尚、原作ルート突入はもう少しお待ち下さいませ(._.)
「懐かしい夢、見たな……」
飾り気の無い質素な部屋の中、一人の少年が目を覚ました。男にしては少し長い黒髪を後ろで束ねた彼は、大きく伸びをする。
眠気の今一つ取れない少年の顔は幼さもあってか、中性的である。その中でも一際目を引く琥珀色の瞳には僅かながらの涙が残っていた。
少年が見ていた夢は、前世での自身の最後。本来ならばあり得ない事ではあるが、彼にはその記憶が残っていた。穢れ切った大地で終わりの無い闘争に明け暮れた記憶が。澄み切った空に住まう人々を虐殺した記憶が。そしてーーー大切な人々を自らの手で葬り去り、そして自身も葬られた記憶が。
朝から暗い方向にシフトする思考を切り替えるべく、少年は顔に冷水を叩きつけるのだった。
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ツヴァイ。それが今の彼に与えられている名前。同時に、与えられた番号でもある。
少年は遺伝子を意図的に弄り、開発された人間としてこの世界に生を受けた。所謂、デザインベイビーという代物。
しかし彼は悲観などしていない。むしろ、それは喜ばしい事ですらあった。元より、前の彼も改造人間のようなものであったし、そこから一般の人間の感覚に戻されては色々と不便が生じていただろう。だから、不満など無い。
例え、『企業』と呼ばれる巨大な権力に首輪を付けられた存在だとしても、不満など無かったのだ。
『企業』に於いて、彼の立ち位置は微妙な位置に存在する。本来ならば、彼の持つ『特異性』の原因究明の為に解剖されてもおかしくはないのだが、それを免れている。それは偏に、彼が『兵器』として至極優秀であるからだ。
そんな立場である彼は他のデザインベイビー達とは異なり、重要な作戦に重用される事も少なくは無かった。
そして今も正に、そうであった。
薄暗いブリーフィング・ルーム。そこに立つのはピッチリと身体にフィットしたスーツに身を包む少年と女性達。そして、小綺麗なスーツに身を包んだ老人。
重苦しい雰囲気の中、老人は嗄れた声で話し始める。
「奴の場所を特定した」
重い響きを持ったその言葉に何人かが息を呑んだが、少年は興味が無いのかつまらなさそうにコキコキと首を回している。老人はそんな彼に汚物をみるかのような視線を送る。
「ツヴァイ。貴様は態度を改められんのか?『機関』の保護を受けているとは言え、私の権力に掛かればーーー」
「御託はいいですから、話を進めましょう。仕事なんでしょう?」
年相応の笑みを浮かべて、しかし信じられない位冷たい雰囲気を放つ目の前の少年に薄ら寒いモノを感じたのは老人だけでは無かった。老人は切り替えるかのように咳払いを一つ。そして、再度話を切り出す。
「ターゲットの位置情報は既に諸君の端末に送信済みだ。出撃は一時間後……各員、念入りに準備をしておけ。本作戦は絶対に失敗する事を許されない。手ぶらで帰ってきたのなら、相応の罰を与える。特にツヴァイ。貴様は即刻解剖だ。いいな?」
神妙な面持ちで頷いた女性達を尻目に、少年は気怠げにブリーフィング・ルームを後にした。
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『間も無く対象の潜む無人島が見えて来る。相手はあの天災と呼ばれる女だ、ぬかるなよ』
戒めるような老人からの通信が漸く切断され、少年は小さく溜息をついた。そして、今回の作戦に当たる、8機にも及ぶ僚機達に視線を送った。どれもが各国の最精鋭機。少年も『企業』の最精鋭機ーーー『アルファート』を使用している。
