High School (IF)leet.   作:神田猫

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全てが壊れ始める時

 ぎこちないラッパの音が艦内に響く。

 

 起床ラッパ––––海軍時代から続く6時の合図で晴風の場合は万里小路が担当する。軒並み楽器を演奏でき、ヴァイオリンに関してはプロ級の彼女だが管楽器がなぜか苦手。教職員陣はなぜ彼女をラッパ手にしたのだろうか。

 ちなみに、この起床ラッパはブルマー・シロイルカの隊員では『世界で2番目に聞きなくない音』とされており、この音を聞くと熟睡していたも反射的に飛び起きてしまう。

 晴風の場合、このラッパから5分後に身支度を済ませて教室に集合するように決まっている。

 

「おはよう」

「「「おはようございます」」」

 

 柊が5分ジャストに入ると遅刻者なしで全員が制服に着替え集合していた。

 

「初日から全員集合か。素晴らしい」

 

 タブレットに出席の記録をつけながら柊が話す。

 

「出欠の確認は必要ない。体調の悪いものは––––––––いないな。連絡、西之島新島に到着後、艦内全体の点検を行う。各生徒は点検のための準備をすること」

 

「「「はい」」」

 

「それと……みんなに連絡するか迷ったが言っておこう。––––昨夜、ホワイトドルフィンがクーデターを決行した」

 

 一息溜めて柊は淡々と告げた。

 生徒たちにざわめきが広がる。

 

「教官は……どうなのですか……」

「教官もホワイトドルフィンですよね?」

 

 生徒たちの心配は今目の前にいる男に対してのものだった。男性であるということはホワイトドルフィンの一員であるということ。すなわち、この男もクーデターに参加しているかもしれない。

 

「んー…少し口が悪くなるが、あいつらと一緒にしないでくれ。俺はあんな組織、二度とごめんだ」

「へ? でも、ホワイトドルフィンって男性なら誰もが憧れるような職業なんじゃ……」

「納沙の言ってることは半分正解、半分外れだ。そもそも、最初に言った通り現場は華々しい世界じゃない。あの組織にいるのはほとんど派閥でのし上がってきた連中。そうでないまともな人間は教官なんかに左遷されるんだよ。今回クーデターを挙行した連中もそういう奴らだ」

 

 ホワイトドルフィンはブルーマーメイド以上に派閥に支配されている。

 

 現在、上層部を始め人事などの中枢が『海の理』派閥によって構成されているため同じ派閥の人間はどんどん昇進するが、そうでないものはあっという間に左遷される。

 今回、クーデターを起こしたのは海の理派閥。ホワイトドルフィンが海の優位をより強固にするために決行されたと考えられる。

 

「俺は今、横須賀女子の教官。どんな事情があろうともクーデターに加担することは無い。それで、今回の実習だが西之島新島に到着後、速やかに横須賀に帰還する。その時、艦隊運動を取る。艦隊運動についての講義を先取りで行うので、艦橋要員は今日の正午に上げる講義動画を必ず見るように」

 

「「「はい!」」」

 

「長くなったな。朝のHRは終了する。総員、ベットメイクの後朝食。持ち場につけ! 以上」

 

 HRが終了し生徒たちが一斉に教室を後にする。

 柊も生徒が退室し忘れ物の確認を行った後、部屋に戻った。

 

「ふぅ……眠い」

 

 インスタントのコーヒーをすすりながら呟く。

 柊は昨晩のクーデター騒動から学校側との協議、連絡などに終われ一睡もしていない。現場ではこんなこともあったが、流石に事務作業ばっかりなので疲れがたまる。

 

「15分くらい寝れるか……」

 

 時間と相談して仮眠の時間を決める。流石に生徒がせっせと活動している間にがっつり寝る気は無いので、アイマスクを目に当てて座って寝る。

 ゆっくり意識が落ちていく。そして、夢の世界に誘われる––––––––

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 前に船体が大きく揺れた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『艦尾に水柱! 接近中の艦艇は武蔵! 繰り返す、接近中の艦艇は武蔵!』

