三ヶ月ほど前のことだった。ゲルド族の族長が突然倒れた。
ゲルド熱を治療するには、とにかく体を冷やし続けなければならない。北の
三日後にようやく熱が引き、安らかな寝息を族長が立て始めた時、寝台の傍らで連日連夜母の看病をしていたルージュの目から、思わず涙がこぼれ落ちた。もうこれで安心だ、母様は大丈夫だ。ゲルド熱は一度熱が下がり症状が落ち着けば、二度と罹患することはないと言われている。一度苦しんだのならば、もう二度と苦しむことはないはずだった。
だが、これで終わりではなかった。四日後、まともな食事がとれるようになり、日課の槍の素振りまでできるほどに回復した族長を、前回を上回る高熱が襲った。
万一に備えてあらゆる種類のヒンヤリ薬と大量のアイスチュチュゼリー、さらに新鮮なモルドラジークの肝を用意していた医師団であったが、それらを以てしても今回ばかりはなかなか熱が下がらなかった。
ついには熱を下げるためにアイスロッドやフリーズロッドまでもが投入され、族長の体を直接凍結させるという非常手段が採られた。前日の夜まで元気で、寝台で優しく頭を撫でてくれながら本を読み聞かせしてくれた優しい母が氷漬けにされている。あまりに凄惨な光景を目にしてルージュは失神した。
そして、症状は三日後に寛解した。ここに至って医師団も、これは単なるゲルド熱ではなく新種の奇病であろうと認識した。これまでの傾向を踏まえると、また四日後には高熱が族長を襲うはずだった。医師団は準備を整えたが、予想とは異なり二日後に族長は発熱した。医師団は首を傾げるばかりで、何ら有効な治療法も、効果的な薬品も見つけ出すことができなかった。
しかし今回の発熱はそれまでと異なり、あまり高熱ではなく、族長が意識を失うことはなかった。責任感の強い族長は「これ以上政務を滞らせるわけにはいかない」と寝台を降り、氷風呂に浸かりながら執務をこなした。
熱で顔を真っ赤にしながら、文官からの報告を聞き、書類に目を通し、指示を与える母……ルージュは少しでも熱を下げる手助けになればと、コログのうちわで母を扇ごうとしたが、「仕事の邪魔になるからやめろ」と怒られてしまった。その夜、お気に入りのピンク色のスナザラシのぬいぐるみを強く抱きしめながら、ルージュは無力感と情けなさで声を押し殺して泣いた。
以来、ルージュは母の病気を治そうと、ハイラル各地の名医の情報を集め、また医師団の討議に参加して治療法について理解を深めるべく努力した。名医はすぐに見つかった。遠く東の果てのハテール地方のハテノ村、シーカー族のカカリコ村、南の海のウオトリー村、どの村にも名医がいた。ルージュは豪華な贈り物を持たせた使者を派遣して、丁重な文言のもと高額の報酬を提示して医師たちをゲルド砂漠に招聘した。だが、意外にもそれに応ずる者は皆無だった。どの医者も自分の村だけで手一杯で、長期間離れるわけにはいかなかった。「力だけで人を統べることはできぬ」という母の言葉をルージュは思い知った。
それでもルージュは、カカリコ村の医者からある有用な情報を入手することができた。ハイリア湖の南岸には、大厄災以前の古き時代より
ルージュはこの助言を天の声と感じた。かつてのハイラル王国の医学薬学の水準は非常に高かった。ある代の国王はなんと百三十歳まで健康であったという。
彼女はビューラに、すぐに自らハイリア湖へ出向き、老研究者を連れて帰って来たいと相談した。
ビューラは、困った。いくら族長を救うためとはいえ、砂漠を出て遠くハイリア湖に行くなど危険極まりない話だった。族長の生命が危うい現在、唯一の跡取り娘であるルージュに万一のことがあっては、ゲルド族は終わりである。ルージュの母を思う気持ちは痛いほど分かるが、はたしてどうなることか……不安な気持ちを抱いたままビューラは族長に謁見し、経緯を説明した。
