IS-迷子の首輪付き-   作:メルチル

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予告通りVSブルー・ティアーズ戦です(._.)


因みにブルー・ティアーズのセカンドシフトを既に妄想し始めています。装備は纏まっているんですが、名前が思い浮かばない。搭乗者が貴族様ですし、某ネクストの名前を使いたいのですが、ブルー・ティアーズの名残りも残したいし……悩みどころです。







クラス代表決定戦

「一夏。いけそうか?」

 

 

心配そうに声を掛けてくる幼馴染ーーー篠ノ之箒に、一夏は思わずため息を返してしまった。

 

 

「行けるも何も、ISに乗らずにひたすら剣しか振ってないからな。不安しかねぇよ」

 

「し、仕方ないでは無いか!お前の専用機が来なかったのだから」

 

 

箒の言う通り、学園が用意すると言っていた一夏の専用機は未だに届いていなかった。それにしても、基礎的な知識とかぐらい教えてくれてもよかっただろう……。と、内心で愚痴るが決して声には出さない。そんな事を言えば、気の短い幼馴染によって木刀での制裁が明らかだからである。

 

「にしても、エレンのヤツ。マジで逃げたのか……?」

 

 

もう一人の対戦相手であるエレンは、今日に限って学園を欠席していたのだ。千冬に聞いて見ても機密だの一言で片付けられてしまい、相手にされないのだ。

 

 

「ーーー織斑君!!」

 

 

そんな折り、唐突にピットの扉が開け放たれた。そこから現れたのは童顔とは対象的なわがままボディーの持ち主にして我らが副担任、山田真耶先生だ。急いでいたのかその豊満な胸を上下させている。

 

 

「一夏、何処を見ている」

 

「勿論、おーーー」

 

 

思わず本音を口走った一夏の鳩尾に箒のボディーブローが打ち込まれた。おお、なんて一撃だ。世界を狙えるぜ、箒ぃ……などとくだらない事を考える一夏の頭上から、最近すっかり聞きなれた友人の声が聞こえて来た。

 

 

「まったく、随分余裕そうですね。一夏も機体を受け取って、早く来てくださいよ」

 

 

呆れたように告げたのは、いつの間にか入室していたエレンだった。問い詰めようとした刹那、エレンはダークレッドカラーのISに身を包み、ピットを飛び出していく。

 

そんな後姿を見送った一夏は、漸く息を整え終わったであろう真耶の方へ向き直る。

 

「山田先生、俺の専用機は?」

 

「此方です!」

 

 

案内された先には白いISが鎮座していた。中世の騎士を思わせる外見のソレは初めて見たはずなのに、何故か懐かしいという不思議な感覚を思い起こさせる。

 

これが、俺のーーー。

 

 

「これが今日からお前の専用機になる『白式』だ」

 

千冬の声が何処か遠くから聞こえるように感じながら、一夏はただそのISに視線を向けていた。

 

 

ーーーーーーー

ーーーーー

ーーー

 

 

ピットから飛び出したエレンは、アリーナを飛行しながら所定の位置へと向かっていた。

 

その身に纏うISは、束の動画提供により最早世界的にも有名になってしまった『ストレイド』では無く、頭部を隠すような形状のバイザーと無骨なアーマーが特徴的な『企業』の第二世代型IS『アルファート』であった。

 

 

急遽、親切な兎さんに用意して貰ったISーーー『アルファート・カスタム』は想像以上に馴染んでおり、昔使っていた『アルファート』と殆ど差異は感じられない程。

 

その仕上がりに満足したエレンはセシリアと同じ高さへと到達した。

 

 

「あら、てっきり逃げ出したと思っていたのですけれど。のこのこやられに出て来るとは意外でしたわ」

 

 

自信満々な様子でそう告げるセシリアは、青いカラーリングのISに搭乗していた。

 

ハイパーセンサーが齎す情報によればイギリスの第三世代機『ブルー・ティアーズ』。イギリスのビットシステムを搭載した初の試験機であり、四基のレーザービットと二基のミサイルビットを備えている中距離戦使用の機体。

