道を外れた者の戦い
俺は、何処で間違ってしまったのだろうか。
そんな自問自答をもう何度繰り返したか分からない。そして答えが帰って来ないその質問を繰り返す事に、俺は疲れを感じていた。もう嫌だ。何も考えたく無い。堕ちるとこまで堕ちた俺は、最早足掻く気力すら存在していない。
取り返しのつかない自体を引き起こした俺は、考えるのを辞めた。何もかもがどうでもよくなった。そして、罪を重ねた。目の前の出来事から逃げる為に。嫌な事を思い出させる奴らを、片っ端から潰した。そして平静を取り戻して、また後悔する。それの繰り返しだった。
だが、それも今日で終わる。良くも悪くも、今日で全てが終わるんだ。
目の前には企業連があからさまに用意した決戦の舞台、アルテリア・カーパルスが存在する。周囲は海。そして、完璧に無人となっている施設の中心でネクストを停止させた暫く後、不意に通信が入った。
「偽りの依頼、失礼しました。貴方には此処で果てて頂きます。理由はお分かりですね」
かつて俺を兄と呼び、慕ってくれた彼女は抑揚の無い声でそう告げた。
黙って、OBを起動する。
「まあ、そういう事だ。君には期待していたのだがな、首輪付き。……残念だ」
かつて俺を首輪付きと呼び、成長を見守ってくれていた熟練のリンクスは何処か悔しそうにそう告げた。
彼らもOBを起動する。
「今はタダの狂犬だ。人の言葉すら解さないだろう」
かつて俺を同志と呼び、人類の未来へと想いを馳せた革命家は憎らしげにそう告げた。
レフトアームに装備しているマシンガンーーーモーターコブラを構え、ライトバックユニットーーーTORESORを展開する。
「お前とこうなるとはな……。残念だが、私の撒いた種だ。刈らせて貰うぞ
」
かつて俺を救い、リンクスとしての道を開いてくれた彼女は覚悟を感じさせる声色でそう告げた。
接触まで残り僅か。俺はライトアームユニットーーーMOONLIGHT、レフトバックユニットーーーCGR-500、ショルダーユニットーーーASB-0710の接続を再確認。オールクリア。
「殺しすぎた、お前は」
かつて共に戦った、愚直なまでに真っ直ぐな彼女は短くそう告げた。
アルテリア・カーパルスに集った5機のネクスト。最悪の大罪人である俺を討つ為に集められた彼らは自他共に認める最強の一角。
しかし、それでも。今の俺は止められないかもしれない。あの一件以降、俺は自分が負ける姿を想像出来ない。ただ、目の前の全てを破壊している姿しか思い浮かべられない。
何の為に戦っていたのか、分からない。何の為に戦っているのか、分からない。俺はあの時壊れてしまった。最早戦う意味は無い。それでも、戦い続けている。殺し続けている。その果てに望んでいるのかーーー俺には、分からない。
だから、願う。イカれた外道(ストレイド)が彼らに葬られる事を。この無限地獄から救済される事を。
「行くぞ。ストレイド」
俺の願いとは裏腹に、『ストレイド』は彼等に牙を剥く。どうか、この悪夢がここで終わりますようにーーー。そう願いながら、最後の戦いが幕を上げた。
ーーーーーーー
ーーーーー
ーーー
「バカな!?この俺がッ!!貴様如きに!同胞達の想いを踏み躙った、貴様如きにーーー」
最初の脱落者はカラード・ランク1のオッツダルヴァの駆るステイシスだった。一時期は最悪の反動組織、ORCA旅団のテルミドールとしても行動していた男は、誰よりも人類の未来を臨み、そして散って行った仲間達の想いを抱えていた。その全てをぶち壊した『ストレイド』への憎しみは生半可なものでは無い。更に言えば、その超絶的な機動は正に自分以外が停滞していると宣うのも理解出来るというモノだ。
しかし、それでも。『ストレイド』は、その上を行く。
TORESORの放つ光の弾丸に呑まれ、爆散したステイシスには目もくれず、次のターゲットへ。狙いはGA最高のリンクス、ローディーの操るフィードバックだ。
