―超能力者、超人、化物、魔術師、魔法少女など、世の中には確かに超常的なモノが存在する。
———アメリカ
摩天楼のごときのビルが建ち並んでいる。
しかし、人影が全く無い。
異常な雰囲気に包まれていた。
―桜井咲哉は逃げていた。
何から?分からない。
姿が見えないのだ。
かれこれ10分程走っているが一人も人を見かけ無い。
明らかな異常。
走りながらどうしてこうなったのか思い出してみる。
咲哉は伊・Uという組織に属している。確か、伊・Uからアメリカのとある馬車まで渡されたスーツケースを持っていった後、世界が一変したんだ。
…恐らく今いる空間は絶界。異能者が展開する異次元空間。この空間は術者が戦い易い場に変化させるために展開される。
どれだけ走っても景色が変わらない。
逃げても無駄か。
立ち止まり、後ろに振り返る。
「いるんだろ。一体誰だ、何が目的だ。」
その声に応じる様に、何もない空間からジジッ……という音に続いてレインコートのような物を着た人影が現れた。
一人や二人では無い、ぞろぞろと現れる。
囲まれているぞ、いつの間にか…。
周囲に視線を巡らせると——身体をプロテクターで覆い、顔にペイントをしている男が言う。
「名前はジーサード。目的は伊・Uって言えばわかるか。」
伊・Uのせいかよっ⁉何で組織に入ったら入ったで争いごとに巻き込まれるかなぁ。
まあ、救いは四六時中襲われたりする事が無くなった事か。
代わりに襲ってくる奴らの強さが跳ね上がったけど。
咲哉の容姿は美麗端麗。真っ白な雪のような肌に、真っ白な髪。瞳はルビーのように赤く、人を魅了するような妖しい雰囲気が漂っている。完璧外見的には雪の妖精の様な美少女であるが、実は―男だ。残念ながら……男だ。
服装は裾の長い白いコートにオープンフィンガーグローブと白いブーツと全身真っ白。革のベルトと銀色の金具が至る所に付いていて、腰にある二尺四寸二分(約73㎝)の刀を固定している。刀の柄と鞘も白く、鍔の黒い菊の花がアクセントとなっている。
ポツリポツリと、道路のど真ん中に立つ朔夜を取り囲む人影が増加して行く。
一体何人いるのだろうか。いや、人なのか?
目にうつるのは異形の集団。
狐耳と尻尾があるマロンブラウンの髪の少女。
顔の半分を包帯で隠した、細い体格の黒人。
顔面や首に縫い後のある白髪の男。
包帯に包まれた老紳士風の男、瞳の色が左右で異なる銀髪の少女。
頬に弾痕のある筋骨隆々の2mを超える白人。
メカみたいなプロテクターに身体を覆われ、腕にはガトリングガン、腰にはジェット機のよいな可変翼が付いている少女。
更には、無人の車?、等々。
ファンタジーな格好している奴らやSFの武装している奴らまでいる。
そんな統一制が無くてわけのわからない集団全てが朔夜に各々の武器——銃、剣、盾、呪符、刀、ロケットランチャー、ガトリングガン、レーザーガン、etc——を向けていた。
何かしらの行動を取ろうとすれば即座に、攻撃が飛んでくる事だろう。
狐耳の少女が言う。
「分かっておるだろうが、ここは私の絶界。逃げられはせぬ。数でもこちらが圧倒的に有利。諦めよ。」
「——という訳だ。来いよ朔夜。」
ペイント男が拳を構える。
え⁉戦うの!さっきの降伏勧告じゃ無いの⁉
「——っっッ、サード様自ら戦うなど、なりませぬ。なりませぬぞっ。」
どうやらこのペイント男、ジーサードがこの集団のリーダー的な立場びあるようで——
「こんなヤツ、サード様が手を必要なんてありまねんぜっ。」「何なら俺一人で相手しましょうか。」「あたしにやらせて。」などと騒ぎ出す手下たち。
完璧に自分たちの優位を確信しているような言葉に少し苛立つ。
確かにしてやられた。
もう逃場は無い。
咲哉は敵の罠にまんまとハマったのだ。
降伏という選択肢は無いみたいだし——
——やるしかないか。
頭のスイッチを切り替える。
「ちょっ、ヤバい。みんな離れて!」
瞬間、咲哉の覚悟に反応するように、銀髪オッドアイの少女が言って、周囲を取り囲んでいた者たちは一斉に離れると同時に攻撃——銃弾、炎球、鎌鼬等——が放たれる。