 

セシリアもハイパーセンサーによってエレンの機体を検索したのか、その顔に明らかな嘲笑を浮かべていた。

 

 

「あら、まさかカスタム機とは言え第二世代型のISでこのわたくしに挑むなんて……勝てるおつもりかしら?」

 

「ははは、どうでしょうね。ですが、まあ……『代表候補生』程度になら、負ける気はしませんね」

 

「……貴方は少し利口な男だと思っていたのですが、思い違いだったようですわね。いいですわ、先ずは貴方から潰して差し上げます」

 

 

今まで礼節を尽くしていたエレンの手の平を返したかのような態度が余程気に入らなかったのか、額に青筋を浮かべるセシリア。狙い通りの展開に持ち込めたエレンがニヤリと笑みを浮かべるのと同時に、ピットから純白のISが飛び出して来た。

 

一夏とその専用機、白式である。

 

 

「悪りぃ、待たせたな。……って、何この雰囲気。何かあったのか?」

 

「何も無いですわ。唯、貴方達を相手にするのに一切の手加減をしない事にしただけです」

 

「……エレン。何したんだよ、お前」

 

「一夏、もう敵同士ですよ。お喋りはまた後でにしましょう」

 

 

既に開始のコールはされている。なのでいきなり仕掛けれても文句は言えない。

 

それを理解した一夏はゴクリと唾を呑み込むと、意識を目の前の二人に集中させる。

 

 

「そうですわよ。彼の言う通りですわ」

 

 

ロックオンアラートの後、セシリアの長大なエネルギーライフルが火を吹いた。狙いはエレンだが、彼はスラスターを噴かせてその一撃を回避。それと同時に左手には実体ブレードを、右手にはサブマシンガンを召喚(コール)し、迎撃に移る。

 

 

実際に目の前で行われるISバトルに、一夏は小さく驚きの声をもらす。そして、自分も二人のようにISを扱いたいという願望がフツフツと大きくなって行く。一夏は白式のデータから使える武装を検索する。

 

 

「装備は……ブレード一本!?」

 

 

表示されたのは『名称未設定』と表示されている実体ブレードのみ。召喚(コール)すると、手元には刃渡り約1.6m程の太刀が現れた。一夏はギュッとそれを構えると、一度目を瞑る。

 

 

「……大丈夫。やってやるさ!」

 

 

力強くその場を飛び出した一夏は、激しい戦闘を繰り広げるエレンとセシリアに突貫するのであった。

 

 

ーーーーーーー

ーーーーー

ーーー

 

 

「クッ!ちょこまかと!!」

 

 

レーザーライフルーーー『スターライトmk-3』の繰り出す射撃を的確に回避、または左手に固定装備された実体シールドで防ぐエレンに、セシリアは焦ったさから声を漏らした。

 

エレンは時折りサブマシンガンで弾をばら撒くも、セシリアには殆ど当たっていない。所謂膠着状態が続いていた。

 

 

「おおおおぉっ!!」

 

 

そしてそんな膠着状態を破ったのは、良くも悪くも一夏だった。雄叫びと共に突貫して来た一夏は狙いをエレンに定め、ブレードを振るう。

 

 

ガキィン!

 

 

甲高い音と共に、両者のブレードが激突した。エレンは直ぐに蹴りを繰り出し、更に体勢を崩して宙を舞う一夏にサブマシンガンの掃射をお見舞いする。

 

しかし、その隙をセシリアは見逃さなかった。

 

 

「踊りなさい!セシリア・オルコットとブルー・ティアーズの奏でる円舞曲(ワルツ)で!」

 

 

セシリアのISの一部が切り離される。それをハイパーセンサー越しに視認したエレンは一夏への追撃を中止し、直様狙いをセシリアへと変える。

 

 

「蜂の巣にして差し上げます!」

 

 

四基のビットからなる三次元的な全方位射撃。思わず足を止め、回避機動に移ったエレンの元に、体勢を立て直した一夏が再び迫る。

 

