IS-迷子の首輪付き-   作:メルチル

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転入生

「皆さんおはようございます!今日は転入生が2人きました!」

 

「「「「えええぇ!?」」」」

 

朝のホームルーム。麻耶の報告に、1年1組の生徒のほとんどが驚きの声を上げた。つい最近、隣の二組に転入生が来たばかりなのだ。そんな中でこのクラスに二人同時に転入など、驚くのも無理のない話である。

 

「静かにせんか!仲良くやれ、いいな?」

 

千冬の鋭い眼光に逆らえるものなどいなく、コクコクと首を縦に振るクラスメイト達を見て、エレンは苦笑いを浮かべる。事前にクロエから二人の転入生について知らされていたので大して驚きはしなかったものの、その面倒さに額を抑えていた。

 

「では、二人とも。入れ」

 

千冬の声に合わせ、扉が開く。そこから出てきた2人の転校生ーーー正確には、そのうちの一人にクラスメイトほぼ全員の視線が集まっていた。エレンは数少ない例外で、そのすぐ後ろに付いて歩いてきた銀髪の小柄な少女へと視線を向けていた。

 

「デュノア、先にお前から自己紹介をしろ。殆どの者が気にしているようだしな」

 

「はい。この度IS学園に転入したシャルル・デュノアです。ここに僕と同じ境遇の生徒が2人、入学したと聞いて本国、フランスより転入してきました。これから一年間、よろしくお願いします」

 

次の瞬間、正しく待機を震わせるような大声が1年1組に響き渡った。

 

「きゃあああぁ!!男の子!しかもまたイケメン!」

 

「織斑君、クロニクル君とはまたタイプの違うイケメン!!守ってあげたい!」

 

「王子様系のデュノア君に、クール系のクロニクル君が執事で……ぐふふふ!」

 

「そして、そこに現れるワイルド系の織斑君が乱入!!デュノア君を攫って……!!」

 

姦しいでは済まされない騒ぎようで、最早収集がつかなくなっているが、仕方ないとも言える。世界で三人しかいないとされている男性操縦者がこのクラスに三人ともいるとなれば、それはもう奇跡といっても過言ではない確率なのだから。

 

「ちなみにデュノアは代表候補生でもあり、専用機ももっている。織斑、クロニクル。同じ男子として学園での生活の仕方をレクチャーしてやれ」

 

「任せといてくれ、千冬姉!」

 

「了解です、ブリュンヒルデ」

 

「お前ら2人は何度言ったら……まあ、今はいい。次はボーデヴィヒだ。自己紹介をしろ」

 

「はっ!了解であります、教官」

 

銀髪の少女はビシッと敬礼すると、姿勢を正す。

 

「この度ドイツ軍より出向になりました、ラウラ・ボーデヴィヒであります!よろしくお願い致します!」

 

軍人らしい敬礼をして見せたラウラであるが、視界に一夏を捉えるや否や、怒りに顔を歪める。そのまま一夏の前まで移動する。

 

「お前が、教官の輝かしい成績に泥を塗った……っ!!」

 

平手が飛ぶ。しかし一夏はおどろきつつもその手を取って見せた。

 

「いっ、いきなり何すんだよ!?俺が何かしたかよ!」

 

「ちっ、少しは出来るようだな。だか、すぐに思い知らせてやる。お前が教官の弟としてふさわしくないことに」

 

そのまま割り振られた席に着くラウラ。クラスは突然の自体により静まり返っていたが、それを打ち消すようにチャイムがなった。

 

「あまり騒ぎを起こすなよ、お前ら。では、ホームルームを終了とする」

 

千冬と麻耶が出て行くのを見送ると同時に、エレンは一夏の手を取った。一部の女子から嬉しそうな悲鳴が漏れ出していたが気づかないふりをする。

 

「呆気にとられるのはわかりますが、移動しましょう。かこまれますよ」

 

一瞬その意味がわからなかった一夏だったが、騒がしい教室の外の様子とシャルルを交互に見てすぐに納得する。そのままシャルルの元へと走りよって手を取る。

 

