IS-迷子の首輪付き-   作:メルチル

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武装パロ多めです


VTシステム

「簪ちゃん、あーん!」

 

「……自分で食べるからいい」

 

「んもぅ!恥ずかしがっちゃって!でもそんな簪ちゃんもとってもプリティーよ!!」

 

浮世離れした水色の髪を持つ二人の少女が、イチャコラするのを眺めて思わずため息をつかざるを得ない。正確には姉の方が構い過ぎてるだけなのだが、妹の方も久方ぶりに姉と過ごすからなのか、満更でもなさそうである。

 

そんな時、不意にエレンの元に一夏からメッセージが届いた。内容は簡潔で、相談事があるから部屋に来てくれというものであり、今のエレンにとっては渡りに船であった。

 

「一夏が何か用があるそうなので、少し出てきますね。……生徒会長も、満足したら帰ってくださいよ?」

 

「やーん、お姉さんのことは楯無でいいのよ?というか、楯無で呼びなさい!」

 

バッと広げられたセンスには強制決定の文字が書かれており、いろいろ疲れていたエレンは適当な二つ返事を返すと、そのまま部屋を出て行った。

 

「むぅ……。冷めてるわねぇ」

 

「……お姉ちゃん」

 

唇を尖らしてそんなことを呟いた楯無に、簪から声がかけられる。その底冷えするような恐ろしげな声に思わずびくりと肩を震わせると、冷や汗を流しながら笑顔を浮かべる。

 

「か、簪ちゃん?だ、大丈夫よ?別に、変な意味は無いのよ?エレン君と仲良くなりたいとか、そんなんじゃーーー」

 

「お姉ちゃんのばかぁ!」

 

珍しくも声を荒げた簪により、そのまま部屋を追い出された楯無。そんな彼女が啜り泣きながら部屋に戻る姿が多くの生徒達に目撃され、噂されるようになるのは完璧な余談である。

 

ーーーーーーー

ーーーーー

ーーー

 

エレンは深いため息をついた。どうしてこうも面倒ごとが巻き起こるのか、と。その元凶である、目の前で頭を下げる一夏とシャルルの姿を一瞥した後に取り敢えずは顔を上げるように促すことにした。

 

「状況を整理しましょうか。シャルルは本当は女で、スパイだった。それがひょんなアクシデントで一夏にばれてしまった。ここまではいいでしょう。ですが、そこからが頂けない。シャルルを守りたい?何を言ってるかわかってるんですか、一夏。貴方を騙してデータを奪おうとしていた相手ですよ?彼女の目的がデータの収集ではなく、暗殺だったら殺されていたような状況ですよ?自分がどれだけ危険な状況にあったのか、きちんと理解できているのですか?」

 

「そ、それは……」

 

「ご、ごめんなさい……」

 

エレンの正論に一夏とシャルルはぐうの音も出ない。もちろん、一夏が本当に危険な目にあうのならばエレンが是が非でも守り抜くので極端な例を引き合いに出したのだが、元々エレンは一夏の警戒心の低さを危険視していており、今回が丁度良い機会に思えた。なので、敢えてシャルルの存在は泳がしていたのだが、まさかこんなことになるとは。

 

「どうにも、上手くいかないものですね……」

 

陰謀やらなんやらはつくづく向いていない、と額を抑える。あまりにも面倒で、思わずシャルルを殺害してしまいたい衝動に駆られるが、一夏との信頼関係を崩すとそれこそこれから先の護衛に多大な支障が出てしまう。仕方ない、とばかりにエレンは大きなため息を吐いた。

 

「一応ですが、さっき一夏の引っ張り出してきた特記事項で学園にいる間は大丈夫でしょう。ブリュンヒルデへの説明はお二人がやるより俺が適任でしょうから、そちらも任せてください」

 

「な、何から何まで、すまねぇ……」

 

「ご、ごめんなさい……」

 