 

「さっきのお返しだ!」

 

 

振るわれたブレードを実体シールドで受け止めた刹那、セシリアの操るビットが集中砲火を行う。咄嗟に一夏を弾き飛ばしたエレンだが、回避は間に合わず集中砲火を受けてしまう。

 

 

「やりましたわ!」

 

 

セシリアが喜びの声を上げた刹那、彼女は背後からの凄まじい衝撃により大きく吹き飛ばされた。ハイパーセンサーで確認すると、其処にいるのはブレードを手にした一夏がいる。

 

 

「くっ、生意気ですわよ!行きなさい、ブルー・ティアーズ!!」

 

 

エレンに向かっていたビットが、今度は一夏に殺到する。一夏は慣れないながらもビットを避けていくものの、やはり被弾が目立つ。一夏はそんな状況で、笑みを浮かべた。

 

 

「あら、やられ過ぎて変になったのかしら?」

 

「……さっきの不意打ち決めた時に気付いたんだけどさ、オルコットさんってビットの操作中って、他の行動出来ないんだろ?」

 

「なっ!?しかしそれが分かった所で、貴方は何も出来ませんわ!」

 

 

ここでニヤリと笑みを浮かべた一夏は、セシリアの直ぐ後ろを指差す。

 

 

「忘れてね?コレ、三つ巴だぜ」

 

 

直ぐに振り返ったセシリアだが、なす術無く其処にいたエレンの斬撃を受けてしまった。再び弾き飛ばされる機体を素早くPICで制御したセシリアは一旦ビットを回収し、忌々し気にエレンと一夏を睨みつける。

 

 

「全く、だいぶ喰らってしまいましたよ。お陰でシールドがダメになってしまいました」

 

「アレ、もしかして今んとこ俺が一番勝ってね?」

 

「直ぐに引き摺り下ろして差し上げますのでご安心下さいな」

 

 

宣言通り、セシリアのライフルが一夏の白式を穿つ。しかしその隙にセシリアの懐に潜り込んだエレンが物理ブレードを振るう。

 

 

「っ!?」

 

咄嗟にライフルを滑り込ませ、その銃身で斬撃を受け止める。これには少しだけ驚いた表情を浮かべたエレンだが、直ぐ刃を引き、今度は突きを放つ。

 

 

「くぅっ!?」

 

 

大きく弾き飛ばされ、更に其処にサブマシンガンの火線が集中する。エレン自身も追従し、ブレードでの更なる追撃を試みているのは想像に容易い。セシリアが『奥の手』を利用しようとした刹那、横入りして来た一夏がエレン目掛けて物理ブレードを振るった。

 

 

「一夏、邪魔しないで下さいよ。後少しでオルコットさんを撃墜出来たのに……」

 

「こうでもしないと、俺空気になんだよ!てか、お前らの戦闘レベル違い過ぎるわ!!」

 

 

同じく物理ブレードで受け止めたエレンは抗議の視線を一夏に向けるが、一夏は逆ギレを始める始末。

 

セシリアは、コレを好機と踏んだ。

 

 

「貰いましたわ!行きなさい、ブルー・ティアーズ!!」

 

 

再び放たれたビット兵器に、二人は直ぐに鍔迫り合いを終了して回避機動に移る。

 

 

「エレン、これどうすればいい!?スゲぇ躱し辛いんだが」

 

「オルコットさんは優秀ですから、此方の死角を狙ってきているんですよ。しかし、的確過ぎて逆に読みやすい。では、そろそろ……俺は行きますね」

 

 

軽い調子で言ったエレンはビットの射撃を回避した瞬間、その移動経路を予測し、ブレードで両断。続くもう一基も同じ要領で切り裂くと、セシリアの元へ向かう。

 

 

「成る程……。俺達もやるぞ、白式!」

 

 

そして信じ硬い事に一夏もがビットの移動経路を予測し、ブレードで切り落として見せる。

 

