楽しそうだね、なんの話をしているの?」
莉桜と話してたら当事者来たよ。聞いてたかな?とか考えていたら莉桜が口を開いた。
「おはよー神崎ちゃん。いや渚より神崎ちゃんのほうが可愛いよねって話」
「ふふっ渚君は男の子だよ。でも可愛いって言ってくれてありがとう」
神崎はそう言って微笑んだ。言われ慣れてる人は違うなと莉桜と顔を合わせて感心していたら、南雲君もおはようと挨拶をされたのでおはよと返した。
それから3人で話をして登校した。教室に入ったときに友人がえっ何で神崎さんと登校してんの?みたいな顔で見てきた。お前には一緒に入ってきた莉桜が見えていないのか。友人の視線を流しながら俺は忘れ物の確認を始めた。確認が終わる頃に雪村先生が教室に入ってきて始業のベルが鳴る。おはようございますと挨拶をした後にみんなは着席した。
ここまではいつもと同じ流れなのだが唯一違うことがあった。出欠確認をするために先生が筆箱からペンを取り出すのがその時に鼻唄を歌っていたのだ。それを見た前の席のやつらは先生をいじり始める。
「なんか最近ゴキゲンだね、雪村先生」
「良い事あったの?」
先生がえーと…と困っていると前原が止めを刺した。
「フフフ、俺には見えるぜ。男の影が」
「そーいやさっきバッグの中にプレゼントっぽい包みがあった!」
「おいマジか!!」
「クラス始まったばっかのこの時期にお熱い事で!!」
みんなは拍手を送ったりヒューヒューと囃し立てる。もちろん俺も。先生はううう…と困っているがやはり教師、すぐに空気を切り替えるために出欠を取る。
「バカな事言ってないで出欠取ります!赤羽君!!」
先生はみんなにいじられたからかいつもはやらないポカをした。クラス全体の雰囲気が先程とは打って変わり静まる。
「……ごめん、休みだったね」
「…いーって先生、ここはそういう場所なんだから」
「赤羽君は今日様子見に行きます。次磯貝くん!」
「…はい」
停学中ということで先生はみんなに気を使って赤羽の出欠は取らないようにしたが、誤って名前を読んでしまったためみんなはE組は停学になる生徒がいるくらい堕ちた場所ということを思い出したかのように沈んだ。何とかクラス全体を元気付けることはできないかと俺は考えを巡らせた。
*
そして昼休み、みんなはまだ何となく元気がない。その時に磯貝がクラス全体に呼びかけた。
「みんな、昼食が終わったらドッチボールをやらないか!実質今日が最終日みたいなもんだし最後にみんなで体を動かそう!」
磯貝の呼びかけに倉橋などの元気の良いメンバーは賛成!と返事をする。それに伴って続々とやるか~などの声が聞こえてきたが、寺坂、村松、吉田、狭間のグループはパスと言って断ってきた。無理に誘う理由がないので、磯貝がわかった、でも参加したくなったらいつでも来てくれよと言っていた。
俺はドッチボールの準備を磯貝とするためグループを作ることなくいつもより早く弁当を平らげた。磯貝の下へと行くと、食べるの早いなとツッコミながらラストスパートをかけ最後には飲み物で流し込んでいた。急かしたみたいでごめんなと言うと磯貝は気にすんなってとウインクをしてきた。そのやり取りを見ていた三村は絵になるな~と言っていた。確か映像編集が趣味だったか、俺は三村の一言にVサインで応え磯貝と教室を出た。
廊下を歩きながら白線引きやボールが必要だなとかコーンのほうが視認性がいいかなど準備の段取りを話した。職員室にいる雪村先生にドッチボールをやる旨を伝えるとじゃあ先生は審判やるよ!と笑顔で返してくれた。
職員室を後にして用具室からラインカー(白線引き)とコーンとボールを用意して、今は白線を引いている。大きさは何となくでいいよなと確認するとオッケーと返事が返ってきた。出来るだけ乱れないように引いていると磯貝が真面目な顔で話しかけてきた。