「一夏はこれを機に自分の立ち位置を再確認して、もう少し警戒心を強めないと、いつか本当に取り返しのつかないことになりますよ?シャルルは……まあ、未遂ということですし、境遇と環境から推察するに上層部からの圧力というのは誰が見ても明白ですのであまり心配いらないでしょう。……まあ、デュノア社は大変なことになるでしょうが」

 

「これからは気をつける……」

 

「うん、ありがとう」

 

元々、この問題はシャルルを捕まえて突き出すだけで全てが丸く収まる。しかしながら、彼女の生い立ちや境遇を知ってしまった以上、一夏がそれを良しとしないのは十分予想できた。一夏の良くも悪くも素直な性格は中々変わるものでもないだろうし、美徳の一つでもある。正直、そう在れる一夏を非常に羨ましく感じるし、そのままでいて欲しいとも思う。だから、エレンは告げる。

 

「一夏、貴方のやっていることは間違っていない。でも、自分の意思を押し通すには相応の力が必要で、今回の問題に関しては貴方は力不足だ。自分の力と守れる範囲を把握出来ないと、いつか後悔する日が来ますよ」

 

妙に説得力のあるそのことばに一夏は釣られるように頷く。そのときエレンの浮かべていた自嘲を感じさせる笑みが、何故か一夏の頭の中に暫く残った。

 

ーーーーーーー

ーーーーー

ーーー

 

翌日。放課後になり、エレンは昨夜の出来事を千冬と楯無に報告すると同時に対応を話し合い、結局シャルルの処罰は無しで、今度のタッグトーナメントの後に女子として再び編入させるという手を取ることに落ち着いた。わざわざ時間を置くのは、シャルルがタッグトーナメント目前にスパイだったとばれて、イベントに参加できないことを防ぐという為だろう。案外甘い処置に驚きつつも、エレンとしても特に不都合はないので反対はしなかった。

 

多目的室で話を終え、エレンが一足先に退席すると、直ぐ外に待っていた不安そうな表情を浮かべる一夏とシャルルが視線を向けた。

 

「シャルルの処置は、今度のタッグトーナメント後に女子として再び編入することになりました。フランス政府とデュノア社にはIS委員会の方から対処をして下さるそうです。……まあ、実質お咎めはなしです。生徒達との距離感が難しくはなるでしょうが、そこは頑張ってください」

 

「うん……!本当にありがとう!!」

 

「感謝なら一夏に。一夏が貴女を守りたいと願わなければ、俺は力を貸していなかったのですし」

 

「うん!ありがとう、一夏!!」

 

「あー、俺なんもできてないんだけどなぁ。まあ、うん。どういたしまして、シャル」

 

そんなやり取りの後、三人はいつものアリーナへと向かう。そこでは先にセシリアと鈴が訓練を行っているはずだった。簪は、先日の戦いで損傷した打鉄弐式の修理のために整備室に篭っており、箒は珍しいことに整備に興味があるのか、簪について行っていた。

 

「ねえねえ!あそこのアリーナでドイツの第三世代型が戦ってるらしいよ!!観に行こうよ!」

 

「うそ!?まだトライアル段階って噂だったのに!行こ行こ!」

 

ふと、強化されたエレンの聴力がそんな話を捉えた。女子生徒達が向かった方向は、いつもエレンたちが訓練を行っているアリーナと同じだ。ということは、つまりーーー。

 

「一夏、シャルル。少し、急ぎましょう。何やら問題が起きてるみたいです」

 

恐らく、セシリアと鈴がラウラと戦闘を行っている。セシリアと鈴がいくら代表候補生といっても、戦闘用に生み出されたデザインベイビーで、尚且つ現役軍人のラウラに今の時点で勝てるとは思えなかった。威勢のいい返事を返した二人とは裏腹に、エレンの中に薄暗い感情が渦巻いていく。

 

ーーーーーーー

ーーーーー

ーーー

 

