IS-迷子の首輪付き-   作:メルチル

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トーナメント中盤

トーナメント準決勝。その日のアリーナはかつてない程の盛り上がりを見せていた。世界に初めて現れた、三人の男性操縦者。その対戦カードを見るために全世界の要人達が集まってきている。その中でも各国でも上層に位置する者達やIS委員会の者達はエレン・クロニクルという篠ノ之束の私兵についての情報を収集しようと躍起になっていた。勿論、アリーナで向かい合う彼らにはそんなことは知る由もなく、各々がISのハイパーセンサー越しに睨み合っている。

 

「ようやくだな、エレン。それにボーデヴィッヒ。正直お前らの組み合わせ聞いたときは驚いたぜ」

 

「ええ、まあ。此方も色々ありましてね」

 

「ああ、セシリアと鈴から聞いてるよ。……それでも、思うところがなくなったわけじゃあない」

 

「……ふん、望むところだ。精々、私のことを失望させてくれるなよ、織斑一夏」

 

「相変わらず、達者な口だね。どれだけの弾丸を撃ち込めば静かになるのか、試してみようかな」

 

「何度も言うが、フランスの骨董品如きに遅れをとる私ではない」

 

軽い挑発の応酬もそこそこに、試合のカウントダウンが始まった。お互い、相手が感情的になってくれることを期待しての挑発であったが効果が見込めなそうなことを理解すると、お互いそれ以上の言葉を発することはない。

 

「ーーーいくぜ、エレン」

 

一夏の呟きは、試合開始を示すブザーと4機のISから発せられるスラスターの轟音に掻き消された。お互いのチームが選んだ初手は、奇しくも同一。瞬時加速による強襲である。

 

「ぜええぇい!!」

 

仕掛けたのは一夏の白式。正面からエレンの駆るアルファートに突貫し、零落白夜を起動。文字通りの一撃必殺を初っ端から放つ。対するエレンは少しだけ口元を緩めると、背部のスラスターをカット。その勢いのまま地面を滑るように移動しながら低姿勢へと移行し、横薙ぎの一撃を潜り抜けて見せた。エレンは視線をラウラの方に向け、手筈通りシャルルと近接戦闘を繰り広げるているのを見るとそのまま一夏の相手をするべく、アルファートを反転する。

 

「いい太刀筋です」

 

スラスターをゼロから最大まで一気に引き上げる。速度を上乗せした物理ブレードによる一撃を一夏も機体を反転させることで受け止める。同時に顔面目掛けてアルファートの空いた左手に握られているサブマシンガンが突き出され、発砲されるが顔を逸らして回避。そのまま流れるようにアルファートが機体を捩りながら蹴りを放ってくるのを腕でガードした所で、再び白式が零落白夜を起動し、斬りこむ。

 

「ぜぇやあああぁ!!」

 

後退しつつ回避に徹するアルファート、白式の振るう零落白夜が徐々に迫る。一夏の脳裏に、確かな手応えと二手三手先において着々とアルファートを白式が追い詰める構図が浮かび、それをなぞるように零落白夜を振るってゆく。

 

「次でーーー獲る!!」

 

左下からの斬り上げ。機体を後退させつつ身体を逸らしたアルファートに、確かな隙が生まれる。後退するには速度が足りないのは一夏の読み通りで、アルファートのサブマシンガンの銃口が白式を捉えるより、物理ブレードを振るうよりも、白式が一歩踏み込んで上段からの斬り下ろしを見舞うほうが早い。目前にぶら下がっている勝利に向かい、一夏は隠しきれない笑みを口元に携えて零落白夜を振り下ろす。

 

「今のは、危なかったですね」

 

凄まじい衝撃。視界に広がる無骨な鉄の塊が原因であるのは明白。それがアルファートの腕部に備え付けられていた実体シールドであることを把握すると同時に零落白夜を解除。短期決戦が失敗に終わったことを認めた一夏は潔く後退する。短い間に行われたハイレベルな近接戦闘に観客席が大いに盛り上がっているが、一夏は対象的に苦笑いを零していた。