『企業』の連中がどんな理由をこじ付けたのかは分からなかったが、それでもこれだけの戦力を整えたのは異常の一言に尽きた。『企業』が幾ら世界の経済を牛耳る超巨大コングロマリットと言えども、だ。しかも、操縦者も一級品と来ている。アメリカの国家代表を筆頭に各国の腕利きの操縦者が集められているのだから。一体、『企業』の保有する権力はどれ程のモノなのかーーー。
そんな思考を巡らせる少年の耳に、通信が入った。
「聞こえているかしら?此方は今回、この隊の指揮官を務める事になったナターシャ・ファイルスよ。よろしくね」
恐らく、オープン・チャンネルで全員に話しかけているようだった。次々と返事を返して行く中で少年と、少年と同年代に見える、同じく『企業』の最新鋭機、アルフォートに身を包む十代前半と思わしき少女は無反応。
それに、今度は違う操縦者が通信を送る。
「あらあら、『機関』の玩具は感情まで欠損してるのかしら?哀れねぇ」
高慢な物言いでそう告げたのは日本人と思わしき女性の操縦者だった。ナターシャが咎めようとした刹那、少年が口を開く。
「どうでもいいですが……貴女、死にますよ?」
その女性が声を返そうとした刹那。遥か彼方から飛来したナニカーーー恐らく、エネルギー弾と思わしき物体が女性を襲った。
それはまだ良い。相手は『天災』、想定の範囲内だ。しかし、信じられないのはーーー。
「絶対防御が効いてない!?嘘でしょう!!」
今、彼女達が身に纏う特殊な装備ーーー通称、インフィニット・ストラトス(以下IS)には絶対防御と呼ばれる操縦者の命を守る防衛機能が積まれている。なので理論上、エネルギーがある限りは致命傷は喰らわない。そのはずなのだ。
しかし、目の前で上半身を爆散させた僚機を見る限り、その考えを改める必要がありそうである。
「くっ!?各機散開して目標地点へ向かいなさい!尚、敵の攻撃は此方の絶対防御を貫通する。絶対に避けて!!」
ナターシャの指示通り、散開。そのまま各自別ルートで無人島を目指す事になるのだが、少年は迷わず真っ正面から突っ込む。そして、その隣には彼と同じ年頃の少女が並走している。
そんな彼等の呑気な会話を耳にした操縦者は更に驚く羽目になる。
「ねぇ、ツヴァイ。どうせなら競争しない?どっちが早く辿り着くか」
「別にいいですよ。フィアにはまだ負ける気はしませんしね」
「……見てなさいよ」
「はいはい。精々撃墜されないようにしてください」
軽口をたたいた直後、急速加速する二人。無邪気に笑いながら降り注ぐ死の雨を掻い潜る二人を見た彼女達は、言い知れぬ恐怖を感じていた。
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「あーあ、また私の負けか。やっぱツヴァイは凄い」
「フィアは機動に無駄が多すぎるんですよ。まあ、ドライとならいい勝負が出来るんじゃないですか?」
敵地の真っ只中で無駄口を叩く二人を見て、一時的ではあるが隊長を任せられているナターシャは深い溜息をつく。注意しようにも、これでいて誰よりも先に敵の攻撃に気付くのがこの二人であるから始末が悪い。
ーーー無事に無人島に到達出来たISは6機。あれから更に一機のISが撃破されていた。残った彼女達は無人島を探索している最中だ。
「そもそも、ツヴァイの機動はおかしいのよ。何なの、アレ?どうやったら出来るのよ」
「努力と根性です。因みに真似しちゃダメですよ?」
デザインベイビーである少年の身体の作りも頑丈になっているが故に、デタラメな機動によって生じる
「でも、私だって貴方と同じデザインベイビーよ?耐えられると思うけど……」
