ゼルダの外伝 バナナ・リパブリック   作:ほいれんで・くー

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第八話 仁義なき戦い

 ツルギバナナ。フィローネ地方の熱帯林に実るフルーツ。皮に包まれた果肉には筋力増強効果があるとされる。

 

 ハイラル南東部のフィローネ地方は、熱病と毒虫、魔物と野獣が蔓延る、人が生きるにはあまりに過酷な広漠たる緑海である。その中にあってツルギバナナは、昨日も今日も明日も変わらず黄金のように輝いて、内に秘めた生命力をこれでもかと誇示している。

 

 ハイリア人にとってバナナは、南国の代名詞の一つであった。大冒険の末に探検家が持ち帰ったこの珍奇な果実は、王城の展覧会で「()()()()()()()」デビューを飾り、注目の的となった。野心的な商人たちはバナナの潜在的な商品価値を鋭く見出し、他に先んじて流通経路を確立すべく激しい競争を行った。

 

 結果、バナナはたちまちのうちに城下町市場の一角を占めるようになった。庶民から貴族、果ては王族に至るまで、その美味と滋養に魅了された。

 

「さあさあ()うた、さあ()うた、バナナの因縁聞かそうか。生まれは南国フィローネで、親子諸共(もろとも)もぎ取られ、箱に詰められ牛に乗り、ゆらり揺られて道千里、着いたところが城下町。 さあさあいくらで売ったろか」 これは城下町南市場の名物、ツルギバナナのたたき売りの口上である。それは今では誰も知ることのない、ハイラルの失われた庶民文化の一つである。

 

 だが、ある王の時代のことであったが、食卓において特権的地位を享受していたツルギバナナを悲劇が襲った。高名な御用学者が、「ツルギバナナの筋力増強効果とその依存性に関する研究」という論文を王立アカデミーで発表したのである。内容を要約すると、ツルギバナナの果肉には特殊な栄養素(TRG有機酸)が存在し、各種動物(囚人を含む)に濃縮液を定期的に投与した結果、被験体の九割に顕著な筋力増強効果と高い依存性が確認された、というのだった。

 

 新聞や週刊誌は大げさに特集を組んでこの論文を紹介し、サロンの文化人たちはバナナの有害性を訴えるパンフレットを(こぞ)って執筆した。

 

「バナナは、異常行動を引き起こす」

「依存性のあるバナナを庶民に売り捌くことで商人は巨富を貪っている」

「私はバナナを食べるくらいならば、むしろ死を選ぶ」

 

 流行りに乗ることに敏感な吟遊詩人や講談師は事実を誇張して、「バナナは魔王がハイリア人を滅ぼすために生み出した悪魔の果実である」と言いふらした。

 

「魔物はバナナを食べている。朝昼晩と食べている」

 

 恐慌と共にバナナの迫害が始まった。世に言う「バナナ大迫害」である。広場に集められたバナナは神官の呪文とともに焼き払われた。バナナ問屋(とんや)はたいまつとハンマーを持った民衆によって打ち壊され、バナナを扱っていた商人たちは次々と町を追われた。

 

 王は「ツルギバナナを収穫する者、商う者、食する者は、王国の庇護を永遠に失い、女神の名のもとに断罪されるべきであること」という勅令、通称「バナナ勅令」を発し、事態はようやく沈静化したが、同時にバナナの輝かしい未来は完全に閉ざされてしまったのであった。

 

 だが、権力によって悪と断じられたものが、同じく権力によって迫害されている存在にとっての、いわば輝ける太陽となることは世の中往々(おうおう)にしてある。バナナ勅令後、バナナは反王国・反権力の象徴になった。犯罪者や無頼の輩はバナナの密輸入を貴重な収入源とし、また悪人としての誇りとした。本来温厚な一般国民も、増税や徴兵に反対する際はバナナを食べながら行進し、バナナの皮を役所や城門へ投げつけるのが常であった。

 

 そして、ある集団において、バナナはついに生命となり、道となり、天使となった。その集団とは言うまでもなく、あのイーガ団である。

 

 

