IS-迷子の首輪付き-   作:メルチル

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プロローグ最終章です。
長々と申し訳ございませんでした(._.)


実はISのライトノベルを読む為の時間稼ぎだったり……。
漸く四巻まで読み終わりました。後半分……道程は長い(*_*)


LAST DANCE

中東のとある紛争地帯。怒号と弾丸が飛び交う殺伐とした其処に不釣り合いな青年がいた。

 

真っ黒い髪を後ろで緩く結んだ彼は、面倒くさそうに溜息を漏らす。

 

 

「まったく。何てたってVTシステムのサンプルの回収なんて……」

 

 

VTシステムと呼ばれる違法システムのデータが入ったディスクの回収が今回の青年ーーーエレンに与えられた仕事であった。彼の飼い主はどうやらこのシステムを酷く毛嫌いしているが故に徹底的に潰したいらしい。

 

エレンがISを使えば早いのだが、この数年で良くも悪くも有名になってしまった彼のISを使用すると面倒な連中に嗅ぎつけられてしまう。協力者の情報操作により、地元のゲリラ組織がターゲットを襲撃している間にサンプルの回収を済まそうとしていたのだが、如何せん敵の戦力を見誤っていた。

 

 

「仕方ない、行きますか」

 

 

エレンは腰のホルダーから二挺の拳銃を抜き放つ。それと同時に銃身下部に仕込まれている刃が飛び出し、鈍い光を放つ。

 

状況を確認し、次の瞬間には飛び出して行った。

 

 

先ずは敵の懐に入り込むべく、エレンは凄まじいスピードで戦場となっている住宅街を駆け抜ける。

 

しかし後少しで敵の陣地に潜り込めるという所で三人の敵兵と遭遇してしまう。直ぐに手にしたアサルトライフルで掃射を開始する彼らに舌打ちを漏らすと、路地の陰に姿を隠した。

 

 

「ーーー!ーーーー!?」

 

「ーーー?ーー!」

 

「ーーー!ーーー!」

 

 

何をを話しているかは分からなかったが、しかし収穫はあった。声を元に大体の場所を脳内で描き、シミュレート。直ぐGOサインが出た。

 

 

物陰から飛び出す。慌てて銃を構える三人。両端の二人に銃を突きつけ、発砲。額に命中。残る一人が銃の引き金を引くよりも早く、その銃口から弾道を読み、身を引いたエレンは弾丸を躱す。そのまま懐に飛び込んで銃身のナイフで敵の喉を切り裂く。

 

鮮血が雨のように降り注ぐ中、エレンは退屈そうにナイフの血を払って手元の端末を覗き込んだ。

 

 

「此方エレン。敵陣地に潜入成功。援護を頼みます」

 

『此方フィオナ。了解よ、カバーするからさっさとお願いね』

 

 

かつて四番(フィア)の名を与えられていた少女と短い会話を終えたエレンは死体を手早く物陰に隠し、束から支給された携帯端末を開く。それには周辺の地形情報と目標物の入ったトラックまでの距離、そしてフィオナの位置情報が表情がされている。

 

 

「ターゲットに動き無し。誘っているのか、それとも動けないのか……まあ、何方にせよ行きますが」

 

 

脳内に位置情報を焼き付けたエレンは移動を開始。天災の放った猟犬は敵の駆逐を開始する。

 

 

ーーーーーーー

ーーーーー

ーーー

 

 

男は焦っていた。

 

本来ならば、VTシステムのデータサンプルを『とある国』まで護送するだけの簡単な任務であった。『企業』の情報操作により外部に漏れは無いハズ。至って簡単な任務の筈だったのだ。

 

 

それが、どうだろうか。何故か地元のゲリラ組織の襲撃に合う羽目になっている。敵の奇襲でサンプルを積んだトラックは横転。その他の装甲車輌は健在なのだが、それで逃亡中にサンプルごと爆破されたら全てパーになる。故に、ゲリラ組織の迎撃を優先する事になったのだがーーー。

 

 

「チクショウ、まただ!」

 

「これで9人目だぞ!?さっさとスナイパーの特定を急げ!」

 

 

歩兵同士の質ならば明らかに此方の方が上手。事実、ゲリラ組織の大半は駆逐した。しかしながら移動を再開出来ない理由は単に敵の狙撃手にある。

 

 

