ハリー・ポッターと慈愛のアイアン・メイデン   作:グラオザーム

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初投稿です。
拙い文章ですが、温かい目で見守っていただけたら幸いです。


決断

まだ僅かな涼しさを残した、爽やかな夏の日。

一匹の白いフクロウが、大きく翼をはためかせた。

 

 

ドイツ南西部“黒い森(シュバルツヴァルト)”の中心部を覗くと、一見場違いにも思える荘厳な屋敷が姿を現す。

北海へ注ぐライン川と、黒海へ流れるドナウ川の分水嶺にそびえ立つ孤高の城。“クラウストルム修道院”である。

 

フクロウはその城を見付けるなり、素早い動きで降り立つ。

そのフクロウにいち早く気付き手を差し伸べたのは、長い銀髪をなびかせた美しい女━━。この荘厳な修道院の長、ローズベルト総長であった。

彼女は突然やって来たフクロウに驚いた様子だったが、フクロウが咥えていた()()()()()に気付くと顔色を変え、餌を与えながらその手紙を開封する。

ローズベルトの側に居た一人の修道女はその手紙を見て目を見開いた。

 

「ロ、ローズベルト様……それは……?」

 

「……落ち着きなさい、ベルタ。」

 

開いた口が塞がらない様子の先程ベルタと呼ばれた修道女を、ローズベルトは軽く去なす。

しかし効果は成さず、更に焦った様子のベルタは信じられないという様な表情で叫んだ。

 

「落ち着いてなどいられませんわ!この誇り高きクラウストルム修道院に、“魔女”が現れたのですよ!?」

 

ベルタは、事を二人の“受取人”に伝えるために総長室を飛び出した。

ローズベルトは品無く慌て駆け出して行ったシスターを呆れた様に見送ると、再び二通の手紙に目を通す。

 

そこには、“ホグワーツ魔法魔術学校”と書かれていた。

 

 

 

 

 

 

━━クラウストルム修道院。

 

この修道院は世界で唯一の、「犯罪者の子」だけを集めた修道院だ。よってここでは、生まれる前から備わっている“犯罪者の資質”を人格ごと塗り替え、“再教育”を施すー。正しい信仰に立ち返るためお母様(マター)達修道女の導きのもと、苗字を捨て、心を捨て、ここで修練女として17歳までの年月を過ごすのだ。

 

しかし高度経済成長などによって犯罪者そのものが減り、牢獄で子を産み落とすなどという様なことは少なくなった。

昔は魔女狩りによって殺された“魔女の子”が沢山いた為当時の修道院は賑わっていたのだが、魔女狩りなど無くなった今、子供の数は年々減って来ている。

 

それによって困る事は何か。それはこの壮大な修道院を保つ事が出来ないという事だ。

この修道院は森に囲まれ、世間から離脱している。修道院側はそれを利用し、孤児である子供達に過酷な労働を強いていたのだ。

よって子供の不足により修道院の維持が困難となったため、不正な手口で親の素性が分からない捨て子達もこの修道院へ送られる事があった。

 

この修道院では孤児達に過酷な労働を課す。

一人くらい怠ける者が居てもいいものだが、そんな事をする者は誰も居ない。理由ははっきりしている。

 

()()()()のだ。

 

皆の目の前で殺される事はないが、労働を休んだ者やお母様(マター)に逆らった者など、理由はどうあれその者達は必ず何処かに連れて行かれる。

未だ戻った者はいない。

不審に思い尋ねる者も何人かいたが、お母様(マター)達は口を揃えて言うのだ。

 

()()()()()()()()…と。

 

よって少しでも修道院への反抗の兆しが見られると早々に殺されてしまう為、最初は皆怯える気持ちを隠して労働を続ける。

しかしそれは最初だけ。年月が経つに連れ、働く事に喜びを感じ始めるのだ。

つまり、洗脳である。

聖書の言葉を延々と復唱させられる日々の聖務や、過酷すぎる労務によって精神が蝕まれてゆき、次第に人格そのものに支障をきたす。

これが、再教育のメソッドの一つ 、“人格の塗り替え”である。

 

しかしこの地獄の様な日々も、成人年齢である17歳になるまで生き続けていれば解放される時が来る。

“犯罪者の子”ではなくなったと認められ、各地の支院や施療院で助修士として働く事が出来る。

また、同年齢の中で特に良く勤めた者には、修道女となることが認められるのだ。

 

