真剣で私に恋しなさい!~ある少年の物語~   作:レンゲ

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第二話:家族

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ダウンタウンにあるマンションの一室から無機質な電子音が鳴り響いている。

 

「う~~~ん・・・ハッ!」

 

その部屋の住人である少年はその音に気づき、音の原因である目覚まし時計を止めると飛び起きて部屋から駆け出していき隣の部屋のドアを勢いよく開けた。

 

「おはよう、あずn・・・やっぱりもうおきてる。」

 

部屋に入り、元気よく挨拶しようとする。

しかし、目的の人物がペットのヤドカリにエサを与えている姿を見ると落胆した表情でうつむいてしまった。

 

「・・・おはよう、クロ。」

 

そんな少年、クロの様子を見てあずみは苦笑しながら彼に挨拶を返す。

 

「・・・ところで、クロ?」

 

「ん?なに?あずねぇ。」

 

「今、何時だ?」

 

「なんじって・・・あさの5じだよ?」

 

「・・・ハァ。」

 

彼が答えた現在の時刻は一般人が起床する時間とは言いづらい時間であった。

 

しかし、答えた本人はきょとんとし、あずみがなぜそんな質問をするのかまったく分からないといった様子である。

そんなクロと、まだ薄暗い空を見て、あずみはため息を吐く。

 

 少年クロをあずみが拾ってから数日がたち、あれだけあった怪我は順調に治り、彼とあずみが共に暮らし始めてから3日が経つか経たないかほどの速さで目立った傷はなくなった。

 

 そして、ちょうどその頃から今のような早朝の突撃が行われている。

しかも日を追うごとに突撃の時間は早くなっていき、現在ではこのような非常識とも言える時間となっている。

 

 あずみ自身そんなモーニングコールを彼に頼んではおらず、なぜ彼がこんなことをしているのか理解できなかった。

が、あずみは彼にその理由を尋ねることはせず、そのうちにやめるだろうと考え、注意することもしなかった。

 

「・・・まあ、いっか。」

 

そしてこの日もあずみはそうつぶやき、クロの行動に対して何も言わなかった。

 

「そんじゃまあ、ちょっと・・・つーか大分早いけど朝飯にすっか?」

 

「うん!」

 

そう言って二人はあずみの部屋を出てリビングへと向かっていった。

 

だが、朝食といっても手の込んだものを作るわけではなく、食卓に並ぶのはいつも通りのキッチンに大量に存在する缶詰のオンパレードである。

それはもう手抜きどころの騒ぎではなく、種類が豊富にあることだけが唯一の救いであった。

 

ちなみに、あずみの名誉のために言っておくと、彼女は料理をすればなぞの爆発が起こったり、暗黒物質しか作れない、わけでもない。むしろ、料理は出来る方である。

 

 だが、一人暮らしの身で毎日料理をするほど彼女は自分自身に対しての関心はなく、食事は缶詰を大量に買い込んでおき、それで済ませていたのだ。

 

クロを拾ってからもその缶詰は多量にあまっており、捨てるのももったいないし、

なにより、自分の料理を他人に振舞ったことなどないあずみにはその行為がいやに恥ずかしく思えてしまい、結果一人暮らしでなくなった現在も缶詰パラダイス状態となっているのである。

 

そんないつも通りの朝食を終え、ふと時計に目をやると時間は7時を少しまわっていた。

 

「ふぅ・・・さて、そろそろ出掛けるかぁ。」

 

「あずねぇ、きょうもおしごと?」

 

「おう、おまえも今日はミカドに診てもらう日だろ?」

 

「うん・・・でもセンセイはおねぼうさんだから、きっとまだねてるよ。」

 

そこに気を使うならなぜ自分にはあんな突撃をするのだと、あずみは一瞬思ったが口には出さなかった。

 

「そっか、それじゃああたいは出掛けるけど、夕飯はいつも通り先に食べてていいからな?」

 

「・・・うん!いってらっしゃい、あずねぇ。」

 

そうしてまた、いつも通りの一日が始まる。

 

 

 

 

 

 

 

時は進み、場所はミカドの部屋。

 

どうやらクロの怪我の経過を診ているようでそこにはミカドと半裸のクロの姿があった。

 

「・・・はい。じゃあクロ君、今度は背中をこっちに向けて。」

 

「は~い、センセー。」

 

 ミカドの指示にクロは素直に従い、背中を向ける。

彼女はしばらく彼の背中をみると軽くうなづいた。

 

「・・・うん。クロ君、もう服着てもOKよ。」

 