優秀過ぎるのだ。此方とて其処らの国の軍隊に劣らぬ兵士の集まりではあるのだが、敵の狙撃手は異常の一言に尽きる。そもそも補足が困難。迂闊にスナイパーを配置しようものなら即座にカウンタースナイプを喰らう。かと言って歩兵を送っても帰ってくるのは死体だけ。

 

 

かくなる上はーーー。

 

 

「此方アルファ1。該当空域への航空支援を要請する。座標は既に転送済み。迅速な支援を要求する」

 

『航空支援が受理されました。三分後に該当空域に空爆を行います』

 

 

かくなる上は力技に出るしかあるまい。後は、勘付かれないように索敵行動を続けていればいいだけの事。

 

男が漸く見えてきた終わりに口元を歪めた直後、部下から新たな報告が入る。

 

 

「隊長。南でバリケードを張っていた奴らと連絡が取れなくなりました。如何致しますか?」

 

「南だと?彼処は粗方片付けたハズだが……まあ、いい。スティーブとウィスを連れて確認に行け」

 

「イエス・サー!」

 

 

この時の男はまだ気付いて居なかった。南から忍び寄る第二の異常戦力にーーー。

 

 

ーーーーーーー

ーーーーー

ーーー

 

 

住宅街をかけていたエレンが唐突に足を止めた。暫くその場に立ち尽くした後、直ぐに近場の建物に入り、少し先にある広場の方へ視線を向ける。

 

 

やがて、向かい側から二人の歩兵が歩いて来た。狙撃手も居ると見積もると恐らくは三人が妥当な所か。連絡の取れなくなったさっきの三人の確認に来た事は容易い。そして死体に気付くのも時間の問題だろう。ならば、選択肢は一つだけだ。

 

 

エレンは建物から飛び出すと同時に発砲。瞬く間に二人の歩兵の命を摘み取る。後はスナイパーのみ。エレンはわざわざ広場の真ん中に立つと、目を瞑る。

 

 

右斜め32度から発砲音。距離は約80メートル。

 

常時離れした聴覚と空間認識能力を持つエレンは直ぐ様狙撃手の位置を特定、更に弾道を予測しスナイピングを回避。死角に入って狙撃手の潜む建物へと駆ける。

 

 

木製の扉の前に辿り着いたエレンは其処にマガジンの弾を全て叩き込む。やがて空になったマガジンを排出、新たなマガジンを装填し、ボロボロになった扉を蹴破ると蜂の巣になっている狙撃手の死体があった。

 

 

「さて、流石に勘付かれる頃ですね。一気に行きますか」

 

 

狙撃手の死体からサブマシンガンを奪い取ったエレンは再び駆け出す。目標を駆逐するために。

 

 

ーーーーーーー

ーーーーー

ーーー

 

 

薄暗い室内。長い間手入れのされていない埃っぽい室内に一人の少女がいた。腰ほどまではあろう黒髪を弄りながら小さく溜息を漏らすと、その宝玉のように美しい赤色の瞳をスナイパーライフルのスコープへと寄せた。

 

 

「動き無し、か。エレンの存在に気付いたのかしら?いや、それにしてもこっちを放置するとは……」

 

 

少女ーーーフィオナは思案を巡らせる。

 

 

「やーめた、面倒くさい。こういう時は……」

 

 

が、直ぐに白旗を上げる。スコープから目を離すと懐から携帯端末を取り出し、『協力者』へコールをした。

 

 

『どうしました、姉さん?』

 

 

通話先は自分を姉と呼び慕う少女の元。今回の作戦に於いての情報戦も担当しており、フィオナとエレンとは違った方向ーーー主に電子戦に於いて多大な才を発揮させている。しかし、唯一の欠点を上げるとするならばーーー。

 

 

「何か敵の動きがきな臭いのよね。何かそっちで掴めてない?」

 

『えっと……。あ、数分前に『企業』の爆撃機が発進してますね。間も無く其方の空域に空域に入るみたいです。多分、姉さんの目なら目視出来る距離だと思いますが……』

 

「……ええ、見えたわ。クロエ、一ついいかしら?」

 

『何でしょう、姉さん?』

 

「戻ったらお仕置きよ」

 

 

反論を聞かず、通信を切る。少女のーーークロエの欠点は二つ。うっかり屋さんだという点と、フィオナとエレンの事を超人か何かと勘違いしている所だろう。故に、現在のような報告し忘れがある。デザインベイビーである二人は確かに常人より遥かに人間離れしたスペックなのだが、流石に空爆されれば死ぬ。

