IS-迷子の首輪付き-   作:メルチル

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今回は短めになります。


分岐点

「準備はいいかしら、簪ちゃん」

 

「……うん、大丈夫。お姉ちゃん」

 

視界に映る自分のIS、打鉄弐式のステータスを確認。オールクリア。自身のコンディションも悪くない。いや、それどころか今までで最高かもしれないと感じるほど頭は冴え、視界は澄んでいる。きっとこれも彼のおかげだ、と簪が薄く微笑みを浮かべると、ちょうどその人から通信が送られてきた。

 

『大丈夫ですか、簪』

 

その一言に色々な意味が込められていることを察した簪は嬉しく感じる。優しい彼は心配してくれているのだ。簪にとってコンプレックスの原因となった姉との対戦に。だけど、簪にとってもはやそれは過去の事。目を瞑り、胸に手をやる。湧いてくるのはどうしようもない姉への劣等感ではなく、暖かく、心地よい気持ち。だから、簪は伝える。大好きな彼へ、その気持ちの一端を。

 

『大丈夫だよ、エレン。これは私にとっての通過点。貴方の隣に行くために、避けては通れない道。だから、大丈夫。私はそのためなら、どこまでもいけるから』

 

本当はきちんと自分の思いを伝えたいけど、まだまだ彼と共にいるには力不足だから。だから、ここまでで我慢。共に歩めるように力が手に入ったら、きっとこの気持ちを伝えよう。そしてお礼を言おう。翼をくれてありがとうと。こんなに暖かい気持ちをくれてありがとう、と。

 

「行こう、打鉄弐式。一緒に、彼のところまで」

 

画面の端に映っていたカウントがゼロになる。そうして二人の少女の、盛大な姉妹喧嘩が幕をあげた。

 

 

ーーーーーーー

ーーーーー

ーーー

 

『ーーー以上です。なにか命令に変更はありますか?』

 

『いえ、今の所変更はありません。…えっと、その……』

 

二人の転入生がやってきてから3日が経過した。自室にて秘匿回線による定期報告をクロエに行うと、彼女が何かを聞きたそうにしていた。

 

『ラウラ・ボーデヴィッヒが心配ですか?』

 

『っ!?いえ、そういうことではなく……もし、彼女のISにVTシステムが搭載されていたら、彼女を殺すのですか…?』

 

クロエにとって忌まわしい記憶であったとしても、やはり同じ被験体、その完成系にして生き残りであるラウラの事を気にしているのは想像するに容易い。不安に濡れたその声を聞いて、さすがに問答無用でラウラを殺そうと思うほど、エレンはまだ狂っていなかった。

 

『安心して下さい、クロエ。必要以上に傷つけない事はお約束します』

 

『はい……っ!えへへ、流石兄さんです。では、そろそろ切りますね!また明日』

 

『了解です。お疲れ様です、クロエ』

 

わかりやすい態度から、クロエの純粋さが変わっていないことに気づき思わず苦笑いを零す。彼女の良いところの一つではあるが、将来変な輩に誑かされないか心配ではある。まあ、それこそあの天災が許さないだろうが。

 

「エレン……?あがったよ…」

 

鼻腔をくすぐる心地よい香りと、落ち着いた声色。顔を上げるとほんのり頬を上気させ、タオルで髪を拭いている簪がいた。可愛らしいクマのイラストが描かれたパジャマを着ており、それが簪のお気に入りであったことをなんとなく思い出していた。

 

「……どうかした?」

 

「あ、いえ。可愛いパジャマだなぁ、と」

 

「むぅ……子供っぽいって思ってる…」

 

「そんなことないですよ。よく似合ってます」

 

ぽんぽんと頭を叩くと、不満そうにしながらも簪は黙り込むが、せめてもの抵抗にジトッとした視線を向ける。ほんのり上気した顔でそんなことをされても余計可愛らしいだけで、逆効果だなと感じたエレンであるが、今度は口に出さなかった。

 

「俺もシャワーを浴びてきます。風邪をひかないように早めに髪を乾かすんですよ?」

 

「……お母さんみたい…」

 

確かに、とエレンも苦笑いを漏らす。元々、束達と共にいた時から家事をしない束の世話や、来たばかり頃の常識知らずだったクロエにあれこれと手を焼いた影響に違いなかった。

 

化粧台の前でドライヤーを使い始めた簪を尻目に、エレンも浴室へと向かうのであった。

 