「俺はその後、更にG耐性を上げる施術受けてますからね。多分、今のフィアじゃ無理ですよ」
「じゃあ、私もその施術を受ければーーー」
「オススメはしませんよ。凄い痛いですから」
何処か日常から逸脱した二人の会話に、ナターシャを筆頭とする操縦者達は酷い違和感を覚える。年端もいかない彼等が平然としているその会話を聞くだけで、彼等の存在意義が一般人とかけ離れている事を思い知らされる。
そして何より異質なのが、二人がそれを受け止めている事であった。
ーーー探索を回避してから、早い事で30分が経過した。襲撃は未だ無い。しかし、そんな折り。少年ーーーツヴァイが徐に顔を上げた。
「どうしたの、ツヴァイ君」
「急速接近するISあり。未登録のコア……恐らく、新型かと」
「遂に来たわけね……。各員、戦闘配置について。プランはB。鹵獲が不可能だと判断出来たらAかCに移行するわよ」
張り詰めた空気の中、ナターシャの指示に全員が頷いた。
彼女達は使用機体、更に操縦技術に於いても世界トップクラスと言っても過言ではない。しかし、相手は『天災』の名を冠する科学者でありISの生みの親。時折各国に流布される情報は、各国並びに『企業』の最新鋭機ーーー第二世代型のISの更にワンステージ先、第三世代へと目線を向けている。
そんな人物が差し向けたIS。期待と不安が入り混じった彼女達の前に在られたのは、見慣れたーーーと言うよりも、ISに関わるならば誰もが知る機体であった。
白い装甲。背部の翼を連想させる
始まりにして最強のIS。『白騎士』が、そこにいた。
「飛んで火に入る夏の虫、ってヤツね。そんな骨董品で、私達をどうにかするつもりかしら?」
最初に口を開いたのは日本の新型標準機、
いや、反応はした。ただし、発したのは言葉では無く荷電粒子砲であったが。
「各機、行くわよ!」
それが合図となり、戦闘が開始された。この時彼女の達の心に確かにあった白騎士の打倒という夢は瞬く間に打ち崩される事となる。
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「嘘でしょう……?」
そんな言葉が虚しく響き渡った。辺りにはISを破壊された操縦者達が無造作に転がっている。残っているのは、ナターシャとツヴァイ、フィアの三人のみ。
白騎士の戦力を見誤った結果だ。
「ナターシャ・ファイルス。気絶した役立たず達を回収して撤退して下さい」
抑揚の無い声でそう告げたのは、ツヴァイだった。反論しようとしたナターシャを遮り、フィアが言葉を続ける。
「元から貴女達には大して期待してなかったわ。邪魔だから消えて」
悔しいが、それは事実だった。日が浅いとは言え国家代表を預かるナターシャだが、悔しい事に白騎士には到底敵わない。そして、目の前の少年と少女にも、だ。
仮とは言え、隊長である以上部下の死はナターシャの責任となる。既に二人の死亡者を出してしまっている故、各国の軋轢は最早避けて通れぬ道となってしまったが、これ以上の損害は深刻な外交問題に発展し兼ねない。
本来ならば、ここで引くべきなのだ。しかしそれだと、結局『企業』の連中だけに甘い蜜を啜られる事になる。それだけは阻止しろと口煩く軍上層部に言われているのだがーーー。
「……わかったわ。後は任せます。私達は離脱するわ」
唇を噛み締め、ナターシャが選択したのは撤退だった。無事に戻ったとしても、『企業』による篠ノ之博士の独占を許したとなれば軍上層部からの罰則は免れないが、それよりも共に戦った操縦者の命を選択した。本当ならばツヴァイとフィアも連れて帰りたいのは山々だが白騎士の追撃が無いとは言い切れない以上、殿が必要なのも確か。