「夢幻召喚(インストール)——(ジークフリート)」
呟いた瞬間、
その場は大瀑布のごとき出現したプレッシャーに支配された。
少女の足元から魔方陣が出現する。
魔法陣の出現は刹那。
その刹那で、魔法陣は足元から頭の先へと移動して消えた。
魔方陣が通った後の、
—咲哉の装いが一変していた。
手には身長とほぼ同じ長さの大剣、幻想大剣(バルムンク)。
身体のあちこちにを覆うのは白銀の甲冑。ただ胸だけは鎧に覆われておらず、開いている。
開かれた胸元に見えるのは先と一変した褐色の肌、それに淡いグリーンの光を放つ複雑な紋様。
——彼らに放たれた攻撃に朔夜が剣で一振りする。
ドゥゥゥゥンッ!爆発音。剣から放たれた衝撃波が攻撃を粉砕した。
「……なに、これ?」
どこからか呆然とした声が漏れる。
異能を持つ者達の反応が特に激しかった。
異能を持つ者は相手の異能の力を把握できる。
これは、大小あれど異能を持つ者であれば誰しもが持つ基本的な能力。
彼らには、まるで天が地に落ちてきたかのような圧倒的重圧に身を支配されていた。
異能を持たない他の者達も足がすくみ上がっている。
彼らは幾多の戦場を、死線を乗り越えた一流の戦士である。
そんな彼らの勘がいうのだ—お前、死ぬぞ、と…。
それでも彼らは一流の異能者、戦士達である。
目の前の死に抗うべく各々の武器を手に取り、攻撃する。
ボロボロと落ちてカランッカランッと音を発てて行く薬莢。
あるものはロケットランチャーを、ある者は炎球を、ある者は雷撃を、各々のできる限りの攻撃を放ち続ける。
それらに向かい、咲哉は連続で剣を振るう。
ドゥゥゥゥウウッ、超音速で振られた剣から放たれた衝撃波達により彼らの攻撃を粉砕する。
しかし、それだけ、一時しのぎだ。
彼らの絶え間ない攻撃が、次々とやって来る。
衝撃波で粉砕しようがキリがない。
このままでは体力を削られてジリひんになるのみ。
攻撃している本人たちにダメージを与えなければ負ける。
咲哉は弾幕共言うべき彼らの攻撃に向かい、地を踏み砕きながら一歩。爆撃や銃弾に嵐に晒されながら二歩目を、そして、両手に持った剣をギシギシと軋むほど力強く握り締めながら、三歩目を踏み出し、距離を潰した。
確かに、攻撃は身体に当たっている。しかし、銃弾は咲哉の身体に弾かれ、雷撃や炎は咲哉の身に一つもダメージを与えない。
―これで剣の間合い。
一番近くにいる黒人の男に向かい剣をスゥイングする。
「おおォォォォぉおお!!流星《メテオ》!」
超音速で振り下ろされる剣。その剣の腹にペイント男の超音速の拳がぶつかる。
黒人の男を一刀両断するはずだった軌道はズレ、空を切り、勢いそのままアスファルトに叩きつけられ
――大地を砕く
その振動は大地を揺らす。
ぐらつく足場に殆どの者が体勢を崩す中、ペイント男は、跳んで回避した。そのまま身体をくるりと回転させ、足を跳ね上げる。種の殻が割れる様にプロテクターのあちこちが開き、ロケット燃料の噴射炎が上がる。
回転力とジェットで加速した、超音速を超えた回し蹴りが――
――ゴギィァァァァァァァ!!明らかに人を蹴った音では鳴らない音を上げて、咲哉の首に炸裂。
咲哉の身体が宙を舞い、ビルの壁にめり込んだ。
そこに、追撃。
先程よりも更に苛烈で激しく、もはや、爆撃機の絨毯爆撃のような弾幕、異能、等の攻撃の嵐。
ボロボロになって行くビルの壁から出た土埃が咲哉の姿を隠す。
「止めろ。流石にやりすぎだ。」
ジーサードの声に、攻撃が止まる。
しかし、彼らにはしっかり感じていた。
土埃の中に咲哉が生きていることを。
今回の目的は咲哉を捕縛して伊・Uの情報を引き出すこと。殺す事が目的では無いのだ。
流石にこの攻撃には致命傷を負っているかもしれないが生きていれば何とでも対処出来る。
そう考え——彼らは攻撃を止めてしまった。
その隙を咲哉は逃さない。
「―剣よ満ちろ」
咲哉が剣を天に突き立てるように持ち、剣の力を解放する。剣から放たれる黄昏色の極光が顔を照らす。