氷風呂に浸かり、書類を捌きながら、高熱で赤い顔をした族長ははっきりした口調で言った。
「娘の思う通りにさせてやってくれ。私は今まで娘に母親らしいことをあまりしてやれなかった。これからは可能な限り願いを聞いてやりたい。それに、娘が自発的に何かやりたいというのも嬉しいことだ。若いうちにゲルド地方を出るということも貴重な経験になるだろう」
それでも、ビューラは言った。
「しかし、万一のことを考えると……」
ビューラの懸念を、族長は一向に気にしなかった。
「万一、ということがあれば、それこそ運命が我々ゲルド族に滅びよと命じたのだと考えるしかない。それに、娘は私と違って強運だし、
こんな経緯で今回の旅は始まったのだった。旅程は順調そのもので、ルージュたちの一行は砂漠を抜け、ゲルドキャニオンを抜け、デグドの吊り橋を渡り、街道を東へ進んだ。初めて見る緑豊かな景色にルージュは興奮と好奇心を隠しきれない様子だったが、己の使命を強く自覚しているため、はしゃぐようなことはなかった。ハイリア大橋を渡る最中、一行は橋の真ん中に棲みついていたリザルフォスたちに襲撃されたが、ゲルドの精鋭たちによる護衛の前では鎧袖一触で、大して時間もかからずに突破した。
だが、彼女たちが目的地についたとき、すべてが無駄になったことが明らかになった。
「不気味な仮面と忍び装束の奴らは突然やってきて、『研究所が保管しているすべての論文と文献、データと試料と薬品を譲渡しろ』と要求してきました。そして父には、『栽培計画中の改良ツルギバナナのための肥料と農薬の研究をしろ、さもなければ貴様の片腕と片足をもぎ、自由に動けないようにしてから連れていく』と言うんです。脅しに屈するような父ではありません。父は断固拒否し、イーガ団に渡すくらいならと、いざという時のために密かに設置していた自爆用の火薬樽に火をつけて果てました」
旅は、完全な失敗に終わった。ルージュはかつてないほどの失望感と徒労感に崩れ落ちそうになったが、なんとかそれを
そんな時に、ルージュはこの落石事故に遭遇したのだった。ビューラと兵士たちの手前、動揺を見せるわけにはいかないとルージュは努めて冷静さを装った。私が弱気になれば、ゲルド族の未来はますます暗く閉ざされたものになってしまう。強くあらねば!
本当はルージュも、
ぬいぐるみを強く抱きしめ、顔を
「運命とは残忍なる略奪者。その前にあっては高貴な生まれも山のような財宝も何の役にも立たぬ。何もかもままならぬものよ……」
強がりをしている。とても幼稚で、尊い強がりを、この方はしている。ビューラには分かっていた。頑張りすぎてしまうこの愛しい主のために、ほんの少しでも良いから休息を取ってほしいと彼女は思った。ビューラは言った。
「ルージュ様、何かお飲み物をご用意いたしましょうか。果物が若干ございますから、これでミックスジュースでもお作りします」
ルージュの顔が、少しだけ明るくなった。
「すまないな、ビューラ……む?」
ルージュは何かを聞き取ったようだった。ビューラは己の主に問いかけた。
「いかがなされましたか?」
ルージュは言った。
「外が何やら騒がしい。兵士たちが騒いでるようだ。何かあったのではないか。ビューラ、ミックスジュースはよい。すぐに様子を見てくるのだ」
ビューラは答えた。
「はっ!」
ビューラは素早く馬車を降りると、兵士たちのもとへ大股で歩いて向かった。兵士たちは何かを取り囲み、がやがやとお喋りをしていた。が、ビューラがやってきたことに気づくと一斉に沈黙し、頭を下げた。
なにか、あったな。めんどうなことでなければ良いが。そう思いつつ、ビューラは言った。