やがてたどり着いたアリーナでは、2対1による戦闘が繰り広げられていた。一見、ラウラを虐めているようにしか見えない光景だが、その戦闘内容はラウラの圧倒的優勢であった。

 

「くぅぅ!このおぉ!!」

 

「この至近距離でウェイトのある衝撃砲とは……バカか、貴様は」

 

ラウラの駆る黒いIS、シュヴァルツェア・レーゲンが鈴の甲龍に接近。腕部のプラズマブレードでの連撃を見舞う。技術の差からそれを捌ききれない鈴が衝撃砲での打開を試みた瞬間、ラウラは両腕のプラズマブレードを龍砲のスライドした砲口に突き入れた。

 

「鈴さん!」

 

さらなる追撃を試みるラウラに、セシリアのスターライトmk-3が火を噴く。精密な射撃を地を這うような機動で回避しつつ、ラウラは6本のワイヤーブレードをセシリアに向けて放った。

 

「厄介ですわね、もう!」

 

縦横無尽に襲い来るワイヤーブレードのせいで精密射撃はもちろんのこと、ビットの呼び出しも行えないセシリアは回避しか選択を取ることが出来ない。しかし、その背後で静かに起き上がった鈴の甲龍を見て、セシリアは内心で笑みを浮かべた。

 

「よくもやってくれたわねええぇ!!」

 

瞬時加速を行った鈴が、双天牙月を手にラウラの背後から襲いかかる。獲った!と内心で笑みを浮かべた瞬間、鈴は身体の自由がきかなくなっている事に気がついた。同時に、ラウラが左手をこちらに向けていることにも気づく。

 

「何度も言ってるだろう?私とシュバルツェア・レーゲンの停止結界の前では、貴様らなど取るに足らん木偶だと」

 

「きゃああぁあ!!」

 

「鈴さん!」

 

身動きの取れない至近距離から、鈴にレールキャノンを見舞う。凄まじい衝撃により後ろに弾き飛ばされる鈴の姿を見て、一瞬ではあるがセシリアが気を散らす。その瞬間を見逃さず、ワイヤーブレードがセシリアの足を絡め取っていた。

 

「戦闘中に気を抜くなど、自殺志願者か?」

 

嘲笑とともに、セシリアは自身が投げ飛ばされたことに気づいた。乱雑に投げ捨てられたと思いきや、その先にいたのは衝撃でフラついてる鈴。二人はそのまま激突し、無様に地に這いつくばっていた。

 

「ふん、所詮はこの程度か。入学時のデータと比較すると、確かに腕は上がっているがーーー」

 

「おおおぉぉ!!」

 

詰まらなそうにラウラが二人を一瞥した瞬間、視界の隅に白いISが映る。再び停止結界ーーーAIC(アクティブ・イナーシャル・キャンセラー)を用いてそのISを拘束した。

 

「な、なんだこれ!?動けねぇ!?」

 

「ふん、誰かと思えば貴様か。丁度いい。ここで貴様を叩き潰して、証明してみせよう。貴様が教官の弟としていかに相応しくないかを」

 

「勝手なことを……っ!」

 

「一夏っ!」

 

レールキャノンの照準を合わせた刹那、ラウラ目掛けて無数の弾丸がばら撒かれる。咄嗟に一夏へのAICを会場したラウラは再びAICを発動すると、シャルルの放った弾丸は彼女の目の前で停止し、カラカラと音を立てて地面に落ちていった。

 

「僕も加勢するよ、一夏」

 

「ふん、フランスのアンティークでどうこうできる程、私のシュバルツェア・レーゲンは甘くないぞ」

 

「そうかな?AICに頼りきりのルーキーよりはよっぽど戦えると思うけど?」

 

「貴様……っ!」

 

やすやすと挑発に乗ったラウラが怒りのままにレールキャノンを放とうとしたその時、凄まじい悪寒がラウラをーーーいや、その場にいた全員の背筋を駆け抜けた。

 

