誰も知らない物語   作:ヤムチャしやがって

2 / 3
お久しぶりです。
かなり遅めですが第2話です。




2日目『挨拶回り』

「さて、これで最後かな」

 

 最後の段ボールを開き、中に入っていた荷物を棚へと移し替え終えた。これにて引越しは完了、明日からは本格的に店が始まる。

 ぐっと背伸びをし、壁に掛けてある時計へと目を向けると時刻はお昼を過ぎた頃。お腹もいい具合に減ってきたので一階へと降り、事前に作っておいたサンドイッチを平らげる。

 

 昼食を終えた後、再び二階へ上がり紙袋を二つ持って降りる。紙袋の中身にはお菓子がいくつか入っており、それらを家の庭に駐車している車の後部座席へ。

 これからやるのは挨拶回り。とは言っても全ての家をまわるわけではなく、昔馴染みの家へ行くだけだ。

 

「それじゃ、行きますかねぇ」

 

 シートベルトよし、バックミラーよし、それじゃあレッツゴー。

 

「〜〜〜〜♪」

 

 田んぼに挟まれたアスファルトに車を走らせる。

 いやぁ、昔は徒歩や自転車で走った道だけど、車で走ると新鮮に感じるねぇ。

 

「それにしてももう6年か。ここは何にも変わらないなぁ」

 

 この土地を離れ都会の料理専門学校へ進学したけど、思い返してみればあっという間だったなぁ。

 窓の外に流れる、けれど変わらず続く田園へと視線を移し、自然と笑みがこぼれる。

 

「さーて、最初に尋ねるのはっと」

 

 車を走らせること数分、一軒の平家へと到着。車を止め、袋の中からお菓子を一つ取り出すと玄関へと向かう。

 あぁ、ここに来るのも久しぶりだなぁ。あの人……のことだからどうせ元気だろうけど、ぐーたらしすぎてないか心配だ。

 

 インターホンを鳴らし住居者を待つ。

 

「はいはーい、ちょっと待ってねー」

 

 扉の向こう、足音とともに聞こえてくるのは間延びした女性の声。懐かしい、耳を擽るその声に思わず笑みがこぼれてしまう。

 ガラガラ──そんな音を立てて引き戸が開き、出てきたのはポニーテールの女性。引き戸に手をかけ、こちらを見上げる彼女へ一言、微笑みとともに告げる。

 

「お久しぶりです、一穂(かずほ)先輩」

 

「…………」

 

「一穂先輩?」

 

「…………」

 

 返事がない、まるで屍のようだ。

 なんて言う冗談は置いておき、表情を崩さずこちらを見返してくる先輩へもう一言、言葉を付け加える。

 

「笹山です。忘れちゃいましたか?」

 

「…………あー、公樹かぁ。うんうん、憶えてるよー。久しぶりー」

 

 あぁ、絶対忘れてたなこの先輩(ひと)。相も変わらず、マイペースを体現したようなひとだなぁ。

 

「何年ぶりだっけー? 三年ぶり? いやー、変わらないねー」

 

「最後に会ってから6年ですよ。先輩も相変わらずですね」

 

「あっはっはー、そうかなー?」

 

 頭を掻きながら呑気に笑う一穂先輩。別に褒めたつもりはないのだが……やはりこの人のマイペースさには敵わないなぁ。

 昔っから呑気でいい加減でやる気が感じられなくて。悪いところばっかり目立つ人だったけど、どこか憎めない。

 

 ……まぁ、忘れられていたことにはショックを受けたけれど。

 

「思い出した思い出した。確か中学卒業して出て行くって聞いたけど、今日は里帰り?」

 

「いえ、実はこちらに帰ってくることにしまして。もう引越しも終わったので挨拶に来たんです」

 

「あーそういうことかー。それで、家はお祖父ちゃんの家に?」

 

「はい。とは言っても改装しまして、喫茶店として営業しようかと」

 

 喫茶店の話を出すと、先輩は少し表情を崩す。

 

「喫茶店? こんな田舎に作って大丈夫かねー」

 

「ははっ、そこはまぁ、なんとかやっていきますよ」

 

「まぁ頑張りな、今度顔見せに行くねー」

 

 ポンポンと肩を叩かれる。

 

「立ち話もなんだし上がってくー?」

 

「今日は挨拶だけ予定ですので、また今度改めてお邪魔させてもらいますね」

 

「いつでもおいでー。今度はひかげも交えて三人で話でもしましょうや」

 

 ひかげちゃんかぁ、会うのも久しぶりだなぁ。あのときはまだ幼かったし、どれくらい成長したんだろうねぇ。確か今年で中学三年生だったかな。もう立派なお姉さんになっているんだろうなぁ。

 なんて、現在のひかげちゃん想像してみるがなぜだろう、一穂先輩のイメージが頭から離れてくれない。いやいや、きっと先輩とは違ってしっかり者のはず。きっと、たぶん、メイビー……。

 

「なんか失礼なこと考えてるでしょ?」

 

「そんなわけないじゃないですか。僕は一穂先輩をそんけーしてますから」

 

「ほんとかなぁー」

 

 なんて久しぶりに会った先輩との話は盛り上がり、気づけばだいぶ時間が過ぎていた。ざっと三十分ぐらい。

 