☆☆☆

 

 

 二人の通行人に遭遇した後であった。バナナのようなポニーテールをふさふさと揺らして走りながら、バナーヌはどうしても解消されぬ不満感に先ほどから苦しんでいた。

 

 原因は、彼女がゲルドキャニオン馬宿で食べた焼きバナナであった。あれは()が細かったし、皮は分厚かったし、パサパサしていたし、量は少なかった。席に着いた時、デカデカと壁に貼られた「焼きバナナ、始めちゃいました」というふざけた文言のポスターに思わずバナーヌの目が奪われたのを、ドゥランは見逃さなかった。

 

「一週間前からここの宿長(やどちょう)が始めたんですよ。何でもフィローネの商人と仲良くなったのがきっかけだとか。私はまだ試していませんが、食べたいですか?」

 

 バナーヌは頷いた。

 

「ぜひ食べてみたい」

 

 ドゥランは言った。

 

「それでは、私がお金を出しましょう」

 

 ドゥランの申し出をありがたく思ったバナーヌであったが、出てきたものに彼女は心底ガッカリさせられた。これが、バナナか。これが、バナナか。こんなに粗末でみすぼらしいバナナを見たのは初めてだ。打ち合わせと雑談を挟んだため、その時は不満感が誤魔化されていたが、走っている最中にむくむくとそれが蘇ってきた。

 

 バナーヌには好きな言葉がある。

 

(しょく)せよ、なお食せよ。バナナは希望である」

「右手に刀を、左手にバナナを持て」

「バナナは道です。生命です。信じてバナナを食する者は、死んでも生きるのです」

 

 いずれもイーガ団の教義の一節である。バナーヌは他の内容をろくに覚えていないし、実践もしていないが、バナナにまつわる言葉だけは固く信じていた。

 

 だから、バナーヌはいい加減なバナナを許さないのだった。彼女はバナナを(おとし)める者を許さなかった。彼女の不満感は次第に怒りへと転化した。やはり見過ごせない、引き返して馬宿の宿長をぶん殴ってやろうか。いや、そんなことをしている暇はない。粗末な焼きバナナを糾弾するのと、バナナ一万本の輸送、どちらが重要かよく考えろ……

 

 あれやこれやとバナナについて考えている内に、バナーヌはいつの間にか落石現場に到着していた。幸いなことに、周囲に人はいなかった。チャンスだった。ここに来る途中も、こちらへ向かう通行人はいなかった。皆、落石を知って引き返したのだろう。始めるなら今しかない……彼女は仕事に取り掛かった。

 

 バナーヌはパワーブレスレットを装着すると、早速岩を持ち上げて、運び、脇へと下ろすというごく単純な作業を開始した。鈍い音が谷底中に響いた。しばらくすると彼女の全身から汗が吹き出した。すでに時刻は正午に差し掛かっていた。気温は刻一刻と高くなっていた。

 

 バナーヌは言葉を漏らした。

 

「暑い」

 

 彼女は顔の汗を拭くために仮面を外し、腰に下げた。手拭いで乱雑に顔を拭うと、彼女はまた岩を持ち上げた。牛のように大きな岩だった。

 

「暑い」

 

 今度は彼女の胸に汗がたまってきた。躊躇することなく彼女は忍びスーツを脱いだ。彼女の白い肌があらわになった。彼女に露出(へき)があるわけではない。彼女でなくとも、己の肉体のみで巨岩を撤去し続けていたならば、大汗をかくだろうし服も脱ぎたくなるだろう。

 

 上半身が涼しくなったことでバナーヌの作業は楽になったが、それと同時に、頭を使わない単純作業は彼女の脳を退屈させ、とりとめのない思考へと導いた。彼女が考えることといったら、バナナ以外にはなかった。

 