「はぁ。どいつもこいつも……面倒ごとばかり……俺は、考えるのが嫌いなんですよ」

 

ダークレッドカラーのISに身を包むのは、一夏たちの知るエレン・クロニクルであるはずなのだが、まるで別人のように感じるほど冷たい声色でそう呟いた。

 

「……一夏、シャルル。セシリアさんと鈴さんを連れて下がってください。後は念のため、二人を保健室に連れて行ってあげて下さい」

 

「お、おう。任せろ」

 

「わ、わかったよ!」

 

有無を言わない威圧感を感じさせるエレンの言葉に逆らうことなど出来ず、戦う気満々だった一夏達はセシリアと鈴と共に、アリーナを後にする。ラウラも目の前のエレンの放つ威圧感により、それを止めることなど出来やしなかった。

 

「……先に謝りましょう、ドイツのアドヴァンスド。ごめんなさい」

 

「な、なんだいきなり?いや、そもそもお前はーーー」

 

理解できないという様子のラウラに構うことなく、エレンは話を続ける。

 

「これはただの八つ当たりです。俺にしては頑張った方だとは思うのですが、如何せん、昔から考えることはあまり得意ではなくて……。それこそ、全てを壊してしまおうと思うくらいには」

 

ニコリ、とバイザー越しに笑みを浮かべたのがラウラにはわかった。それと同時に恐怖する。エレンの浮かべるあまりの歪な笑顔に。自分はとんでもない化け物を目覚めさせてしまったことに。

 

「ああ、安心して下さい。何も殺しはしませんよ。クロエとの約束もありますしね。ただ、そのISは後々面倒なことになりそうなので、ここで破壊させて頂きます」

 

「ッ!!企業製とは言え、第二世代ごときが偉そうに!やれるものなら……やってみろぉっ!!」

 

自らの中にある恐怖を誤魔化すように、レールキャノンによる砲撃を放つ。それを合図に、企業のデザインベイビーとドイツのアドヴァンスドによる戦いが幕を上げた。

 

 

ーーーーーーー

ーーーーー

ーーー

 

ラウラの放ったレールキャノンをサイドブーストで避けたエレンは両手にサブマシンガンをコール。弾幕を張るように発砲してゆく。

 

「ふん、こんなもの!」

 

ラウラが手をかざすと、AICが起動する。サブマシンガンからばら撒かれる弾がラウラの付近では停止し、力なく地面へと落ちてゆく。

 

「これならどうですか?」

 

円を描くようにラウラの周りを飛びつつ、サブマシンガンを連射する。全方位から襲い来る弾丸にラウラが堪らず上空へと逃げると、それを待っていたと言わんばかりにエレンは両腕のサブマシンガンをラウラへと投擲。同時に両手に物理ブレードを召喚する。

 

「この程度でッ!!」

 

両腕のプラズマブレードで二つのサブマシンガンを叩き切る。その直後に瞬時加速を用いたエレンの強襲を、ラウラはプラズマブレードで受け止めた。

 

「ふむ、反応速度も悪くはないですね。イメージインターフェースも人並み以上に使えると言うことは……俺とフィオナとは違う規格ですねぇ」

 

「戯言を……ッ!」

 

無理矢理エレンを弾き飛ばすと、ラウラはワイヤーブレードを射出。しかしエレンは二本のブレードで巧みに受け流すどころか、そのワイヤーを刀身にわざと絡みつかせた。

 

「しまっーーー」

 

「遅いですよ」

 

絡め取られたワイヤーブレードをパージすることが遅れたラウラは、エレンにより乱雑に投げ飛ばされる。咄嗟にワイヤーブレードをパージし、威力を最小限に抑えたラウラは直ぐさまPICにより姿勢を制御する。しかし、エレンからしてみればそれは遅すぎた。

 

「久しぶりですねぇ、こんなもの使うのは」

 