「南雲、ドッチボールを提案してくれてありがとな」
「いいよ、気にすんなって。クラスが暗いままなのは嫌だったからさ」
「俺より委員長に向いてるんじゃないか?」
そんなわけないだろと俺は磯貝に返す。俺が本当に委員長に向いていたら授業の間の休み時間に磯貝に相談などせず自分で昼休みにみんなに呼び掛ける。そうしなかったのは磯貝が俺よりも人徳があるからだ。それに俺はリーダーとしての磯貝を信頼してるからな。
その旨を磯貝に言うとありがとうと分かりやすく照れていた。準備が終わったので磯貝とボールを軽く投げ合っているとみんなが集まってきた。参加者全員が集まったあと片岡が口を開いた。
「チーム分けはどうするの?」
「それについてはさっき南雲と話した。自分の主観でいいから自分と同じくらい運動できる人とペアを作ってじゃんけんをしてくれ。勝ったらAチームで負けたらBチーム。男子は11人で1人余るからそこは3人でじゃんけんをして分かれてくれ」
みんなはわかったーとペアを作り始め、俺は友人とペアを作ってじゃんけんをした。
結果、
Aチーム
男子:磯貝、木村、竹林、俺、菅谷
女子:片岡、奥田、神崎、凛香、矢田
Bチーム
男子:前原、岡島、渚、友人、千葉、三村
女子:岡野、原、倉橋、莉桜、不破
以上10人-11人に分かれた。
磯貝がルールを説明する。
・ゲームはジャンプボールで開始し、ジャンプボールを行った者に初手ボール当ては禁止
・最初外野は男子2人女子1人の計3人とする
・内野が当てられたら外野に行く、復活はなし
・顔はセーフ、ただし鼻血などが出たら一時的に治療のため抜ける。治療後は戻って試合に参加する
・複数人に当たって誰もキャッチできなかったら当たった人全員がアウト。逆に当たっても地面にボールが落ちる前に誰かがキャッチした場合はセーフ
説明後全体に質問はあるかと確認したらなかったので全員ルールを理解したようだ。まあ、正直復活がない以外は普通のルールと変わらんしな。
AチームBチームで分かれいよいよ始まる。
Aの外野は木村、竹林、奥田でBの外野は渚、三村、原だ。
そしてAのジャンプボーラーは俺、Bは前原である。ジャンプボーラーってジャイロボーラーみたいでカッコいいなと思った。俺は父さんの事をおとさんとは言わないけど。なんて下らないことを考えながら分析するが、前原と俺では若干俺のほうが身長は高いが運動神経が良いので油断はできない。雪村先生がそれじゃあ始めます!といい試合が始まる。
*
ピッと笛がなり先生がボールを上げる。
俺と前原は同時にジャンプするが、余裕で俺がボールを取った。それを見てクラス全員が「「ジャンプ力やばっ!!」」とハモった。俺が幼い頃からバスケをやっていることは誰も知らないからなと内心ほくそ笑む。
Aが勝ち取ったボールを拾った片岡はすぐに外野の木村へとパスをする。運動神経の良い木村を外野に置いたのは機動力が優れていて相手を撹乱できるからだ。
パスを受けた木村はすぐ近くにいた不破にボールを当てアウトにする。不破は私の敵を討ってくれよとオーバーリアクションをして外野に行った。友人は任せておけと素早くボールを拾いこちらに投げてきた。ここで俺はフッと笑う。なぜなら友人が投げたボールが遅い速度でゆっくりとカーブしたからだ。
なぜカーブするのか知らない人に解説すると、野球ボールを投げるという動作では指からボールが離れる瞬間に指先で回転を加えて投げている。だから野球経験者ではドッチボールなどで投げるのが苦手という人が多いのだ。余談だがその時の回転数が多ければ多いほどストレートであれば伸びる球になる。
友人はやってしまった!と叫んだ。この球なら誰でも捕れるだろと思って見てたら矢田の下へとボールがいった。矢田も簡単に捕れると思ったのか捕ろうとしたら落球した。それを見たBチームはラッキーと喜んでいた。落とした矢田はというとやっちゃったと舌を出して笑っていた。なにそれ可愛いな。