 

 

(まったく、今回、私達のISは使えないって言ってるのに……)

 

 

内心で愚痴りながら素早くスナイパーライフルを分解。ボストンバッグに詰め込むと足速に離脱を開始する。

 

帰ったらクロエにどんなお仕置きをしてやろうかな、などと考えながらフィオナは合流地点へと向かうのだった。

 

 

ーーーーーーー

ーーーーー

ーーー

 

 

物言わぬ肉塊となったモノから、ナイフを抜き取ると、エレンは溜息を漏らした。それはいつものような気怠さを含むモノでは無く、達成感に満ちたモノである。そんな彼の周りには無数の死体が転がっていた。

 

 

残る任務はデータの回収のみ。それらしいトラックの荷台にてそれらしきデータディスクを発見したエレンは手持ちの携帯端末に取り出し、差し込んだ。

 

 

『ナウ・リーディングなんだよ!』

 

 

可愛らしくデフォルメされた束と人参がクルクルと回る画面にそんな文字が表示される。毎度毎度、戦場でこの画面を見る度に毒気を抜かれるのだが、束は断じてこの画面を変えようとしない。まあ、読み込みなど直ぐ終わるのでいいのだが。

 

 

数秒で読み込みを終えた端末を懐に入れ、ディスクを叩き折る。ソレを再びトラックの荷台に戻し、エンジン部分にC4をセット。起爆を五分後に設定したエレンはフィオナとの合流地点へと向かうのだった。

 

 

ーーーーーーー

ーーーーー

ーーー

 

 

三年。束に首輪を付けられて、既にそれだけの時が過ぎていた。フィオナもが束に飼われる事を望んだのは意外だったが、今としてはよかったとエレンは思う。もしフィオナが居なかったら

、あの天災の面倒を一人で見なければならない羽目になっていた。そうなっていたら、ストレスで胃に穴が空いていたと断言出来る。

 

そんな事を考えながら、エレンは束の篭る研究室へと足を踏み入れた。

 

 

「おー!お帰り、えっくんとフィオちゃん!どうだったー?」

 

「任務達成です。これにデータが入ってるんで、どうぞ」

 

 

端末を投げ渡すと早速解析を開始する束。空間投影されたディスプレイには瞬く間に情報が表示されていく。この人の前ではこの程度のセキュリティーロックでは鍵を開けっ放しでいるのと同レベルであろう。

 

 

「……あっ」

 

 

珍しく、束の表情が驚きに満ちたモノになった。次いで、憎々しげに空中に投影されたディスプレイを睨みつける。

 

 

「まさか束さんにダミーデータを掴ませる何てね。『企業』にも少しはまともに思考出来る人間がいるんだ」

 

「へぇ、とてもじゃないけどあの老害達が博士を出し抜けるとは思えないけど」

 

「そうだね、これからはちょっと警戒しないとね。さっ、お引っ越しの準備だよ。今ので位置情報がばれちゃったからね、奴らが来るよ」

 

 

端末をあっという間に分解し、ガラクタの山へと変えた束はパンパンと手を叩くと、辺りの機材を次々と量子変換

(インストール)して行く。

 

エレンとフィオナも自室で荷造りをすべく、そこで別れる事になった。

 

 

ーーーエレンの部屋は質素の一言に尽きた。というのも、今回のように拠点を放棄することが多々ある為、家具などを集めても意味がないからだ。

 

その為荷造りなど直ぐに終わる。荷物をスーツケース一つに手早く纏めたエレンは一年程は世話になった部屋を後にした。

 

 

再び束の研究室へと向かう途中、一人の少女と出会った。二年程前、束が唐突に拾って来た少女ーーークロエである。

 

流れるような銀髪と真っ黒闇に金の雫を落としかのような、不思議な色合いの瞳。何処か神秘的な印象を抱かせる少女が幽鬼のようにユラユラと歩いていた。

 

 

「どうしたんですか、クロエ」

 

「あっ、兄さん。さっき姉さんに怒られてしまって……うぅ」

 

「帰投途中、フィオナが随分張り切っていると思っていましたが、この為ですか……。ああ、クロエ。引っ越しの事は聞いてますか?」

 

「はい、今から部屋に行く所です」

 

「そうですか。では、また後で」

 

 