 

ーーー消灯時刻は既に過ぎ、日付も変わって幾ばくか。比較的夜更かし型の簪と、その体質上短期間の睡眠で十分休息を取れるエレンも遅くまでおきていることが多い。最近は特に簪が気合をいれて打鉄弐式の改良に励んでいたのだが、それもようやく終わった所だった。

 

「ふぅ、中々時間がかかりましたね。今日の放課後に一夏達相手に試運転と行きますか」

 

「……そのことなんだけど…戦い人が、いるの…」

 

弱々しくそう告げた簪は酷く怯えているように感じられた。しかし同時になにかを決めたような真っ直ぐと視線を向けられて、エレンは黙って耳を傾ける。

 

「……今までずっと逃げてきた。諦めてきた…でも、このままじゃ……変われないから。私は、変わりたい」

 

言葉は少ないが、エレンは簪の望みを理解した。純粋に、凄いと思う。そして、結局変わることが出来なかったエレンよりも強くなるだろうという予感も感じた。

 

「だから、お願い……。最後にもう一回、背中を押して……?」

 

トン、と簪がエレンの胸に頭を預ける。わずかに震える身体に気づき、エレンは思い出す。あの子がこうして震えていた時は、どうしていたのかをーーー。

 

ゆっくりと肩を抱き、頭を撫でる。最初はビクッと強張った簪の身体だったが、やがてリラックスするように身体を預けてきた。

 

変に飾った言葉はいらない。そもそもエレンは、そういったものには疎いのだ。だから、慈しむように簪の頭を撫で続ける。それだけだが、それこそが簪の心を優しく包み込んでいた。震えが止まり、代わりに規則正しい寝息を立て始めた簪を優しくベッドまで運んでやる。

 

「……簪なら、大丈夫。おやすみなさい」

 

妹を寝かしつけていた頃によくやっていたように額に優しくキスをする。自然な流れで行ったその行為であるが、エレンはそんな自身の変化に気付かずに眠りにつく。救われているのは簪だけではないと言うことに彼が気付くのは、もう少し先になりそうだった。

 

ーーーーーーー

ーーーーー

ーーー

 

翌日の放課後。いつもとは違うアリーナを千冬に頼み直々に開けてもらったエレンは、そこで2人の少女を待っていた。先に現れたのは、快活なイメージを持たせる水色の髪の少女だった。

 

「いきなり呼び出しなんて、何かしら?まさかお姉さんのこと、好きになっちゃった?」

 

「ええ、実はそうなんです。俺と付き合って頂けませんか、生徒会長」

 

「…………ふぇ?」

 

まさかの切り返しに、楯無の口から情けない声が漏れた。続いて言葉の意味を理解し、顔が真っ赤に染まる。何時もの余裕ある態度とは裏腹に、せわしなく髪をくるくるともてあそび出す辺り、想像以上に初心なことに若干驚きを隠せないエレン。同時に、なんだか申し訳ない気もした。

 

「えっと、そのね、私は生徒会長でね、更識の当主でね、普通の女の子じゃないのよ?そ、それでも、いいのかしら……」

 

若干潤んでいる瞳で、エレンを見上げる楯無。罪悪感で心が押しつぶされそうになったその時、悪寒が走った。

 

「……何してるの。2人とも」

 

何時ものような声色だが、何故かその声はよく通っていた。同時に底知れぬ恐怖を煽るような、平坦な声でもあるから不思議だ。現れた簪に驚いた様子を見せた楯無があたふたし出したの尻目に、エレンは渡りに船だと思い話に乗ることにした。

 

「少し、生徒会長の事をからかって遊んでいたんですよ。俺は先にピットに入っているので、あとはお二人でごゆっくり話してください」

 

楯無がからかわれていたことに気づき、怒り出しそうなのを察して速やかに逃げ出すエレン。簪もそれ以上追求することはせず、ジトッとした視線を姉に向けた。

 

「お姉ちゃん……。満更でもなさそうだったけど……どういうこと?」

 

「い、いや。ちがうのよ、簪ちゃん!?決して男の子に告白されたのが初めてで舞い上がってたわけじゃないのよ!?エレン君の事を意識して、かっこいいなー、なんて思ってわけじゃないのよ!?」

 

久しぶりに話したが、いつもの何でも出来る姉はそこにおらず、分かりきった言い訳をする年相応な姿を見て、簪は思わず笑ってしまった。

 