切り替えていこうと磯貝が言って攻撃に移る。磯貝が力強く投げると前原がキャッチをし、すぐさま速い球を投げ返してくる。磯貝はくっと言いながら避けると後ろ側にいた菅谷は避けようとしたが当たり、ボールが少し上に浮いた。
浮いたボールを捕れると判断した片岡は菅谷をセーフにしようとしたがボールを滑らして落としてしまった。…なんとダブルアウト。雪村先生がピッと笛を吹きアウトになった2人の名前を呼び、Bチームはよっしゃー!とハイタッチをしている。
これで残り4人-7人とAチームが不利になってしまった。
Aチームは外野から内野、内野から外野と細かくパスを回した。相手も内外でしかパスをしないなと感じ始めた辺りでパスを受けた竹林が素早く外野同士である片岡にパスしこれまた素早く相手にボールを投げる。伊達に眼鏡をかけてないな、頭脳プレイだ。
投げたボールは倉橋に当たり、これで4人-6人。だが依然として男子が残り2人のAが不利なのは変わらない。
千葉が当てれそうだと判断したのか凛香を狙う。当てやすい上半身ではなく相手が捕り辛い下半身を狙ってくる当たりコントロールが良い。下半身だったら当たってもボールが浮きにくいしな。
避けるかなと思ったら凛香はボールを見事キャッチした。このプレイには敵味方関係なく、おぉ~と歓声が上がる。凛香は照れているのかすぐにボールを投げず、少し止まってから急に俺にパスしてきて小声で言った。
「純一ちょっと本気で投げてみてよ。杉野みたいなミスをしないように上手くね」
「…怪我人が出たらスマンな」
俺がそう言うと会話が聞こえていた磯貝がえっと漏らした。俺は大きく助走をつけて思い切り投げる。指先で回転を加えることなく、ボールを掌で押し出すように。女子は狙わないように。
ボールは物凄い勢いでBチームのコートへと投げられた。岡島がヘッととぼけた声とボールが体に当たったバン!!という音と共に被弾した。勢いがすごい分ボールは体に当たると大きく弾む。弾んだボールは千葉にも当たりダブルアウト。
雪村先生がピッと笛を吹きアウトになった2人の名前を呼ぶ。みんなは呆然としている。本気で投げてみてよと言った凛香でさえも。 岡島は外野に行きながらチートや、チーターやろそんなんと叫んでいる。それを見た竹林は吹き出していた。
「えっと…南雲くん?今の球を女の子に当てないようにね?」
「ハイ、もちろんです」
俺は先生の言葉にそう返事をする。何はともあれこれで4人-4人となり不利な状況を脱した。しかしB側にボールがあるので油断はできないし、ボールは友人が持っている。パスをするか、当てに行くかを迷っているので俺は神崎に耳打ちをして友人を揺さぶってくれと頼んだ。神崎は意味あるかなっと苦笑いしながら友人に向かって言った。
「杉野君…その…痛いのは嫌だから優しくしてほしいな?」
「…ハ、ハイ」
「「「いや、ハイじゃないだろう」」」
クラス全員がツッコミをいれた。前原がこいつダメだと思ったのかすぐに外野にパスをしろと指示を出す。友人は原さんにパスを出すと原さんはすぐにボールをこちらに投げてきた。ボールは神崎に当たりアウトとなった。外野に行くときに神崎は友人に嘘つきと泣き真似をして言った。それを見た前原がすぐにこちらに抗議をしてきた。
「純一!精神攻撃は卑怯だろう!」
「うるさい!あそこまでやれとは言ってないしお前の遊びの遍歴を言っていないだけありがたいと思え!」
俺の言葉に神崎はふふっと悪戯っ子のように微笑み、前原はぐっと黙りこんだ。Bチームで味方同士であるはずの岡野が何故か前原を睨んでいる。