湧き上がる観客の声に気分を良くした一夏も、エレンに続いてセシリアへと突撃した。

 

 

ーーーーーーー

ーーーーー

ーーー

 

 

「凄いですねぇ、織斑君とクロニクル君」

 

 

ピットでリアルタイムモニターを見ていた真耶がため息混じりに呟く。一夏はISの起動が二回目とは思えない程の健闘ぶりであり、エレンに至っては代表候補生のセシリアと互角にやり合っている。

 

しかし、千冬は忌々し気に顔を歪めた。

 

 

「一夏のヤツ、浮かれているな。……左手を閉じたり開いたりしているだろう。あれは、あいつの昔からの癖でな。あれが出る時は、大抵簡単なミスをする」

 

「へぇぇぇ……。流石ご兄弟ですねー。そんな事まで分かるなんて」

 

 

何気なしにそう言った真耶に、しかし千冬はハッとして話を逸らす。

 

 

「……それより、クロニクルの事だが。アイツは、相当手を抜いているな」

 

「えっ!?アレでですか?というか、そもそもクロニクル君は不明な部分が多いですよね……。自由国籍権を持ってるのに何処の国家にも帰属していませんし。あっ、もしかして。『アルファート』のカスタム機を使ってるって事は、『企業』のーーー」

 

「それだけは無いな。……まあ、アイツは少し特殊でな。山田先生も、近い内に知る事になるさ」

 

 

そんな二人の会話を気にも止めず、真剣な眼差しでモニターを見つめ続けているのは箒であった。

 

心なしか険しいその表情には様々な思いが含まれているが、それは彼女と親しい者で無ければ気づけないレベルの変化であった。

 

 

「……一夏」

 

 

そんな彼女が、モニターに映る少年の名前を呼んだ刹那。勝負が、大きく動いた。

 

 

ーーーーーーー

ーーーーー

ーーー

 

 

(ーーー獲った!)

 

 

先行したエレンがブレードによる斬撃を繰り出し、セシリアがそれをライフルの銃身で受け止めた時。一夏は確信めいたその直感に従い、一気にスラスターを全開にした。しかしその直後、目の前で大きな爆発が巻き起こる。

 

 

「何だ!?」

 

 

思わず急ブレーキを掛けた一夏。次の瞬間には目の前の爆炎からセシリアが飛び出して来ていた。その周りには、今までのレーザービットは違う形状のビットが二基浮いている。

 

 

「奥の手は最後まで取って置く物でしてよ!」

 

「やべぇ!」

 

 

惚けた一夏に、ミサイルが射出される。折角のチャンスが一気にピンチに変わってしまった。

 

 

空中を縦横無尽に駆け巡り、ミサイルを振り切ろうともがく一夏。しかし無情にもミサイルは一夏を飲み込み、そして派手な爆炎が巻き起こった。

 

 

「まさかこのタイミングでミサイルとは……計算外でした」

 

「あら、まだ残ってましたの。……まあ、男の割には中々粘った方ですわよ、貴方達」

 

「お褒めに預かり光栄です、貴族様」

 

「……バカにしていますの?」

 

「とんでもない。さあ、貴族様。貴方のお相手は彼方でございます」

 

 

仰々しく一礼したエレンが高度を下げて行く。そしてセシリアは反射的に爆煙の方向へと視線を向けた。

 

其処には、純白のISがいた。先程までとは違い、より洗練されたフォルムになっているそれは織斑一夏の専用機『白式』であった。

 

 

「ま、まさか……一次移行(ファースト・シフト)!?あ、あなた、今まで初期設定だけの機体で戦っていたっていうの!?」

 

「……ああ、多分な。でもこれで、漸く俺専用になった」

 

 

一夏はそう言って、形を変えた手元のブレードに目をやった。ハイパーセンサーからの情報に少しだけ目を丸くする。

 

 

ーーー近接特化ブレード『雪片弍型』。

 

日本刀から生まれたようなその刀身は、刀より反りのある太刀に近い。鎬には僅かに溝があり、其処から呼応するように光が漏れ出ている。

 

