「アンサズ!」
マシュと男の戦いは男の先制で始まった。
言葉と同時に完成させた文字列が形となりボウリングの球くらいの大きさの火の玉になって高速で飛来してくるのだ。
すさまじい熱と衝撃で盾を構えたマシュもたじろいでいる。
いや、これは違う。
多分、俺がいるからだ。
俺がいるから、マシュはその場から動けないんだ。
動けば、あの火の玉に黒焦げにされるのは俺だからだ。
「クソ…」
その事実が悔しくて、歯噛みする。
こうしている間にも男、攻撃手段からしておそらくキャスターの攻撃は勢いを増していく。
2つ、3つと来ていた火の玉はいつしか5つ、6つへと数も、その速度も増していた。
更にはキャスターは点の攻撃から面の攻撃、すなわち移動しながらでもこの攻撃を仕掛けている。
それをマシュはいち早く気づいてなんとか俺と火球の隙間に入って盾を構える。
「ぐ、ううぅぅぅ…」
それもかなりぎりぎりのようで顔を見なくてもその表情は苦悶を浮かべていることだろう。
「そらそらどうした!攻めてこれなきゃそこの坊主共々丸焼きだぞ!」
挑発しながらも更にダメ押しといわんばかりに火の玉を量産し、一筋の流星がごとく一気に発射する。
「きゃあああ!!!」
その攻撃でついに耐え切れなくなったのか、ついにマシュは後ろに吹っ飛んでしまう。
「マシュ!」
キャスターは俺たちの実力を知らないと言って、こちらを試してきた。
その真意はわからないけれど、今はマシュがピンチなんだ。
俺とそう歳の変わらない少女なんだから、この戦いだって、さっきの骸骨との戦いだって、とても怖かったはずなんだ。
怖くて、怖くて、怖くて仕方がないはずなんだ。
でも今はそれを押し殺して、俺のために戦ってくれている。
何もできない、こんなふがいない俺のために、戦ってくれているんだ。
なら、少しでもそれに応えるというものが、俺というマスターの役割なんだ。
こんな俺でも、できること。今の状況で出来る事、やるべきことを成すのがマスターの、俺の役割であり役目。
まず、俺が戦うという選択肢。
これはありえない。
戦おうとすれば、魔術もろくにできない俺は近づいて殴るという行為くらいしかできない。
そのためにはまず、近づかなければならない。
だがそうしようと走りだせばすぐさま火の玉によって丸焦げになってしまう。
だからそれ以外の選択肢を選択する必要がある。
この場面で俺が成せることといえば、それは――――。
「マシュ、大丈夫?」
「先輩…、はい、まだやれます、ですから先輩は下がっていてください。じゃないと先輩を守れません…。」
「うん、わかってる。けどマシュだって一人の女の子なんだから、無茶はダメだ」
「でも、それでは先輩を守れません!それに、私はサーヴァントです!」
「でもだからってマシュが無茶をしていい理由にはならないはずだ」
「それは…。」
「俺が指示をだす。マシュはそれに従ってくれ」
「!」
「それが、マスターの役目なんだろ?」
「…はい!マスター指示を!」
それは、マスターとして、自分のサーヴァントを支えることだ。
「どうやら、腹は決まったようだな。ならいくぜ!」
待っていてくれたのか、キャスターは先ほどの場所から移動もせず、攻撃も加えてこなかった。
「いくよ、マシュ!」
「はい、マスター!」
◆◆◆
おもしれーやつがいる。
最初はそんな好奇心から来る興味に惹かれてこの地獄のように成り果てた冬木の街を持前のルーン魔術で気配を絶って移動していた。
お目当ては今さっき召喚された奇妙な魔力を持つヤツだ。
なんつうか、コイツのことをはっきりと化け物じみた強さだと理解はできるが、気配はどこか空虚なもので何故か逆に大したこと無いヤツだと感じる。
頭の方と自身の経験から来る勘の方とで下した判断が矛盾していることに違和感と恐怖を覚えた。
こんな感覚は英霊になってからでも初めての感覚だった。
圧倒的強者と向き合っている感覚と、圧倒的弱者と向き合っている感覚が同時に襲っているのだ。
それを警戒しないわけがない。
丁度いい具合にランサーがアイツに仕掛けていった。
泥に侵され通常のサーヴァントよりも宝具が使えないという致命的な弱点をもち、正常な判断が下せなくなっているあの状態でも、アイツの戦力を測るには十分だろう。
そう楽観的に考えて行く末を見た。
だがそれは甘すぎたと5秒もたたずして理解した。
かろうじて目視できたのは、いくつもの光の筋がランサーの体を貫いた一瞬のみ。
何が起こったのかはまるで理解できなかった。
強いなんてもんじゃねぇ。ありゃたとえ万夫不当の英雄王でさえ片手で相手できるような神に等しい化け物だ。
そう感じた。
だが、少なくとも敵ではないことは分かった。
メンツを考えるに聖杯を競い合っていたセイバーのヤツらよりは話がわかりそうな相手だとわかるからだ。
だが、今出て行ったところで敵とみなされるのが関の山。ならもう少し待って話が通じる相手だと理解させたうえで協力をを築けばいい。
そうすればこのくだらねぇゲームを終わらせることができる。
そう考え、しばらく身をひそめようと少しずつ距離をとっていたその時、ヤツと
「!」
バレたか?