神崎が当たったことによりボールはこちら側にある。俺はすぐに外野となった神崎へとパスを送る。パスを受けた神崎は近くにいる友人へと先程の微笑みのままボールを投げる。見蕩れてしまったのか友人はキャッチすることなくアウト。挙げ句当たったのに悔しさの欠片もなくデレデレしている。その様子を見てクラス全員が察した、こいつ堕ちてるなと。
これで3人-3人。残りはAチームは俺、磯貝、凛香でBチームは前原、岡野、莉桜となった。男子が多い分今度はこちらが有利だ。
ボールは現在Bチーム側で莉桜がボールを持っている。莉桜は助走をつけて投げようとしたとき急に投げるのをやめた。どうした?とみんなが思っていると遠くを見ながら、あっ寺坂たち参加しに来たのかな?っと言った。
当然みんなは莉桜が向いている方向を見る。誰もいないじゃないかと前を向き直すと磯貝が被弾していた。莉桜はしてやったりとずるい顔をしている。みんなはポカンと口を開けている。そりゃそうだ。莉桜が元気よく先生アウトだよね!?と聞くと先生はむむむと考えてから、
「…まあ南雲君の精神攻撃もあったからこれでチャラということで」
ジーザス。因果応報で貴重な戦力を失った。そんなことを考えていると凛香が転がっているボールを素早く拾い投げる。投げたボールは岡野に当たりアウトとなった。凛香の素早い判断に俺はナイスとハイタッチを求めた。凛香は笑顔で手を出してきたのでパンと互いの手を合わせる。
これで2人-2人となった。Aチームは俺と凛香でBチームは前原と莉桜だ。ボールはBチーム側。俺と凛香どっちを先に潰しにくるかわからないので何にでも対処できるように警戒する。
前原は凛香に対して力強く球を投げてきたが凛香はそれを難無くかわした。そのときに俺は凛香は動体視力がいいんじゃないかと思った。考えたら千葉が投げた低い球も動体視力がいいからこそ捕れたんだなと気づいた。
避けたボールはそのまま相手の外野の下へといった。友人はすぐに凛香に投げる。凛香は最初と同じ曲がった遅い球がくると油断したのか友人の速い球への反応が遅れキャッチをミスって球が浮いた。浮いた球を捕ろうとしたとき凛香が待って!と声を出したので俺はキャッチをしなかった。
「いや、今の頑張れば捕れそうだったけど」
「バカ、頑張ればってことは少しきついってことでしょ。純一がキャッチをミスったらダブルアウトで負けになっちゃうでしょ」
あーなるほどなと思ってたら転がったボールが相手側にいってしまった。それを見た凛香は呆れ顔で、そのこぼれ球は確保しなさいよと言ってきた。いや、今凛香と話してたやんと思ったが悪い、勝つから許してと言った。凛香は頑張ってねと俺の背中をバンと叩くと外野へと向かった。
Aチームの残りは俺1人。なんとしてでもボールを確保するしかない。当てる自信があるのか前原がパスを要求して前原の手にへとボールが渡った。
前原は助走をつけて思い切り投げてきた。ボールは勢いよく俺へと向かってくる。体の下側で捕り辛い位置だなと思ったので俺は補球態勢ではなくバレーのレシーブの形を作ってボールを上に上げてからキャッチした。
みんなはそんなのありかとポカンと口が開いている。俺の真後ろで不破だけはカイザーが!ゲームマスターが現実に現れた!と騒いでいる。
俺はお返しだと前原に素早く投げ返す。俺の曲芸とも言える捕り方に驚いている内ならばそれほど速い球でなくても大丈夫だろうと先程よりも遅く投げた。案の定前原の反応が遅れたので残りは莉桜だけとなり勝ったなと思ったら莉桜がボールを横から叩き前原を守る形でアウトになった。
「…磯貝への騙し討ちといい油断ならんな」
「へへん、私だけが残ったら負けが確定するからね」
「すまん、中村助かった」
「いいっていいって。とりあえず色々と暴れて好き放題やってる純一を倒してきてよ」
前原は莉桜の言葉に任せろと言った。いや、待て。暴れてもいないし、好き放題にやってないと俺は心の中で莉桜にツッコミをいれた。