 

「あのな、エレン。シールドって蹴り飛ばすもんじゃないんだぞ」

 

「ええ、勿論知っています。間に合いそうになかったので、つい」

 

いつも通りの笑みを浮かべるエレンだが、内心では想像以上に洗練された一夏の近接戦闘技能に舌を巻いていた。目覚ましい成長を遂げたのは喜ぶべきことだが、エレンも相応の実力を発揮せねば呆気なく撃墜されてしまうだろう。

 

『っと、無事か?エレン』

 

睨み合いを続けるエレンと一夏の元に、それぞれのパートナーが戻ってくる。見た感じではあるがラウラのシュバルツェア・レーゲンに被弾した様子は見えず、それはシャルルのラファール・リヴァイヴも同じようであった。

 

『ええ。ただ、一夏が予想以上に成長していて、殆どダメージは与えられていませんが』

 

『ふふふ、何だか嬉しそうだな。私の方も似たようなものだ。デュノアのやつ、私の今までのAICの間合いと速度を完全に把握しているようだ。高速切替のおかげで射撃も絶え間無いし、リロードの隙を消すために武器を使い捨てくるから中々隙が見出せん』

 

ラウラの言う通り、二人が戦っていた地点には幾つかの銃火器が打ち捨てられている。擬似的な一対一を続けても埒が明かないのはお互いに理解していた。ならば、次はーーー。

 

『では、俺たちの連携を見せてやりましょうか。援護、任せます』

 

『うむ、存分に暴れてくるのだぞ!』

 

スラスターにエネルギーを充填し、両腕に物理ブレードをコール。ラウラはその場でレールカノンの照準をシャルルへと向ける。一夏達もその意図に気づいたのか迎撃の体勢に入る。

 

「ーーー行きます」

 

瞬時加速。同時にラウラからレールカノンが放たれる。シャルルと一夏は共に回避行動を取りつつ後退。どうやらエレンを分断し、別個撃破を狙うつもりのようだが構わず突っ込む。多対一の戦いはエレンにとっては慣れ親しんだものであり、別段憂慮すべきことではないからだ。

 

「シャルル、頼む!!」

 

「任せて、一夏!」

 

エレンの振るう物理ブレードを一夏が受け止める。すかさず繰り出される二撃目よりも早くシャルルの手にするアサルトライフルが発射。誤射を恐れているのかセミオートでの射撃なのでエレンはあえてそれを避けずに被弾。体勢を崩しつつも無理やり一夏の白式に一撃を喰らわせる。

 

「っこの!」

 

すかさず反撃に転ずる一夏の一撃を物理ブレードで合わせると同時に二射目を放とうとするシャルル目掛けてもう片方のブレードを投擲する。流石のシャルルも近接戦闘の距離では高速切替からの射撃で撃ち落とすことは出来ず、備え付けのシールドでガードするが、それと同時に凄まじい衝撃がシャルルの身を襲う。

 

「くあっ!?レールカノン……っ!」

 

下方にいるラウラのレールカノンの絶妙なタイミングでの砲撃が直撃。せめてもの牽制としてスモーク弾頭入りのグレネードランチャーを高速切替でコールし、ラウラの視界を遮る。

 

『一夏、だめだ!エレンの動きも凄いけど、ボーデヴィッヒさんの狙撃もかなりの腕前だ!!あまり長くは保たないよ!?』

 

『そうだよなぁ!やっぱこいつら強すぎるよなぁ!!』

 

シャルルがアサルトライフルでの援護を行うが、エレンは再び物理ブレードをコールし、2刀を携えて巧みに回避するか強引に攻め込むので一夏は防戦一方である。元々の技量の差は勿論、二刀流のエレンの方が手数でも勝る。一人で凌ぎきるのですらギリギリだ。小まめにラウラが位置を移して射線を通そうとしてくるのでシャルルは必然的にエレンへの射撃よりもスモーク弾頭の牽制が多くなってしまい、この状況でも五分の戦況に持ち込むのがようやっとなのが現状であった。