 あの宿長が知り合いになったという商人はどんなやつなのだろうか。あんなにショボいバナナを売りつけているのだからどうせロクでもないやつに決まっている。一時期、イーガ団も外部の商人に一部委託する形でバナナ補給をしようとしたが、成長不良の酷いバナナを売りつけられて大損をしたことがあった。装備科のおっさんは装備を横流しして得たルピーで、毎朝新鮮なバナナシェイクを飲んでるという噂がある。なんと嘆かわしい、世の中バナナを悪用して金儲けを企むひとでなしが多すぎる。そういえばフィローネの支部が改良型のツルギバナナを開発しているらしい、房に実る本数が平均五本から七本に増えるとか。肥料が悪いせいかすぐに枯死してしまうらしい。収量アップでコストカットだと幹部は期待しているが、しかしそれもどうなのか。バナナはこの世に誕生した時のまま、自然にあるがままが一番美味しいし美しいのではないか。楽をしてバナナをたくさん得ようだなんて、バナナに対する冒涜ではないのか……

 

 いつの間にか、岩は最後の一個になっていた。だが、バナーヌの思考は止まらなかった。何だか向こう側から声が聞こえるが、とりあえずさっさと片付けてしまおう。それにしても今回輸送されてくるバナナは二千房という。二千房のバナナといえば、一房に五本と考えて一万本だ。先日の相撲大会の景品はバナナ百本だった。つまり今回運ぶのは景品の百倍だ。百本を手に入れるには、イワゾーを一人投げ飛ばす必要がある。つまり、バナナ一万本とは百イワゾーだ。イワゾーが百人か。あれ? こう考えると大した量ではないような……?

 

 バナーヌは両腕で巨岩を掴むと、頭上へと持ち上げた。さすがに少し重いと感じられたが、無事に持ち上がった。

 

「えっ」

「あれ」

「あっ」

 

 なぜか目の前に、地面に倒れたままこちらへ顔を上げている、ねじり鉢巻のゴロン族が三人いた。その奥には、槍や盾や刀を持つ屈強なゲルド族の女兵士たちがいた。繊細な彫刻が施された半月刀を腰に下げた、隊長らしき女もいた。両手剣を携える筋骨隆々とした女戦士もいた。

 

 その全員と、バナーヌの目が合った。思わず彼女の口から声が漏れた。

 

「あっ」

 

 優れたイーガ団員は決して動揺しない。バナーヌもまた、よく訓練されたイーガ団員であった。彼女はとりあえず持ち上げた巨岩を脇に置き、その拍子に落としてしまった仮面を拾い上げて顔に(かぶ)ると、落ち着き払って首刈り刀をくるくると振り回し、油断なく構えた。

 

 ゲルド族たちが叫んだ。

 

「イーガ団!」

「イーガ団だ、イーガ団が出たぞ!」

 

 さあ、どこからでもかかってこい。

 

 

☆☆☆

 

 

 突然のイーガ団の出現にゲルド族の女兵士たちは色めき立ったが、彼女たちもまた、今回のルージュの旅に際し護衛として特別に選抜された精鋭であった。すぐに冷静さを取り戻すと、彼女たちは日頃積んできた猛訓練の通りに整然と隊列を組んだ。

 

 隊列は三列の横隊であった。前列にゲルドの槍を装備した兵士が並び、中列はゲルドの剣と盾を装備した兵士が並ぶ。最後列は弓兵である。緊密な連携による槍衾(やりぶすま)は前面の臆病な敵を寄せ付けず、その間に弓兵が正確な射撃で敵を射抜く。勇敢な、ともすれば無謀な敵が傷つくことも(いと)わず、槍先を回避し接近戦を挑まんと突入して来ても、後列の兵士が前列を盾で援護しつつ剣で排除する。この隊列こそ、ゲルド兵法でいうところの「新月の隊形」である。

 

 隊長チークは、命令せずとも隊列が即座に組まれるのを見てほくそ笑んだ。

 

「ふっ……」

 

 さすがは我らの精鋭だ。半裸のイーガ団が出た時は面食らったが、たかが一人。いくら神出鬼没のイーガ団とはいえ、単独かつこのような隘路では逃げ場はあるまい。

 

「それに、(みずうみ)研究所での恨みもある」

 