しかし、一夏が驚いたのは其処では無い。その名だ。

 

 

雪片。それはかつて、世界最強の女性(ブリュンヒルデ)が振るっていた刀だ。そして同じく名を冠する刀が、自分の唯一の装備となっている。

 

 

「ああ、まったく。俺は世界で最高の姉さんを持ったよ」

 

 

そして一夏の中で一つの思いが生まれる。

 

ーーー今までは、千冬姉に守られてきた。しかし守られるだけの関係は今日でお終いにしよう。これから先、手にしたこの力で今度は千冬姉を守って行きたい。その初めとして、先ずはーーー。

 

 

「とりあえず、千冬姉の名前を守るさ。そして、いつか……同じ舞台に立って見せる!」

 

「はっ、はぁ!?貴方、何を言っていますの!?……ああ、もう!行きなさい!!」

 

訳がわからないといった様子のセシリアは再装填の済んだミサイルビット二基を多角的な機動で一夏の迎撃に向かわせる。

 

対する一夏は雪片弍型のモードを変更。長大なエネルギーソードへと外観を変えたソレを片手に、ビットの迎撃を行う。

 

 

「ぜええぇいッ!!」

 

 

一夏は若干甘くなっていた機動を的確に見抜き、ビットを続け様に両断。しかしそれはセシリアにとっては計算の内。既にロックオンを終えたスターライトmk-3の砲口へ一夏へと向けていた。

 

 

「わたくしは、そう簡単に負けるわけにはいかないのですわ!」

 

 

完璧なタイミング、射角で放たれた青白いレーザーが一夏へと飛び込んで行く。突撃体勢に入っていた一夏は回避機動に入れず、思わず目を瞑るがーーー。

 

 

「一夏、行きなさい!!」

 

 

声は前から聞こえた。目を開いた先にいるのはエレンの駆る『アルファート・カスタム』。まるで盾のように一夏の前に立ちはだかり、青白いレーザーの直撃を受けていた。

 

エネルギーが0になり、緩やかな墜落を始めたエレンに小さく礼の言葉を口にした一夏は、今度こそ雪片弍型の間合いにセシリアを捉え、ソレを振るったーーー。

 

 

そして、勝者を知らせるブザーが鳴り響く。

 

 

『試合終了。勝者ーーーセシリア・オルコット』

 

 

その場にいた殆どの人間は首を傾げていたが、その理由を知るエレンは苦笑いを浮かべ、千冬は「やれやれ」という表情を浮かべていて。一夏は、不思議そうに唯の実体ブレードに戻っている雪片弍型に視線を落とす。

 

「……あれ。俺、負けたの?」

 

 

そんな一夏の虚しい声が静かなアリーナに響き渡った。

 

 

ーーーーーーー

ーーーーー

ーーー

 

 

「よくもまあ、持ち上げてくれたものだ。それでこの結果か、大馬鹿者」

 

「『とりあえず、千冬姉の名前を守るさ。そして、いつか……同じ舞台に立って見せる』。ねえねえ、一夏。これ、誰の台詞だと思います?カッコいいですよね~。あー、もう一回聞きたいなぁ」

 

「うっ、うぐぅッ!え、エレン!お前、流石にそれは酷いぞ!!」

 

「そうですかねぇ?折角盾になってまでチャンスを上げたのに、見事に棒に振った織斑一夏君」

 

「お、おぅふ……」

 

「そのぐらいにしてやれ、クロニクル」

 

 

漸くエレンの精神攻撃から抜け出せた一夏は安堵のため息をもらす。しかし、数秒後にはまたもや辟易してしまう。

 

 

「武器の特性を考えずに使うからああなる。身をもってわかっただろう。明日からは訓練に励め。暇があればISを起動しろ。……私と同じ舞台に立つのだろう?それならば、誰よりも多くの修練を積め。いいな」

 

「……はい」

 

 

しっかりと頷いた一夏の顔付きは数十分前の彼とはまるで別人のように逞しくなっていた。

 