 

『思ったより粘りますねぇ。ラウラ、センサーで俺の位置は把握してますね?』

 

『ああ、どうやらただのスモーク弾頭みたいだから問題はない。全く、奴らもツメが甘い』

 

『それはなにより。では10秒後にアルファートのセンサー目掛けて射撃を』

 

『了解』

 

執拗に攻め立てるエレンと、それを引き剥がそうと後退しつつ雪平弐型を振るう一夏。シャルルも合間を縫ってアサルトライフルでダメージを与えていくので今の時点ではエレンが押されているのは間違いない。しかし焦りを抱いているのはエレンではなく、逆に一夏とシャルルの方である。

 

『ほぼ二対一なのに押し切れない!くそ、わかってはいたけど……!』

 

『一夏、合図をしたら僕が隙を作るから零落白夜で反撃して!あまり時間をかけても僕達が不利になるだけだ!』

 

『了解。任せたぞ、シャルル』

 

エレンの攻勢は苛烈を極めるが、それでも隙がないわけではない。その僅かな隙を突くためには片手間の援護射撃では無理だとシャルルは理解していた。シャルルはスモーク弾頭の入ったアサルトカノンをコールすると同時に下方へ投げつける。そこ更に高速切替でアサルトライフルを二挺コールし、それを自ら撃ちぬくことでかなりの範囲をスモークで覆い隠してみせた。

 

『一夏、今だ!』

 

二艇のアサルトライフルから一発ずつ放たれた弾丸。エレンは一撃は回避して見せたが、もう一撃は腕に直撃。衝撃でブレードを取りこぼしてしまう。それは誰か見ても確かな隙であり、一夏はすかさず零落白夜を起動した。

 

「ーーーぜえええぇい!!」

 

今度こそ、届く。エレンとの近接戦闘を誰よりも長い時間こなし続けていた一夏だからこそ、ここからではブレードも蹴りも間に合わないのがわかる。先ほどのようなシールドをパージし、蹴り飛ばすなんて芸当はもう出来ない。故に、残ったブレードを手放していることを大して気にせず見逃してしまった。

 

「惜しかった、ですね」

 

腕が振り切れない。違和感を感じた一夏が視線を落とすと、そこには機体同士が密着するほどの至近距離において、全霊を持って振るった腕自体が押さえつけられている光景だった。半ばには信じがたい反応速度とその胆力に驚いたのはほんの一瞬。エレンのアルファートのスペック的にパワーで白式に負けているのは確実であるのを思い出し、直様パワーアシストを全開にして振り抜かんとするが、その一瞬が両者の命運を分けていた。エレンのアルファートは即座に脚部のブースターを最大で吹かし、そのまま宙返りを行うように一夏の背後に回り込むと同時に羽交締めを決める。それと同時に、秘匿通信から幾分か楽しそうなラウラの声がきこえてきた。

 

『ラウラ・ボーデヴィッヒ、目標を狙い撃つ!』

 

スモークを突き抜ける雷電。それは真っ直ぐにエレンへと向かいーーーその間に立ち塞がる一夏の白式へと直撃した。一発、二発はそのまま直撃したが、三発目は射線に割って入ったシャルルがシールドで受け止める。その頃になってようやく一夏が力任せにエレンのアルファートを引き剥がすことに成功していた。

 

「おい、エレン!ISであんな動きするなんておかしくないか?今度教えてください!」

 

「PICの調整と姿勢制御に使ってるスラスターの出力をきちんと把握してればそう難しいことではないですよ。あ、さすがにもうPICは分かりますよね?」

 

「バカに……しすぎだっ!!」

 