そうクロに告げ、ミカドは用意しておいた塗り薬などの薬品をしまい始める。

 

「あれ?センセー、もうあのしみるくすりはぬらなくていいの?」

 

「ええ、もう傷はほとんど見当たらないし、

あとは自然に治るのを待てば2,3日程度で完治すると思うわ」

 

「ほんとに!?やったー!」

 

 もう薬を使う必要はない、そのミカドの言葉にクロは大いに喜んだ。

 

 そんなクロをミカドはじっと見ながら考える。

彼の怪我は本当に順調に治った。

そう、

 

 

異様なほど順調に。

 

 

確かにクロをあずみが拾ってきた夜にも言ったが、見た目ほど傷は深くはなかった。

だが、それでも十二分に重症であり、

ミカドの腕を含めて考えても完治までには少なく見積もっても三ヶ月はかかる程の怪我であり、

まして彼の年齢で考えればそれ以上の治療期間が予想されるほど重症であった。

 

そう考えて再びはしゃいでいる彼に目をやる。

 

ここの設備では詳しいことは分からないが、彼の回復力は異常である。

 

(もしかしたら、この怪我より以前から存在する彼の傷がそのことに関係しているのかも・・・)

 

「?センセー、どうかしたの?」

 

「っ!いいえ、なんでもないわ。」

 

そこまで考えてミカドははっとして、これではあずみに彼のことを頼んだ意味がないではないか、と苦笑する。

 

そうして反省し、今度はミカドがクロに対して彼が部屋に来たときからの疑問をぶつける。

 

「それで?クロ君は今日どうしたの?」

 

「へ?どうって?」

 

「クロ君、今日ここに来たときか何となく元気なかったじゃない?」

 

「すごいね、センセイ!なんでわかったの?」

 

「ふふっセンセイはね、何だって分かるのよ♪」

 

 そうウインクしながら言うミカドを見てクロは目を輝かせながらスゴイ、スゴイ、と言い、

彼女の冗談を100%信じきっていた。

 

「じゃあクロ君も認めたところで、何があったか教えてくれる?」

 

「・・・うん。っていっても、たいしたことじゃないんだけど。」

 

クロは苦笑しながらそう言うと、ゆっくりと話し出した。

 

「・・・あずねぇがね、ぼくのことをさけてるきがするんだ。」

 

「あずみが?クロ君のことを?」

 

そのクロの言葉にミカドは聞き返さずにはいられなかった。

 

忍足あずみという人物は面倒見のいい人物である。

その証拠に、あずみが小隊の隊長に任命された大きな理由の一つはこの面倒見の良さからなのだ。

 

ミカドもあずみのそんな性格からクロを任せたところがあり、

故に、クロのその発言には驚かずにはいられなかった。

 

そんなミカドの様子を見て、クロは慌てて訂正する。

 

「あぁ、でもぼくをむしする、とかじゃないんだ。ちゃんとぼくのめんどうもみてくれるよ。

ただ、あずねぇはぼくのこと、かぞくだとおもってないんじゃないかって、そうかんじるんだ。」

 

「家族・・・。」

 

「うん。なんか、よるにひとりでごはんをたべてるときとか、そうおもうんだ。

それにね、ぼく、あずねぇのねてるところっていちどもみたことないんだ。」

 

「寝てる所?」

 

「このまえよんだほんにかいてあったんだ。

どうぶつは、ほんとうになかのいいあいてのまえでしか、ねてるところをみせないって。

たとえば・・・かぞく、とか。」

 

「・・・。」

 

「きょうもあさはやくにおきたんだけど、やっぱりだめで。」

 

「なんで、クロ君はそこまでするの?やっぱり、あずみに助けてもらったから?」

 

そのミカドの言葉にクロは首を横に振る。

 

「あずねぇはね、すっごくやさしいんだ。ぼくにも、ペットのヤドカリにも、だれにでも、

でもあずねぇは、じぶんにはすっごくきびしいひとだから、

いつもじふんのことはあとまわしなんだ。

そんなあずねぇをみてて、おもったんだ。

みんなにやさしいあずねぇに、やさしくしてくれるひとは、たよれるひとはいるのかなって、

だからきめたんだ。ぼくがあずねぇのそういうひとになろうって。」

 

「フフッそう。」

 

クロからしてみればそんな気は一切ないのだろうが、

他人が聞けば愛の告白のようにも聞こえる言葉を恥ずかしげもなく言う彼が微笑ましくて

ミカドは笑いながらそう答える。

 

だが 

「・・・でも、もういいんだ。」

 

「え?」

 