 族長様の原因不明の御病気を治す唯一の手がかりだったもの。いとけなきルージュ様の初めての旅の目的だったもの。それをイーガ団は無惨にも踏み躙った。バナナ栽培などという意味不明な目的のために! ここで会ったが百年目である。ゲルド族を愚弄した罪を、その命で償わせなければならない。

 

 チークは月光のナイフを振り上げると、谷底中に響き渡る勇ましい声で号令をかけた。

 

「ぜんたーい! 構えぇっ!」

 

 女兵士たちは一斉に武器を構え、右足を半歩分前へ出した。

 

 イーガ団は逃げようとしなかった。半裸のまま、独特な形をした首刈り刀を構えて動かない。当然だ。チークはそう思った。熟練の弓兵が狙いをつけているのである。少しでも背を見せたのなら矢が降り注ぎ、その薄汚い命を散らすことになるのを理解しているらしい。

 

「前進!」

 

 チークはそう言うと、月光のナイフを振り下した。

 

 号令と共に隊列が猛然と前へ進み出ようとした、その時だった。

 

 すっかり存在を忘れられていたゴロン三兄弟の長兄バケットが、大声を上げて隊列の前に立ちはだかった。

 

「ちょっと待ったゴロ!」

 

 その両隣にはヒールとカベータが控えていた。

 

 チークは激昂した。

 

「貴様ら、退()け! さもなければ突き殺すぞ!」

 

 およそ戦士にとって、振り上げた刃を振り下ろす寸前で止められることほど腹立たしいことはない。いくら道を開通させたオトコたちとはいえ、隊列を止めるなど到底許されることではなかった。

 

 女兵士たちも隊長と心を同じくしていた。はちきれんばかりの闘志を剥き出しにして、彼女たちは口々に喚き散らした。

 

「邪魔だ! さっさとそこを退()け!」

「はりたおすぞ!」

「ゴロンのアニキたち、さっさと退()かないと怪我じゃ済まないぞ!」

「ふざけやがって、イーガ団の前に血祭りに上げてやろうか!」

 

 だが、三兄弟は退かなかった。それどころか彼らはねじり鉢巻を締め直すと、どっかりと腕組みをして、鋭く隊列を睨みつけた。

 

 三兄弟は同時に言った。

 

「この戦い、俺たちに預けてくれゴロ!」

 

 意外なことを言い始めた。チークは唖然としつつも、怒りを隠さず長兄を怒鳴りつけた。

 

「何を言うか! イーガ団は族長様とルージュ様に仇なす我らが不倶戴天(ふぐたいてん)の敵! ゴロン族ごときに預けられる戦いではない! ゲルドの戦士の誇りにかけてやつをここで(たお)す! 分かったならそこを退け!」

 

 ゴロン三兄弟の長兄バケットも負けずと言い返した。

 

「それを言うなら、やつは俺たちにとってもフグタイテンの敵ゴロ!」

 

 チークは(ひたい)に青筋を浮べて叫んだ。

 

「何を言うか! 意味の分からないことを言うな!」

 

 それからは言い合いになった。長兄バケットが言った。

 

「やつは俺たちのオトコの修行を台無しにしたゴロ! だからここで俺たちがやつを倒さないと、俺たちのオトコはどん底のままゴロ!」

 

 チークが叫んだ。

 

「貴様らの事情など知ったことか!」

 

 バケットが大声で言った。

 

「それに、もうひとつ!」

 

 チークが答えた。

 

「何だ!」

 

 バケットは言った。

 

「大勢で一人を囲むなんてケンカの流儀に反するゴロ! 戦士の誇りというなら、一対一で戦うべきゴロ!」

 

 なんと言い返すべきか、チークは言い淀んだ。

 

「むっ、それは……」

 

 たかが喋る岩の分際でこのゴロン、なかなか口が立つ。それに戦士の誇りという点から見ると、確かに一人を隊列で包み殺すのは少し問題があると言えなくもない。

 

 チークが逡巡した僅かな間を肯定と取ったのか、ゴロン三兄弟は体の向きをイーガ団の方へ変えると、大音声で口上を述べ立てた。

 