そんなことを呟くエレンの両腕に握られていたのはチェーンに大量の地雷が吊り下げられている奇妙な武器。軍人であるラウラは、軍事産業において頭一つ飛び抜けている企業により開発されたその装備のことももちろん知っていた。

 

「『ケンプファー』!?実戦でそのようなものをッ!」

 

13にも及ぶ吸着型機雷をチェーンで括り付けたその武装は通称チェーンマインとも呼ばれる、企業が開発した異形の兵装。見た目通りの扱いずらさはあるものの、敵の装甲に直接機雷を吸着させ、ゼロ距離からの爆破を行うことにより、莫大な損傷を与えることが出来る程の威力を誇っている。

 

そんな武装が二つも目の前に存在している。咄嗟にAICによる拘束を行おうと手を突き出すラウラだが、エレンはそれを先読みし、その腕を蹴り飛ばす。同時に、二つのケンプファーを背部のアンロックユニットに巻きつけた。

 

「この至近距離でイメージインターフェースを用いるとは……貴女、バカですか?」

 

そんな皮肉とともに、ラウラの胴体に回し蹴りを叩き込み、大きく吹き飛ばす。同時にケンプファーを起爆。連続した爆音とともにその姿が爆炎に飲み込まれる。胴体に巻きつければこれでシールドエネルギーを削りきれていたのだが、今回の目的はラウラのISの破壊である。あえて背部のアンロックユニットを狙ったのだ。恐らく、爆風により背部のスラスターにも支障が出ているはずだ。あとはトドメをさすのみ。

 

「うわあぁぁあああ!!」

 

ラウラは錯乱した子供のように叫びながら、ワイヤーブレードを射出する。しかしそんな状態ではまともな操作をすることなど出来ず、物理ブレードを再び召喚したエレンにより順々に叩き斬られてゆく。

 

「これで最後の一本ですね。さて、あとはそのプラズマブレードですか?」

 

全てのワイヤーブレードを叩き斬り、悠々とラウラの前に立ち塞がるエレン。ラウラは堪らず、出力が大幅に低下したスラスターを全開で起動して離脱を試みる。

 

「まだですよ」

 

それを見逃すことなく、エレンはラウラを追撃。プラズマブレードで応戦するも、技量の差は歴然としているだけでなく、最早平静を保てていないラウラがその攻撃を捌けるはずもない。

 

「なぜだ!なぜ当たらん!?私は、戦うために生まれてきたのだぞ!!その為だけに、生きてきたのだぞ!?」

 

「へぇ、奇遇ですね。俺と一緒です。まあそれでもーーー俺と貴女では、年季が違いますから」

 

まずは左腕。鋭い斬撃がプラズマブレードの発生装置を破壊する。そこからは瞬く間に右腕のプラズマブレードもその光を失うことになった。

 

「どうして……私は、わたしは…たたかうために……かつために……なのに、なぜ……」

 

膝をつき、虚ろな瞳で呟き続けるラウラ。そんな彼女を同情の宿る瞳で見下ろしたエレンは、告げる。

 

「一回ぐらい、自由に生きてみなさい。もし、それでも何もわからなかったその時はーーー俺が、殺して上げますから」

 

ブレードが振り下ろされる。シールドエネルギーがゼロになったと同時に、変化は起きた。

 

ーーーーーーー

ーーーーー

ーーー

 

(こんな……こんなところで負けるのか、私は……)

 

元々は織斑一夏を釣り上げるために、交友のある二人の代表候補生をいたぶっていた。予想通り織斑一夏は出てきたが、同時にラウラと同じ境遇だと嘯く謎の男、エレン・クロニクルというイレギュラーも出てきた。

 

そうして現れたイレギュラーは、隔絶したIS操作技術によりラウラを圧倒した。もうすでに、十分理解した。彼には勝てないと。しかし、それでもーーー。

 

(私は負けられない!負けるわけにはいかない……!)

