「昨日はひどい嵐だったな…」
誰に聞かせるでもなく、つぶやいた。あんなにひどい嵐は、ダイが流れ着いたとき以来だ。
「…海岸に行くか」
あれだけ酷い嵐なら、船の1隻や2隻は沈んだだろう。使える積み荷が流れ着いているかもしれないし、ひょっとしたらダイの時のように誰かが流れ着いているかもしれない。
………こんなことを考えるあたり、私も丸くなったものだ。魔剣士と呼ばれたあの頃が夢のようだ。
万一に備え、愛用の剣を持って海岸へ行った。
~移動中~
思った通り、海岸には様々なものが流れ着いていた。
元は船であっただろう木片や金具はもちろん、積み荷として運ばれる予定だっただろう薬草や毒消し草、聖水の瓶などもあった。
「…使えそうなものはないな………うん?」
海鳥が、何かをつついているのに気が付いた。
近寄ってみると、それは…
「…………死体か?」
1人の女だった。…いや、少女というべきだろうか。
少女。女。どちらでも似合いそうな年頃に見える。
ローブに身を包んだ、褐色の肌の女。
長い髪は白銀で、とても美しい。
しっかりとつかんでいる袋は、荷物だろうか。
だが、最も気になるのは。
「…まさかこの女、この辺りを小舟で進んでいたのか?」
女がもう片方の手でしっかりと握っていたオール。
女の周りに妙なほど大量に流れ着いた木片。
そして、女の近くにあった擦り切れてボロボロになった地図。
この近くを小舟で進んでいて、嵐にあったとしか思えなかった。
「………」
馬鹿か、この女は。
地元の漁師は小舟でこの辺りにまで来ることがあるが、それは海を知る漁師だからすること。
ローブがきれいなのを見ると、この女はあまり旅慣れていないようだ。
旅慣れていない女が、小舟で船旅をする。無謀としか言えない。
「…埋葬くらいはしてやるか」
1人旅なのであれば、持っているのも女の物だろう。それでは使えない。
それに、今までも、流れ着いた死体は森の奥の平野に埋葬してきた。
女を抱き上げた、その時。
「ん…」
女の口から、声が漏れた。
「!?生きているのか!?」
私の言葉が聞こえたらしく、女はうっすらと、弱々しく目を開けた。
だが、またすぐに閉じてしまった。
私はルーラでブラス老のところへ向かった。
「ブラス老!」
「おお、どうしたんじゃピサロさん。…って、その女性は、もしや流されてきたのか!?」
「ああ!悪いが、少しベッドを借りるぞ!」
「わかった!ダイ、タオルを持って来い!」
「うん!」
タオルで軽く体をふいて、ベッドに寝かせる。
その時、手が何かに触れた。
手元に目をやると。
そこには、髪と同じ白銀の、尾があった。
「……!」
私は、女のローブと髪をどけて、耳を見る。
その耳は、つんと尖っていた。
褐色の肌。尾。尖った耳。
間違いない。
「この女は…ダークエルフ…」
絶滅したのでは、無かったのか…?