だが今俺はルーン魔術で姿も気配も極力消している。
このクー・フーリンたる俺がそう易々とへまをやらかすわけはねぇ。
だがこういう場合は疑ってかかった方が良い。
バレた場合とバレなかった場合を想定する。
勿論、バレてねぇ方がいいが。
「あ、それはそうとそこで隠れてるヤツ、出てこいよ」
…ハァ。
「やっぱバレちまってたか」
声をかけられたんじゃぁしかたねぇ。
話が通じそうな相手なんで、わかってくれるとは思うが、コイツと協力するのは全く悪い話じゃねぇ。
むしろ大歓迎だ。
ただ、問題はそこの坊主と嬢ちゃんだ。
令呪があることからしてマスターなんだろうが、恐らくこういったもんを一切経験してねぇ一般人といったとこか。
あの嬢ちゃんは英霊と呼ぶにはちと違和感がある。
なんつったっけな、あれだ。
デミ・サーヴァント。
人間と英霊の融合。
だが反応と表情からしてこれが初陣だ。
ようするに、きちんとしたマスターとサーヴァントっつう関係がまだ成り立ってねぇんだろうな。危なっかしいったらねぇ。
ここはひと肌ぬいどくか。
協力関係云々よりも荷物3つ抱えんのはごめんだ。
そう考えてキャスター、クー・フーリンは話し合いを開始した。
結果、クー・フーリンが一番理想とした形に状態を持っていくことに成功。
あちらがこちらの思惑を察して乗ってくれたこともその一助となった。
だからこそ、キャスター、クー・フーリンは協力するうえでの心残り、藤丸立香とマシュ・キリエライトの煮え切らないマスターとサーヴァントの関係を確立させようと戦闘を吹っ掛ける。
宝具こそ使わないが、戦闘の運びから火球の勢い、数、火力といった諸々の攻撃には一切の躊躇、手加減などはなかった。
それこそ、マシュが藤丸を守りきれなければ即丸焦げになるだろう。
そして、戦いはマシュが吹き飛ばされたところで一旦止まる。
藤丸がマシュに何かを話しているのもそうだが、クー・フーリンはそれ以外に気が逸れていた。
一瞬、ランサーで召喚された自分でもわかるかどうかの刹那にも似たほんの一瞬、何かと因縁のある相手、赤い外套のアーチャーが弓を向けてこちらに矢を放った気がしたのだ。
それに気が逸れ、つい辺りを警戒してしまう。
だが、周囲に映るのはさきほどとなんら変わらない炎の中にある冬木の街の風景のみ。
戦闘が始まる前、それも興味があると感じた例の青みがかった長い銀髪の少女とも女性ともとれる背丈に美しい容姿をもった
だからこそ、あのアーチャーはこちらを狙うだろうと確信していたのだが、どうやら杞憂に終わったらしい。
現在、アーチャーが矢を放ってくる心配はない。
ならば、目の前のことに集中するのみ。
(坊主と嬢ちゃんの話もそろそろ終わりそうな頃合いか、ならこいつはどうだ?)
ルーン魔術で火球を大量に生産する。
そしてそれは次第に一点へ集まり、さきほどのボーリング球ほどのサイズとは比較にならないほどに巨大化していく。
形成されたのは巨大な炎の球。
たとえかすっただけだとしても大けがは免れないだろうと感じれるほどの熱とエネルギーを有していた。
「どうやら、腹は決まったようだな。ならいくぜ!」
その言葉とともに豪火球とも言うべき巨大な炎はマシュへと向かっていった。
少々遅れてしまい申し訳ありません。
余裕があれば毎日0時くらいに投稿できると思いますが余裕のないときは次の日、又はその次の日となる場合があります。
こちらの都合優先になってしまいますが完結はさせるのでどうかその時はお待ちください。