 

「一夏、暫くは俺がコーチになって上げます。ビシバシ行くので覚悟して下さいね」

 

「ああ、頼むよ」

 

 

今日の戦闘でエレンが自分以上にISを動かせる事を文字通り身体に刻み込まれた一夏はその申し出にガッツポーズを決める。

 

最近始めた組み手で分かった事なのだがエレンは強いだけで無く教えるのも上手いのだ。そんな人がコーチをやってくれるというのなら、願ったり叶ったりである。

 

 

「えっと、ISは今待機状態になってますけど、織斑君が呼び出せば直ぐに展開(オープン)出来ます。ただし、規則があるのでちゃんと読んでおいて下さいね。はい、これ」

 

どさっ。『IS起動におけるルールブック』と書いてある電話帳並みの分厚さを誇るソレを前にして、やる気を起こしたばかりの一夏だが、またもや辟易してしまう。

 

 

「さて、久々のISバトルで疲れたので俺は先に帰りますね」

 

「疲れた?どの口が言うか、馬鹿者」

 

「ははは、手厳しいですね、ブリュンヒルデ。まあ、慣れない事をすれば誰でも疲れるモノですよ。ね、一夏」

 

「ん。ああ、そうだな。俺も慣れない事ばっかで疲れたよ」

 

 

ここでいう『慣れない事』のニュアンスはエレンと一夏ではかなり違うのだが、それに気付いたのはエレンの本来の実力を知る千冬のみであった。

 

 

「あっ、後。箒さんも明日からISの訓練を始めましょう。ISは訓練機を確保してあるのでご心配せずに。では、また明日」

 

「うっ、うむ。わかった」

 

 

言いたい事を言って去っていたエレンの後姿を見送った後、一夏と箒も帰路へつくのだった。

 

 

ーーーーーーー

ーーーーー

ーーー

 

 

シャワーノズルから熱めのお湯が流れ出る。水滴は白人特有の陶器のような白い肌に当たっては弾け、均整の取れたボディーラインを滴り落ちて行く。

 

同年代の白人女子に比べれば些か小振りな、しかし東洋人の女子に比べれば充分な膨らみを持った胸の内で、セシリアは物思いに耽ていた。

 

思い出されるのは、やはり今日の試合である。

 

 

どうして最後の場面で、いきなり一夏のエネルギーが切れたのか分からない。しかし、もしあの攻撃が当たっていたならばーーー今回の勝者は、自分ではなかった事は理解出来る。

 

何時だって勝利への確信と更なる向上への欲求を抱き、そして、何より残された唯一人の家族を守る為に勝ち続けなければならないセシリアにとって、今日の試合は大きな衝撃を与えていた。

 

 

(織斑一夏とエレン・クロニクル……)

 

 

織斑一夏は強い意思を瞳に宿した、現代では珍しいぐらい真っ直ぐな人だった。

 

それに対して、エレン・クロニクルは空虚な瞳をした、何処か掴み所の無い人であった。

 

 

正反対の彼等だが、しかし両者ともに強かった。セシリアの忌み嫌う実の父とは違って。

 

 

(嫌な事を……思い出しましたわね)

 

 

母は強い人だった。しかし、父はそんな母に頭が上がらない弱い人だった。そう、既に過去形なのだ。セシリアの両親は既にこの世にいない。唯一残っている肉親は愛する妹だけである。

 

セシリアはその妹を守る為に力を付け、そして代表候補生となった。日本に来たのもブルー・ティアーズの実働データを取る為であり、決して遊び感覚で来てるわけでは無い。セシリアが結果を出せなかった時、本国の者達の目は妹に向いてしまう。そうしたらきっと妹はその才能を見抜かれてしまうだろう。そうしたらISと無関係ではいられなくなる。妹を溺愛しているセシリアにとって、それは一番望ましく無い結末であった。

 

 

しかしセシリアは出会ってしまった。理想の中だけの存在だった、強い意思を持った男性に。

 

 

「織斑……一夏」

 

 