顔を上げ、笑いながらそう言う彼に、ミカドは驚き、聞き返さずにはいられなかった。

 

「ぼくにはいわないけど、あずねぇは、あさへやにいくのも、めいわくだとおもってるだろうし。

 

あずねぇの”かぞく”のなかに、ぼくがはいってないのは、ちょっとさみしいけど・・・。

 

ぼくはあずねぇのちかくにいられれば、それで「それでいいの?」・・・え?」

 

クロの言葉に被せてきたミカドに対して、今度はクロが聞き返す番だった。

 

「だからね、クロ君はそれでいいのかって聞いてるの。」

 

「で、でも「クロ君。」

 

うろたえるクロに対して、ミカドは優しく彼を抱きしめた。

 

「ここにあずみはいないわ。いるのはセンセイとクロ君だけ。

 

だから、クロ君の思ってること、全部話して?

 

あずみの事は抜きにして、クロ君がどうしたいのか。どうして欲しいのか。」

 

ミカドの言葉に対して、クロは少しづつ答え始める。

 

「ぼくは・・ぼくはあずねぇの、かぞくになりたい!

 

ちゃんと、ねてるあずねぇに、おはようっていいたいし、

 

あさ、はやくにおこしすぎたら、ちゃんとしかってほしいし、

 

かんづめばっかりのごはんはいやだっていいたいし、

 

もう、ひとりだけのごはんはおいしくないって、いいたい!」

 

「ぼ、ぼくは、あずねぇといっしょのばしょにいたいんだ!

 

あずねぇの、うしろじゃなくて、ちゃんと、となりにいたいんだ!」

 

それは、今まで言うことの出来なかった。少年の心からの叫びだった。

 

そんなクロの言葉をミカドはうん、うんとつぶやき、彼女の胸を濡らす彼の涙と共に優しく受け止める。

 

そうして、クロが落ち着くのを待ち、ミカドはクロにゆっくりと答え始めた。

 

「クロ君の気持ちは分かったわ。

それに、クロ君の望みを叶える方法もね。」

 

「ほっほんと!?」

 

「えぇ、でもそれをするにはクロ君が今以上にがんばる必要があるけど、それでもいい?」

 

そのミカドの言葉にクロはコクコクと素早く、何度も頷く。

 

「そう、それなら答えは簡単よ。

 

あずみがこっちに近づいてこないのなら、こっちからもっと近づけばいいのよ。」

 

そのミカドの言葉に、クロは「え?」と聞き返してしまう。

 

なぜならミカドの言っている方法とは、今までクロが行ってきた方法と変わらないのだから。

 

「あら、でも今までと同じという訳ではないわよ。」

 

だが、そうかえすミカドにいったい彼女は何を言っているのか、

クロは益々分からなくなってしまう。

 

「じゃあ、なにをすればいいの?」

 

「そうねぇ・・・あ。」

 

クロの質問に、ミカドは少し考えると何か思いついたように部屋を出て行ってしまう。

 

そんな彼女の行動を不思議に思いながら数分待っていると、少し疲れた様子のミカドが戻ってきた。

 

「ふぅ、あったわ、あった。

 

・・・まさかあんなに奥にしまわれているとは、たまには掃除しなきゃだめね。

 

さ、クロ君。あなたのおうちにもどりましょうか。」

 

「へ?」

 

さっきから彼女が何を考えているのかまったく分からず、ぽかんとしてしまう。

 

「大丈夫よ。今回は、私も手伝ってあげるから♪」

 

そう、クロにとっては的外れ極まりない答えをウインクしながら答えるミカドの手には一冊の本が握られていた。

 

 

 

 

 

---------PM10:00

 

「・・・どういうことだ?」

 

仕事を終え、帰路に着いていたあずみはそう呟き、自宅のマンションの前にいた。

 

だが、彼女はそこから動かず、一向に自分の部屋に戻ろうとはしない。

 

それはなぜなのか、答えは彼女の視線の先にあった。

 

あずみは一見すれば何も問題の見つからない電気のついている自身の部屋をじっと見つめていた。

 

そう、電気のついている、部屋である。

 

普段であればこの時間、クロは寝ている時間であり、彼女の部屋の電気がついていることはない。

 

かといって、強盗が押し入るなどの問題がミカドのいるこのマンションで発生したとも考えにくい。

 

だが、その可能性もゼロではないし、

犯罪が日常的に起きているこの辺りでは普通の地域よりもそういった事が起きる可能性は高いだろう

 

「・・・まぁ、考えてても仕方ねぇか。

 