「デュノア、いこう!男子はIS実習の授業の時は一々更衣室に移動して着替えなきゃいけないんだ。それとーーー」

 

「「「「「きゃああぁぁぁ!!」」」」」

 

「ちっ、遅かった!エレン……ってもういねぇ!?デュノア、いくぞ!!」

 

「え、え?えぇ!?もう、なんなのさぁぁ!」

 

因みに迅速にその場を離れていたエレンは無事に授業に間に合ったのだが、多数の女子に追いかけ回され、遠回りを余儀なくされた一夏とシャルルが千冬にどやされるのは言うまでもないだろう。

 

ーーーーーーー

ーーーーー

ーーー

 

「では、本日から格闘及び射撃を含む実戦訓練を開始する」

 

「「「「はい!」」」」

 

1組と2組の合同授業であるからか、いつもよりも熱気が伝わる。出てくる返事も妙に気合が入っているように感じられた。

 

「本日は、戦闘を実演してもらおうと思う。幸いにもここには多数の専用気持ちがいるからな。では……クロニクル、前へでろ」

 

「……ここは、遅刻してきた一夏達に任せたいと思うのですが」

 

「エレン!?さっきも俺らのこと見捨てといてまた見捨てる気か!」

 

一夏の叫びをスルーして、千冬へ視線を向ける。

 

「現時点、専用機持ちの中で最も技量の高いのがお前だから頼んでいるんだ。『学生の目標』となるような試合を見せてくれ」

 

「了解です」

 

やりすぎず、かといって手を抜きすぎない。言外の千冬の意図を察したエレンはアルファート・カスタムを展開する。向かいのピットからはラファールに身を纏った真耶が姿を現わす。

 

「山田先生はああ見えて元代表候補生だ。これからの戦いをよーく見て参考にしておけ」

 

「よ、よよよよろしくおねがいします!!」

 

可哀想なほどテンパっているのは、エレンの正体を知っているが故だろう。そんな真耶にすこし同情しつつも、千冬の合図により戦闘を開始した。

 

「では、今の間に……デュノア。山田先生の使っているISについて解説しろ」

 

「あっ、はい。山田先生が利用されているISはデュノア社製『ラファール・リヴァイヴ』です。第二世代開発最後期の機体です。安定した性能と高い汎用性、豊富な後付け武装、コストパフォーマンスの良さが売りの機体です。よく、企業のアルファートのダウングレード版なんて言われちゃいますが……。それでも、世界第3位のシェアがあり、7ヶ国でライセンス生産、12ヶ国で正式採用されています。特筆すべきは操縦のしやすさで、操縦者を選ばないことと多様性役割切り替え(マルチロール・チェンジ)を両立しています」

 

「ご苦労。では、織斑。お前はクロニクルの使っている機体について解説をしろ」

 

「ええっと、エレンの使ってる機体は企業の第二世代型IS『アルファート』。確か、第二世代中期に登場した機体にも関わらず、ISシェアは現在まで世界1位をキープしてる凄い機体だ。安定した性能、拡張領域の多さ、後付け武装の多さ、あとは内部エネルギーの分配変更によるチューニングの多様化が売りだな。今、エレンの使ってるアルファートはスラスターにエネルギーを多めに振ってるから速度が上がってる代わりに、マニュピレーターのパワーとシールドエネルギーが低めになってるらしい」

 

「それぐらいでいい。何か質問のあるやつはいるか?」

 

はい、と元気よく手を挙げたのは二組の女子生徒であった。千冬に指名された彼女は純粋な疑問を口にする。

 

「ラファールよりもアルファートが強いのはわかりました!ならなんで、IS学園には打鉄とラファールしかないんですか?」

 

「それはアルファートの開発元である『企業』が大きく関係する。そもそも『企業』は、力ある軍事産業のコングロマリットの総称であることについてはいいな?そういった事情があって、本社をアメリカに置いてこそいるものの『企業』はどこの国にも所属していないのだ。まあ、その影響力を見れば『企業』自体が国家並みか、それ以上の力を持っているのだがな。話が逸れたな。まあ、つまるところ、奴らは国家ではないからISコアは分配されない。しかし軍事産業のコングロマリットである以上、ISは無視することは出来ない領域だ。そこで奴らは、ある条件を出したんだよ。『ISコアを自分たちに分配しない国には、IS関連の製品を販売しない』とな。勿論その脅迫みたいな条件はIS学園にも突きつけられたのだが、完全中立を謳う以上その要求突っぱねた。その結果、IS学園の備品には企業のIS製品は一つもないという状況が出来た訳だ。……と、そろそろいいぞ、二人とも」