最後にくしゃっとクロエの頭を撫でてやり、エレンは再び歩を進める。

 

 

ーーーーーーー

ーーーーー

ーーー

 

 

それから一時間もしないウチに全ての支度を整えた一行は、束が何処からか調達した航空機でとある国へと向けて大海原を渡っていた。

 

そんな中、不意に束のメカうさ耳がピコーンと反応。ぐーすか昼寝していた束がガバッと目を覚ます。

 

 

「皆、束さんレーダーで敵機複数確認したよ!ISが三機……所属は不明。『企業』の奴らだね」

 

「俺が出ます。先に進んで下さい」

 

「了解だよ!えっくんのISなら余裕だろうしね」

 

 

心無しか弾んでいる束の声を気にせずにISを展開。近年では殆ど見かける事の無くなった完全装甲(フルスキン)。刺々しく、そして禍々しい印象を抱かせる鋭角的な外観。白と黒のツートーンで左右非対称なカラーリングが施されたそのISは異形とも言えた。

 

 

「『ストレイド』、出ます」

 

 

開閉されたハッチから飛び出したその機体は、背部に固定設置されている三基の大型スラスター、並びに脚部、腰部の各所に設けられた小型スラスターで姿勢を制御。更に背部には非固定浮遊部位(アンロック・ユニット)のウィングスラスターが二基。過剰とも言えるそのブースター設備による加速力は、恐らく既存のISでも最速と言えよう。

 

 

「作戦を開始します」

 

 

両腕にサブマシンガンを展開したその異形のISは、超速度での移動を開始。空気を切り裂き、眼前の敵へと向かって飛び去った。

 

 

ーーーーーーー

ーーーーー

ーーー

 

 

『此方フィア、輸送機より敵ISを確認。コアの識別結果はアンノウン。移動速度からして『首輪付き』の片割れーーー『黒白』かと推察されます。尚、『魔弾』はいない模様です』

 

『現場把握、並びに交戦を許可する。速やかに『首輪付き』を撃墜し、篠ノ之束を確保せよ』

 

『任務了解。フィアより各機へ。交戦許可が出た。装備をアンロック、プランBで行きましょう』

 

『此方ドライ、了解だよ~』

 

『此方ツヴァイ、了解だぜぇ!』

 

 

彼女達が駆るのは『企業』の第3世代機、アルマデウスである。

 

アルマデウスは背部の非固定浮遊部位(アンロック・ユニット)と兵装の互換により、凡ゆる状況下での戦闘を可能にするというコンセプトの元に開発された第三世代型ISである。

 

 

ツヴァイのアルマデウスが使用するのは近距離特化用パッケージ、『グラディウス』。

 

近距離戦闘を主眼に於いているのが一目で分かる、大型のバスターブレードのみを手にしており、背部には非固定浮遊部位(アンロック・ユニット)のスラスターが二基展開されている。その側面には楔のような小型兵器が幾つか設置されているが、用途は不明である。更に左腕には大型の物理シールドが備え付けられている。砲身が備え付けられている事から、シールドに何らかの火器が搭載されているのも伺える。

 

 

ドライのアルマデウスが使用するのは高機動強襲用パッケージ『アイテール』。

 

他の二機よりも大型のスラスターを備えており、そのスラスターにはミサイルポッドとレールガンが二つずつ配備されている。手元にはエネルギーライフルと実体シールドという、ベーシックな装備で纏められている。

 

 

フィアのアルマデウスが使用するのは

遠距離砲撃用パッケージ『イグニス』

 

長大なスナイパーライフルを一挺持ち、肩部にはミサイルポッド、そして前面に展開可能な物理シールドが備え付けられている。更に背部のスラスターの変わりに大型レールカノン、グレネードランチャーが搭載されている。

 

 

『企業』の最新鋭機三機の協働。しかも、搭乗するパイロットは『企業』の有する強化人間の中で2、3、4位の称号を与えられている者達だ。

 

そんな普段ならば絶対にあり得ない程豪華な面子の前に、お目当ての機体が現れた。

 

 

既存のISにしてはかなり珍しい完全装甲(フルスキン)の機体は鋭角的なフォルムを描いている。過剰なまでに増設されているスラスターにより、常識離れな機動を行う事から無人機では無いかと言われる程である。

 

 

「ようよう、首輪付きぃ!初めましてだなぁ!だがな、今日で堕ちてもらうぜえええぇ!!」

 