 

ただ戦いを行うことのみを考えて作られ、生まれ、育てられ、鍛えられた。世間のことはわからないが、戦闘に関する知識なら誰にも負けないと自負していたし、それを活かせるだけの技量も持っていると自信もあった。

 

しかし。それでも。いま、ラウラの目の前に立ち塞がるイレギュラーを打ち倒すことが出来なかった。戦うために作られたラウラは、戦う事によってしか自分の価値を見定められない。負けは即ち、無能の烙印であることも重々承知している。

 

(やだ……もう、あんな思いはしたくない……!)

 

ISが登場した事により一変した世界。それに合わせるが如く、ラウラに求められる知識と技術も変容した。そしてその適合性上昇のために行われた施術ーーー『境界の瞳(ヴォーダン・オージェ)』がラウラの障害となった。

 

企業の一部の規格のデザインベイビー達が先天的にその目に埋め込まれているナノマシンーーー通称『運命の瞳(フォルトゥナ・オクルス)』。そのデッドコピーを後天的に肉眼へと移植するという施術であった。理論上不適合などのデメリット無しに、運命の瞳には及ばずとも、大幅な視覚信号伝達の速度上昇と動態反射の引き上げが可能であるハズだった。しかし、ラウラの境界の瞳は制御不能に陥る。稼働状態のままになってしまい、脳へと莫大な負担を与え続け、更には移植された左目は金へとその色を変えてしまった。

 

それにより部隊のトップにいたラウラは一気に底辺まで落ちぶれ、無能の烙印を押されることとなった。あの屈辱的な日々は忘れようもない嫌な思い出であったが、その後の織斑千冬との出会いがラウラの世界を変えた。

 

「ここ最近の成績は振るわないようだが、なに心配するな。一ヶ月で部隊内最強の地位へと戻れるだろう。なにせ、私が教えるのだからな」

 

そう告げた世界最強のその人は、本当に一ヶ月でラウラを元の居場所まで引き上げてくれた。そしてラウラは、そんな織斑千冬に惹きつけられた。その強さに焦がれた。誰よりも気高い姿勢に憧れた。そしてーーー戦うためだけに生まれてきた存在にも関わらず、その戦う事ですら1番になれないことに気づき、怖くなった。いつかまた、無能と呼ばれ、そのまま捨てられる日が来るのでは無いかと。

 

(勝てない兵器に何の意味が?無能の烙印をまた押される?今度は破棄か?何のために戦う?なぜ生まれた?なぜ勝てない?なぜ否定する?なぜ邪魔をする?なぜ私は弱い?戦う為に造られ私が負けたら、その存在意義はどうなる?)

 

自分でも感情がごちゃ混ぜになってゆくのが分かるが、最早止めることなど出来なかった。ぐちゃぐちゃになった感情の中で、最後に残ったのは戦う意思。そして、力への渇望だった。

 

(私は、証明する……存在意義を……その勝利を…無能じゃない……力があれば、私は!私はッ!!)

 

『ーーー願うか?汝、自らの変革を望むか……?より強い力を欲するか……?』

 

自身の奥底で何かが蠢くような不気味な感触。しかし今のラウラにはそんな違和感を気にする余裕などなく、ただ目の前に差し出された力を求めた。

 

(元々、私に戦う以外の意味など無い。こんな空虚の器、あっても無くても変わらん。捧げよう、この身を。その代わりに……何にも負けぬ力を、比類なき最強を、唯一無二の絶対をーーー私に寄越せッ!!)