(ああ、そうなんだ。お姉ちゃんも、ただの女の子なんだ)

 

自分が美化し過ぎていただけなのだ。何てことはない。姉はただの少女であり、自分はそんな人の妹。完全無欠の超人なんかじゃない。ちょっと特殊な家系に生まれてきただけの、ただの姉妹なんだと簪はようやく気づけた。

 

そこまでわかれば、もう迷うことなんかなかった。

 

 

「お姉ちゃん、今まで避けてごめんなさい。また、昔みたいに一緒にお話したり、ご飯食べたり、アニメを見たりしてくれますか…っ?」

 

「……え、ええ!勿論よ、簪ちゃん!お姉ちゃんこそごめんね……ごめんねぇ……っ!」

 

ようやく元に戻った二人の姉妹の関係。お互いが感じていた喪失感が埋まる感覚。抱き合い、わんわんと泣く二人の姉妹は自分達のために世話を焼いてくれた一人の少年に感謝するのだった。

 

 

ーーーーーーー

ーーーーー

ーーー

 

 

「ーーーお姉ちゃん、私と戦って」

 

心ゆくまで涙を流した後、簪は静かにそう告げた。楯無は一瞬驚いたものの、いつになく真剣な眼差しを向けてくる簪のその申し出を断るという選択肢は存在しなかった。

 

「……本気で、戦って欲しいのよね?」

 

コクリと頷く簪。楯無はそれを確認すると、わかったわと短く返すと向かいのピットへと向かっていった。簪も、先にエレンが向かったピットへと移動する。

 

ピットに着くと、壁に寄りかかっていたエレンが簪へ視線を向ける。簪の表情から結果を察したエレンは、暖かい笑顔で彼女を迎えた。

 

「…ありがとう、エレン。……エレンがいてくれたから上手くいったよ…」

 

「嬉しいですが……過大評価ですね。頑張ったのは簪さんで、俺は少しだけお手伝いしただけです」

 

「…むぅ。…いい加減、簪って呼んでほしい…」

 

「ええっと、それは……」

 

「頑張ったから…ご褒美、くれてもいいとおもう……」

 

ああ、まったくこの子は。だんだんと自分の扱いがわかってきてるな、と内心で苦笑いを零すエレンだが、彼女の思惑通りそう言われたら断れない。意外と強かなのだ、目の前のか弱くみえる少女は。

 

「ええ、わかりましたよ、簪。……生徒会長とは、やはり戦うのですか?」

 

「うん。……でも、コンプレックスのためとか、そんな理由じゃないよ?…私はいつか、最強のヒーローの相棒になりたい、から……。お姉ちゃんは、最初の通過点…」

 

「持ち上げすぎですよ、簪。でも、まあ……悪い気は、しませんね」

 

最悪の外道。人類の天敵。虐殺者。そう呼ばれていた自分には相応しくないのは承知だが、それでも、目の前の少女がそうあって欲しいと願うならば、そうあるのも悪くはない。そう考えられることがーーー自分で、自分の在り方を決定できている事が、エレンにとってどれだけの進歩であるのかを、彼自身も未だ気づいてない。

 

「行ってくるね、エレン」

 

「行ってらっしゃい、簪」

 

彼と共に作り上げた、大事な大事な愛機を展開した簪は、空へ飛び立つ。遥か彼方で待つ彼に追いつくために、その一歩をたった今踏み出した。

 

ーーーーーーー

ーーーーー

ーーー

 

更識楯無は浮かれていた。というのもつい先ほど、最愛の妹と仲直りに成功したからだ。二人の関係の修復に力を貸してくれたエレンには感謝してもしきれないが、先ほどからかわれたのは些か癪だった。密かに彼への復讐を誓った矢先、簪がピットから飛び出してきた。

 

「あれが、簪ちゃんのIS」

 

打鉄弐式。倉持技研が開発を担当していがらも、織斑一夏の専用機、白式に篠ノ之束が関わった瞬間から見向きもされなくなってしまったIS。そうした態度の倉持技研に愛想を尽かした簪が引き取り、自分で製作したIS。といっても、完全に漕ぎ着けたのはエレンや本音などの協力があったのだが、それでも学生だけでISを作り上げるのは非常に困難なのだ。それは、実際にやったことがある楯無自身がよくわかっていた。

 

「少し、フォルムが変わってる…?」

 

背部のスラスターが大型化しているし、荷電粒子砲の形状も変更されている。この短期間でさらなる改良の跡が見られることに驚くと同時に、妹がエンジニアとしても優れている事を誇らしくも思う。

 

カウントが始まる。簪は特に武装を構えるでもなく、目を瞑っていた。多分ではあるが、エレンとプライベート・チャネルによる通信を行っているものだと推測できた。

 

(先手は譲ろうかしら。簪ちゃんが頼ってきてくれたんだもの、胸を貸すつもりじゃないとね!)

