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そこはアメリカのとあるダウンタウン。治安が悪いことで有名であり、
一般人はおろか警察ですらうかつに立ち入ることはない、
まさに絵に描いたような無法地帯である。
そんな場所を、しかも深夜に、彼女のような女性が一人で歩いている光景はまさに異様といえるものであった。
しかし、彼女自身にその場に対する恐怖などは一切見て取れず、ぶつぶつとなにかをつぶやきながらスタスタと歩いていた。
それもそのはず、日々傭兵として死線をくぐっている彼女、忍足あずみからすればこの程度の場所は警戒するまでもないのである。
「ちくしょう、あいつらぁ・・・。人の金だからってしこたま飲みやがって、
ぜっっってぇ許さねぇ。・・・特にステイシーのヤロー。」
彼女が恨み言を言っている原因は数時間前にさかのぼる。
それはあずみの所属している傭兵部隊の新たな女性部隊の隊長に彼女が任命されたことから始まる。
それだけで終わったのなら問題ではないのだが、そのことに多いに反応した同僚、いや、部下たちが「ぜひ祝おう!」と騒ぎ出したのだ。
あずみ自身さして断る理由もなく、彼女達と飲みに繰り出した。だが、それがいけなかった。
散々飲み明かし、いざ会計の時になると彼女達は隊長なのだから部下におごるのは当たり前、
と言い出したのだ。しかも、誰一人として財布を持ってきていないという徹底振りである。
結果、あずみが一人で支払いをすることになり、現在に至る、というわけだ。
「ったく、隊長っつーぐれーならもうちょっとあたいを敬えってんだ。・・・ん?」
そうして一人で愚痴をつぶやきながら帰路に着く彼女は道の端になにかが倒れているのを見つけた。
よくよく見てみるとそれは一人の子供であった。
それだけであればさして気にすることではなかった。いや、普通であれば大問題なのだが、
いかんせんこの場所は普通ではないのだ。
子供一人倒れていたところでそれが日常茶飯事であり、気にするものはいない。
あずみも最初はいつものことであると思ったが、その子供はこの場所においても異常であった。
まず、その子の服装がおかしかった。その子は囚人が着ているような拘束服を着ていて、今も腕を拘束されている状態だった。
そして、顔立ち。その子供は非常に端正な顔立ちをしており、その子供が少年なのか、少女なのかを判断することはあずみには不可能だった。
しかし、そんなことよりも真っ先にあずみの目を引いたのはその子の体の傷であった。
その子供の体は傷だらけであり、傷ついていない部分を探すことが困難なほどであり、
服装も腕が拘束されていることを見なければ気づくことはできなかった。
確かにここは危険地帯ではあるが、
この子供の状態はこの場所の常識でも考えられないものであった。
「おいっ!しっかりしろ!!」
あずみがその子を抱き起こして呼びかける。
胸が上下していることから生きてはいるようだが意識はなく、危ない状況であることは確かである。
「・・・くそっ!」
そうはき捨てるように言うとあずみは子供を抱きかかえて自宅へと走り出した。
--------数時間後
「で、どうなんだ?そのガキのけがは?」
「・・・大丈夫よ。見た目ほど傷は深くないし、もう処置は終わったわ。あと1、2時間もすれば目も覚めるでしょうね。」
ダウンタウンのマンションの一室、あずみの自室からそんな話し声が聞こえる。
そこにはあずみと先程の子供、そして白衣を着た女の三人がいた。
「それにしても、こんな深夜にあなたから連絡をもらって急いで来てみれば・・・
彼はどうしてこんなけがをしているの?いくらここでもここまでのけがの患者はそういないわよ?」
その女性はこのマンションの管理人であり、闇医者であるミカド。
医師として、無免許ではあるが確かな腕を持っている人物である。
「あたいだって知らないよ。こいつに直接聞くしかねぇだろ。」
と、彼女の言葉から(こいつ男だったのか)と内心驚きながらも、
ベッドで眠る少年に目を向けながら質問に答える。
「そう。じゃああなた、なんでそんな見ず知らずのこの子を助けたの?」
「あいにくと、あたいは目の前で死にかけてるガキを見捨てられるほど、
腐っちゃいないつもりなんでね。」
そんなあずみの言葉に「そう」とやさしく微笑みながらミカドはつぶやいた。
「・・・うぅ。」
あずみとミカドがそんな話をしている内に少年が目を覚ました。
「起きたか。」
「・・・・ここは?」
「ここはあたしのマンションで、彼女の部屋よ。
彼女が倒れているあなたをここまで運んでくれたの。」
「・・・あり、がとう。」
「礼はいい。それよりも、なんでそんな怪我してあんなとこに倒れてたんだ?」
「・・・たおれ、てた?」
「ちょっと、あずみ。・・・ごめんなさいね?