軽口を叩きながら、一夏とエレンは高度な近接戦闘を繰り広げる。間髪入れずに仕掛けた一夏の判断は正しく、エレンは新たな武装をコールするだけの時間が稼げていない。徒手空拳で凌いでいる形になるが、それでも一夏の刃は届かない。一夏は内心で舌打ちを漏らすが、同時に当面の目標となる壁が遥か高みまでそびえ立っていることに嬉しくもなる。

 

「僕だって……!」

 

スモークは未だ晴れていない。不可思議なラウラの狙撃を警戒していたシャルルだったが三発目を弾いてからの追加砲撃はない。時間をロスすればそれだけ負けに近づくことを理解していたシャルルは直様両腕に持つアサルトライフルをエレンへと向け、そのトリガーを引こうとした瞬間。サイト越しにエレンが小さく笑みを浮かべていることに気づいた。

 

「二人が思ってるより、俺のパートナーは凶悪ですよ」

 

「ーーーおおおおぉ!!」

 

地上から援護狙撃に専念しているように見えていたラウラが、瞬時加速を用いてシャルルを強襲した。スモークのせいでその姿を捉えきれなかったシャルルはプラズマブレードで切り裂かれてようやくその存在に気づく。しかしその時には追撃として放たれたワイヤーブレードに絡め取られ

ていた。

 

「吹き飛べえぇ!!」

 

そのまま勢いをつけてシャルルをアリーナの壁に目掛けて放り投げると、レールカノンを一夏目掛けて発砲。一夏は舌打ちと共にエレンとの近距離戦闘を中断して後退する。その間にラウラはエレンの隣へと移動しており、先ほどまでとは真逆の構図になっていた。

 

「さぁ、今度はこっちが二人になりましたが。何か策はありますか、一夏?」

 

「おう。まとめて叩き斬ってやる」

 

「ふん、貴様程度の刃が届くかどうか……試してみろ!」

 

ラウラが素早く手を翳す。一夏はそれがAICの発動の挙動だとわかっていたが、回避行動に入るよりも先に身動きが取れなくなる。ラウラの今までの戦闘データを遡ってAICの発動速度と有効射程を理解していた一夏は、格段に早くなった発動速度と長くなっている有効射程に驚きを隠せない。

 

「な、急に発動速度と距離が……っ!?これがそっちが隠してたカードか!てか、そんなすぐ上達するもんなのかよ!?」

 

「エレンに散々しごかれたからな……」

 

「ああ、そっか……なんか、ごめん」

 

「お喋りは終わってからにしましょうね」

 

急に暗くなってしまった二人を他所にエレンは武装をコール。その手に握られたのはブレードの柄だった。その先端部からはケーブルが伸びていて、アルファートの背部に接続される形になっている。あまりに奇妙なソレに、一夏が眉をひそめる。

 

「おいおい、そんなんじゃ俺の白式は斬れないぜ?」

 

「ーーーMOONLIGHT」

 

答える代わりに、エレンは手にした武装を起動する。青白いレーザーが収束し、やがて淡い輝きを放ちながら刃が象られていく。その様を見て、一夏は何処か零落白夜に似ているな、と思った。

 

『MOONLIGHT』。その武器は現存するレーザーブレードの中でも最強の威力を保有していることはあまりに有名である。元々。このブレードは企業が単一仕様能力の効果を擬似的に再現させようとしたことが発端となり開発された武装でもあった。そこで白羽の矢が立ったのは世界で最も優れたIS操縦者であるブリュンヒルデーーーその中でも歴代最強と名高い織斑千冬の代名詞でもあった単一仕様能力『零落白夜』である。

 

勿論、企業とて単一仕様能力の再現は難題であった。そこで彼らは視点を変えたのだ。『零落白夜』はいわば一撃必殺の代名詞。その根底にあるのは絶対防御を無効化するという特殊能力であった。それが無理なら、別の面から一撃必殺という結果にアプローチすればいいのでは?そうした結論に至った企業が作り上げたのが圧倒的な破壊力を持つ超高出力レーザーブレード『MOONLIGHT』であった。圧倒的なまでの出力を再現するために、それこそ、ISコアに直接接続して機体の維持に関わるエネルギーまでをも出力に転換しているのだ。