胸が高鳴る。ギュッと締め付けられるような感覚がする。その全てがセシリアにとって初めての経験で戸惑いを隠せない。

 

ーーー知りたい。この気持ちが何なのかを。

 

ーーー知りたい。どうして彼は、そんなに強い意思を持っているのか。

 

ーーー知りたい。織斑一夏の事を。

 

 

浴室には唯々水の流れる音だけが響いていた。

 

 

ーーーーーーー

ーーーーー

ーーー

 

 

「一年一組の代表は織斑一夏君に決まりました。あっ、一繋がりでいい感じですね!」

 

 

一夏は真耶が何を言っているのか一瞬理解出来なかった。そんな一夏に構わず大盛り上がりのクラス。一夏の疑問が確信に変わるが、それでも僅かな希望を捨て切れなかった。

 

 

「先生、質問です」

 

 

挙手。質問はてをあげて行うものだ。基本に則った一夏を、真耶は笑顔で指名する。

 

 

「はい、織斑君」

 

「俺は昨日の試合、散々格好付けた挙句負けたのですが、何でクラス代表になってるんでしょうか?」

 

「それはわたくしが辞退したからですわ」

 

 

ガタンと立ち上がり、早速腰に手を当てるポーズ。様になっているが、一夏は直ぐにどうでも良くなってしまった。

 

一夏の感心はそんな事よりも、昨日と比べてあからさまに変わった態度に向いていた。昨日までの一夏達を見下した感じは消え失せ、その代わりに非常に上機嫌な、そんな雰囲気に身を包んでいるのだ。

 

 

「まあ、勝負はわたくしの勝ちでしたが、しかしそれは当然のこと。何せわたくしセシリア・オルコットが相手だったのですからね。……それでまあ、わたくしも大人気なく怒った事を反省しまして」

 

 

そこで、セシリアは少し間を置く。ほんのり頬を紅く染め、何か躊躇するように両手の指を絡めている彼女に首を傾げる一夏。感の良いエレンは敏感に察知し、そしてニヤニヤと笑みを浮かべる。

 

 

「今回は一夏さんとエレンさんに譲る事にしましたわ。やはりIS操縦には実戦が何よりの糧。クラス代表ともなれば実戦には事欠きませんもの」

 

「いやあ、セシリア分かってるね!」

 

「折角世界で二人しかいない男子がいるんだから、同じクラスになった以上持ち上げないとねー」

 

「私達は貴重な経験を積める。他のクラスの子に情報が売れる。一粒で二度美味しいね、織斑君達は」

 

 

騒ぎ始めるクラスメイト達の中、一夏だけは釈然とせずにいぎをもうしたてる。

 

 

「ちょっ、ちょっと待った!セシリアさん!あんたの言い分はよく分かったけど、何で俺が代表なんだ?エレンでもいいじゃないか」

 

 

と言うか、寧ろエレンの方がーーー。となすりつける気満々の一夏の言葉を遮ったのはエレンであった。

 

 

「一夏。仮に昨日の模擬戦に順位を付けるとしたら、どうしますか?」

 

「は?そりゃあ、普通に残ってた順だろ……あっ」

 

 

そこまで言って一夏は墓穴を掘った事に気づいた。慌てて訂正しようとするも、エレンが言葉を続ける方が早かった。

 

 

「その通りです。一位はオルコットさん、二位は一夏。そしてビリが俺です。そして一位のオルコットさんが辞退したら、次に優秀なのは誰でしょうか?」

 

「……俺です」

 

 

男が一度言った事を曲げられるか!と下らない意地を張っていた一夏は遂に自分で認めてしまう。クスクスと笑みを零すエレンとは裏腹に、盛大なため息をついた一夏であった。

 

 

 




セシリアの妹はオリジナル設定になっております。
まあ、暫く出番は無いんですけどね……。

何と無く誰か分かった!という方。多分正解ですので胸の内に秘めておいて下さると幸いです(._.)


※エレンのアルファート・カスタムのカラーリングを変更しました。
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