その修道女候補で、圧倒的な優秀さを誇る二人の少女達がいた。

マーゴット・クラウストルムと、

カーラ・クラウストルムである。

二人は齢11歳であるにも関わらず、年上を押しのけて首席を独占した。

二人には、高等な教育を受けて来たお母様(マター)達でさえ褒め称えるほどの頭脳の明晰さ、皆を魅きつけるカリスマ性、そして熱烈な神と総長への忠誠心だった。

 

しかしそれらには間違いがある。誰の目に止まることなく彼女達が欺き続けた事が一つ存在するのだ。

それは総長への忠誠心。

彼女達は総長への忠誠心が全くと言っていいほど無かった。今の地獄の様な労働環境を作り出した張本人を敬えと言った方がどうかしているのだ。

彼女達はそれどころか、総長を殺し、自らが新しい総長となる計画さえ立てていた。この修道院のトップに立ち、古く腐った制度を根本的からやり直すために。

 

そんな事を思い付き考える力は、二人の他に誰一人として居なかった。それは長年に渡る洗脳のせいでもあった。

この二人には洗脳が効かなかった。いや、そもそも()()()()()()()()()()()に何を言われようと普通は気にも留めないものだ。

 

そうして二人はとても優秀な修練女として、11歳まで過ごしてきた。

 

だが、それも終わりの時が来る。

 

「マーゴット、カーラ!今すぐ総長室に来なさい!!」

 

ここから、彼女達の物語は急激に進んでいく━━。

 

 

 

 

 

 

「これは一体どういう事ですか!?」

 

ムター・ベルタが勢いよく叩きつけた二通の手紙を、総長室に呼び出された二人は疑問を持った表情で見つめる。状況が理解し切れていない様だ。

その様子を察したローズベルト総長は怒りが収まらない様子のベルタを諌める。

 

「一先ず読んでみなさい。」

 

総長に促されたので渋々取って手紙を眺める。宛名には確かに二人の名前が書かれてあった。

 

 

 

親愛なるマーゴット・クラウストルム殿、カーラ・クラウストルム殿

 

このたびホグワーツ魔法魔術学校にめでたく入学を許可されましたこと、心よりお喜び申し上げます。教科書並びに必要な教材のリストを同封いたします。

新学期は九月一日に始まります。七月三十一日必着でふくろう便にてのお返事をお待ちしております。

 

副校長 ミネルバ・マクゴナガル

 

 

 

内容の節々に不可解なものを感じ首を捻る二人。

ローズベルトは穏やかに続ける。

 

「ホグワーツ魔法魔術学校という名が気になるのでしょう?私も、その学校には因縁があります。主の教えを冒涜する、愚か者共です…」

 

「はい、ですがそんな名前の学校など聞いた事がありませんわ…」

 

「私達には関係が無いかと。」

 

「そんな訳ないでしょう!!」

 

ローズベルトへの二人の態度が気に食わなかったのか遂に堪忍袋の緒が切れたベルタは机を強く叩いて叫ぶ。

 

「さっさと白状なさい!貴方達は“魔女”なんでしょう!?」

 

「……今まで、何か不可解な事はありませんでしたか?」

 

普段は穏やかなローズベルト総長でさえ、その顔を不快そうに歪ませた。

 

この二人の修道女は何故そこまで“魔女”に不快感を示すのか。それは中世の魔女狩りがまだ行われていた時まで遡る。

 

刑に処された魔女の「子」らは、この修道院に集まってくる。執念深い魔女の特性。殆どの子供が洗脳によって親を忘れていったが、マーゴットやカーラのような明晰な頭脳を持った洗脳が効かない子供も少なからず存在した。

そして事件は起きたのだ。

「魔女の子」による総長殺し。

それについて記してある文書は少ないが、実際に起こった出来事として今に至るまで修道女の間で囁かれている。

「魔女の子」には気をつけろ、と。

 

「大体貴方達は親の素性も分かっていないでしょう!?本当に“魔女の子”が現れたのだわ!!」

 

ベルタは顔に恐怖を滲ませながら叫んだ。

 

マーゴットやカーラは“犯罪者の子”では無かった。修道院周辺で捨てられていたのを拾われた捨て子だったらしい。本当のところは分からなかった。

捨て子というのは認識しても、()()()()()というのは不可解な点だ。何故ならこのクラウストルム修道院は、森の奥よりずっと奥に存在している。森には狼などがいるため一般人がそうやすやすと入れる様な場所では無い。

