――伊・U、潜水艦内の食堂
伊・Uとは数多くの超人的人材を擁する戦闘集団。
第二次世界大戦中、枢軸国の共同計画として創設された超人兵士の育成機関がそのルーツである。
組織名のイ・ウーは、組織の本拠地である原子力潜水艦・ボストーク号に書かれた「伊U」の文字をそのまま読んだ音を語源としている。
更に、核武装もしており、いかなる軍事国家も手出しできない戦闘集団。
―というのが咲哉の所属している組織である。
咲哉にとってみれば場違い感この上無い。
咲哉はボンヤリとこれまでの人生を振り返る。
元々咲哉自身、前世をもつだけの存在であり、特に目立ったところが無い雑魚魔術師だ。
前世では少しオタクなだけの普通の日本人。
今世では、両親共に魔術師であったため、当然のように魔術を教えられたが、残念ながらあんまり才能が無かった。
それに比べ、妹はどうやら本物の天才であったようで、俺が一つの魔術を必死で学んで修得している横で、十も二十もの魔術を修得し、更には改良して新しい魔術を産み出していた。
その光景を目の前で見せつけられた俺は心が折れた。もうそれはポッキリと…。努力して必死で魔術を修得するのが馬鹿らしくなったと言っていい。
それから、俺はひたすら趣味に走った。前世のアニメやや漫画の魔法を再現しようとした。勿論、魔術師としても中途半端である見習い魔術師程度の咲哉には失敗付くめだった。
それでも、楽しかった。
―やがて、その試みは一つの偶然の成功を生んだ。
Fate/kaleid linerプリズマ☆イリヤに出てくる魔術礼装、クラスカード。鷹位の魔術礼装を媒介とすることで英霊の座にアクセスし、「自身の肉体を媒介とし、その本質を座に居る英霊と置換する」、アイテム。簡単に言えば、「英霊になる」事が出来るアイテム。
普通はへっぽこ魔術師な俺が作ることなど天地が逆さまになってもできないだろう。
―置換魔術とは、錬金術から派生した魔術。あるものを別のものに置き換える魔術であり、等価交換かそれ以下の性能しか発揮できない。
置換魔術の性質上、「新たな何か」を生み出すことが出来ない。
しかし、逆に言えば、知っているものであれば大抵のモノは生み出せる可能性がある。
咲哉は前世のお陰でエインズワース家のクラスカードを知っている。
だから、カードにエインズワース家のクラスカードそのものを置換すれば良いではないかと考え、クラスカードの製造に成功した。
そこからは初めて製造に成功したクラスカード、世界最高峰クラスの魔術師であるメディアの力を使って『知っている英霊達』のクラスカードを製造。更に、英霊達の力を使い、改良した。
そうして出来上がったのが咲哉以外は使え無い専用のクラスカード。
カードは咲哉の身体の中に厳重に収納され、咲哉の意思一つでいつでも「英霊になる」事が可能なのである。
クラスカードを作った、この事実だけで咲哉は満足していた。
だが、偶然、超人同士の戦いに巻き込まれた時、生き残るためにクラスカードを使わざる得なかった。…使ってしまったのだ。
それからは、巻き込みに巻き込まれる超人大戦。
それでも咲哉は生き残った。
当然である。
英霊とは文字どおり一騎当千を体現する者。
その力を咲哉は振るえるのだ生き残れないはずが無い。
だが、そんな巨大な力を振るえば組織や国に目を付けられるのも当然の帰結であるといえる。
結果、実際に、伊・Uに目を付けられて、入ることになった。
本当にあっという間の転落人生である。
ナニ?核武装もして、いかなる軍事国家も手出しできない戦闘集団って?何でこんな危険組織に俺が居るん?意味分からん。俺は至って平々凡々なんだよ~~!!