「チーク、どうした。なにがあった」
隊長のチークは困惑した顔をしつつ、ビューラに答えた。
「ビューラ様! それが、この者たちが……」
チークが話し終える前に、どこかのんきそうな声が響いた。
「何だ、お偉いさんでも来たゴロ?」
そこには、三人のゴロン族がいた。ゴロン族は山に住む、岩の種族である。彼らは大きな岩石の塊に小さな岩石の手足がついたような奇怪な風貌をしている。三人のゴロン族はいずれもねじり鉢巻きをしていた。
意外な存在だった。ゆえにビューラは意外の念にとらわれた。たが彼女は経験豊かなゲルドの戦士であった。堂々とした態度で彼女は彼らに話しかけた。
「
三人のゴロンは一斉に肩幅に足を開き、背筋を伸ばし、腕組みをした。そして言った。
「マッスル! よくぞ聞いてくれたゴロ! 俺たちは!」
「ホット! ゴロンのド根性三兄弟!」
「ス、スウェット。ボクたち、立派なオトコになるために修行の旅をしている最中ゴロ」
三人はそっくりだった。三人のうち、一番覇気をまとっているゴロンが言った。
「俺は長兄バケット! オトコとは 厚き胸板 フルハート。マッスル!」
次に、長兄バケットの次に覇気をまとっているゴロンが口を開いた。
「俺はヒール! オトコとは 気力体力 不屈の精神。ホット!」
最後に、一番弱々しい雰囲気のゴロンが言った。
「ボ、ボクはカベータ。オトコとは……ごめんゴロ、ボクまだオトコの句を持ってないゴロ、すまないゴロ」
あまりの暑苦しさにビューラは面食らった。隣のチークも愕然としていた。たまにゲルドの街へ宝石の交易で訪れるゴロン族たちは、みんな穏やかでともすれば臆病な性格をしていたため、彼女たちはこれほど自己主張が激しく押し出しの強いゴロン族がいるなどとは思ってもみなかったのだった。
ややあって、ビューラがまた口を開いた。
「あ、ああ……その、なんだ。丁寧な自己紹介に感謝する。それで、お前たちはなぜこんなところに来たのだ」
三兄弟は同時に腕を組んだ。長兄のバケットが言った。
「マッスル! 俺たちはド根性三兄弟! オトコをアげる修行ができるなら、たとえ火の中水の中草の中森の中、土の中雲の中オクタの胃袋の中、どんなところへでも出向いてド根性を試すゴロ!」
末弟カベータが長兄の言葉にツッコミを入れた。
「いや、さすがに雲の中は無理ゴロ……」
次兄のヒールが口を開いた。
「ホット! 俺たちがここに来たのは暑さを
末弟のカベータが次兄の言葉に補足を入れた。
「組長からあまりに堪え性がないと怒られて、オトコをアげるまでは帰ってくるなとゴロンシティを追い出されたのは内緒ゴロ……」
長兄バケットが
「カベータ、さっきからごちゃごちゃとうるさいゴロ! 余計なことは言うなゴロ!」
末弟カベータは縮こまった。
「ご、ごめんアニキ」
ビューラは頷いた。
「なるほど、だいたい事情は了解した」
オトコを上げる修行か。ビューラは女なのでオトコというものはよく分からないが、修行というからにはそれはおそらくゲルド族でいうところのゲルド砂漠一周マラソンとか、モルドラジーク単騎狩りとか、リザルフォス百人組み手とか、スナザラシチキンレースとか、まあそういう類のものだろう。彼女はそう思った。
ゴロン族三兄弟はまたもや大きな声で言った。暑苦しい声だった。長兄バケットが言った。
「マッスル! 修行に使えそうな適当な岩盤を探している最中、聞けば落石で道が塞がり、立ち往生している人々がいるとか! 俺たちはピーンと来たゴロ!」
次兄ヒールが言った。
「ホット! これはオトコをアげる修行になると!」
末弟カベータが言った。
「ス、スウェット。ほんとはひもじくて
次兄ヒールが