「首輪付き……君は若過ぎた」
決して高いとは言えないAMS適性で、全てとは言わないが『ストレイド 』の攻撃を回避して行くのは流石と言うべきか。しかし、それもいつまでも続かない。『ストレイド』が仕掛ける。
急激なバックブースト。そしてまるで測ったのように、一瞬前まで『ストレイド』がいた其処にレイテルパラッシュの双発のレーザーキャノンが着弾していた。
「チィっ!?今のを躱すか、狂犬が!」
横槍を入れてきたレイテルパラッシュを放置し、『ストレイド』は目の前で上がった水柱に向けて、ノーロックでTORESORを放つ。直後、老兵の苦痛に耐える声が聞こえきた。
「ぐぉっ!?まさか、目測で当てて来るとは……信じられん」
そう呟いた直後、水柱が割ける。そこから飛び出して来たのは鋭角的なフォルムの、モノトーンカラーが特徴的なネクストーーー『ストレイド』だ。
「ここまでか。すまないが、後は任せたぞ」
直後、MOONLIGHTがフィードバックを両断した。爆散した機体を確認する間も無く、ロックオンアラートが鳴り響く。
『ストレイド』はそれを確認するよりも先に、前方にQB、更にQT(クイック・ターン)で背後から迫る多数のミサイルをチェインガンで迎撃。更に、レイテルパラッシュがパルスガンにより展開する弾幕を化物じみた機動で回避してゆく。
次の標的はレイテルパラッシュ。モーターコブラで着実にPA(プライマル・アーマー)とAPを削りとる。レイテルパラッシュが距離を離そうとしても、圧倒的な機動性にモノを言わせて距離は潰されて、瞬く間に『ストレイド』の独壇場と化す。
「チィッ!セレン・ヘイズ、リリウム・ウォルコット!援護を頼む!!」
言葉同時に、レーザーライフルをパージ。格納していたレーザーブレードを手にしたレイテルパラッシュが突撃を仕掛ける。
「くっ、この猪女め!」
「ウィン・D様!リリウムもカバーに入ります」
悪態をつき、シリエジオからASミサイルが射出される。アンビエントもPMミサイルを発射すると同時にパージ。更にレーダー妨害用のFCMを展開するとOBで距離を詰める。
『ストレイド』は飛来するミサイルをギリギリまで引きつけると、バレルロールで誘爆させる。そのまま爆煙から飛び出したストレイドの目の前には、ブレードを展開したレイテルパラッシュが存在していてーーー。
「貰った!!」
ブレードが展開、それを縦に振り下ろす。しかし、その刹那の間にQBを発動して僅かに機体を逸らせた『ストレイド』は直撃を免れた。代償は、左腕と左肩の補助ブースター。それを失ったが、代わりに手に入れるのはーーー。
右肩のTORESORが火を吹く。軽量化され、威力が抑えられているとは言え、レーザーキャノンの一撃はレイテルパラッシュのAP一気に削り取った。
「OBでの脱出を……ッ!!」
それを見越していた『ストレイド』がチェインガンをお見舞いする。ほぼ零距離ならば、いくら命中率の低いチェインガンでも当たるのだ。凄まじい勢いでPAが削られ、OBは起動不可に。APを相当数削られながらも、レイテルパラッシュはQBで逃げ出す。
しかし、次の瞬間には目の前に『ストレイド』が。まるでお見通しだと言わんばかりにレイテルパラッシュに追従し、右腕のMOONLIGHTを展開するーーー。
「やらせませんッ!」
寸前に、OBで突っ込んできたアンビエントに妨害された。『ストレイド』はターゲットを変更。アサルトライフルとレーザーライフルをWトリガーで乱射するアンビエントを標的に変える。
左右のQBで瞬く間にアンビエントの視界から消え、そのままOBで急速下降。すれ違いざまにブーストを解除しQT。無防備なアンビエントの背にTORESORを叩き込む。残弾を撃ち尽くしたTRESORをパージし、再度OB。狙いは、機体が僅かに硬直してしまっているアンビエントだ。
正に刹那の間で懐に潜り込んだ『ストレイド』はMOONLIGHTを突き刺さんと突き出す。