ならば街の路地裏などで拾ったのだろう、とマーゴット達は目星をつけていた。“犯罪者の子”のみを集めた修道院が哀れなものだ。人手が足りなくなると関係の無い子供達にまで手を伸ばすのだから。

 

呆れ返った二人だが、それでもこの()鹿()()を説得しなければならない。

実に受け入れ難いが、この修道女達は権力を持っている。不快に思われたが最後、二度と日の目を見ることは叶わないだろう。

 

そんな二人の思いとは裏腹に、確実に処刑への準備を進めていく修道女達。

 

「“魔女”発見時の処刑方法は何でしたか?」

 

「はい、自分が“魔女”であると認めさせてから、抵抗が出来ない様四肢を切り落とし絞首刑のち火あぶりです」

 

恐ろしい言葉を次々と発する修道女達。

仮にも聖職者なのだから、そんな物騒な事をするなと言いたいところだが、大方主に仇なす者は殺しても良いとでも考えているのだろう。“神の子”であるイエスが罪人を咎めず赦して下さったことなど修練女である私達だって知っているぞ、とマーゴット達は思う。

 

「お待ち下さい総長様!」

 

「まだ私達が魔女だと決まったわけでは…」

 

「黙りなさい!!」

 

マター・ベルタはカーラに平手打ちをし、床に引きずり出した。

 

「この忌々しい手紙が証拠でしょう!!貴方達は総長様をずっと騙していたのですね!?」

 

「残念です…貴方達は優秀な子でしたのに…」

 

全く聞く耳を持たない修道女達。

ローズベルト総長が手を挙げると、ドアから何人かの修道女達が姿を現し、二人を連行しようとした。

その時。

 

「待つのじゃ」

 

「!?」

 

ドアの向こうに、見慣れない老人が立っていた。

胸辺りまで伸びている白髭に、今の社会では有り得ない様な奇怪な服装をしている。

その光景に唖然とし、動く事ができない一同。

いや、本当に()()()()のだ。

今すぐ飛び掛かってこの不届き者を殺そうと意気込む修道女達だが、誰一人として動く事が出来ない。足が石になったかのように一ミリたりとも動かないのだ。

 

「ただの縛り呪文じゃから安心せい、わしはこの通り総長と()()()()()()来たのじゃ」

 

その老人は朗らかに言ったが、ローズベルトを見る目は鋭い。

 

「貴方と話す事は何もありません。早くその忌々しいものを解いて、二人を連れて行かせなさい」

 

「いや、ミス・ローズベルト。わしは呪文を解く事はせんぞ。この子達を保護する許可を取るまではの」

 

「ふざけないで頂きたい。保護ですって?馬鹿馬鹿しい。この子達は望んでここに留まっているのです」

 

「いや、どうもわしにはその様に見えなんだが?」

 

老人は捕まっている二人をじっと見る。

二人はこれ以上ない総長への殺意が湧いていたのだ。

 

「ここの“教育”とやらは間違っておる。子供達を洗脳し人格を破綻させるなど、教育者としてあってはならない事じゃ」

 

「だから何だと言うのですか?この修道院の決定権は全て私にあります。修道院の“所有物”に、貴方達のような邪な者達が割り込んで良い問題ではありません」

 

「そうか……()()()()か…」

 

わざとらしく顎に手を当て、考えている様な仕草を取る。老人のやけに含みのある言い方にローズベルトは訝しげに首を傾げる。

 

「修道院にのみ権力があるんじゃったら、修道院の()()()()()()()()わしの好きにして良いということかの?」

 

「……何をするつもりですか」

 

ローズベルトは何か勘付いた様な表情を浮かべるが、いまいち決定打が見つからない様だ。

老人は笑みを浮かべながら話し始める。

 

「何、大したことでは無いのじゃ。昔はこの修道院には目を瞑っていた政府じゃが……果たして今現在の社会が、この“現状”を知ったらどうなるのかと思っての」

 

「……っ貴様!!」

 

老人の言葉に怒りの声で叫ぶローズベルト。その顔は怒りと焦りが入り混じったかの様な表情だった。

 

この老害、クラウストルム修道院の実態を世間に公表する気か!

