今回もギャグ回です。本当です。
◆
深夜の研究所。
槍太は一人パソコンを操作していた。
何故彼がここに居るのか。答えは簡単。ハッキングしたのだ。
槍太にとって、大赦のセキュリティなどそう問題ではなかった。
遠足も間近に迫っているが、その顔に喜びはなかった。
むしろ、険しい表情をしている。
「……ようやく出来た」
データが入力され、様々な装飾が施された銃身の様なガジェット。
ハザードバレル。
それがガジェットの名前だった。
『ほう、強化アイテムか。面白いな』
「………アンタレス、何の用だ」
槍太の身体から、何かがうごめいて出てくる。
液状の、アメーバの様な姿から、槍太の姿となるアンタレス。
「だが……無駄だ。どれだけ強くなろうと、俺達には絶対勝てない」
「…そうだな」
「なら何故抗おうとする?」
「諦めが悪いんだよ、人間ってのは。……お前らには、分かんないだろうけど」
「やはり人間の思考は理解できん。ああ、それと一応伝えておく………もうすぐ、侵攻が始まる。……気を付けろよ」
「あ?」
アメーバ状へ戻り、槍太の身体へと入っていく。
槍太はハザードバレルを手に持ち、研究所を去ろうとするが――――
「やっぱり居た」
ドアの前に安芸が立っていた。
驚いた表情をした後、頭を下げる槍太。
「うわー、ついに見っかった!ごめん安芸!どうか許し―――」
「その手に持ってるモノを渡して」
「え?これを?………何だよ、羨ましいのか?」
「いいからっ!……早く渡して」
語勢を強める安芸。
「生憎、コイツは俺の強化アイテムだ。折角創ったってのに、渡せるわけねぇだろ」
「……以前貴方の身体を検査した時、身体に『穢れ』が溜まっていたの」
「な、なんだよいきなり。……んなモン、ボトル使ってたら溜まるに決まってんだろ。大丈夫、ちゃんと身体は浄めてるからさ」
「問題はそこじゃない。その数値が異常だったのよ。それも、命の危険があるレベルで。そして、そのアイテムは――――――――」
「貴方の、その中に居る存在を、活性化させる。穢れの異常数値も、その存在の影響よね?」
もう誤魔化せないな、と思い、諦めの表情を浮かべる槍太。
「………………はぁ、もうそこまで調べてたとはな。正直、驚いたよ。確かに、お前の言う通りだ。この『ハザードバレル』は、俺の中に居る存在__『アンタレス』って言うんだけどな。ソイツを活性化させる。………けど、それがどうした?アイツらはまだ年端もいかねぇってのに、戦ってるんだぞ?アイツらが少しでも楽になるなら、俺が犠牲になろうと―――――」
「バカ言わないでよッ!」
安芸が叫ぶ。
「あ?」
「そう簡単に自分を犠牲にしないでよ!貴方の代わりはどこにもいないの。貴方が消えたら、どれだけの人が悲しむと思ってるの!?」
「っ……」
「……確かに、私だって鷲尾さん達を戦わせるのには抵抗があるわ。何で私達大人じゃなくて、あの娘達なんだろう、って。でも、――――――」
「貴方達が力を合わせれば、どんな困難にも打ち克つ事が出来るって、1+1+1+1を4じゃなくて10にも、100にも出来るって、私は信じてるから」
「……………」
「……持って行きなさい、ソレ」
「え?」
「それを回収するのは諦めたわ。…………貴方の覚悟を無駄にする事なんて、出来ないから」
「ホントに、いいのかよ…?」
「ええ、今回は目を瞑ってあげる。でも、絶対無理はしないで。……自意識過剰な正義のヒーロー気取りの自称天才物理学者さん」
「安芸……へっ、最高だ!」
顔をくしゃっとさせながら、研究所を走り去る槍太。
「私も、甘くなっちゃったなぁ……」
◆
遠足当日。
バスの中で、槍太は音楽を聴きながら外の景色を眺めている。