莉桜が外野に行ったのを確認してから前原はよし、と言って再び助走をつけてボールを投げてきた。勢いよく球が向かってくる。キャッチするのは難しいからとりあえず避けるかと思い避けた。幸い俺の真後ろには先程騒いでいた不破しかいないし、不破が前原の球を捕ってすぐに投げれるとは考えにくい。仮に投げれたとしても簡単にキャッチできるだろう、そう考え避けた。
すぐに後ろを振り返り相手の動きに備えようとしたら俺は被弾した。なぜ被弾した?不破が投げたのか?と前を向いたら笑顔で渚が立っていた。
真後ろにいるのは不破だけじゃなかったか?素早く回り込んで投げて俺に当てたのか?そもそも試合中渚はどこにいた?俺の頭は今とても混乱している。だが俺がアウトになったというのは事実。雪村先生がピッと笛を吹き試合終了!と元気よく言った。
整列を促されたので全員整列をする。Bチームの勝ち!と先生が言うとBチームはよっしゃー!とガッツポーズをする。負けたAチームはというと悔しいとかではなくみんな楽しかったー!と笑顔でいる。みんなの笑顔を見て俺と磯貝はやってよかったなと拳を合わせて喜びを共有した。
みんなが一頻り感想を言い合っていると昼休み終了のチャイムが鳴る。それを聞いたみんなは教室へと戻っていく。戻っていく中で俺は渚に声をかけた。
「最後やられたよ、不破のいたところまで回り込んだのか?」
「違うよ、僕はゲームの最初から外野の真ん中にいて当てられてアウトになった不破さんが後からやってきたんだよ」
「…マジか、渚に当てられるまでどこにいるか気づかなかった」
「僕強くないし影が薄いからかな?でも上手い南雲君をアウトにできたしよかったよ」
そう言って笑う渚の頭を俺はグシャグシャと撫でた。それを見ていた前原や岡島から渚に当てられてやんの~とからかわれた。俺がからかわれてるのを見て笑っている渚になに笑ってんだよとお姫様抱っこをして運んでやった。それを見たクラスのみんなはイケメン王子と可憐なお姫様だ!と笑う。雪村先生も潮田君ごめんねと言いながら笑っている。片岡だけはキラキラした目でお姫様抱っこを見ていたのでおそらく憧れでもあるのだろう。
落ち込んで沈んでいたのが嘘みたいだなと思いながら俺は教室へと戻って授業の準備をした。
*
~放課後、帰り道~
「勝つから許してって言ってたのに負けちゃったね」
「いや、まあ、うん、そうだね」
「純一ははやみんにお前のために勝つってカッコつけたのに私たちBチームに負けたのか」
「いや、そんなことは断じて言ってないしカッコつけてもいない」
俺たちは3人で帰っている。授業が終わって帰ろうとしたときに凛香と莉桜から一緒に帰ろうと誘われたのだ。そして今俺は2人にからかわれている。
「申し訳ないけど負けたから許すことができないね」
「申し訳ないと思ってるんだったら許してくれてもいいんだよ?」
「なんか甘いものでも食べないと許す気になれないよね?はやみん?」
「そうだね、ちょうど帰り道の近くにハニートーストが絶品な喫茶店があるんだけど」
「最初からそれが望みか。わかった、ずっとこのネタでからかわれるのもあれだからそれで手を打とう」
「「いいの?ありがとう」」
「…君たち仲良いね」
ハァ~と溜息をついて俺は歩く。女子2人はなに食べる~と盛り上がっている。えっハニートーストじゃないの?他にも何か頼むつもりなの?心でツッコミを入れながら3人で喫茶店へと向かう。喫茶店で磯貝がバイトをしていて莉桜がからかいまくるのはまた別のお話。
渚の片鱗を少し覗かせました。
作者の実体験ですが、ドッチボールのときにバレーで全国行ったやつがHUNTER×HUNTERのレイザーと同じくレシーブでボールを上げるやつやってたんですが無敵でした。
あと杉野君のボールが曲がる現象は野球やってた人あるあるだと思います。