「それじゃあ、挨拶もまだ途中なのでこの辺りで失礼させてもらいます」

 

「そだねー。話はまた今度じっくりとしようか」

 

「はい。それでは先輩、また後日」

 

 そう告げ、会釈をし背を向ける。そして車へ向けて歩みを進め、ちょうどたどり着いた頃

 

「あぁそうだったそうだった。おーい、公樹ー」

 

 なにか忘れていたことがあったらしい。先輩の間延びした声に呼ばれ、振り返る。

 視線の先、距離が離れ少しばかり小さくなった先輩は、俺が振り返るのを確認するや否やおもむろに右手を上げ

 

「おかえりー」

 

 一言、たったそれだけを口にすると、踵を返し家の中へと入って行ってしまった。そんな先輩の背中を見送りつつ、ふと思う。

 おかえり、か。そういえば、帰ってきてから言われてなかったな。

 

「やっぱり変わらないなぁ、先輩は」

 

 どれだけ月日が流れようと、先輩は先輩だった。マイペースでダメなところが目立つ、だけど大事な場面では頼りになる女性(ひと)

 うん、最初に来たのがここでよかった。

 

「さて、次は雪子さんの家にでも行こうかな」

 

 次なる目的地を定め、車に乗りエンジンをかける。

 次もきっといい再会になる。そう考えると、気持ち分だけアクセルを踏む力が強くなった。

 

 

 

 

 

 

 ☆★☆★☆★☆

 

 

 

 

 

「あら、公樹くん? 久しぶりねぇ、元気にしてた?」

 

「お久しぶりです雪子さん。人並みには健康のつもりですよ」

 

 越谷家。現在はこの家のヒエラルキートップである雪子さんと話をしている。

 小鞠ちゃんに夏海ちゃん、そして長男の卓の三児を持つ母なのだが、これがまたどうして、6年前と変わらず別嬪さんだ。

 

「公樹くんもかっこよくなって。これなら小鞠も夏海も安泰ね」

 

「ははっ、何言ってるんですか。小鞠ちゃんは中学生、夏海ちゃんに至っては小学生じゃないですか」

 

「あら、だったら高校を卒業すれば貰ってくれるのかしら?」

 

「ははっ、その時にはきっと素敵な彼氏さんができてますよ」

 

「その言葉、あの二人に聞かせてあげたいわ」

 

 快活に笑う雪子さん。やはりこの人は話していて気持ちがいい。竹を割ったようなさっぱりとした性格をしているからだろう、言葉を交わすだけでなんだかすっきりとした気分になれる。

 とはいえこの雪子さん。普段は優しい人なのだが、一度その逆鱗に触れてしまうと般若へと変貌。その怒りはまるでかのアルマゲドンを彷彿とさせるほど。簡単に言うと、決して怒らせてはいけない女性なのだ。

 

「そうそう、夏海たちから聞いたわよ。なんでも喫茶店を開いたって」

 

「はい。もう数日後には営業を開始する予定です」

 

「そう。でも都会だったらいざ知らず、こんな田舎じゃかなり大変よ?」

 

「承知の上です。でも必ず成功させてみせます」

 

 僕を育ててくれたこの土地に恩を返すためにも、きっとやり遂げてみせる。

 僕の気合を感じ取ったのか、雪子さんは満足げに笑みを浮かべていた。

 

「ふふっ、気合は十分そうね。私も偶にはだけど顔を出すわ」

 

「はい。いつでもお待ちしてます」

 

「楽しみにしておくわ。……それにしても、もう六年も経ったのねぇ。お祖父さんの所にはもう行ったの?」

 

「いえ、祖父の元へは最後に行こうかと」

 

 それだけ聞き、「そう」と雪子さんは話を切る。そして何かを思い出したかのようにぽんっ、と手を合わせ

 

「ああそうそう、駄菓子屋の楓ちゃん。確か仲が良かったわよね、もう挨拶は済ませたの?」

 

「いやまだですね。まぁこのあとにでも行こうかなとは思ってます」

 

 楓か……懐かしい響きだ。いや、別にこれまでずっと疎遠だったわけじゃない。ただ、他の人からその名を聞くのが久しぶりだった。いつもは携帯の小さな画面に映る文字でしか見なかったから。

 

「そう……だったら、早く行ってあげなさい」

 

 そう言い、優しい笑みを浮かべる雪子さん。その言葉に甘え、最後に挨拶をすませると車へ向かう。キーを挿しエンジンをかける。

 目的地は僕と彼女が長い時を過ごした場所。六年という歳月が経っても色あせない、僕の記憶に鮮明に残った思い出の地。

 

「ああ、なんだかかなり昔のように感じるなぁ」

 

 行くのは六年ぶりだけどまるで十年経過したかのようだ。きっとそれだけ待ち遠しかったのだろう、この土地に帰ってくるのが。そしてあの場所へ行くのが。

 はやる気持ちを抑え、ゆっくりとアクセルを踏み込む。そして車は豊かな自然に囲まれた景色を置き去りにしながら、目的地へと向かって走りだす。

 

「さて、それじゃあ行くとしますかね」

 

 彼女が、楓がいる────駄菓子屋『かがや』へ。

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。