ローズベルトは老人の言おうとしていた事が漸く分かり苦虫を噛み潰したような表情で睨み付けるが、老人は笑みを絶える事無く続ける。

 

「安心するのじゃ、わしはこの通り老人の身。皆真面目に聞き入れまい」

 

「……貴様が何者なのか、知っている者に言う言葉か!?」

 

「おや、わしら魔導士を忌み嫌っているお主が、わしの事を知っておったとはの」

 

「黙れ!!」

 

人が変わった様に喚き散らすローズベルト。

その光景を、唖然と見ている事しか出来ない修道女達だったが、老人が魔法を解いたのか自由に動かせる様になった身体に気付き、老人に持っていた剣を向ける。が、ローズベルトが制止の合図を出したので渋々止まるしかなかった様だ。

ローズベルトは怒りで震える口を動かした。

 

「その子達を……連れて行かせなさい」

 

「!?」

 

理解ができない様だったが、ローズベルトの気迫に押され、修道女達は二人を老人の方へ差し出す。

老人はほっと一息つき、「もう大丈夫じゃ」と手を差し伸べた。

 

が、その手はあっさりと振り払われ、二人は老人をギロリと睨みつけた後、ローズベルトに跪く。

 

「総長様、ご冗談ですよね?私達はこのクラウストルム修道院の為に、命を懸けると誓いました!」

 

「こんな者に、私達の清く正しい毎日が汚されて良いはずがありませんわ!」

 

「マーゴット、カーラ。もう決まった事です」

 

懇願する二人に、ローズベルトは冷たく対応する。そんな心情を察したのか、二人は更に訴えかけた。

 

「こんな老人の言う事は聞いて、私達の意見は聞き入れて下さらないのですか!?」

 

「総長様、私達は総長様の為ならどんな事だって致します!お願いします、私達を捨てないで下さい!!」

 

「黙りなさい、貴方達はもう、このクラウストルム修道院の子供でも無く、私達の子供でもありません。……早々に消えなさい」

 

ローズベルトの発言に絶望した様に死んだ目で項垂れる二人。

そんな二人を見て、老人は驚愕の表情を浮かべる。

 

この子達は洗脳されていたのか?だとしたら何故、ローズベルトに殺意の篭った目を向けたのか。

 

疑問が次々と溢れたが、何時迄も此処で考えている訳にはいかないと、未だローズベルトにしがみ付く二人の肩に手を置き、姿くらましをした。

総長様、と最後に叫んだ声が、三人が消えた総長室に木霊していた。

 

 

 

 

 

 

一瞬で変わった風景と、込み上げた異常な気持ち悪さに嘔吐くしかないマーゴット達。

老人はそんな二人を心配そうに見るが、先程の光景から洗脳が解けていないのではと疑わしげな表情を浮かべる。

老人の顔を睨みつけて、カーラ達は老人に叫んだ。

 

「よくも邪魔をしてくれたわね!!お前は私達を助けたつもりだろうが余計な世話よ!!」

 

「計画までもう少しだったのよ!それをアンタが台無しにしたの!!」

 

「どういう事じゃ?計画とは……」

 

「あの女を殺す計画よ!!今夜決行する予定だったの!!」

 

「私達が魔女だって事は当に気が付いていたわ、だから私達は隠れて魔法の訓練をして、確実にあの女を殺すつもりだった!!」

 

衝撃の事実に老人は驚く。

今までローズベルトを殺す為に、どんな努力を積んできたのか分かってしまったのだ。

信頼を得る為に過酷な労務に励み、殺意の対象である修道女に頭を下げ続けて来たのだろう。もしかしたら主の制裁と題して、仲間である修練女を何人か殺してでも生き抜いたのかもしれない、……この地獄を。

 

「本当にすまなんだ。そんな事を齢11歳で考えつくなど思いもしなかったのじゃ。……もう取り返しが付かぬが、他にわしに出来る事があるなら言うてくれんかの」

 

「……行っておくけど」

 

見るからに落ち込んでいる老人を呆れた様に横目に見、マーゴットは口を開く。

 

「計画は諦めないわ」

 

カーラとマーゴットは一層殺意に燃える眼光を光らせ、老人に顔を向けた。

 

「私達を、あの修道院へ連れて行って。」

 

━━計画が、始まる。

 

 

 

 

 

 