「カベータ、オマエはさっきからブツブツうるさいゴロ! 少し黙っておけゴロ!」
長兄バケットが最後に言った。
「というわけで、俺たちが落石を撤去してやるゴロ! オマエたちは邪魔だから脇に退くゴロ!」
何という幸運! ビューラはほくそ笑んだ。どうやらこのゴロン三兄弟が道を開いてくれるらしい。ゴロン族は全員採掘のエキスパートと聞く。この程度の岩ならば朝飯前に片付けてしまうだろう。だが、あまりにもこちらにとって都合の良すぎる話ではないか? ビューラは
長兄バケットが、彼女の心を読んだかのように、にやりとした笑みを浮かべた。
「お、あまりにも都合が良すぎると思ったゴロ? オマエの予想はすこぶる正しいゴロ!」
ビューラは言った。
「やはりか。しかしこちらとしてはこれほどありがたい話はない。道を急いでいるのでな。
三兄弟はどんと胸を張った。次兄が言った。
「ホット! 俺たちにルピーは不要ゴロ! 必要なのは修行に使うための薪の束ゴロ!」
末弟が言った。
「ここらへん全然木が生えてなくて薪の束が手に入らないゴロ。困ったゴロ」
長兄がまた言った。
「マッスル! だけではどうにもならんこともあるということだゴロ。そこでだが、ずいぶん金持ちみたいなオマエたちに頼むゴロ。これから毎月定期的に俺たちへ薪の束を持ってきて欲しいゴロ!」
案外安い要求にビューラはホッとした。
「そ、そうか。その程度で良いならば、喜んで提供しよう。だが本当にそれだけで良いのか? ルピーや宝石はいらないのか?」
三兄弟は憤然とした様子を見せた。次兄が叫んだ。
「宝石なんて小さくて食いでがない上に酸っぱくて不味いだけゴロ! 俺たちに今必要なのは薪の束だけゴロ!」
末弟が付け加えた。
「あと特上ロース岩ゴロ」
次兄は末弟を
「カベータ、黙るゴロ!」
話はまとまった。ビューラはルージュに事の経緯を報告した。ルージュは明らかに愁眉を開いたようだった。彼女は言った。
「よろしい。帰ったら早速、薪の束を手配しよう。特上ロース岩?だったか、どういうものかはわからないが、それもなるべく早く彼らの元に届けるように。ルージュが感謝していると伝えておいてくれ」
ビューラは恭しく頭を下げた。
「ははっ」
ルージュは呟くように言葉を続けた。
「それにしても、運命とは本当に意地の悪いものよ。人に不運を押し付けて嘆かせたかと思えば、すぐに幸運を与えて、人の感情を極端から極端へと揺り動かす……」
☆☆☆
長兄バケットがツルハシを振りかざして叫んだ。
「マッスル! それじゃ始めるゴロ!」
まだなにも手にしていない次兄ヒールが言った。
「ツルハシを寄越すゴロ!」
末弟カベータが言った。
「危ないから下がってるゴロよ」
そして、ゴロン三兄弟は猛然と働き始めた。彼らの働きぶりは目覚ましかった。彼らの手にかかるとただのツルハシが削岩棒となり、あっという間に巨大な岩が砕かれて細かい石となった。
ゲルドの女兵士たちは歓声を上げた。
「すごい、さすがはゴロン族だ!」
「よっ、アニキ!」
「あんたたち、オトコの中のオトコだよ!」
三兄弟は実に良い気分だった。デスマウンテンの粘っこい火山岩を相手に格闘することに比べれば、多少サイズが大きいとはいえ、単なる砂岩を砕くことなど児戯に等しい。イシロックをひっくり返すようなものだ。
次兄ヒールが笑みを浮かべつつ大きな声をあげた。
「うおおホット! もっともっと砕くゴロ!」
長兄も笑っていた。
「はははっ、人から褒められるなんて何年ぶりかゴロ! 悪くないゴロ!」
だが、末弟カベータが言った。
「む、待つゴロ。妙な音が響いてないかゴロ?」