 

口上と共に飛び出したのはツヴァイ。シールドに埋め込まれたビームマシンガンで弾幕を形成しつつ、首輪付きへと突撃して行く。

 

対する首輪付きも、両手のサブマシンガンを乱射しつつ距離を詰めて行く。

 

 

「そらああぁぁぁぁ!!」

 

 

装甲を削る弾丸などお構い無しに、獣のような雄叫びを上げたツヴァイがバスターブレードを横に一閃。上方にブーストを噴かしてその一撃を回避した首輪付きだが、ツヴァイはそのまま一回転、更にバスターブレードを下段から上段へ一気に振り上げる。

 

 

両者の間で火花が散る。ツヴァイのバスターブレードは首輪付きの膝下から爪先の間に現れたエネルギーブレードによって受け止められていた。

 

 

「チィっ!!ウザってぇヤツだな!」

 

 

力任せにバスターブレードを振るい、首輪付きを弾き飛ばす。直ぐ様PICで体勢を整えた首輪付きの前にはスラスターに設置されたレールガンを展開したドライが待ち構えていた。

 

 

「そりゃ~」

 

 

気の抜けそうな声と裏腹に、放たれたレールガンは尋常では無い速度で首輪付きへと向かう。しかし首輪付きは肩部アーマーに備え付けられたサイドブースターで横方向への急速回避。

 

そのままサブマシンガンをドライに向けた刹那、その場でクルリと上方で宙返りをして見せて、背後から迫っていたフィアのスナイピングを回避、更に機体を反転させて瞬時加速を発動。一気にフィアへと迫る。

 

 

「チィッ!?やらせるかよォッ!」

 

 

咄嗟に両者の間に割り込んだのはツヴァイであった。サブマシンガンからばら撒かれる弾丸の雨をシールドで防ぎつつ、バスターブレードを構える。

 

首輪付きは瞬時加速を使用しているが故に急激な方向転換が出来ない。ならばタイミングを合わせてバスターブレードを叩き込むのはツヴァイにとっては朝飯前だ。

 

 

(勝負を焦ったな。コレで、幕引きだ!)

 

 

最高のタイミングで振るわれるバスターブレード。そして、勝利を確信していたツヴァイの表情から、笑みが消えた。

 

 

「は?」

 

 

凄まじい衝撃の後、機体が弾き飛ばされる。反転する視界の中、ツヴァイに理解出来たのは自分の攻撃が外れた事だけである。

 

 

「何てデタラメな……ッ!」

 

 

一部始終を目にしていたフィアはそう毒づく。

 

首輪付きがたった今目の前で行った、瞬時加速中の急激な方向転換、更にツヴァイに反撃まで加えて見せるその技量。噂以上にデタラメだ。

 

 

「しかし、この距離ならばッ!!」

 

 

前面に物理シールドを展開。これによりスナイパーライフルは使えなくなるが、まだレールカノンとグレネードランチャー、更にはミサイルポッドも残っている。

 

一瞬どの装備で迎撃を行うか思考を巡らすフィアだが、答えは直ぐに出た。

 

 

全弾発射(フルバースト)!!」

 

 

目の前のISには常識は当て嵌まらない。ならば全力を持って迎撃に当たるべきだろう。そう結論づけたフィアは全装備による一斉射撃を行った。

 

 

爆音と共にレールカノン、グレネードランチャー、ミサイルポッドが放たれる。流石の首輪付きも回避行動に移ったのだが、如何せん量が量だ。直ぐに爆煙に呑まれて行った。

 

 

「敵IS反応沈黙。やりましたね」

 

「あれ~。なんかあっけなかったね~」

 

 

何処か達成感に満ちた様子のフィアと、相変わらずマイペースなドライとは裏腹にツヴァイはただ一点ーーーたった今、首輪付きが呑み込まれた爆煙を見つめていた。

 

そんな彼女だったからこそ、僅かな変化に気付けた。

 

 

「来るぞッ!!」

 

 

瞬間、爆煙から首輪付きが飛び出してきた。先ほど見せた瞬時加速よりも二倍近くの速度で迫る首輪付きには幾つかの変化が現れていた。

 

先ず、目を引くのが機体を覆う緑色の粒子のようなモノ。用途は不明だが、それはまるでシールドのような印象を抱かせる。武装も先程までのサブマシンガンでは無く、漆黒と呼ぶに相応しい太刀が握られていた。