その刹那。
「やらせるかッ!!」
シリエジオのレールガンが側面から襲い掛かってきた。衝撃により僅かに狙いの逸れたMOONLIHGTはアンビエントの右腕を破壊する。直ぐに状況を判断したアンビエントはQBで離脱してゆく。『ストレイド』がそれを追う素振りを見せた刹那、レイテルパラッシュが突っ込んできた。
「これでええぇ!!」
薙ぎ払うかのような軌道で振られたブレード。流石の『ストレイド』も躱しきれないと、ウィン・D・ファンションがレイテルパラッシュ内で笑みを深めた刹那。『ストレイド』はブースターを切ったのか、自然落下し始めた。そして寸前の所でブレードの一撃を躱したと思いきや、直ぐにブースターが再起動。QBと共に、MOONLIGHTを起動する。
「ばっ、化け物め……」
一瞬の交錯。すれ違い様にレイテルパラッシュをMOONLIHGTで両断。背後で爆散した彼女の最後を気に留める間も無く、『ストレイド』は残された獲物へと牙を剥く。
改めて見ると、その外観は既に満身創痍。左腕はもげており、ショルダーユニットの補助ブースターも左肩部分は大破。ライトバックユニットのTORESORは既にパージされており、残る武装はレフトバックユニットのCGR-500と右腕のMOONLIGHTのみ。
それと相対するのは、右腕を欠損した以外に特に被害が見受けられないリリウムが駆るアンビエントと、未だ一切の被弾をしていないセレンの駆るシリエジオのみ。
一瞬の膠着状態。破ったのは、アンビエントだった。
「どうして、どうして貴方はこんな事をッ!何故リリウムを裏切ったのですか!?」
常に年不相応に冷静沈着だったリリウムが突っ込んでくる。アンビエントにはAAは積まれていない。にも関わらず、近接特化に構成された俺のネクストに突っ込むとは彼女らしくない下手策だ。
リリウム・ウォルコット。俺は、何処か儚げな彼女の姿を遠い昔に無くした妹と重ねていた。
特別だったのに。大切だったのに。今はもう、どうでもいい。これ以上何も考えたく無いから殺す。ただそれだけの存在。
「リリウムッ!くっ、バカが!」
無謀な特攻を見せるアンビエントをカバーするべく、シリエジオがASミサイル、レーザーライフルで『ストレイド』を牽制する。
「…………」
『ストレイド』はチェインガンでASミサイルを撃ち落とすと同時にOBを起動。アンビエントの放つレーザー、シリエジオの放つレーザーを恐ろしい程精密な機動で回避しつつ、一気に距離を詰める。
ブレードのロック距離に到達。その瞬間無情にもMOONLIGHTがアンビエントに振り下ろされる。
「……兄様。リリウムは先に待っております」
「……くっ!?」
自分でも何故だか分からない。しかし、反射的に刃を逸らしてしまった。MOONLIGHTはアンビエントの右腕を切り裂き、APを削り切ったのか機能停止へと追い込んだ。……リリウムは、生きている。
「ほう、驚いた。コックピットを外すとは……まだ、そんな感情が残ったいたのか」
「……セレン」
かつてのパートナーの声が聞こえた。聞き慣れていたはずなのに、何故かとても久しぶりに感じてしまう。そして、そんな感情が自分にまだ残っていた事に気がつき、少し驚いた。
「……なあ、私達の道は何処で違ってしまったんだ?お前は何故、こんな結末を迎えてしまったんだ?」
「……わからない、わからないんだ。俺の大切なモノをこの世界に奪われたことを知った時、その仕返しに、俺も色んなモノを奪った。その時からまるで俺が俺じゃないみたいに狂っていく。考えるのが嫌になる。だから、壊す。それが延々と続く。助けてくれよ、セレン」
「……阿呆が。自分の心を壊してしまうなんて、お前は本当に、本当に大馬鹿者だよ」
シリエジオが構える。『ストレイド』も再び戦闘体勢に入った。