 

「一夏。こらで終わりです」

 

AICに囚われた一夏に、MOONLIGHTが迫る。思わず目を瞑りかけた一夏の視界に、瞬時加速でラウラに体当たりをかましたシャルルの姿が見えた。同時に身体には自由が戻ってくる。

 

「零落、白夜ああぁぁぁ!!」

 

瞬時に零落白夜を起動。MOONLIGHTの一撃を受け止める。少しだけ驚きを表情に浮かべたエレンだったがそれはほんの一瞬。直ぐさまMOONLIGHTをもう一度振るうが、一夏も零落白夜で合わせてくる。

 

「く、不覚……。気が緩んでいたか」

 

アリーナの地上部では、ラウラとシャルルが激しい戦闘を繰り広げていた。瞬時加速からの体当たりをかましたシャルルはそのあと、腕部に備え付けられていたシールドをパージ。体勢を崩したラウラに奥の手として用意していた盾殺し(シールド・ピアース)を見舞うが、それは一撃のみに留まった。事前に警戒していたラウラは直ぐさま近距離からレールカノンを放つち、シャルルの背部のウィングスラスター一基を破壊して距離を離すことに成功したからでたる。しかし一撃とはいえ盾殺しの威力は生半可なものではなく、ラウラのシールドエネルギーは一気に半分を割ってしまっていた。

 

「早く一夏の援護をしたいからさっさと決めるよ?」

 

「ふん、お前はここで……終わりだッ!!」

 

ワイヤーブレードを射出。縦横無尽にアリーナを駆け回りつつ、その全てがシャルルへと向かって行く。対するシャルルは背部のウィングスラスターを一基失ったことで機動力が激減しているにも関わらず、前へ出る。依然として腕部には盾殺しを備え付けたまま、アサルトライフルをコールして動き回りながらも精密な射撃を行っている。

 

「距離を見誤ったな!!」

 

しかし、ラウラからして見ればそれはただの悪あがきでしか無かった。有効範囲に入った時点で即座にAICを起動してシャルルを捉えることに成功する。シャルルも一夏と同様、ラウラの成長した後のAICの有効範囲の拡大については知らなかったが故に驚きの表情を浮かべたが、直ぐにニコリと笑顔を浮かべた。

 

「もう少し近寄りたかったけど、仕方ないか……。ただではやられないよ?」

 

ゴトン、と何か硬いものが落下するような音が何回もラウラの耳を突く。視線を向けると、盾殺しを装備している方の手が開かれていて、そこから幾つものグレネードが転がり落ちているのが目に入る。

 

「しまっーーー」

 

爆音が幾重にも重なる。とっさに機体を後退させたラウラだが躱しきれるはずもなく、機体に大きなダメージが刻まれてしまう。

 

「ラウラ、一夏が向かってます!」

 

エレンが珍しく声を荒げる。MOONLIGHTを起動している都合上、機体スペックが低下してるアルファートでは反転してラウラに向かって行く白式に追従するも、直ぐには追いつけない。エレンが武装をコールし直して攻撃を行うよりも一夏がラウラに接近する方が遥かに早い。

 

ラウラは警告に従い、プラズマブレードを起動して迎撃態勢に入る。手榴弾の中にEMPグレネードも混ぜ込んでいたのかノイズが酷く、とてもじゃないがAICを使える状況ではなかった。

 

「シャルルの、仇だああぁっ!!」

 

頭上から振り下ろされる零落白夜をプラズマブレードを交差させて防ぐことに成功する。一夏は舌打ちと共にそのままラウラの後方へと切り抜けていくが、EMPの影響か動作が些か鈍くなってしまう。それでも可能な限り早く振り向き、レールカノンを見舞おうと振り向いた瞬間。銃声と共に連続した衝撃が機体を襲ってきた。