 

「いやぁ、山田先生お強いですね。流石は元代表候補生といったところですか」

 

「い、いえ!そ、そんなとんでもないですっ」

 

余裕綽々なエレンと、テンパりすぎて噛みまくる真耶がゆっくりと戻ってくる。二人の高度な戦いを見て少しでも技を盗もうとしていた一夏がすこし残念そうにしていたのを見て、エレンはその貪欲な姿勢に思わず笑みを零す。

 

「では、早速実習行う。専用機持ちの織斑、オルコット、デュノア、ボーデヴィッヒ、凰のもとに出席番号順にそれぞれ集まれ。8人グループを作った所から山田先生の元へ訓練機を借りに行くように。……クロニクルは、すこし私についてこい。山田先生、あとは任せます」

 

千冬の目配せを受け、エレンは千冬とともにアリーナを後にする。人気のない廊下に出ると、そこには見慣れた水色の髪を持ちながら、見慣れぬ笑みを浮かべた少女が待っていた。

 

「クロニクル。呼ばれた理由はわかっているな?」

 

「ええ、勿論。二人の転入生のことですよね」

 

「知ってると思うが、そこの更識楯無は学園の守護を政府より任されている家計の現当主でな。今回の情報も彼女が手に入れたものだから、ここに呼んだ」

 

「どうも、エレン君。こないだぶりね」

 

ニコっと人好きのする笑みを浮かべて手を振る楯無だが、その笑みが作られたものであるのは散々そういう世界で生きてきたエレンからしたらすぐに見抜けるものだった。適当に挨拶を返すと、千冬が話を切り出す。

 

「今回の二人の転入生の件について、お前の知っていることを話して貰いたい。束が関わっているか否かをな」

 

 

この不自然な時期に同時に二人の転入生。しかも、どちらも厄介ごとを抱え込んでいるときたら、千冬にとって真っ先に疑うのは篠ノ之束だろう。先日も無人機による襲撃をやらかしている手前、当然といったら当然だが。

 

「今回の件に、ウチの天災は無関係ですよ。今のところは、ね」

 

「今のところ、だと?」

 

「えぇ。簡単に言うと、ラウラ・ボーデヴィッヒのISにVTシステムが組み込まれている可能性があります」

 

「入学前のドイツ軍の提示データ、それに学園で彼女のISを競技基準にリミッターがかかっているかを確認した時に、そんな反応はでていなかったわよ?」

 

「そんなわかりやすいところに隠すわけ無いでしょう。恐らく、ISコアのブラックボックスに紛れ込ませるように組み込んだと思われます。なので現時点ではうちの天災が直接解析しないとどうにもならないでしょう」

 

「……もし、そのシステムが起動したら束はどうするつもりだ?」

 

「ドイツにハッキングして関連施設、関係者全て塵にするでしょうね」

 

「……はあ。ドイツも面倒なことを……。私としては、ドイツよりもフランスのことを憂慮していたのだが」

 

「フランスは眼中にないですね。まあ、仮に何かあっても天災の今回の怒りの矛先はドイツに向かうのですし、あまり気にしなくていいのでは?」

 

「そうだな……。ラウラのことは私が気をつけて見ておくことにする。次に、フランスのことだが……更識、頼む」

 

「わかりました。突如として発表された2人目の男性操縦者のデュノア君についてよ。彼について更識の情報網で色々調べたのだけど、なにひとつボロが出てこないの。経歴も、戸籍も完璧。だけど発表するタイミングか明らかにおかしいのよ。……恥を承知で聞くわ。彼……いえ、彼女は女の子よね?」

 