 

 艦内に非常ベルの音が響き渡り艦橋から状況の報告が行われる。それと同時に教官室にある無線を使って艦内全域に通信を流す。

 

「慌てるな。落ち着け。艦橋、状況を把握次第報告。機関、常に全力発揮可能な状態を維持せよ。航海、見張りを厳とせよ。砲雷、対水上戦闘用意。主計、手の空いているものは手伝いに回れ」

『艦橋、艦長の岬です。相手は武蔵。艦尾方向に艦影。艦橋形状から武蔵と思われます。なぜ砲撃したか分かりません』

「音声で停戦を呼びかけろ。5回で反応がない場合、敵対とみなし対水上戦闘を開始せよ」

『了解しました』

 

 艦橋とのやりとりをすませると、手早く荷物をまとめ艦橋へ向かう。荷物とは言っても、タブレットと時計のみ。必要最小限のものにまとめられている。

 その頃、岬は必死の呼びかけを初めていた。

 

「武蔵、武蔵、応答願います。こちら航洋艦晴風。本艦に敵対意思はありません。すぐに攻撃をやめてください––––」

「艦長、応答ありません。見張りからの報告でも変化なしとのことです」

 

 艦橋にいる全員が武蔵の方向を見ている。5回目の警告まで無視されれば敵対することになる。相手は自分たちと同じ同級生、同い年の女の子。しかも、性能と技術の双方において圧倒的に有利な相手であることは言わずともわかることであった。

 

「武蔵、武蔵、応答願います。こちら航洋艦晴風。本艦に敵対意思はありません。すぐに攻撃をやめてください––––」

「宗谷、変化は?」

 

 警告を続けていると柊が艦橋に到着する。宗谷にした質問は柊の予想通りの回答が帰ってきた。

 

「ありません。次が5回目の警告になります」

「近くを通る一般の船舶はあるか?」

「ありません。現在この海域にいるのは晴風と武蔵のみです」

 

 この近海に船がいないなんて驚きだった。もともと漁業船が通行することが多い海域であるため、幸運であると言うべきであろう。

 

「では戦闘行動に移すのも安易だな」

『武蔵、最後の警告にも反応なし』

 

 伝声管を伝い悔しさをにじませた野間の声が艦橋に届いた。

 

「教官、武蔵とのコンタクトに失敗。これで、武蔵とは敵対したことになります」

「ブルーマーメイド本隊に連絡。晴風は武蔵との距離を取るため、一撃離脱を試みる。右魚雷戦用意!」

「弾頭模擬弾ですが、良いのでしょうか?」

「弾頭模擬弾でも多少の攻撃にはなる。ダメージコントロールに失敗すれば沈むのは通常弾頭と変わらない」

 

 弾頭模擬弾とは、訓練などに使用される魚雷で威力を極力下げた魚雷のこと。一応、同じ重さになるように重りが入っているので、運動エネルギー的には同じになる。ただ、爆発が起きないため武蔵に対してはほとんど効果がないのは目に見えている。

 

「武蔵に対して攻撃すれば、避けるはずだ」

「なぜですか?」

「今武蔵のコントロールを行なっているのは十中八九、海上安全整備局の導入した新型AIだ。それのプログラムには避けられる弾頭は避けると言うようにプログラムされている。武蔵の大きさなら避けた後、もう一度戻すのに時間がかかるからその間に離脱する」

「初耳です」

「入学資料の端に書いてあっただろ?」

 

 AIに避けるようにプログラムされている理由は1つ。そのAIが武蔵のようなバルジ増し増しの不沈艦ではなく、海上安全整備局などに普及したインディペンデンス級などに使用されるからだ。現代の水上戦闘において、巨艦巨砲重装甲の艦艇は用いられず、小回りの効き艦隊運動を行いやすい艦艇が多い。そのため、魚雷などは避ける必要がある。