ツルハシを置くと、末弟カベータは地面に腹這いになって耳をつけ、振動と音響を探った。バケットとヒールもそれに倣った。ゴロン族は岩の中から生まれ、最期は岩へと還る一族である。僅かな振動から、それを発生させている者の大きさや、その者が何をしているかを推測することは、さながらゾーラ族にとっての滝登りのように彼らにとって
数秒後、三兄弟は一斉に、驚愕して目を見開いた。彼らは叫んだ。末弟が言った。
「こ、これは俺たちの反対側ゴロ! 反対側で誰かが同じように岩をどかしてるゴロ!」
次兄が言った。
「しかもツルハシも使わずに、素手で掴んで岩を投げ飛ばしているみたいだゴロ!」
長兄が言った。
「反対側の奴、俺たちより先にこの落石を片付けてしまうかもしれないゴロ! うおおおおお! マッスル! 負けてられないゴロ!」
三兄弟は焦った。相手は誰だか分からないが、このまま負けたとなるとオトコが下がる。あの怖そうなゲルド族の戦士も呆れて報酬をくれないかもしれない。彼らは今まで以上のスピードで岩を砕きに砕き、そして砕きまくった。
ゲルド族の女兵士たちは、盛んに三兄弟へ向けてエールを送った。
「あ、向こう側がちょっと見えた!」
「あとは正面のあの巨岩をどかせば開通だ!」
「頑張れ、ゴロンのアニキたち!」
「頑張れ、頑張れ!」
「マッスル! マッスル!」
「ホット! ホット!」
「えーと、スウェット?」
落石現場に、アツい一体感が生まれていた。今まで他人からこんなにアツく応援されたことのなかったゴロン三兄弟は感激した。彼らは最後の力を振り絞った。
「うおおおっ!」
「勝つのは!」
「俺たちゴロおおおっ!」
だが、三兄弟のツルハシが渾身の一撃を直撃させるその直前に、小屋ほどもあるその巨岩が宙に浮かび上がった。いかなる怪力かそれとも魔術か、反対側の正体不明のライバルが巨岩を持ち上げたのだった。
勢い余った三兄弟はバランスを崩し、つんのめって顔から地面へとダイブした。だが三人ともすぐに顔を上げ、自分たちを打ち負かした者の正体を確かめようとした。これほどの怪力の持ち主である。どれだけ屈強なオトコなのだろうか。
三兄弟は同時に声をあげた。
「えっ」
「あれ」
「あっ」
巨岩を持ち上げているその人物と、三兄弟の目が合った。そして、大勢のゲルド族の兵士と、隊長のチークと、戦士のビューラとも、その人物の目が合った。
その者が、声をあげた。
「あっ」
そこには巨岩を両腕で頭上に掲げる、一人の若い女がいた。歳はまだ二十歳に少し届かないだろう。怜悧そうな美しい顔立ちに、鋭いサファイア色の双眼が光っていた。白い肌に、新鮮なツルギバナナの房のような金髪のポニーテール、女性的魅力に満ちたやや長身の肉体……
その女は、なぜか半裸だった。上半身に身につけているのはさらしだけだった。白い健康的な肌は土埃でいささか汚れていた。さらしは純白で、豊かな胸部をきつく締め上げていた。柔らかそうな白い肉が上下に少しばかりはみ出ていた。下半身は
その女は、また声を出した。
「えい」
女は巨岩を無造作に道の脇へと置いた。地響きを立てて、岩は新たな場所に鎮座した。
その時、女が腰に下げていた白い板の紐が切れ、表側を上にして地面へと落ちた。
「しまった」
女はすぐにそれを拾い、顔面に被せた。白い板は仮面だった。仮面に刻まれた逆さ涙目の紋様が、午後の日差しを受けてはっきりと浮かび上がった。
ゲルドの兵士たちはざわつき始めた。腰の月光のナイフへ隊長チークは手を伸ばした。ビューラは腕を組み、射殺すような視線で女を見つめていた。
女兵士たちは言った。
「おい、この紋様って……」
「まさか……」
「イーガ団!」
「イーガ団だ、イーガ団が出たぞ!」
どうやら、また一悶着ありそうだった。
ゴロン三兄弟大好きです。マッスル!
※加筆修正しました。(2023/05/06/土)