 

「くっ、デュノアか!いや、この方向はーーーッ!?」

 

被弾、被弾、被弾。撃墜判定まであと僅かとなる所までエネルギーを削られたラウラの前に、ようやくエレンのアルファートが降り立つ。新たにコールした実体シールドで、ラウラを銃撃から守るように立ち塞がった。

 

「無事ですか、ラウラ」

 

「あ、ああ。すまない、大丈夫……とは言えないな。あとほんの数撃でエネルギーがゼロになってしまう。それにしても、この銃撃は……」

 

「一夏ですよ。これは完全に裏をかかれましたね」

 

エレンの視線の先には、アサルトライフルを構える一夏がいる。そのアサルトライフルは序盤、ラウラと戦っている間にシャルルが使い捨てたように見せかけて地面に打ち捨てていたモノであった。

 

「あぁ、クソ。ここで削り切りたかったんだけどなぁ」

 

「大分手痛い反撃を受けましたが……これで、2対1です。まだ何か手はありますか?」

 

「いや、これで俺たちの用意した小細工は終わりだよ。ここからは真っ向勝負だ!」

 

アサルトライフルを捨て、サブマシンガンを拾い上げた一夏は前に出る。ブレードとサブマシンガンの組み合わせは奇しくもエレンが多用する組み合わせでもあり、そして技量が追いつくならば近距離戦闘では有効な組み合わせでもあった。

 

「なら、こちらも」

 

物理シールドをラウラに渡し、エレンも物理ブレードとサブマシンガンをコール。そのまま瞬時加速を発動して一気に間合いを詰め、ブレードを振るう。

 

甲高い音とともに両者のブレードが激突する。エレンはそのままサブマシンガンを顔面目掛けて突き出しつつ発砲するが、一夏は顔を逸らして回避。サブマシンガンを横薙ぎ

にしつつ発砲するが、エレンはその銃身を蹴り上げつつ、上昇回転。そのままスラスターを起動して一気に斬り下ろしを見舞う。

 

「っ!?」

 

片手では受け切れないと判断した一夏はそれを雪平弐型で受け止めるのでは無く、受け流す。続けざまに襲い来る切り上げを僅かに後退して躱すと同時に、前方に瞬時加速。零落白夜を起動して斬りかかるが、エレンは上昇瞬時加速で逃げると同時にサブマシンガンを弾丸をばら撒く。一夏もサブマシンガンをばら撒きつつシャルルの落とした銃器のある地点へと後退して行く。

 

「分かってたけど、反応速度おかしくねぇかエレン!?普通今の躱すかよ!」

 

「いや、今のは割とギリギリでしたよ。それに射撃も中々様になってますね、一夏。正直、予想以上の強さです」

 

「そんな余裕そうな顔で言われてもなぁ……」

 

「なので、ここからは二人で行かせてもらいます」

 

「悪く思うなよ、織斑一夏!」

 

弾切れになったサブマシンガンを捨て、もう一挺のサブマシンガンを拾う。同時にエレンの後方に控えていたラウラがワイヤーブレードを射出する。シャルルのグレネードのせいでその数は3本まで減っていたが、その分のキャパシティを割いているためにより精密で、複雑な軌道を描いて一夏へと殺到する。

 

一夏は上空に逃げつつラウラに銃口を向けるが、間髪入れずにエレンが襲いかかる。咄嗟に雪平弐型でブレードの一撃を受け止めるが、足を止めた一夏の後背をワイヤーブレードが穿つ。体勢を崩した瞬間にエレンの斬撃が見舞われる。そのままサブマシンガンの弾幕を浴びせられ、白式のシールドエネルギーは瞬く間に危険域まで削り取られた。

 

「くっ、こんのおおおおぉ!!」

 