 

 

意識が深い闇に沈んでゆく。心地よい微睡みに身を委ねたラウラは、安らかな顔で眠りについた。

 

ーーーーーーー

ーーーーー

ーーー

 

「……やっぱりありましたか」

 

溶けて行くシュバルツェア・レーゲンを前にして、エレンは小さくため息を漏らす。VTシステム。かつてエレンとフィオナが破壊を試みたソレだが、あの時はダミーデータを掴まされるに終わった。まさか、そんな代物がドイツにあるとは意外であった。

 

ドロドロと溶けたシュバルツェア・レーゲンにまたも変化が訪れる。黒い液体となった装甲はラウラを呑みこむと流動的な動きを繰り返し、やがて『ソレ』を象った。

 

「……ブリュンヒルデ、ですか。まあ、最強のヴァルキリーといえば、彼女が妥当でしょうが」

 

雪平弐型の原型となった、最強の剣ーーー雪平を手にしたその姿は恐らく千冬の愛機であった暮桜を模しているのだと分かる。正直なところ、エレンは期待していた。この生温い学園に、本気のエレンと戦えるものなど当然おらず、力を持て余していたのは言うまでもない。そこに現れたのはデッドコピーとはいえ最強のヴァルキリー。しかも、過去にエレンの戦ったことのある白騎士ではなく、暮桜に搭乗した織斑千冬である。不謹慎であるが、エレンはそれがどれだけの強さを持つのか楽しみであった。ラウラとの戦いを始める時点から千冬に頼んでアリーナをロックしてもらっているので、邪魔が入る心配も無い。

 

「では、お手並み拝見といきましょうか」

 

両腕に物理ブレードを召喚。瞬時加速で一気に距離を詰める。Xを描くように同時に斬撃を繰り返すが、黒い暮桜はそれを正眼の構えで受けるや否や、直ぐさま切り返してくる。エレンも左手のブレードで受けると同時に右手のブレードを突き出すが、黒い暮桜は巧みに雪平を操り、それを叩き落とす。そこから繰り出された凄まじい速度の切り上げを、エレンは一度後退して回避した。お互い追撃はせずに、膠着状態となる。

 

「ふむ、中々の再現度ですね。正直、ここまでやるとは思いませんでした。……少し、本気でやりましょうか」

 

ストレイドを使っても良かったのだが、学園内では誰に見られたものか分かったものではないので、緊急時意外では使用はしたくない。エレンにとって、目の前の黒い暮桜の力は、その程度の評価であった。

 

「…………」

 

表情が消えた能面のような表情を浮かべたエレンが、唐突に動き出す。両腕の物理ブレードで挟み込むように斬撃を見舞うが、黒い暮桜は身体を屈めて回避。それと同時に凄まじい速度の一閃が返されるが、エレンはその場でスラスターを瞬間的に吹かせて上方へ回避。黒い暮桜の頭上を通り抜けざまにブレードを振るうが、黒い暮桜は前に滑り込むようにして躱す。

 

しかしエレンは止まらない。回避されるや否やPICを制御し、身体を半回転させるとその勢いのままに両手にもつブレードを思い切り投げつける。黒い暮桜が態勢を崩しながらもその二振りを叩き落とすと同時に、凄まじい衝撃がその身を襲った。

 

黒い暮桜の視線の先にいるのは、両腕に小型のハンドリボルバーを構えたエレンの駆るアルファート・カスタム。一見、ただの大口径リボルバー見えるその武装は、企業により開発された多様な弾頭を使い分けることのできるリボルビングランチャー、『ノルン』。先程の衝撃はスラッグ弾によるものであった。

 

黒い暮桜は間合いを潰すべく凄まじい速度で肉薄するが、エレンも同時に後方瞬時加速を発動する。当てやすいものの距離が離れるとその威力が大きく減衰してしまうスラッグ弾から、徹甲榴弾へと既に切り替え済みのそれを撃ち出してゆく。

 

世界最強のブリュンヒルデならば勝利への最短距離を変更することはしない。エレンの読み通り徹甲榴弾を叩き切って尚も突き進む黒い暮桜に対して、エレンは後方瞬時加速の終了と共にノルンのシリンダーから空の薬莢を排出、それと同時に拡張領域から次の弾薬を直ぐさま変換、弾を込めると目前に迫っていた黒い暮桜にその弾丸を撃ち込んだ。