故に、ナターシャは撤退を決断した。
「懸命な判断です。では、場所を変えますか」
軽い調子でとったツヴァイの次の行動に、その場にいたフィア以外の全員が目を見開いた。
兎も角、正に瞬間移動と呼んでもいい機動で白騎士に接近したツヴァイは、両腕に展開した実体ブレードで切りかかった。
ガキィン!という甲高い音が響き渡る。白騎士が自身とツヴァイとの間に剣を滑り込ませ、難を逃れたのだ。しかし、加速の勢いを止める事は出来ず、押し出されるようにしてかなりの距離を弾き飛ばされてしまう。
後方で離脱を始めるナターシャ達の方へ一瞬だけ視線を送った白騎士であったが直ぐに視線を戻す。ツヴァイを敵として認識したのだろう。
そんな中、目の前の小さな少年は一瞬目を瞑る。そして瞳を開いた次の瞬間には、まるで別人のように雰囲気が変わっていた。
それはそう、まるで考える事を放棄した能面のような無表情である。
そんなツヴァイの隣に、フィアが並ぶ。
「ツヴァイ。またソレ?私、戦闘中の貴方の雰囲気嫌いなんだけど」
「…………」
フィアは豹変したつヴァイの有様を見て、盛大に溜息をつく。こうなったツヴァイは殆ど口を聞かないのだ。故に、自分の役割は援護に徹することーーー。
仕掛けたのは、ツヴァイだった。
近接特化に調整された彼のアルファートは瞬時加速を利用して接近。先程に比べれば速度は遅めだが、それでも生半可な速度では無い。しかしその機動は直線的なモノ。白騎士は的確にコースを見抜き、荷電粒子砲を放つ。
瞬時加速の欠点は直線的な機動しか出来ない事。故に、白騎士の攻撃は理に適った的確なモノと言えよう。しかし、目の前のアルファートはソレを嘲笑うかのように覆した。
一瞬、背部スラスターが完全停止。そして直ぐ様再点火、方向を右斜め45度に修正。そして瞬時加速。正に刹那の間に行われたその化け物じみた機動により、荷電粒子砲は虚しく空を穿つ。
そして無防備な白騎士に近接ブレードを叩き込んだ。
金属が擦れあうような不愉快な音。咄嗟に左腕を盾にした白騎士。力に逆らう事無く吹き飛ばされる事で距離を稼ごうとする白騎士にアルファートが右手に持っていたサブマシンガンが火を吹く。
「私の事も忘れないで欲しいわね」
拗ねたような声色のフィア。彼女の砲戦特化に調整されたアルファートは長大なスナイパーライフルを構え、そして爆音のような後ともに弾丸を叩き込む。
対する白騎士はPICで即座に体勢を整えると、サブマシンガンの弾幕を気にも止めずに大剣を構える。上段の構え。何をするつもりかフィアが頭上に疑問符を浮かべた刹那、白騎士はソレを尋常では無い速度で振り抜いた。
「は?」
間抜けな声を出したのはフィアであった。それもそうだろう。目の前の白騎士は、自身の放ったスナイパーライフルによる一撃を文字通り切り落としたのだから。
「流石、白騎士。あんたも大概化け物ね」
楽しそうに呟いたフィアは、再びスナイパーライフルを構える。白騎士はそんな彼女に荷電粒子砲を放つと同時に反転。間近まで迫っていたツヴァイのアルファートの実体ブレードの一撃を受け流すと、流れるように袈裟斬りを見舞った。
咄嗟に左腕に備えられた物理シールドで防いだものの、大きく弾き飛ばされる。PICで姿勢制御したツヴァイの隣に、フィアが並び立った。
「流石は伝説のIS。機体性能だけじゃなく操縦者も生半可じゃないわね。スナイピングが切り落とされたのは初めてよ」
「……パワーもさることながら、剣技のキレも半端じゃないですね」
幾分か表情の戻ったツヴァイが一発でおシャカになった物理シールドをパージする。
そして二人は顔を見合わせると、ニヤリと笑みを浮かべる。