クラウストルム修道院、総長室。

聳え立つ塔の最上階で、この修道院の長ローズベルトは窓の外を眺めていた。

その目は怒りの炎で燃え上がっていた。自分を手玉に取り、出し抜いたあの老害が許せないのだ。

いつか殺してやる。あの魔法界諸共、私達修道会の力で屈服させてやる……!と静かな殺意を燃ゆらせるローズベルト。復讐を誓っていると、ドアをノックする音が聞こえたので、殺気を消す。

 

「入りなさい」

 

「……はい、総長様。」

 

現れたのはローズベルトの側近であるベルタであった。

 

「総長様、湯浴みの準備が完了致しました」

 

「そう、有難うベルタ。此方へ来なさい、今日は星が綺麗ですよ」

 

ローズベルトに促され、ベルタは歩み寄る。

窓を見ると、素晴らしい星空が広がっていた。

 

「まあ……綺麗ですわね。」

 

「ええ……それよりベルタ。今日は珍しいですね、食事の前に湯浴みだなんて」

 

「いえ、総長様も、毎日同じ順序では退屈かと思いまして……ご不快でしたか?」

 

「いいえ、いつもと少し違う日があっても良いかもしれないですね。……ああ、言い忘れていたのだけれど」

 

 

「私は“総長様”ではありませんよ」

 

 

「……えっ?」

 

その瞬間、ダァン!と鈍い音を立ててベルタの体が打ち付けられる。

打ち付けた相手であるローズベルトは、悍ましい笑みを浮かべながらベルタに話し掛けた。

 

「知りませんでしたか?二人きりの時は、ベルタは私の事を“ローズベルト様”と呼ぶのですよ」

 

「……!!」

 

目を見開いたベルタは仇に向ける様な目をローズベルトに向けると、直ぐさま離れ体勢を整える。

 

「……いつから気付いていた?」

 

「最初からです。早くその姿を解きなさいな」

 

ローズベルトの異様な気迫に圧されたのか冷や汗をかいたベルタの姿が歪み、金髪の少女が現れた。

 

「貴方でしたか……ミス・マーゴット。貴方は追放した筈ですが?」

 

「追放されてまで貴方の命令に従う気は無いわ……ああそれと、もしかして()()にも気付いてた?」

 

マーゴットは目線をローズベルトから逸らす。

 

「貴方の背後にいる、私の“姉妹(シュヴェスタ)”にも」

 

「っ!?」

 

素早く後ろを振り向くローズベルトだが、もう遅い。

今まで何も無かったローズベルトの背後に突如現れたカーラは、首筋に杖を突き立てる。その杖は老人が先程使っていた物だった。

 

「目くらまし術よ、私達が魔女だって事、知っていたのでしょう?」

 

「っ、何のつもりですか?」

 

「……()()()()()ですって?」

 

カーラは怒りで顔を赤くし、まくし立てる様に訴える。

 

「貴方達修道会が私達に何をしたか忘れたの!?私達を、犯罪者の子だと!!危険だと決めつけ、迫害した!!私達の……仲間を殺した、()()()()!!貴方達の方が余程危険よ!!!」

 

カーラは、無念に死んでいった仲間達を思い、目に涙を浮かべた。そして首筋に充てていた杖をこめかみに移動させ、喉の下部に親指をねじ込んだ。

ローズベルトは苦痛の声を漏らす。

 

「ぐっ……!?」

 

「此処を押し続ける事で殺す事なく長時間苦しませる事が出来る。私達に仲間を拷問させた時に、アンタに教わった事よ。」

 

そう言ったカーラの顔は憎悪に満ちていた。死んでいった仲間達の苦痛を少しでも味わわせてやりたいと思ったからだ。

仲間を殺した数は二人共同じくらいだったが、特にカーラはとても仲間想いだった。仲間の罪を被り、数日間の罰則を受けた事もあった。そんなカーラが自身の仲間を殺した事で得る苦痛はどれ程のものだっただろう。どれ程修道会を、この世界を憎んだ事だろう。カーラに、これ以上無駄な殺しはさせたく無い。

そう決意したマーゴットは、カーラから杖を受け取り、息が出来ず苦しむローズベルトに向ける。

 

「……生者の為に、施しを」

 

「!?」

 

「正義の為に剣を持ち、悪漢共には死の制裁を。しかして我等聖者の列に加わらん……」

 