急に変なことき「わかんない」・・・え?」
「わかん、ないんだ・・・なんにも・・・ぼくの、なまえも・・・どこに、いたかも」
「・・・本当か?」
「・・・うん。」
そんな少年の言葉を聞いてあずみはミカドに目を向ける。
「・・・よく考えてみれば当然ともいえるわね。この子ぐらいの年齢であんな怪我をすれば、体よりも先に精神に限界が来ても何もおかしくないわ。」
「・・・マジかよ。じゃあどうすんだよこいつ」
「そうねぇ・・・
そうだ!あずみがこの子の面倒見てあげなさい。」
「・・・は?」
「はぁ!?」
とんでもないことを言われて驚くあずみ。
その一方で言った本人は「なによぉ、その反応」と不満げである。
「おまっおまえ、それマジで言ってんのかよ!」
「そうよ。だってこの子を連れてきたのはあなたじゃない。」
「そ、そりゃあそうだけど・・・。」
そのことを言われてはあずみは言い返すこともできずに黙ってしまう。
「それに」とミカドはあずみに耳を近づけた。
「ケガを見たときに気づいたのだけど、彼の体にはあのケガをする以前から無数の傷のあとがあったわ。しかも、まるで拷問を受けたような、ね」
「っ!?」
「あの子の記憶がない限り、詳しい事情は分からないけど、
今までのあの子の環境が、あの子にとって良くないものであることはほぼ間違いないわ。」
「・・・」
「あの子が記憶を失っているのはあの子にとってやり直すチャンスなんじゃないかと私は思うのよ。」
「・・・わぁったよ。あたいがあいつの面倒みてやるよ。」
そうあずみが言うと、ミカドは「あなたならそういってくれると思ったわ。」と言って笑った。
「それじゃああたしは自分の部屋に戻るわね。」
「あぁ、ありがとな。いろいろ助かった。」
「ふふっいいのよ・・・あっそれと。」
「ん?なんだ?」
「いくらあなたが独り身であの子がかわいいからってまだ襲っちゃだ「さっさと帰れ!しかもなんだまだって!」
そう言ってミカドは自室に帰って、いや追い返されていった。
「・・・あの・・」
と二人のやり取りをずっと見てきた少年があずみに声をかける。
「あぁ、悪い悪いほったらかしにしちまって。」
「ううん・・・」
それだけ話して二人の会話は途切れてしまう。
「あー、さっきまでの話、聞いてたか?」
「うん・・・おねーさんたちが、ないしょばなししてたところはきこえなかったけど」
「そっか・・・じゃあ話は早いな。今日からおまえの面倒見ることになった忍足あずみだ。
おまえはっと、そうか、名前分かんないんだっけ。」
「・・・うん」
そうつぶやくと少年はうつむいてしまった。
そんな少年の様子を見て、あずみは頭をかき少し考えると口を開いた。
「・・・クロ。」
「え?」
「お前の名前。いつまでも名前のないままじゃ不便だろ?で、おまえ髪の毛黒いからクロ。」
誰かがそこにいたらそんな安直な!と突っ込みそうなほど単純なネーミングだった。
しかし少年は「クロ・・・クロ・・」とその名をつぶやくと、目覚めてから初めて笑った。
その笑顔は凄まじくきれいで、あずみはしばらくその顔に見とれてしまった。
「・・・うん、わかった。今からぼくはクロだね。よろしくね、あずねぇ。」
少年の、否、クロの言葉に我に返ったあずみは改めて彼の言葉に違和感を覚える。
「ちょっとまて、ぼう「クロ!」・・・クロ、「なに?あずねぇ。」・・・そのあずねぇってのは何だ?」
「あずみおねぇさんだから、あずねぇ!」
「やめろ!せめてあずみさんかあずみって呼び捨てにしろ。」
「わかったよ、あずねぇ!」
「・・・はぁ、まぁいいや。これからよろしくなクロ。」
「うん!よろしく、あずねぇ!」
こうして、ふたりの生活は始まったのだった。
話の中に出てきた闇医者でマンションの管理人であるミカドはToloveるの御門先生と同じ外見です。