 

楯無のそんな甘い考えは、カウントがゼロになった瞬間に消え去る。

 

「行こう、打鉄弐式。一緒に、彼のところまで」

 

そんな声が響いたのと同時に、楯無の視界が真っ赤に染めあがった。そのすべてがロックオンアラートだと気がつくのには、若干の時間がかかってしたまったのは無理も無い。

 

「これは……っ!!まずいわね!」

 

全弾射撃。八門六基のミサイルポッドと、増設された十二門二基のミサイルポッドから繰り出されるのは88発の思考制御されたミサイル。これだけの数を操作しきる簪の演算能力は素直に凄いと思うが、今は厄介以外のなにものでもない。楯無はメイン武装であるランス、蒼流旋をコールすると、内蔵されたガトリングで迎撃を始める。

 

「くっ、厄介ねぇ、もう!」

 

通常のミサイルとは違い、簪の操作するミサイルは誘爆により数を減らすことがほとんど無く、着々と逃げ場が塞がれてゆく。アリーナを飛び回りつつ、ガトリングで数を減らすが、半数も落とせないウチに壁際まで追い込まれてしまった。しかし、楯無も漸く反撃の用意が可能になった。

 

「清き熱情(クリア・パッション)!」

 

楯無がパチン、と指を鳴らすと同時にアリーナの至る所で爆炎が上がった。彼女のIS、ミステリアス・レイディに搭載された第三世代兵装、アクア・クリスタルによって形成、霧状に散布されたアクア・ナノマシンのエネルギーを一気に熱へと転換し、爆破を起こしたのだ。一見して、かなり強力な攻撃に見えるのだが、その代わりにアクア・ナノマシンを散布するとその分装甲を代わりの水のヴェールが薄くなり、防御性能が低下するという弱点も存在している。

 

連続する爆発音から、ミサイルの誘爆を確認した楯無は内心でガッツポーズを決める。しかし次の瞬間には、ハイパーセンサーに走ったノイズに気づき、まんまと踊らされていることに気づいてしまった。

 

「ジャミング効果のあるスモーク弾頭が混じってたのね……ッ!やられたわ」

 

ここまでの行動が全て簪に読み切られていることに気づき、楯無の中に焦りが生まれる。とりあえずジャミング・スモークの効果範囲から逃れるために移動を開始するが、残ったミサイルが楯無に追随してきていた。

 

「落ちなさい!!」

 

止むを得ずにガトリングで迎撃を行う。案の定その中にもスモーク弾頭が混じっており、更に煙幕が広がる。ジャミングが酷くなり、ハイパーセンサーの反応が鈍っている今この瞬間こそが、簪の狙っていた機会であった。

 

「ここだ……っ!」

 

今まで操作していたミサイルをオートに切り替え、同時に新たに増設したミサイルポッドから24発のミサイルを打ち出す。それらは山なりの軌道を描き、上空から楯無に襲いかかろうとしていた。

 

「IS学園生徒会長はね、学園最強の証でもあるのよ!このぐらい……!」

 

しかし楯無も目視による認識、そして磨き上げられた更識としての危機感知能力をもってして上空から迫る24発の弾頭に気づく。同時に空いていた左手に蛇腹剣『ラスティーネイル』を呼びだし、損傷覚悟でミサイルを切り裂く。

 

しかし楯無の思惑は外れる。爆炎は怒らず、ラスティーネイルも壊れることはなかった。その代わりに襲い来るのは、鉄の杭の雨。今しがた破壊したのは全て、フレシェット弾頭であった。簪の戦略の深さに驚いたのはほんの一瞬。すぐ様アクア・クリスタルの稼働率を無理やり引き上げて身にまとう水のヴェールの強化を行った楯無の判断は、現時点では最善であった。

 

「あああああぁぁ!!」

 