「ええ、そうですよ。生徒会長が把握しきなかったのも無理はありません。今回の彼女の入学はデュノア社だけでなく、フランス政府とIS委員会の一部も加担していますから。彼女についてウチのサポーターが用意した調査結果があるので差し上げますよ」

 

ストレイドの拡張領域に入れていた書類の束を渡す。そこに目を通していく楯無と千冬の顔が苦々しく歪んだ。

 

「これは……酷いわね」

 

「この様子だと、仮にデュノアの罪を追求したとしてもトカゲの尻尾切りで終わりになりそうだな」

 

「彼女の境遇は今は置いておきましょう。ここからは、仕事の話です。シャルロット・デュノアの部屋は、一夏と同室になるんですよね?」

 

「……ああ、対外的には男同士だからな。篠ノ之といつまで同室では問題があるから、今日から部屋割りが変わる予定だ。一夏と篠ノ之にも既に通知してある」

 

「となると、一番危険なのはハニー・トラップね。……はぁ、お姉さん頭痛くなっちゃうなー」

 

「生徒会長の言う通り、そこが一番のネックです。流石に俺もそこまでは護衛できません。俺とデュノア、もしくは俺と一夏を同室にすることは出来ないのですか?」

 

「……上からのお達しで、一夏とデュノアを同室にしろとの指示がきている。それにお前が更識妹と同室なのは監視の意味合いも兼ねているのだ。お前は更識の手の者と同室になることが入学前の会議で決められている」

 

「相変わらず、組織というのは面倒ですねぇ。俺は、考えるのはあまり得意じゃないのですが。まあ、なるようになりますよ。現状、打てる手は特にありませんし。もし、ハニー・トラップが成功してしまった時は、俺が対処します」

 

「どうするつもりだ?」

 

「殺しますよ。そうすれば何も起きなかったことになる」

 

いつも通り笑顔を浮かべたまま、当たり前のようにそう言い放ったエレンに千冬と楯無は薄ら寒いものを感じた。

 

 

ーーーーーーー

ーーーーー

ーーー

 

 

「そういえば……エレンのところ、転入生きたの…?」

 

昼休み。一夏に昼食を誘われるも、なにか危険な香りを察知したエレンはそれをやんわりと断り、食堂にて簪と共にいた。珍しくうどんではなく、パスタをちゅるちゅる食べている簪の問いに、ああ、そういえばとエレンは厄介な二人の転入生のことを思い浮かべる。

 

「ええ、そうですね。フランスとドイツの代表候補生で専用機持ちの二人が来たんですよ。フランスの方は男性操縦者で、恐らく放課後の訓練に参加すると思いますから後で会えますよ。ドイツの方は、すこし気難しいようで……なんとも言えませんが」

 

シャルルがここに来た目的を考えれば、訓練への参加を希望するのは当たり前の事だろう。第三世代機の開発が遅れているデュノア社からすれば、イギリス、中国、日本そして篠ノ之束作の第四世代に片足突っ込んでる第三世代機の情報が取れるのだ。食いつかないわけがない。

 

「…ふーん。ドイツの人は…知り合いなの…?」

 

「え?なんでそんなこと聞くんですか?」

 

「なんか…心配してるみたいに、見えたから…」

 

よく見ているな、と簪を褒めると同時に自分の最近の緩み具合に苦笑いを禁じ得ない。実際、ラウラ・ボーデヴィッヒというデザインベイビーには少し、思うところがあった。

 

「ええ、まあ…。遠い親戚、なのかな?もしくは知人の親族といったところでしょうか……」

 

企業が行っていたデザインベイビーの研究。一定の成果を上げた後、企業はその研究を打ち止めにした。しかしその情報を流用し、その研究を、続けた者たちが少なからずおり、そして一部の国家はそれを支援し、利用していた。その成れの果ての一つが、ラウラ・ボーデヴィッヒなのだろう。

 

「……ふーん」

 

「えっと、簪さん…?」

 

心なしかジトッとした視線を向けられ、たじろぐエレン。随分と心を許しているその様子をもしも、かつて企業にいた頃の彼を知る者がいたら、驚嘆すること間違いなしな光景だろう。

 

「……エレンは、隠し事がおおい…」

 