 

独特な音と共に放たれたのは青い白い光を帯びた弾丸。煩わしそうにそれを雪平で切り落とした黒い暮桜はそのままエレンにも斬撃を繰り出すが、両手のリボルビングランチャーを盾にして回避。爆散するリボルビングランチャーを尻目に、幾分か表情の戻ったエレンは不敵な笑みを浮かべた。

 

「まあ、これがシステムの限界、といったところですかね?」

 

俊光式徹甲榴弾。今しがたエレンが用いたのは敵に接触すると吸着し、時間差で爆発する特殊な徹甲榴弾である。本物のブリュンヒルデであったならば、得体の知れない武装を受けることはせずに回避に移行していたに違いないが、所詮はシステム。そこまでの応用性は備えていなかった。

 

瞬間、黒い暮桜の持つ雪平が爆発する。破壊されることはなかったものの、予想外の衝撃により雪平はその手を離れ、宙を舞う。そうして大きく態勢を崩した黒い暮桜の懐には、瞬時加速を用いて入り込むとそのままの勢いのまま壁に叩きつける。そして、その右手には企業が開発したIS武装の中でも特に凶悪な威力と効果を持っており、公式の試合では使用を禁止されている9連装電磁加工パイルバンカー、『セラフ』。別名『九つの杭(ナインポール)』とも呼ばれるそれはあまりにも過剰な火力に加えて、更には打ち込まれる杭の一つ一つにEMP効果が付与されており、対象のハイパーセンサー等の電子系統に致命的な欠損を与える、まさに一撃必殺の兵装である。

 

勿論、その効果の高さに比例するように、通常のパイルバンカーに比べてかなり大型化されており、使用距離である至近距離において取り回し辛いという致命的な欠点があるが、今のこのタイミングでこれを当てることなど朝飯前だった。

 

ズガン、ズガン、ズガンーーー。

 

凄まじい炸裂音と共に電磁加工された杭が黒い暮桜に打ち込まれて行く。EMP効果でVTシステムに障害が出始めたのか、ノイズ共に黒い暮桜が波打ち、回数を重ねるごとにその姿を維持出来なくなって行く。

 

「これで、最後です」

 

淡々と告げたエレンが最後の一発を打ち込む終わると、まるでそれを待っていたかのように黒い暮桜は遂にその形状を維持出来なくなり、弾け飛ぶようにして消え去った。中から捨てられるように出てきたラウラを抱きとめる。

 

「……はあ。随分とまあ、気持ちよさそうに眠っていることで」

 

呆れたようにため息をつくものの、その声は何処か穏やかであった。ラウラが力を求めた事は、間違ってないとエレンは考える。それは前世において、力が無いものは虐げられるのみということを痛感していたからであり、自分の意見を通すのには、力が不可欠なのはこの世界でも変わらないのを知っているからである。システムに頼ったのは頂けないが、その貪欲に力を求める姿勢は、IS学園で漠然と学生生活を楽しむ生ぬるい考えの生徒達よりは余程好感が持てるものであった。

 

元々、ラウラが気に入らなかったというより、ここ最近面倒ごとが続いていて、最も苦手な考えて決定するということが多発していた事が原因で今回の暴走とも言えるエレンの行動が起きてしまった。なので、完全に八つ当たりのとばっちりを受けたラウラには悪いことをしたな、などと柄にもなく罪悪感を覚えたエレン。

 

とりあえずは事の顛末を千冬と束に報告をして、ラウラを保健室へ連れて行ってーーー。やることが多すぎて辟易としたエレンは、もう一度深いため息をついて、アリーナを後にした。

 

余談であるが、ラウラを保健室に連れて行くまで俗に言うお姫様抱っこをしていたことが学園中で噂され、簪から冷たい視線をぶつけられるのことになるのはご愛嬌である。

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