目を見開くローズベルトに、マーゴットは優しく微笑む。それはまるで、慈愛に満ちた聖母の様に見えた。

 

「サンタ・マリアの名に誓い、全ての不義に鉄槌を。」

 

悔い改めるな。お前の様な人間は……

ただ、思い知れ。

 

 

「悪霊の火」

 

 

マーゴットが持つ杖から黒い炎を纏った巨大で恐ろしい蛇が現れ、ローズベルトの全身を取り囲んだ。

ローズベルトは、体が焼けていく苦しみに耐えられず、叫び声を上げる。

 

「ギャアアアアアアア!!!!」

 

楽に死ぬ事は許されない。

 

「地獄の業火で焼かれて死ね。」

 

 

 

 

 

 

「……遂にやってしまったのじゃな」

 

マーゴットとカーラを修道院まで送り届けた老人は、総長室である塔の最上階を見上げる。塔は禍々しい黒い炎に覆われていた。

老人はあの歳で“悪霊の火”を操れる事に驚きつつも、少女達の敵討ちを止められなかったことを悔やんでいた。

……が、あんな酷い仕打ちをされ、仲間の復讐のために幾年も計画を練り続けたあの少女達を、誰が止められただろうか。きっと、誰であろうと不可能だろう。あの二人の目を見れば分かる。今老人が力づくで止めていたとしても、いつかは必ずあの女を殺すだろう。例えどんな手を使ってでも。

 

復讐を終えたであろう二人が老人の元へ歩いて行き杖を返す。

 

「ご協力、感謝致しますわ。」

 

「うむ、いいんじゃよ。わしこそ、まだ幼い君達にこんな重荷を負わせてしもうて……」

 

「いえ、いいのです。あの女を殺す事は、修道院に来た時から決意していましたから」

 

マーゴットは凛とした顔で言った。

 

「それより……貴方にお尋ねしたい事があるのですが」

 

「なんじゃ?」

 

不安そうに控えめに話し掛けたカーラに違和感を持つも、老人は優しく聞く。

 

「私達は、人を殺してしまいました……。ただ親が犯罪者だっただけの、罪の無い仲間を拷問し、殺してしまったのです。そんな私達に生き続ける資格など、ましてや学校に行くなど主がお許しになりません……」

 

マーゴットも静かに頷いた。老人はそれを聞き焦った。

こんな幼い少女達が早々に世界に絶望し、死んでいくのを許す事はできない。彼女達は誰よりも幸せになる権利があるはずなのだ。

 

「それは仕方のない事だったのじゃ、殺さないと殺されてしまうのじゃからの。全ての元凶はあの修道会。神が存在するのなら、君たちが苦しんできた事はよく見ていてくれていた筈じゃ。」

 

「では、あの子達は!?私達が殺したあの子達にどんな顔をして生きていけば良いのですか!?」

 

カーラは目に涙を浮かべて叫んだ。

 

「わしは殺された子達を知らぬからあまり言えぬが、仲間の幸せを願うのが真の“仲間”じゃ。それでも罪の意識に囚われてしまうなら、彼女達を忘れぬ事が大切じゃ。忘れぬ事で、彼女達の魂は永遠に生き続けるのじゃから。」

 

「……生き、続ける……」

 

「……良いのですか?私達は、幸せになる資格があるのですか?」

 

「勿論じゃ。」

 

老人が発した言葉に、二人は大粒の涙を零した。

この復讐を果たした少女達は、救いの手が欲しかったのだろう。誰かに、幸せになっても良いと、生き続けても良いと言われたかったのだろう。

彼女達は心の奥底で、幸せを望んでいたのだ。

二人は涙を堪える様に、天を見上げる。彼女達のその表情は、憑き物が取れたかの様に澄み渡っていた。

 




長くなってしまいました。
多分次回からは短くなると思います。

主人公達が居たクラウストルム修道院やその他諸々の設定は「辺獄のシュヴェスタ」という漫画を使わせて頂いております。
修道院の設定やセリフのチョイスなどが素晴らしすぎるのでちょいちょい拝借しようと思っています。
あとお分かりの方もいると思いますが某メイド様の名言を主人公に喋らせました。あれ格好いいんです……使いたかったんです……。

後書きも長くて申し訳ございません。
誤字や脱字、ココ意味分かんない、文章の構成おかしいんじゃね?などありましたらお教え下さると嬉しいです。
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