 

「野間、武蔵艦橋付近をよく見ていてくれ。些細な変化でもあればすぐに報告」

『了解』

 

 晴風に備えられた魚雷発射管は少しずつ旋回していく。晴風にある魚雷は1発のみ。当たっても外れても小さな違いだが、逃げられる可能性は少しでも上げて起きたい。

 

『教官、武蔵艦橋で閃光……モールス信号です!』

「読み上げろ」

『”貴艦ハ本艦トノ距離ヲアケラレタシ”』

 

 発光信号。開く、閉じるの2パターンを使い分けて文字を伝達する方法。手旗信号とともに無線が使えない場合使用されることが多い。モールス信号は国際的に普及しており、異国籍の船ともやり取りが可能になる。

 

「––––––––かなきゃ」

「どうした? 岬」

「助けに行かなきゃ!」

 

 誰にも止める暇を与えることなく岬は艦橋を飛び出した。

 

(モカちゃんモカちゃんモカちゃんモカちゃんモカちゃんモカちゃん!)

 

 岬の頭の中にあるのは、かつて孤児院で共に過ごした武蔵艦長––––知名もえかのこと。今の時間、艦橋にいるのはおそらく彼女である。なら、あの発光信号を送ったのはきっと彼女だ。

 岬にとって知名もえかと言う人間は友達、親友以上の存在である。家族を失った岬にとってこの世で一番お互いを理解した家族のような存在。そんな彼女の身に何か起こっている。落ち着いていられない、このまま横須賀に戻ることなどできない。

 

「おい、落ち着け」

 

 スキッパーに乗り込もうとした時、岬は腕を掴まれた。強引に解こうとしても強く捕まれており離れない。

 

「なんで止めるんですか? 私の親友があそこにいるんです…止めないでください」

「それは無理な相談だ」

「離してください。私には助けなきゃいけない人がいるんです」

「今行っても無駄だ。武蔵の砲撃なら近接弾でもただじゃ済まない。それに、お前がいなくなったら誰がこの船の父親になるんだ」

「代わりならいますよ。しろちゃんとか、ココちゃんとか、教官だっている。私がいなくなっても大丈––––」

 

 パチン! と言う乾いた音と共に、頰に痛みが走る。頰はじわりじわりと熱くなり、脈を打つごとに痛みが強くなる。

 柊の行為は(世間一般的に見れば)立派な体罰だ。だが、その行動に移す時迷いはなかった。生徒の身を危険に晒すのを止めるなら、自分の職などどうでもいいと心から思っているから。

 

「周りが見えていない。お前が勝手な行動をすれば、艦内の統制は著しく低下する。お前には、ここにいる全員の命を危険にさらしている自覚が足りない」

「じゃあ、教えてください。どうやったらモカちゃんを救えるんですか? 今行かなかったらいつ見つかるかもわからない。もう家族を失うのは嫌なんです!」

「お前が行ったところで武蔵にはたどり着けない。今は引くしかないんだ。この船じゃ、武蔵には敵わない」

 

 無理だと言う現実に岬の頰を大粒の涙が伝る。

 

「嫌だ……嫌だよぉ……諦めたくない……」

「諦めはしない。体制を整えるためにも一旦引くだけだ。武蔵はビーコンで監視をするはずだ。居場所はすぐにわかる」

「ヒック……ヒック……」

「宗谷! 晴風の艦長権限を一時的に移譲する。武蔵を撒いて横須賀に帰港せよ!」

 

 柊は艦橋に向かって大声で指示を出し、泣き崩れた岬を保健室に届ける。

 晴風が無事に横須賀に帰港できたのはその次の日のことになる。




 更新遅くて申し訳ありません。神田猫でございます。

 物語の方向が急に変わりすぎですね。さすが私。駄文とガバガバ準備のエキスパート。

 閲覧ありがとうございます。コメント、評価など、お気に召しましたらで良いのでしていただけると嬉しいです。
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