はあ、普通の日常に帰れたらなぁ。
「どうしたんだ。そんなピリピリした雰囲気を出して。今日はやけに不機嫌だな。」
後ろを見るとおかっぱの少女、カツェがいた。右目の眼帯には旧ナチスのハーケンクロイツが描かれていて、マジモノの旧ナチスの残党である。ベルベットのローブに黒の魔女帽子、と装いは西洋の典型的な魔女そのもの。というか、水を操る魔法に長けた、厄水の魔女と呼ばれる、本物の魔女である。
伊・Uでは先生も居なければ生徒も居ない。伊・Uに所属する者全てが先生であり、生徒、互いに技術を吸収して際限なく高め合うのが伊・Uなのである。
カツェは咲哉にとって伊・Uでの数少ない友人である。
「少し考え事をしていてな。」
「悩み事なら何かあたしに出来る事があったら言えよ。」
カツェちゃん、本当にええこや~。
敵には容赦の欠片も無いけど。
「あ、そうだ、あたし、あと数ヶ月で、イ・ウー退学するんだ。」
「ずいぶんと急だなぁ。」
「その、ずっと前からイヴェリタ長官に魔女連隊に帰隊するように催促があったんだ。あの、その…さ、咲哉も…一緒に来ないか、魔女連隊に。」
「魔女連隊って名前からして女ばっかりだろ。男の俺が入れるのか?」
「咲哉だったら男でも女でもどっちにでも成れるから大丈夫だろ。咲哉がどれだけ凄い大魔女か、イヴェリタ長官に伝えたら、咲哉のことを大歓迎だって言ってたし。もし、来るならそれ相応の地位も約束するってよ。」
大魔女って俺、男だから。確かに、クラスカードで女の英霊の姿を借りて生活することも可能ではある。しかし、姿を変えてもやっぱり俺という男の精神であることは変わらないのだ。女ばかりの所に男一人なんて肩身狭そうだ。
「う~ん、お誘いは遠慮するかなぁ。」
「え~。結構良い条件なのに。」
「でも、今度遊びに行くから。」
「おう、来い来い。あたしがドイツの名所を案内してやるよ。それに、お前とは、その、友達だからな。日独同盟もあるし、助けがいるいつでも呼べよ。」
「カツェも助けが必要ならいつでも言いなよ。出来る限りの協力するから。」
「お、おう。」
カツェが恥ずかしがるように少し頬を赤らめながら返事をした。
しかし、咲哉のこの発言が後の大戦に巻き込まれる原因となるとは思ってもいないのであった。
―――
数年前、咲哉が勧誘された組織は伊・Uだけでは無い。
警視庁、超能力捜査部からも伊・Uに勧誘される前に入り、超能力捜査、顧問部の指導係という地位を与えられていた。
別に警察になりたいから入った訳では無い。
当時、咲哉は戦いに巻き込まれ、故意で無いにしろ、いろいろなモノを破壊していた。
そこに、警視庁のお誘いである。
あれ?これ、俺がやった事を警察は把握しているってことだよな。このお誘い断ったらどうなるんだ?何かヤバくね!ということで入っただけなのだ。
その後に、もっとヤバい其処らの国家よりも力を持った漫画みたいな組織、伊・Uから勧誘を受け、入ったのだ。伊・Uでの活動目的は自己の鍛錬や目的の実現など、各自の自主性に委ねられ、法規が存在せず、メンバー同士でも自己の目的の障害になるなら排除してもよしとする程に自由である。
だから、伊・Uに入ったからといっても、一度入った警視庁を即座に辞めるなんて警視庁に喧嘩売るような行動をする必要が無いことに咲哉は安堵した。
―そして、今日からは何の因果か、武偵高の教師である。
警視庁に出勤したら、上司に呼び出され、東京武偵高校に教員として行けと言われた。
凶悪化する犯罪に対抗するために新設された武装した探偵、略して武偵。武偵高校は武偵を育成するための高校。そんな場所なだけあって、警察と共同戦線を組んだり、依頼を出したり、武偵高の生徒を警察で研修を受けさせたり、と武偵と警察の繋がりは強い。恐らく、その関係で警視庁から人を送る話しが出たのだろう。
確かに俺は顧問部の指導係だよ。
でもお飾りだから!!