それに、普通に考えればクロがまだ起きてるだけだろうし。」

 

そう呟き、自分の部屋に戻っていくあずみの足取りは心なしか早足だった。

 

 

そうして、いつもより数秒早く自室の前に着いた彼女は部屋から香る匂いに気付き、足を止める。

 

何の匂いか、と不思議に思いながらもドアを開けると、その音に気付いたのか奥からトタトタとこちらに向かってくる足音がした。

 

「あずねぇ、おかえり!」

 

「おう、お前こんな時間まで起きてたのか?」

 

「うん、まぁね。って、そんなことよりあずねぇ!ちょっとこっちきて!」

 

そう言うと、クロはあずみを引っ張って部屋の奥へと向かっていった。

 

「おっおい、一体なんだ・・・て。」

 

クロに引っ張られ、リビングに着いたあずみはテーブルの上を見て言葉が詰まってしまう。

 

そこには、少し黒くこげたハンバーグ、サラダ、卵の破れてしまったオムライスといった、缶詰ではない、いわゆる普通の料理がそれぞれ二つずつ並べられていた。

 

「お前・・これどうしたんだ?」

 

「えへへ、ぼくがつくったんだ。・・・ちょっとしっぱいしちゃったけど。

 

そんなことより、ほら、あずねぇ、座って?」

 

「あ、あぁ。」

 

クロにそう言われ、あずみはなぜいきなり料理を?と不思議に思いながらもクロの向かい側に座る。

 

「それじゃあ、あずねぇ?」

 

あずみが座ったのを確認するとクロは笑いながら手を合わせ、彼女に何かを求める。

 

クロが何を求めているのか分かったあずみは苦笑しながら彼と同じく手を合わせる。

 

「「いただきます。」」

 

そう言うと、あずみはクロの料理を食べ始める。

 

そして、料理を作った本人であるクロは緊張した面持ちであずみの食べる様子を見ている。

 

「ど、どう?」

 

「・・・あぁ、うまいよ。」

 

笑いながらそう言うあずみを見て、クロは「ほんとに!?」と笑みを浮かべる。

 

しかし、彼は自分でハンバーグを一口食べるとたちまち落ち込んだ表情になってしまった。

 

「・・・あずねぇ、うそつかなくていいよ。」

 

「ハァ?うそなんてついてねぇよ。」

 

「うそだよ!だって、このハンバーグだってこげててにがいし、おいしくないよ。」

 

「・・・あ、あたいは、肉はちょっと焦げてるぐらいのほうがすきなんだよ。」

 

明らかにどもりながらそう言うあずみをクロはじっと見つめる。

 

だが、しばらくするとクロは落ち込んだ顔を笑顔に変えた。

 

「フフ・・・あずねぇ、ありがとう。」

 

「ん?なんでお前がお礼を言うんだよ?」

 

「なんでもないよ。なんとなくいいたかっただけ。さ、はやくたべちゃおう?」

 

「お、おう。」

 

その後も二人は(主にクロが、だが)何気ないことをしゃべりながら夕食を楽しんだ。

 

そうして、食べ初めて1時間ほど経つと、テーブルの上の皿はすっかり空になっており、

 

普段そんな時間まで起きていないクロはこくり、こくりと頭で船をこぎ始めていた。

 

「おい、クロ。お前、もう寝ろ。」

 

「ふぇ?でも、まだ、かたづけが・・・。」

 

「あーあー、それはあたいがやっとくから。」

 

「・・・そう。じゃあ、おやすみ、あずねぇ。」

 

「あぁ。おやすみ、クロ。」

 

そうして、クロを寝かしつけ、食器を洗っていると不意にコンコンッと玄関をノックする音が聞こえた。

 

洗いものを中断し、玄関に向かうとそこには見知った顔があった。

 

「こんばんわ、あずみ。」

 

「・・・ミカド、何のようだよ?」

 

「あなたがクロ君に手を出してないか確認に・・・冗談よ、久しぶりに一杯どう?」

 

そういって、ミカドはボトルを取り出していた。

 

「まぁ、いいけどよ。クロがもう寝てっからおめぇの部屋でな。」

 

「フフッいいわよ。」

 

 

 

 

そうして、あずみは途中だった洗い物を済ませ、今はミカドの部屋におり、彼女たちのテーブルにはすでに空のボトルが一本倒れていた。

 

「しっかし、相変わらずきたねぇ部屋だな。たまには掃除しろよ。」

 

「えぇ、私も今日本気でそう思ったわ。」

 

少々赤い顔をしたあずみにそう言われ、ミカドは苦笑しながらそう答えた。

 