 

 

そして、正しく刹那の間と呼ぶに相応しい時間で首輪付きはフィアの懐へと侵入した。

 

 

「なっーーー」

 

 

咄嗟に展開した物理シールドが、漆黒の太刀によっていとも容易く両断された。驚きに満ちた表情を浮かべるフィアへ両脚のビームブレードによる乱撃が見舞われ、見る見るウチにシールドエネルギーが削られて行く。

 

近接装備を物理シールドに頼っていたフィアのアルマデウスはなす術無く蹂躙されて行く。

 

 

「テメェ、いい加減にしやがれぇ!」

 

 

そこにツヴァイがカバーに入る。バスターブレードによる上段切り。案の定、漆黒の太刀に防がれるのを見越していたツヴァイは直ぐ様シールドのビームマシンガンをお見舞いする。

 

しかしそれは、首輪付きの纏う緑色の粒子によって打ち消されてしまった。

 

 

「デタラメな兵装使いやがって!」

 

 

視界の隅で、ドライがフィアの機体を回収したのを捉えたツヴァイも一旦後退する。首輪付きは特に追撃をするでも無く、その場に佇んでいた。

 

 

「チッ、余裕ってか。胸糞ワリィ!フィア、シールドエネルギーはどうだ」

 

「半分程持ってかれました。物理シールドは使用不可、更にミサイルポッド、並びにグレネードランチャーも使用不可です」

 

「ありゃ~、あの短時間でそこまでやられちゃうかぁ~」

 

「……申し訳ございません。後方からの支援射撃に徹した方が良いですか?」

 

「いや、そりゃ論外だ。あいつのキチガイ機動見たろ?距離なんかあってないようなもんだ。それなら三機で固まって互いをカバーしあった方がまだマシだ」

 

「了解~。あっ、緑のキラキラ消えたね~」

 

 

ドライの言うとおり、首輪付きの周りを浮遊していた謎の粒子が消滅していた。意図的に消したのか、はたまた稼働限界迎えたのかは定かでは無かったが、彼女達としては後者が望ましかった。

 

 

「出し惜しみをして勝てる相手じゃねえ。一気に行くぞ」

 

 

ツヴァイの号令と共に、戦闘が再開される。

 

 

「行けよ、ルシオラッ!」

 

 

背部スラスターに設置されていた楔形の兵器が分離、そのまま鋭角的な機動を取りながら首輪付きに向かって行く。所謂、ビット兵器というヤツだ。

 

それと同時に、ドライはミサイルポッドを起動。大量のミサイルをばら撒きつつ、自身もレーザーライフルとレールガンで首輪付きを追い立てる。

 

フィアも二人の少し後ろを追従しながらスナイパーライフルとレールカノンでの精密射撃を行ってゆく。

 

 

「ちょこまかちょこまか……鬱陶しいんだよッ!!」

 

 

ツヴァイがバスターブレードで上段斬りを行う。それと同時に上空へと逃げる首輪付きに、ツヴァイの操るビット兵器とミサイルが追従してゆく。

 

 

「当ったれぇ~!」

 

 

レーザーライフルとレールガンを展開、乱射。上下左右、縦横無尽に駆け回り、全ての攻撃を回避する首輪付きだが、流石に反撃までは行えず、後手に回り続ける。そんな中、フィアのスナイパーライフルが火を吹いた。

 

 

回避機動をとっていた首輪付きだったが、右脚部にその一撃を貰ってしまう。僅かに硬直したその瞬間を、ツヴァイとドライは見逃さなかった。

 

 

「貰ったぜええぇ!」

 

「いっけぇ~!」

 

 

ツヴァイはビット兵器による一斉射撃を、ドライはレーザーライフル、レールガン、ミサイルポッドの一斉射撃を行う。しかし、首輪付きはギリギリの所でサイドブーストを使用して急速回避、更に追尾してくるミサイルはバレルロールで誘爆させ、そのまま上空まで高度を上げて上から三機を見下ろす。

 

 

「信じらんねぇ機動性だな。こりゃあ無人機だって噂が流れんのも納得だわ。とてもじゃねぇが人間に耐えきれる機動じゃねぇしな」

 

 

半ば飽きれたように首を振るツヴァイはエネルギー充填の為に一度ビット兵器を回収する。さて、次はどうするかな、と熱を帯びて来た刹那、秘匿通信が入った。

 