勿論、防ぎきれるわけがない。フレシェットによるダメージを刻まれ、さらにその影響で第一波のミサイル群の迎撃が疎かになってしまい、それも襲いかかってくる。ミサイルの猛攻が収まる頃には、ミステリアス・レイディのシールドエネルギーは半分以下にまで削られていた。

 

「くっ……これ以上は…」

 

ここで一気に決めたかった簪だが、連続した多数のミサイルの精密操作により脳が悲鳴を上げ始めていた。山嵐による追撃は諦め、出力を上げた荷電粒子砲を打ち込む。

 

「凄いわ、簪ちゃん。いつの間にか、こんなにも強くなってたのね…」

 

楯無は恥じた。妹の事を、心のどこかで侮っていた自分自身の事を。そして決意する。今更ではあるが、全力で迎え撃つことを。

 

「お姉ちゃんは、そんな簡単に負けられないのよ!」

 

荷電粒子砲をスレスレで回避し、瞬時加速を用いて接近。蒼流旋による鋭い突きを繰り出す。簪も夢現を召喚し、迎撃を行うが近接技能では楯無の方が一枚も二枚も上手であり、徐々にシールドエネルギーが削られてゆく。

 

「くっ、流石に一筋縄じゃ、いかない…!」

 

技量の劣る自分が逃げに回っても勝ち目がないことぐらい、簪はわかっていた。だから、一歩も怯まずに攻め続ける。近接戦に荷電粒子砲も織り交ぜ、致命的な一撃は自爆覚悟の山嵐にて強引に距離を離し、姉に、学園最強に、ロシア国家代表に食らいつく。

 

「簪ちゃんは、強いわ……。これからもっと強くなれるわ。でもね、まだ……負けるつもりは、ないわ!」

 

激しい近接戦の最中、楯無が指を鳴らす。同時に、簪の周りで大爆発が起こった。少しずつ撒いていたアクア・ナノマシンによる二度目の清き情熱は、範囲を狭めたこともあり、簪の機体に大きなダメージを与えることに成功していた。

 

大きく弾き飛ばされた簪だが、その目はまだ諦めていない。楯無も全霊で当たると決めた。だから、トドメとなる一撃を放つ。

 

「全てのアクア・ナノマシンを攻撃にーーーミストルティンの槍、起動!!」

 

「ここが私の、ターニングポイント……っ!いっけええぇぇ!山嵐ぃっ!!」

 

巨大な水の槍と、数多のミサイルが激突。アリーナを覆い尽くすほどの爆炎が巻き起こる。それと同時に、戦いの終わりを告げるブザーが鳴り響いたーーー。

 

 

ーーーーーーー

ーーーーー

ーーー

 

 

ボコボコになったアリーナに、二人の少女が寝そべっていた。先ほどまで激戦を繰り広げていた姉妹は、満足そうに空を見上げる。勝敗は、どちらもISを身に纏っていないことが何よりも物語っていた。

 

「強くなったのね、簪ちゃん」

 

「もっと強くなるよ、私。じゃないと、きっとエレンの隣には立てないから」

 

「妬けるわねぇ。ここまで簪ちゃんに思われるなんて」

 

思い返せば、昔から簪は楯無について回る子だった。自分で何かを決めるということは殆どなく、楯無の後を追いかけてばかりいた。それが良くないことだとはわかっていたし、新しい目標を見つけてくれたのは姉として非常に喜ばしいことなのだが、その相手が問題であった。

 

「エレン君のこと、知ってるのよね?彼、普通の人じゃないのよ」

 

「うん、知ってるよ。エレンはとっても強くて、とっても優しくて、とっても隠し事が多い人。ただ、それだけ。皆が知らないだけで、エレンはそんな、ただの男の子なんだよ」

 

「……彼といるだけで、命の危険に晒されるかもしれないのよ?怖くないの?」

 

姉として、妹の意思を尊重したいが、それ以上に危険な目にはあって欲しくないと思う。楯無は顔を上げ、簪を見つめる。しかし、続く言葉を聞いて、楯無は簪の意思を尊重することを決めざるを得なかった。

 

「大丈夫だよ、お姉ちゃん。だって私は、エレンの事が大好きだから」

 

ーーーああ、もう。そんな幸せそうな顔でそんなことを言われたら、お姉ちゃん、見守ってあげることしか出来ないじゃない。

 

 

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