極光は偽の天を破壊し、本物の空にまで伸びていた。
圧倒的魔力の渦は土埃を散らすにだけでなく、周囲のビルのガラスを全て破壊し、人々まで吹き飛ばそうとする。
土埃が吹き飛んだ先にあった咲哉の身体は無傷。全くの無傷。
あり得ない光景である。
火山が爆発したかのように、溢れ、膨れ上がって行くプレッシャー。
彼らの恐れに震える瞳が傷一つ無い朔夜を見る。
そこに映るのは人の姿では無い。
今にもブレスを吐こうと口に力を溜めている龍。
天を衝くほど巨大な邪悪な黒龍。
この龍に比べて己の存在がなんてちっぽけな存在だろうか…。
彼らの心は咲哉の存在感に呑まれたていた。
「おい、来るぞ。テメェら、呑まれるな。もっと気をしっかり持ちやがれ。」
ペイント男のビリビリとした声が響く。
その声と共に茫然としていた彼らの戦意が復活する。
即座に、障壁を生成して、周囲の建物に身を隠したり、と守りを固める。
―だが、もう遅い。遅すぎた。
「――『幻想大剣・天魔失墜』」
剣を、黄昏の極光を、振り下ろす。
瞬間、周囲に半円状に爆発的に広がる極光。
極光は呑んだモノ全てを破壊、塵に返し、余波の風は全てを凪ぎ払う。
残されたのは、ただの塵と瓦礫は山…。
術者が死んだことで維持出来なくなった絶界が解除される。
立っているのは普通の交差点。
咲哉は簡易な認識阻害の魔術を使い歩き始めた。
今回朔夜が力を借りた英雄はジークフリート。
悪竜の血を浴びることで不死となった大英雄である。勿論、完全な不死という訳では無い。その身体はBランク以下の物理攻撃と魔術を完全に無効化し、更にAランク以上の攻撃でもその威力を大幅に減少させ、Bランク分の防御数値を差し引いたダメージとして計上する。また正当な英雄による宝具の攻撃の場合はB+相当の防御数値を得る。但し、伝承の通り悪竜の血を浴びなかった、背中にある、葉の様な形の跡が残っている部分のみその効力は発揮せず、その個所を隠すことも出来ない。背中を開いた鎧を纏っているのもそれが理由である。
しかし、朔夜の場合、もう一つ弱点がある。
朔夜の身長は133cm、体重29kg。更に、鎧の重さを加えても軽い。
つまり、朔夜は重い攻撃を受けると、吹き飛ばされてしまう可能性があるのだ。
まだ、地面に足が着いている場合は、ジークフリートの筋力で何とかなるが、宙に浮いている間は簡単に吹き飛ばされる。
これが、ジークフリートの力を借りた朔夜の弱点である。
―――
「絶界、解除。」
「マジで死んだかと思ったぜ!!九九藻、助かった!キスの嵐を降らしたいって位感謝してるぜ。」
「い、いえ、ジーサード様…そんな…。」
狐耳の少女―九十九がペイント男、ジーサードの言葉にデレデレとする。その周囲には様々な人がいた。
「ヤバい。ヤバ過ぎるぜアイツ。」
「あれは何なんだよ。」
「ぜってえ人じゃねえ事は確かだな。」
ガヤガヤと話すのは咲哉を襲った集団、ジーサードリーグ。その名の通り、ジーサードをリーダーとしている集団である。
「はあはあ、生きてる。生きてるぞ~。俺、死んでないよな?生きてるよな?」
「ジーサード、今回ばかりは僕も死んだと思ったよ。」
「いや、あそこまでヤバいとは俺も想定して居なかった。すまんな。」
タワーシールドにジーサードが謝ったり、各々軽口を叩いたり、自分が生きているのか確認したりしている。
彼らは黄昏の極光に呑まれる直前、絶界を一瞬だけ部分的に解除して脱出して逃げたのだ。これは、念話等のオカルト技術やSFのような先端科学兵装によって瞬時に全員の位置を割り出せたからこそ出来たことである。それでもギリギリ。
何か一つ、ほんの僅かでもピースがずれていたら、今頃彼らは極光に呑まれて塵と化していたことだろう。
「まさか伊・Uがあんな化物集団だったとはな。藪を突っついて出てきたのはドラゴンってか。伊・Uにはあれ以上の化物もいると考えるべき、か。しばらくの間は力を蓄えるしか無いな。」
ジーサードが小さな声で呟いた。