「そういや今日さ、クロが夕飯作ってたんだよ。今まで一度もそんなことなかったのに」

 

「そう、よかったじゃない。」

 

ニヤニヤしながらそう答えるミカドを、あずみはジトッと見つめる。

 

「しらじらしい・・・おまえの差し金なんだろ?」

 

「あら、どうしてそう思うのかしら?」

 

「リビングに見慣れない料理本が置いてあってな、あれお前のだろ?」

 

「・・・よく気付いたわね。」

 

「こんな仕事やってっとな、もう癖だよ。」

 

「朝クロ君の足音に気付いて目が覚めるのも、癖?」

 

「っ!お前、なんでそれを!?」

 

予想もしないところから質問を返され慌てているあずみをみて、ミカドは笑いながら白状した。

 

「そうよ、あなたの言うとおり、その料理本はあたしのよ。

 

でも、料理に関してはあたしは何もしてないわ。あたしはクロ君に本を貸しただけ。」

 

「何だってそんなこと。」

 

「・・・あなた、ほんとに気付いてないの?」

 

「・・・。」

 

「はぁ、あのね・・・。」

 

黙るあずみの様子を見かねて、ミカドは昼間の経緯を彼女に話した。

 

 

〇〇〇 

 

「・・・それで、あたしはクロ君に、もっと積極的にってアドバイスをして、一緒にあの料理本を持ってあなたの部屋に行ったのよ。

最初はあたしも手伝うって言ったんだけど、あの子、「自分でやる!」って言って結局全部クロ君が作ったのよ」

 

「そっか・・・そんなことが。」

 

「えぇ・・・それで?」

 

「あ?それでって・・・なんだよ?」

 

「だから、これを聞いてあなたは今どう思ってるの?」

 

そのミカドの問いに、あずみはグラスの氷をいじりながらゆっくりと答える。

 

「あたいもさ、まったく気付いてなかった分けじゃねぇんだ。

あいつがそんな風に思ってたとは知らなかったけど、

あいつ、やたらとあたいに話しかけてきたり、朝押しかけてきたり、様子がおかしいとは思ってたんだ。

だけど、あいつにその理由を聞くのはできなかった。」

 

「なぜ?」

 

「・・・怖かったんだ、きっと。

あたいは、あいつぐらいの年のガキと接したことなんてないからさ、なんか、あいつにその理由を聞いて、

あいつに、クロに近づいたら、いつかあいつを傷つけちまうんじゃないかって・・・情けねぇはなしだけどな。」

 

そこまで言ってあずみはグラスの酒をぐいっと飲み干す。

 

「・・・ねぇ、あずみ。」

 

「ん?」

 

少しまじめなトーンで話し始めるミカドに反応しあずみはそちらに顔を向ける。

 

「もっと、簡単に考えればいいんじゃない?

あなたたち二人は、優しすぎるから、相手のことばかり考えてしまってるのよ。

あずみは、あたしからさっきの話を聞いて、嬉しかったんじゃないの?」

 

「・・・まぁ、うん。」

 

「なら、どうするかは、簡単じゃない?」

 

ミカドはいつもの微笑を携えながらそう答える。

 

そんなミカドを見て、あずみは腕を組み考える、が、

 

「っあ~~~、いっそあいつがもっとクソガキだったら、こんなこと考えねぇんだけどなぁ。」

 

そう言ってあずみは机に突っ伏してしまう。

 

「フフックロ君はほんとに真っ直ぐないい子だものねぇ・・・。ま、今日は、飲みましょう?」

 

「・・・え゛。」

 

ミカドのその言葉と、机にドンッとおかれた新しいボトルを見て、あずみは顔を青ざめる。

 

「・・・マジで?」

 

「マ・ジ♪クロ君泣かせた罰よ、とことん飲みなさい?」

 

「ちょっ泣かせたわけじゃ・・・ぅ、わぁったよ!飲むよ!飲みますよ!」

 

ミカドの無言の笑顔に圧され、あずみはやけになってそう宣言した。

 

 

 

 

 

--------

 

「フフッ」

 

翌朝、あずみの部屋のリビングにはいつも通り早起きしたクロの姿があり、なぜかソファの上を見ながら笑っていた。

 

だが、その理由は簡単だった。

 

彼の視線の先、

 

そのソファの上には、

 

青い顔をして眠っているあずみのすがたがあった。

 

 

 

 

 

 

おはよう、あずねぇ!

 

 

 

 

 

 

 

 

数十分後、目を覚ましたあずみにクロは満面の笑みでそう言った。

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