いや…お飾りだから送られたのか。
はあ、まあ、しょうがない。
そんな事を考えながら、銃声や爆発、怒号の聞こえて来る東京武偵高に向けて歩き始めた。
新任教師としての挨拶が一通り終えた後、穏やかそうな高天原ゆとり先生に校長室に案内される。
校長室の椅子に座っているのは東京武偵高校の校長、緑松 武尊。通称「見える透明人間」。奇人変人が多い武偵高校では特徴的な先生が多いが、緑松 武尊校長は真逆。容姿や声などの何もかもが、日本人の平均的特徴を取っており、逆に全く記憶に刻まれないという特徴のない特徴を持つ。
どこで会っても、気が付かない。気にならない。
仮にこの人物に命を狙われているても気を付けようが無い、超危険人物。
つまり、この人物は心理学技術による記憶に残らない技術を持っているのだ。
そんな人物が目の前にいる。緊張で手はじっとりと嫌な汗をかき、頭があまり回らない。
「丁度SSR科の教諭が行方不明で困っていたんだよ。だから—————。という訳で今日からSSR学部を頼むよ。」
「は、はい⁉」
意識がちょっと緊張で飛んでて、何が何だか分からない。
「え、えっと、学科一つ任せても良いんですか?。」
「そこは警視庁超能力捜査の顧問部指導係であった君を信頼してだよ。」
「そうですか。ありがとうございます。」
そこで、警視庁での地位が影響してくるんかい。
それ、ただのお飾りだよ、なんてこの雰囲気で言い出せねぇ。
…うん、もう雰囲気に流されちゃえ。
「――では、これからよろしくお願いしますね。」
緑松校長の出す手を握った。
こうして、朔夜はSSR学科の教諭となった。
―――
「あの小さいのが先生だよね。」
「あの先生、可愛いな~」
「咲哉たん、はあはあ。」
「俺は咲哉先生に踏まれたい!」
「何言ってんだ、お前。ついに頭が可笑しくなったか。」
ガヤガヤとした生徒たちの声が扉前から聞こえる。
扉を開けるとピシャリと止んだ。
ここはSSR学科にある稽古場。
床は板で出来ており、とても広い。
ここは、体術、槍、剣術等の訓練が可能な場所である。
みんなキッチリと一定間隔で間を取り、正座をしている。
とりあえずは彼らの真正面の真ん中に正座で座る。
「今日から講義する桜井朔夜です。よろしくお願いします。」
「「「よろしくお願いします。」」」
「私がこの講義で教えるる、パンクラチオン、槍術、剣術、医術学等は全て古代ギリシャ式のものです。その中には現代のものよりも血生臭い物や古臭い物もあります。それを理解してこの講義を受けて下さい。」
「「「はい。」」」
「では、みなさん立って下さい。夢幻召喚(インストール)——(ケイローン)。」
人に教えたことなんて一度も無いからどうしたら良いのか全く分かりません。
先生として百戦錬磨のケイローンさん。助けて下さい!
お願いします!
—魔法陣は足元から頭の先へと移動して消ると、服装が戦装束に変わっている。
いや、服装だけでは無い、気配そのものが、一変した。
「これから、拳闘と組技を複合させた総合格闘技であるパンクラチオンその中でも古い古代ギリシャ式の技をその身で体感してもらいます。構えなさい!」
「ええ⁉」「ちょっと待って下さい。」「あ、あの—。」
武器を構えるのに手惑うのは大半が1年生。
2年生、3年生は朔夜の雰囲気が変わるのと同時に、臨戦態勢に移っている。
「では、始めます。」
「え⁉速っ—。」「うげっ!?」
一番前の人との距離を一歩で詰めて殴る。そのまま流れるようにクルリと身体を回転させて横でぼんやりと立っている生徒に回し蹴り。
吹き飛んだ2つの身体はボーリングのように人を巻き込んだ。
蹴りで片足を足を伸ばしたところに横から蹴りが来る。その蹴りに手加減の意思は無い。その生徒の全力なのだろう。しかし、遅い。
その生徒の足に片手で組み付き、勢いそのまま、伸ばしていた足を振り下ろし、力を増幅―ぶん投げる。
「やる気があるのですか。」
様子身をするように生徒全員、構えて動かない。