「あ、あははは……。そ、それより、どうですか?打鉄弐式は?」

 

「エレンのくれたデータのおかげでマルチロックオンシステムの精密さはかなり上昇してる……。だから、山嵐を改良しようと思ってる…」

 

「え……改良、ですか?」

 

「うん……。通常弾頭の48門だけじゃ、エレンには届かないのはこないだわかったから……。フレッシェットとクラスター弾頭を追加して、逃げ場を無くそうと思う…。荷電粒子砲も粒子バリアを貫通出来るようにもう少し威力を上げてーーー」

 

真剣な顔でエレン対策の打鉄弐式の改良案を練り出した簪。これは自分が倒されるのも意外と、すぐかもしれないなぁなどと何処か他人事に思うのと同時に、嬉しく感じるエレンであった。

 

 

ーーーーーーー

ーーーーー

ーーー

 

 

「ええぇい!厄介な!!」

 

「うふふふ、踊りなさい!ブルー・ティアーズ!!」

 

「行くわよ、一夏ああぁ!!」

 

「今日は勝たせてもらうぜ、鈴!!」

 

放課後。いつも通りアリーナにて特訓を行う面々に、思わずシャルルが呟いた。彼女は既に己の専用機、オレンジ色のラファール・リヴァイブのカスタム改修機に身を包んでいた。

 

「まあ、皆さん呑み込みが早く、熱心ですからね。あともう一人、日本の代表候補生の方もいるんですけど……彼女はちょっと、機体の改修を行っていて今日はお休みです」

 

「へぇ。贅沢なメンバーなんだね」

 

はにかむシャルル。その可愛らしい笑顔を見て、どうして一夏達は彼女が女だと何故気づかないのか不思議に思ってしまうエレンだったが、思考を切り替える。

 

「じゃあ、俺たちもやりましょうか」

 

「あ、うん。えっと、その。一夏から色々聞いてるから……お手柔らかに、お願いします」

 

ほんのり怯えの宿ったシャルルの笑顔を見て、果たして一夏がどのような話をしたのか気になったエレンだったが、思考を切り替える。サブマシンガンと近接ブレードをそれぞれコールした。

 

「先手はどうぞ。タイミングも任せます」

 

「……む。じゃあ、遠慮なく行かせてもらうよ!」

 

刹那の間にコールされた武器は、デュノア社製アサルトカノン『ガルム』。高速切替(ラピッドスイッチ)と呼ばれる技能により高速展開からの射撃は的確にエレンのアルファート・カスタムの装甲を削った。

 

「あたった!このまま……!?」

 

確かな手応えを感じたシャルルは咄嗟にサイドブーストを吹かしていきなり投げつけられたブレードをギリギリ回避。しかしその一瞬の間に視界からエレンを逃してしまっていた。すぐ様ハイパーセンサーでエレンの姿を捉えるが、既に目と鼻の先まで迫られていた。

 

「このぉっ!?」

 

ガルムから近接ブレード、ブレッド・スライサーへ切り替えたシャルルが新たにコールされていたエレンのブレードの一撃を受け止める。同時に向けられていたサブマシンガンを左腕に備え付けられたシールドで弾く。

 

「いい反応ですね」

 

「ぐっ!?」

 

そんな声とともに、視界が反転。顔面に蹴りを見舞われたことに理解したシャルルは直ぐにPICで姿勢制御を行うが、それと同時に瞬時加速を発動させたエレンがブレードを携えて突っ込む。

 

「うわっ!」

 

咄嗟に滑り込ませたシールドで直撃を凌ぐが、エレンはそのままシャルルをアリーナの壁まで押し飛ばす。背部の衝撃に取られた瞬間に、エレンはブレードを放棄しサブマシンガンをコール。近距離から暴力的な弾丸の雨をシャルルへと叩きつけてシールドエネルギーを削りきるのだった。

 

「……あー、その。すいません、シャルル。大丈夫ですか?」

 

「…………う、うん。いや、なんだろう。絶対防御があっても、こんなに怖いんだね」

 