「でもまあーーー勝てないって程でもないわ」
「では、援護は任せますよ、フィア」
「了解よ、ツヴァイ。世界一の狙撃手の援護があるのよ?とっとと決めなさい」
フェイの言葉に笑みを返すと、目を瞑る。再び人間らしからぬ表情に戻ったツヴァイは、最強に向かって牙を剥くーーー。
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ーーーーー
ーーー
「……呆れた。まさか、ここまで苦戦するとはね」
深い溜息を着いたのは、フィアだった。彼女のアルファートは既にボロボロ。物理シールドは当然破壊され、背部のスラスターも右部は破損。左脚部も装甲は全損。更に、
フィアは最高のタイミングを待ち続けている。
一方、ツヴァイは白騎士と激しい近距離戦闘を繰り広げている。残弾の切れたサブマシンガンの変わりに実体ブレード二本での打ち合い。白騎士も荷電粒子砲を失い、完全な格闘戦へともつれ込んでいた。
そして、現在優勢を保っていたのはツヴァイであった。
アルファートが接近。同時に左腕のブレードを振るう。白騎士は大剣を丁寧に取り回してそれを受け流し、そのまま斬撃を繰り出す。アルファートは右腕のブレードでその一撃を払う。
同時に生まれた両者の隙。すかさずそれぞれの拳と蹴りが繰り出され、互いが吹き飛ばされる。
直ぐ様PICで体勢を整え、今度は白騎士が仕掛ける。
瞬時加速で距離を詰める。瞬く間に距離を詰めた白騎士は袈裟斬りを繰り出すが、アルファートは機体を僅かに後進させて回避、更にブーストを点火。至近距離から、瞬時加速を繰り出し、更にその勢いのまま両腕のブレードで切り払いをお見舞いする。
ガキィン、という甲高い音。白騎士は正眼に構えた大剣でその一撃を受け止めたのだ。両者は暫くの間鍔迫り合いを続けるが、やがてお互い飛び退いた。
アルファートと白騎士は睨み合う。お互いにもう余力がないのは分かっている。そして、決着をつけなければならない事も。
刹那の間。そしてほぼ同時に、両者が動いた。アルファートは右腕のブレードを放棄し、居合の構えをとる。そして最初に見せた、過剰なまでの瞬時加速による高速機動。白騎士はフィアのスナイピングを叩き切った時と同様の、上段の構えだ。
両者は、瞬く間に接敵。そして、互いの全力の一撃を放った。
ーーー決着は白騎士の勝利で終わった。アルファートの一撃は、白騎士の上段斬りと衝突。そして性能、質量の差で叩き折られてしまった。
その瞬間、アルファートはその場からの離脱を行うのだが、それよりも早く斬り上げを喰らってしまう。それによりシールドエネルギーは0に。ゆっくりと墜落していく中、表情を取り戻したツヴァイは小さく笑みを浮かべる。
「やはり、その構えは二段構えでしたか。『読み通り』ですよ」
刹那。凄まじい衝撃が白騎士の操縦者を襲った。自身のシールドエネルギーが0になり、緩やかな墜落が始まった時。ハイパーセンサーが最後の勝者の声を聞き取る。
「ぐぅれぇいと!私ってば世界最強?」
場違いとも言える、楽しそうな少女の声が響き渡るのだった。
ーーー白騎士。始まりにして最強を謳われるIS。機体性能もさる事ながら、その操縦者も超絶的な腕の持ち主だった。しかし、敗れた。敗れてしまった。操縦者である女性は唇を噛み締め、此方に銃を向ける少年と少女へと視線を向けた。
フィアは女性の顔を見ると、少し驚いた表情を浮かべた。
「へぇー。誰が操縦してるのかと思ったら、天下のブリュンヒルデ様だったとはね。それなら私達があれだけ苦戦したのも納得出来るわ」