そんな中、一夏は一か八か、無理矢理瞬時加速を行う。その狙いは、あと一撃でも食らわせればシールドエネルギーを削り切れるラウラ。雪平弐型を携えて突撃を敢行するその姿を、ラウラは冷めた目で見つめながらその手を翳す。

 

「最後の最後で、無謀な賭けに出たな」

 

EMPの効果からすでに回復していたラウラがAICを起動。中空に固定されたかのように固まった一夏に、無情にもレールカノンの砲塔が向けられる。

 

「私達の勝ちだな」

 

レールカノンが放たれる。白式のシールドエネルギーがゼロになり、試合終了のブザーが鳴り響く。シャルルも一夏も全力を、それこそ持てる全てを出し切ったと断言できる。それでも尚、届かない。どこか満足感を抱きつつ、しかしそれ以上の悔しさを堪えるように一夏はキツく唇を噛み締めた。

 

ーーーーーーー

ーーーーー

ーーー

 

「織斑君とデュノア君のペア、負けちゃいましたね……」

 

「そうだな。だが、あの二人相手に善戦できた方だろう」

 

「確かに、これまでのクロニクル君とボーデヴィッヒさん達にまともなダメージを通せたペアはいませんでしたしね。……ボーデヴィッヒさんは軍属だから納得出来る強さですが、クロニクル君は一体、どこであれだけの戦闘技術を学んだのでしょう」

 

真耶が訝しむのは当然であった。ある程度戦闘を経たものであるなら、エレンのその強さの異質さに気がつく。ISの扱いもそうだが、それ以上に戦うことそのものに慣れている者の動きであるのだ。篠ノ之束の私兵である、という点を差し引いてもあの年代の少年が大凡持ち得るものではない。

 

千冬は観察室を軽く見回す。此処には丁度彼女達二人しかいないし、監視の目もないことを再確認する。

 

「クロニクルが織斑一夏と篠ノ之箒の護衛として束が派遣した私兵だ、という話は以前したな?そして、黒騎士本人でもあると」

 

「えぇ、それはお聞きしましたね。あっ、でも、篠ノ之博士の私兵って色々と……その、大丈夫なんでしょうか?」

 

「大丈夫な訳がないだろう。更識楯無と私が抑止力として此処にいるからこそ黙認されているが、事情を知る者達からの追求は生半可なものではないさ」

 

篠ノ之束とのパイプ役も可能で男性操縦者。さらに卓越した戦闘能力を持つエレンの存在は、事情を知る者達にとっては一夏よりもマークされている。そういう意味では束の計算通り、エレンは囮として十分な役割を果たしているとも言える。

 

「少し、話が逸れたな。山田先生に質問だが、普通の人間に篠ノ之束の私兵が務まると思うか?」

 

「えぇと、確か篠ノ之博士って各国は勿論、企業にも追われてるですよね?しかも実力行使で無理矢理な感じで」

 

「ああ、そうだ」

 

「相手が企業ともなると、やはり、その……相手が悪いというか、命に関わるというか……普通の人なら絶対に敵対しようとは思わないですよね」

 

「普通、ならな……。クロニクルは、元々企業によって戦うためだけに作られた、デザインベイビーなんだよ」

 

「話には聞いたことがありましたけど、まさかそれが事実で、私達の近くにいたなんて……。えっと。あの、もしかしてこれって、ものすごーく重大な秘密だったりするのでは……?」

 

話の重要性にようやく気付いたのか、真耶が恐る恐るといった様子で千冬の顔色を伺う。千冬は珍しくもにこりと真耶に笑いかけた。

 

「無論、他言無用絶対厳守の機密事項だ。というわけで、事情を聞いてしまった山田先生にも今後、協力してもらうのでそのつもりで」

 

「や、やっぱりぃ……。うぅ、頑張りますっ」

 

とんでもない事に巻き込まれた真耶は涙目になりつつも、しかしこれもかわいい生徒の為と自分に言い聞かせるのだった。


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