目的地へ到着し、生徒が降りていく。
「皆ー、他の人に迷惑掛けないようにねー」
生徒に声を掛け、見守る槍太。
笑顔が満ち溢れている光景に、自然と槍太も笑顔になる。
「ラブ&ピース……か」
「園田先生!先生もやってみませんか?」
「お?お誘いか?よーし、先生本気出すからね!」
その後、「え、何。最近のアスレってこんな難し―――――」
という声が聞こえ、衝撃音が響いたのはいい思い出。
◆
「…………あ、上手く出来てるね。はは……」
昼になり、生徒全員で焼きそばを作っている。
………のだが、空腹のあまり槍太は力尽きている。
歩くのがやっとという程だ。
「え、安芸先生、園田先生大丈夫なんですか?」
「……いつもの事です」
「うぅ~………」
ついに昼食が完成し、槍太も物凄い勢いで完食する。
その間、槍太の周りの生徒はドン引きしていた。
「ふう、少し食べ過ぎたかなー?……で」
槍太の口許がニヤリ、とする。
「「安芸先生、ピーマン残してない?」」
声が重なる銀と槍太。
考えている事は同じらしい。
顔を合わせ、思わず微笑む。
「苦手ならあーんしてや―――痛っ!?ちょっ悪かった、悪かったから放しイデデデデデデ!?」
間接技を無表情で決める安芸と、悶絶する槍太。
その二人を見て、園子が一言。
「安芸先生と園田先生ってカップルみたいですね~」
「ねぇ安芸聞いた?カップルみたイデデデデデデ!?」
◆
夕方になり、オレンジの陽が射す。
帰りのバスの中で、槍太は今までの事を振り返っていた。
「トランスチームシステムを完成させたら大赦から教師になれって命令が来て、それで鷲尾さん達に出会い、三人は勇者として、俺はヴェノムリークとしてバーテックスと戦って……思えば色んな事があった。これ、小説書けそうだな」
バスを降り、神樹館へ安芸と向かう。
「あー!この後仕事あんのか!最悪だ……」
「前まで仕事したいしたいって言ってたのは何処の誰かしらね?」
「いや、それは実験しないと死ぬってだけで―――――」
瞬間、異変に気付く。
風のさざめきも、空飛ぶ三羽のカラスも、安芸も止まっている。
「………最っ悪だ。仕事もイヤだけどバーテックスはもっとイヤだっての!」
『SCORPION!』
「―――変身っ!」
『SCOR!SCOR!SCORPION!Fire!』
◆
マシンビルダーに跨がり、須美達の下へ向かう。
「今回は二体か」
ハザードレベルによって上昇した視力を駆使し、侵攻してきたバーテックスを発見する。
三人も発見した様だ。
(まだアンタレスの言った通り、だな)
◇
遠足の前日、自宅で寛ぐ槍太の中からアンタレスが出てくる。
それも慣れたモノで、今は驚く事もない。
「ん、おう。冷蔵庫ん中にコーラあるから、それ飲んでろ」
「お前に伝えておく事がある……明日、我々による侵攻がある」
「…それで?」
「その侵攻で…勇者の中の誰かが死ぬ、いや全滅するかもしれん」
「んだと!?」
驚愕と怒りのあまり、アンタレスの胸ぐらを掴む。
「おい、どういう事だよそれ!」
「落ち着け……飽くまで可能性の話だ。実は次侵攻してくるのは中々の手慣れでな。俺とアルタルフ―――――まあ戦闘能力をコピーしたただの人形だけどな、ソイツらが攻めてくる」
「……何でそんな事を俺に?」
「勘違いするな。俺は、人間がドコまで足掻けるか……それを知りたいだけだ」
それだけ言い残すと、アンタレスはアメーバ状となり、槍太の中へ入る。
槍太の頭は、意外にも冷静だった。
「なら俺が足掻いて……守ってみせるよ。皆を、世界を。愛と平和の為に!」
嘘はついてないです。
CMの後、槍太が超パワーアップ!