「確か、本名は織斑千冬さんですよね?篠ノ之博士との関係から、此処にいる理由は充分理解出来ますが……来月には第二回モンド・グロッソ。このような所で油を売っていてもよろしいのですか?」
鋭利な雰囲気を纏った女性ーーー織斑千冬は忌々しげにツヴァイを睨みつける。
「元はと言えば、お前ら『企業』の連中がくだらん茶々をいれるからだろうが。あいつの我儘に付き合わされる私の身になってみろ」
「……?言っている意味がーーー」
「きゃあああぁぁ!?」
ツヴァイが言葉を続けようとした瞬間、真後ろからフィアの悲鳴が響き渡った。慌てて振り返ると、其処には何やらワイヤーネットで拘束されているフィアと、ネットランチャーらしきものを構えている、奇天烈な見てくれの女性がいてーーー。
「はーい、捕獲せいこーう!」
次の瞬間、首の後ろに衝撃が走ったのを感じ、ツヴァイの意識は闇に沈んだ。
ーーーーーーー
ーーーーー
ーーー
次にツヴァイが目を覚ました時、何故か棺の中にいた。意味の分からない状況に戸惑いつつも身体を起こすと、其処は研究室の様な場所であった。ISと武装類は奪われているようだが、それは当然の処置と言えよう。しかし、理解出来ないのはーーー。
「この格好は……?」
まるで、おとぎ話の王子様みたいな服を着ていた。そして気づく。隣に鎮座する、豪奢なデザインの棺に。
棺の中にはお姫様のような格好をしたフィアが納められていた。ここでふと、眠り続けるお姫様をキスで起こすという昔の童話を思い出すが直ぐにそれを削除。更に辺りを見回す。
部屋の至る所に機材が置かれている。ツヴァイとフィアを寝かせるためのスペースを確保する為、無理矢理機材を隅に追いやったのか乱雑な配置になっていた。そして、何よりも異質なのがヤケにメカチックなウサ耳を装着した女性。
ツヴァイは呆れた様に溜息を漏らす。
「貴女が篠ノ之博士ですか、噂に違わぬ人柄のようですね」
「そうでーす!私が天才束さんです!初めましてだね、ツヴァイ君!」
にぱっと人懐っこい笑みを浮かべる束に少なからずの疑問を抱く。世間一般に伝わる彼女のイメージというものは、ディスコミュニケーションを体現しているかのような人間である。それ故に、目の前の束の対応は異質に思えたのだ。
「話に聞いていたのと随分違いますね。近しいモノ以外とはまともにコミュニケーションを取らないと聞いていたのですが」
「うん!確かにそこらの有象無象は相手にしないよ?でも、ツヴァイ君達は違うじゃん。何てたって、私の白騎士とちーちゃんを倒しちゃったもんね!」
それで、興味を示し得る対象へと格上げされたと。
ツヴァイは厄介な人物の目に止まったと、溜息を漏らす。
「で、俺達をどうするつもりですか?解剖?それとも見せしめに殺して『企業』に送りつけますか?」
「そんなことしないよっ!ねぇねぇ、ツヴァイ君。それよりも、そこのフィアちゃんを見て何も思わない?」
「フィア、ですか?……童話のお姫様みたいだな、とは思いますが。それが何か?」
「眠るお姫様!そして今の君は王子様!となると、する事はただ一つ!それはそうーーー熱いベーゼだ!」
目をキラキラさせて、指をビシッと突き出す束を見てポカンとするツヴァイ。一瞬、何を言っているのか理解出来なかったのだ。
まさか、捕虜の身になって、眠る同志にキスをするよう言われるなど誰に想像出来ようか。いや、出来まい。
「……子供同士でキスをさせて喜ぶなんて、変態ですか?」
「もぉ、硬い事言わずに、ね?いいでしょ?束さんからの一生のお願いだからぁ!!」
目の前で駄々をこね始めた世界を変えた天災科学者に眩暈を覚え始めた時、救世主が登場した。
「やめろ、変態」