―と思ったら
「「うぉぉぉおおおおおおおお!!」」
雄叫びを上げながら走ってくる二人の体格の良い男子生徒。
左右から抱きつくような全力のタックル。
―同時では無い。少し、コンビネーションがずれている。
それに咲哉は顎を軽く撫でるように右手で半円を描くように裏拳。
二人の男子生徒は咲哉の横を走り去り、糸が切れたように崩れ落ちた。
「なっ!!何が!?」「何で!?」
「ほら、立ち止まって無いで、とっとと来る。さっきのだって隙があったのに、何で攻撃して来ない。」
「隙、隙なんてあった!?」「さっきの何が起きたのかも分からないんだけど。」「俺もだよ。」「どうする?」
「何トロトロと話してやがる。来ないなら、こっちから行くけど。良いか?」
「こうなったら全員で行くぞ!!良いな!?」「おう!?」「それしか無い!」「やってやる!」
―結果、生れたてのは死屍累々の生徒達。
「ぜぇ、ぜぇ。」「もう無理。死ぬ。」「身体が~!」
「智里ちゃ~~ん。」「ちょっと重い、私のもたれ掛かるな!」「これってSSRの授業か?」「何で先生は息一つ乱して無いんだよ。」「あり得ね~。」
「これが私の教える古代ギリシャ式のパンクラチオンだ。皆、分かったか?」
「せんせ~、先生の動きが速すぎて殆ど見えませんでしたし、分かりませんでした。」「同じくで~す。」
「でも、どういうものなのか身体で実感しただろ?」
「それは、勿論。」「ええ、確かに。」
「じゃあ、これから技を教える。休憩は終わりだ、みんな立て。気絶している奴は叩いて起こせ。」
「「「はい!!」」」「「「yes、マム」」」
「では、まず――」
――半年後
「ふんっ!」「はぁっ!」「オラオラオラ!!」
分身しながら組手をする生徒達がいた。
「ハァー!」「コォー!」
強烈な二人の『気』がぶつかり合いビリビリと空間を震わせる。
一人は色白い肌で、体格の小さな黒髪の少女、佐倉 鹿瀬。見かけは何処にでも居そうな少女であるが、その身に纏うのは荒々しい猛獣の様な気。
もう一人は、筋骨隆々で身長2m程の金髪を短く切り揃えた少年、釜鳴 康介。こちらの少年から放たれているのは柳を連想させる静かな気。鹿瀬から放たれる気をきれいに受け流している。
――対照的な両者であるが、共に無手である。
緊張が極限まで高まり弾ける。
先に動いたのは鹿瀬。
豪ッ!と空気を引き裂きながら右腕から放たれる剛拳。
それに対し、康介は右手の平で受け、力を全身に分散させて流すと共に右に捻り壊そうとするが、鹿瀬は流れに逆らわず、跳んで身体を右に回転させることで防ぎ、そのまま、顔に左足で回し蹴り。
康介は空いている左腕で即座にガードするが、鹿瀬は右腕の拘束をスルリと外して回し蹴りを利用して後ろに跳ぶ。
そこに康介の追撃、姿が4人に増加。4方向からの押し潰す様な連続突き。
しかし、鹿瀬の姿がユラリと空に消える。
康介は周囲に視線を巡らせる。…居ない?上!
鹿瀬は天井を蹴って加速。身体を一回転させて、体重のたっぷり乗った膝蹴りを放つ。
対し、康介は肘撃ちで迎え撃つ。
とても素手で鳴らせるようなレベルじゃない轟音が鳴り響き、両者宙に弾け飛ぶ。
クルリと両者地を足に突け、即座に体勢を立て直し、踏み込もうとした、ところでしゃがんだ。
――すぐ横で闘っていた槍使いと無手の二人。
槍使いの気が極限まで高まり、呟く。
「風刃雲槍」
弧を描くように振るわれた槍から放たれる鎌鼬が、周囲を切り裂き、丁度康介と鹿瀬の上を通り過ぎる。
他の組手している生徒達も避けたり、持っている剣で鎌鼬を切り裂いたり――各々の手段で防ぐ。
「危っ、危なっ!」「もっと周囲に気を配れよ!」「ちょっと切れたぞ、ボケッ!!」
槍使いに文句を言うが、誰も重症を負っていない。
その練度は個人差はあるが全員が妙手級以上。中には達人級(マスタークラス)に到達してしまっている者までいる。
空気が爆ぜ、轟音が鳴り響く。
そんな光景を咲哉はぼんやりと見ていた。
……どないしよ。