「マッスル! 俺たちはゴロンのド根性三兄弟! 俺は長兄バケット!」

「ホット! 俺はヒール!」

「ス、スウェット、ボクはカベータ……」

 

 三兄弟は両腕を振り回し、足を踏み鳴らした。長兄が言った。

 

「お前を倒してオトコをあげるゴロ! 正々堂々勝負しろゴロ!」

 

 次兄が言った。

 

「ちなみに俺たちは三人で一人! だから三人一組でお前と戦うゴロ!」

 

 末弟が言った。

 

「卑怯ではないゴロ、ボクたち戦いの素人ゴロ、弱いものが徒党を組むのは自然の摂理ゴロ」

 

 長兄バケットには勝算があった。目の前のあのニンゲンの女、むちむちとしていて肉付きは良いが、所詮は自分たちの(いわお)の如き筋肉に敵うものではない。岩を持ち上げたのは、たぶん魔法か何かだろう。構えている武器も、ゲルドの怖い戦士たちのものと比べて明らかに貧弱だ。あんなに細い(やいば)では岩盤のように分厚く硬いゴロンの皮膚を斬ることも穿(うが)つこともできるはずがない。

 

 デスマウンテンの噴火をイメージして、三兄弟は雄叫びを上げた。

 

「うおおおおっ!!」

 

 それは威嚇のためだった。威嚇を甘く見てはならない。彼らの組長もマグロックを相手にしてよく威嚇をしている。

 

 だが、膨大な熱量と覇気を受けても、イーガ団はさながら擬態したリザルフォスのごとく、ピクリとも動かなかった。ふと、長兄バケットは内心底知れぬ不気味さを感じた。だが彼は、(おく)した心に活を入れるように気迫を込めて叫んだ。

 

「さあ、覚悟するゴロ! マッスル!」

 

 三兄弟はぐるぐると腕を振り回し、ズンッ、と地響きを立てて一歩を進めた。

 

 その時だった。イーガ団は初めて動いた。イーガ団は素早くポーチから何かを取り出すと、三兄弟の頭上へと放物線を描くように放り投げた。

 

 三人の目が飛んでくるものに一斉に向けられた。

 

「むっ」

「なにっ」

「えっ」

 

 存外ゆっくりと飛んできたのは、二本の小瓶だった。中には真っ赤な液体が詰まっていた。小瓶は午後の日差しを受けて、キラリと怪しい閃きを放った。

 

 次の瞬間、何かが突然飛んできて、二つの小瓶は同時に空中で粉々になった。中身の赤い液体が無数の飛沫となってゴロン三兄弟の顔面に襲いかかった。

 

 三兄弟は絶叫した。

 

「ぐわぁあああっ!!」

「いでえええええっ!!」

「目が、目があああっ!!」

 

 三兄弟は一斉にのたうち回った。その動きのあまりの激しさに砂煙がもうもうと立ち上った。いまだかつて経験したことのない激痛が彼らを襲っていた。両目から涙が滂沱(ぼうだ)として流れ、溶岩の熱にもビクともしない皮膚からは一斉に汗が噴き出した。顔面はヒリヒリとし、唇と口の中がピリピリとした。

 

 ピリピリ? そう、ピリピリだ。幼い頃、ゴロンシティの観光客向け料理屋に行った時のことを、なぜか長兄バケットは思い出した。その店はゴロンの香辛料をふんだんに用いた「もはや(さつ)ゴロ事件! 特製激辛カレー!」を提供しており「これはオトコの修行になるゴロ」と、今は亡きじいちゃんが連れていってくれたのだ。

 

「激辛? こんな程度、俺にとってはピリ辛ゴロ」

 

 鼻水と涙を滝のように流しながら、笑顔で強がってみせたじいちゃん。

 

 あの時と同じ味がする。

 

「わ、わかったゴロぉ……」

 

 息も絶え絶えに長兄バケットは言った。

 

「これは、ピリ辛薬……」

 

 三人は仲良く、一斉に気絶してぶっ倒れた。




 バナーヌ! 目や! 目ぇ狙うたれ!

※加筆修正しました。(2023/05/06/土)
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