完全なレイプ目であははと笑うシャルルの姿を見て流石のエレンも罪悪感が湧いてくる。すかさず話を逸らす作戦に出る。

 

「そ、それにしても高速切替とは珍しい特技ですね。射撃も精密ですし、近接戦闘の反応も良かったので少し驚きました」

 

「……あははは。近接戦闘でエレンに手も足も出せなかった僕なんて……」

 

完全に裏目に出てしまっていた。

 

「あー、まあシャルル。気にすんなよ。エレンは反則みたいにつえーからさ」

 

「そーよそーよ。あたしも初めてタイマンでやった時はボッコボコにされたし気にしない方がいいわよ」

 

「うむ、そうだぞ。近接武器のみのハンデを貰っても、未だに私も勝てないしな」

 

「私なんか、1対1だと直ぐに接近戦に持ち込まれておしまいですわ……」

 

とりあえず他のメンバーがシャルルを宥めに入ったので、一安心するエレンであった。

 

ーーーーーーー

ーーーーー

ーーー

 

訓練を終え、一夏と共に寮へと向かう帰り道。エレンはふと足を止めた。

 

「ああ、すいません、一夏。忘れ物をしました。先に帰っていて下さい」

 

「ん?いや、なら俺もついていくぜ」

 

「ははは、子供じゃないんですから大丈夫ですよ。先に帰って今日の訓練の復習でもしてて下さい」

 

「そっか、わかったよ。先、戻るな」

 

一夏が去っていくのを見送る。背が見えなくなったあたりで振り返り、訓練時からこちらを見ていた者に声をかけた。

 

「いい加減、出てきたらどうですか?ボーデヴィッヒさん」

 

「チッ……やはり気づいていたか」

 

木陰から姿を表したのはもう一人の転入生、ラウラ・ボーデヴィッヒだった。

 

「覗き見は感心しませんね。仲間に入りたいのなら何時でも歓迎しますよ?」

 

「ふん、素人共と学ぶことなど無い。それよりも、貴様……何者だ?」

 

ラウラの瞳に鋭い光が宿る。そこには一夏を見るときのような侮りは存在せず、色濃い警戒の色が見られた。

 

「それは、難しい質問ですね。……一体、何なんでしょうねぇ、俺は」

 

「貴様の動きは明らかに戦場を知る者の動きだ。今こうしている時も、私が忍ばせているナイフに警戒し、それに対応できる自分の間合いを保っている」

 

「……はぁ、本当に面倒くさい。クロエの関係じゃなければ、思わずーーー」

 

ーーー殺してしまいそうなほどに。

 

「ッ!?」

 

エレンの殺意を敏感に感じ取ったラウラが大きく飛び退いた。ガクガクと震える足を、座りこまぬように必死に奮い立たせるラウラの姿を見て、エレンは直ぐにいつも通り笑顔を浮かべた。

 

「流石に感がいいですね。流石は、試験管から生まれた、デザイン・ベイビーなだけはーーーああ、ドイツでは遺伝子強化試験体(アドバンスド)と呼ばれているんでしたっけ?」

 

「貴様……ッ!なぜそのことを知っているうううぅ!!」

 

「おっと、危ないですよ」

 

怒声とともにラウラが突っ込む。エレンは突き出されたナイフを手を捻り上げて取り上げると、そのまま軽く押す。ラウラは情けない声と共に尻餅をついてしまった。

 

「うーん、その反応速度からして俺とは違う規格ですねぇ。フィオナと同じマルチタスクの規格かな?」

 

「何なんだ、お前はっ!?」

 

「またそれですか。……仕方ないから教えて上げます。でも、誰にも言ってはいけませんよ?その時は、あなたを迷わずーーー」

 

ニコッと微笑み、言葉を切るエレン。ラウラはその先に続く言葉を正しく理解したのか、コクリと頷く。

 

「貴女と同じですよ。企業によって作られたデザインベイビー。完璧な兵士(パーフェクトソルジャー)を作るための過程の捨て駒の一つ、試験体B06。そして今は、IS学園に於いて天災の指示で動く飼い犬です」

 

ラウラの表情が驚きに満ちたのを見て、エレンは満足そうに微笑んだ。

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