ズガン。大凡人を殴った時に響く音では無い、そんな音の後に束が頭を抑えて蹲った。その背後には、呆れたような表情を浮かべるクールビューティーを体現したかのような女性ーーー織斑千冬が立っている。
「助かりました、ブリュンヒルデ……」
「此方こそ、この馬鹿が騒ぎ立てて悪かったな。ほら、束。いい加減本題に入れ。私はそんなに暇じゃないんだ」
千冬に急かされ、束は再び人懐っこい笑顔を浮かべる。
「ねぇねぇ。ツヴァイ君達はどの位眠っていたかわかる?」
「一日とちょっとですか?」
「ううん、一週間だよ!」
束の言葉にツヴァイは疑念を抱く。一週間も身体を動かさなければ何らかの違和感を抱くし、それに気付かぬ彼では無い。しかしその違和感が無いのだ。
そんな疑問を抱くツヴァイだが、束は構わずに話し続ける。
「そして天才束さんはツヴァイ君とフィアちゃんに専用機を作っちゃいました~!」
「……はい?」
「因みに二人のISは粉微塵にして『企業』の連中に送り返して、身体に埋め込まれてた有害なナノマシンもぜーんぶ除去しといたからね!今の君達は自由だよ」
「自由……俺が?」
自由。それはツヴァイにとっては苦痛でしかなかった。自分で何かを考えて行動するぐらいなら、『企業』の連中に付けられた首輪で拘束され、駒として扱われる方がどんなに幸せな事か。
前世の影響か、そんな歪んだ願望を抱くツヴァイは薄く笑みを浮かべる。そして、彼の顔から感情が消えた。
「余計なお世話、ありがとうございます。ですが、俺は『企業』に戻ります。フィアの事、頼みますね」
「……逃げるのか?」
意外な事に、ツヴァイに声をかけたのは我関せずを貫いていた千冬だった。そして彼女は、ツヴァイの表情に僅かな憤りが現れたのを見逃さなかった。
「ええ、逃げますよ。俺は弱い人間何です。誰かに利用される方がよっぽど楽だ」
「情けないな。いや、男の癖に女々しい」
「確かに女の子みたいな顔してるもんね~。ツヴァイ君は」
ピクリと僅かに笑みを引き攣らせたツヴァイが反論の為に口を開いた刹那、束が言葉を重ねる。
「じゃあさ、束さんが首輪を付けてあげるよ!それならいいでしょ?」
束の言葉が昔、自分に道を示してくれた恩人の言葉と重なった。奇妙な偶然に少し呆然としたツヴァイだが、やがて小さな笑みを浮かべる。
「何方にしろ、俺に選択権はないのでしょう」
「よく分かってるねぇ。じゃあ、これからよろしくね!あっ、その前に名前決めよっか」
「名前?ツヴァイという名がありますが……」
「それは番号であって、名前では無いでしょ?だから、この天才束さんが名付け親になってあげよう!」
「……ブリュンヒルデ。助けて下さい」
「すまんな、諦めてくれ」
最後の頼みの綱にあっさり見捨てられたツヴァイは深い溜息をつく。そんな事を気にも止めない束はあーでもない、こーでもないと色々と案を出している。
「ーーーエレン!エレン君なんてどうかな?」
一瞬、ツヴァイの表情が変わったのを千冬は見逃さなかった。そこに宿っていたのは驚きであったが、次の瞬間には酷く儚げでいて、自分を嘲笑しているかのような笑みに変わる。
「ええ、それでいいですよ。これ以上、貴女にネーミングセンスは期待出来そうも無いですしね」
「やったぁ!じゃあ、これからよろしくね、えっくん!」
「……あだ名を付けるなら名前の意味がないと思うのですが」
「気にするな。こういう奴なんだ……」
この数分で千冬の今までの苦労を悟ったツヴァイーーー改め、エレンは溜息を漏らしつつも、何処か高揚する気持ちを胸に抱いている。
それが
後書きにオリジナル設定を書こうと思ったのですが、纏めて次々回にオリジナル設定、キャラの紹介ページをいれさせて頂きます。