 

『……此方ツヴァイ。何か用か?』

 

『口に聞き方に気をつけろ、モルモット。前の『ツヴァイ』のようになりたくなければな』

 

『テメェ、あの人の事を侮辱すんのか?殺すぞ、老害』

 

『人形が喚くな。それよりも任務の更新だ。至急帰還しろ。今回の作戦はそれで終了だ』

 

 

はぁ?と、声を漏らす。久々にーーーそれこそ、『あの人 』との戦闘以来のまともな戦闘だ。いつものような雑魚では無い、正真正銘な強者との戦いが此処にはある。それなのに、なぜ引かねばならないのか。

 

 

『これは『機関』からの命令でもある。従えないならば相応の処分が下されるぞ。幾ら貴様でも、それは嫌だろう?』

 

『……チッ、分かったよ。退けばいいんだろ、退けばよ』

 

 

苛立ちを隠そうともせずに通信を打ち切ったツヴァイはドライとフィアに目配せをする。既に連絡が来たのか、二人はコクリと頷くと離脱を開始した。

 

 

「首輪付き。今日の所は引いてやる。だがな、次に会う時は必ず堕とす。必ずだ!」

 

 

威勢良く啖呵をきったツヴァイも去って行く。一人残された首輪付きは、そのフェイスマスクの下でかつての面影を残す少女達に向けてアンニュイな笑顔を浮かべた。

 

 

ーーーーーーー

ーーーーー

ーーー

 

 

帰投したエレンを迎えたのは満面の笑みを浮かべる束であった。心無しか、いつもより二割増のいい笑顔を浮かべている。クロエなんかは目をキラキラ輝かせながらエレンに視線を送っている。

 

どうにも状況を掴めない中、唯一いつもと変わらないフィオナへと視線を向ける。

 

 

「はぁ。あのね、博士がさっきのあんた達の戦闘を録画して、一般の動画サイトに投稿したのよ。凄いわよ、色々と。見てみる?」

 

「……遠慮しておきます」

 

 

深いため息と共にこめかみを抑えるエレン。そんな彼とは正反対に至極楽しそうなのは束とクロエである。

 

 

「見て見てえっくん!このアクセス数!やっぱ『企業』の印象はよくないみたいだね~。その最新鋭機をボコボコにするえっくんってば、ヒーローみたいになってるよ!」

 

「流石兄さんです!姉さんもいれば、もっと圧倒的な戦力差を示たのですが……」

 

「嫌よ、こんな客寄せパンダみたいな事。エレンだけにしてよね」

 

「ちょっと待って下さい。俺だって嫌ですよ。というか俺のIS余計に使い辛くなったじゃないですか!」

 

「まあまあ、気にしない気にしない!あっ、それよりも見えて来たよぉ」

 

 

あからさまに話を逸らす束であったが、最早慣れてしまったエレンは深いため息を一つ。束の指先にある島国ーーー日本へと視線を向ける。

 

 

「へぇ、彼処が日本ね。博士の生まれ故郷よね、確か」

 

「一応ね~。まあ、無能ばっかで飛び出しちゃったんだけどね!」

 

「博士の才能を見抜けない無能共に使われる必要なんて無いんです。寧ろ滅べばいいんです」

 

 

言葉を交わす三人を尻目に、何処か遠いところを見ているようなエレンは徐に呟く。

 

 

「ブリュンヒルデも此処にいるんですね」

 

 

エレンの発言に目を丸くし、そして過剰なまでに反応を示したのは束であった。

 

 

「まさかえっくんってちーちゃん狙いなの!?束さん大ピーンチ!!でもでも、そんな二人のなり染めも気になっちゃう~!どーする私ッ!?」

 

「とりあえず黙ったらいいと思いますよ」

 

「兄さんは白騎士の事が好きなんですか!?そんな、クロエは認めませんよ!」

 

 

暴走し始めた束とクロエの対応をフィオナに丸投げしたエレンは、ブリュンヒルデーーー織斑千冬に想いを馳せる。

 

ゆっくりと閉じた瞼の裏。其処でかつて自分に道を示し、そして終わらせてくれた恩人と彼女の姿が重なったーーー。

 




キャラ紹介、オリ設定を載せた後に原作ルートに突入します。


設定的に甘い所もあると思われますが、ご了承頂けたら幸いでございます。
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