戦いの決着は直ぐに着くだろう。そして、これが良くも悪くも『俺』にとって最後の戦いになる。俺のまま死ねるか、それとも『ストレイド』として災厄を振りまき続けるか。全ては、目の前にいる信頼出来る彼女に掛かっている。
「いくぞ。×××」
ああ、セレン。お前はまだ、その名で呼んでくれるのか。
暗いコクピット内、一人笑みを零した俺はブーストを噴かした。狙うは短期決戦。EN攻撃に高い耐性を持つシリエジオ相手にはMOONLIGITでの一撃必殺は現実的では無い。ならばーーー。
刹那の間に思考を纏める。シリエジオは引きながらASミサイルとレーザーライフルで牽制射撃を行うが、『ストレイド』の前では対した障害では無い。チェインガンでASミサイルを迎撃、レーザーを回避、どうしても間に合わないモノはMOONLIGHTで切り落とす。
「チィッ!そんな曲芸じみた動き、教えた覚えは無いんだがな」
スピードは『ストレイド』が上である以上、いつかは追いつかれる。そして迎撃は上手く行かない。ならばーーー。
シリエジオはOBを起動。さらにASミサイルの代わりにレールガンを構える。
「此方から行かせて貰うぞッ!」
OB発動。真っ直ぐに敵へと突っ込むシリエジオにチェインガンをばら撒くがPAの加護で大してダメージは入らない。そしてクロスレンジに入った刹那、二機はほぼ同時に行動する。
先に動いたのはシリエジオ。近接距離で取り回しづらいレールガンを見事なサイティングで撃ち込む。至近距離で放たれた超高速の弾丸はストレイドを抉るかと思われたが、次の瞬間にセレンは我が目を疑う事になる。
「なっ!?」
既に使用不可能だと思われていた右肩の補助ブーストが起動したのだ。凄まじいQBでレールガンを回避したストレイドは更に続くレーザーライフルの一撃もQBを重ねて回避し、ブレードレンジに入った刹那、MOONLIGHTを振るう。
直撃はマズイと咄嗟にQBで回避行動をとったセレンの身体に、凄まじいGが襲いかかる。しかし、それでも完全に回避し切れなかった。
MOONLIGHTが、シリエジオの左腕を断ち切る。一気に三分の一近くのAPを削られ、更にPAも根こそぎ削られてしまう。
凄まじいGの負荷と攻撃の衝撃に機体バランスが崩れ、更にKP出力の低下によりOBが中断される。決定的な隙を生んだシリエジオに、『ストレイド』は緑色の光ーーーAA(アサルト・アーマー)をちらつかせながら接近する。
「当然か……私が見込んだのだからな。お前にやられるのも、悪くは無い…」
回避不可能と判断したセレンが何処か誇らしげにそう呟いた刹那。黒い影が、目の前を駆け抜けた。
「アンビエントッ!?」
そこには既に機能を停止したはずのネクストがいた。限界を超えた再起動。AMSがパイロットに与える負荷は想像すら出来ないが、致命的なのは明白だ。
それをやり遂げた小さな少女は、AA起動直前の『ストレイド』にOBでタックルをお見舞いし、そのまま力尽きるように機能を停止した。しかしAAは既に止まらない。
「兄様……生まれ変われたら、今度こそ私達はーーー」
コジマ粒子の光が、炸裂する。小さな願いを胸に秘めた少女が、緑色の光の中に消えて行った瞬間。俺の中に残っていた最後の何が、音を立てて崩れた気がした。
ーーーーーーーーー
ーーーーーーー
ーーーーー
ーーー
『AP0%。これ以上の戦闘は不可能です。機能を停止します』
真っ暗いコックピットに無機質な機械音が流れた。ノイズの酷いモニターに映るのは、半壊のシリエジオの姿だった。しかし、まだ動いてる。シリエジオは、残った最後のレーザーライフルを此方に向けていた。
これで、終わるのか。
「……ありがとう、セレン」
「バカが、殺されて礼をいう奴がいるか。……お前には山程説教がある。先にいって、待ってろよ」
ああ、勿論だとも。じゃあまた後でな、セレン。
薄暗いコックピットで小さく笑みを零した大罪人は、光と共に消え去った。
戦闘描写って難しい(._.)
違和感半端ないと思いますが……楽しんで頂けたら幸いです。