東方弔意伝   作:そるとん

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風神録 厄神様の通り道

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 先に奥へと向かった魔理沙は樹海に1人足を踏み入れていた。

 昼だというのに陽の光は遠く、山風もあってか幾分肌寒かった。麓に広がる大きな樹海は、遠くから見れば四季折々の様相を見せてくれるものだが、打って変わって一度足を踏み入れれば二度と日の目を浴びる事は叶わないという噂ばかり聞く。牢獄のような樹海に、名前にもある通り妖怪の巣食う山なのだ。その通称からも、危険性は容易に窺える。

 

 そんな仄暗い木々の隙間を高速度で飛ぶ魔法使いは、どこまで行っても余裕綽々な態度であった。

 

 

「流石に、台風の中ここまで来ようとは思わんね」

 

 

 別に誰宛とは言わないが、呆れまじりの譫言を呟いてみせる。

 

 

(つくづく……アイツは何者なのかね)

 

 

 これから神を相手にするというのに、こんな時に思い浮かぶのは得体の知れない悪魔である。

 いやに人間じみた悪魔。

 それにしては冷酷さが滲み出ている。

 

 

「埒が開かねぇ」

 

 

 まとまらない思考を毛髪ごとグシャグシャにし、しかし一切スピードを緩めなかった。

 

 

 しばらくすると、1人眼前に立ちはだかるのが見えた。

 青々とした森の中で随分と目立つ赤いドレス。大きなリボンにそれもフリル付き。一目で人でないことが分かる。

 

 

「森に来る格好じゃないなぁ」

「私は人間の味方です。悪い事は言わないから早く立ち去りなさい」

 

 

 愛らしい見た目とは裏腹に敵対意識はかなり高いそう。一歩も引こうとしない姿勢はその眼差しから想像できた。

 こちらもそれなりの態度を示す。

 

 

「悪いけどここを通らない訳にはいかんのでな」

「───そう。」

 

 

 ……っ!と、妙な悪寒が走る。

 見た目以上に危険な存在かもしれない。そんな思考が脳裏を過ぎる。

 阿求から聞いたことがあったか。特徴的な装いはまさしく話にあった奴か。

 

 

「鍵山雛……」

「知っているのね。なら話は早いわ。立ち去りなさい」

 

 

 俄然と彼女はそう告げる。

 目の前の少女の名は『鍵山雛』。言伝に聞いた話ではあるが、厄をその身に集めては降り注がぬよう見張っているらしい妖怪。

 その特性あってか、人に対してさほど脅威ではなく、むしろ彼女の存在は非力な人間にとって有り難かったりする。

 

 しかし、彼女の身に宿り、漂っているのは集積された"厄"。

 同じ道を通らぬよう。目が合っても知らないふりをしよう。

 厄神様に対する有効手段は"関わらないこと"。

 

 

「触らぬ神に祟りなしってこういう事……」

 

 

 妙な悪寒も嫌な予感も彼女の持つ厄が放っているというのか。鍵山雛が意固地になってここを通そうとしないのも、人を思ってか。

 

 

「だがまぁ!余計なお世話だな」

「どうして……っ!」

 

 

 魔理沙は八卦炉を構える。

 お互い臨戦体制。既に衝突は免れない。

 退屈な魔理沙にとっては良い塩梅。やはり人生スパイスがなければ味もしない。

 

 

「覚悟しな!」

 

 

 弾幕射出と同時に雛は弾幕を展開する。

 自身を中心に一度弧を描くように魔理沙へと向かう弾幕はいやに不規則のように見える。

 連なる弾幕を追えば、直線に飛んできている筈なのにまるでカーブしながらこちらをホーミングしてくるような錯覚に陥る。

 射出された弾幕に沿って移動をしていると突然真横に弾幕が現れる。

 

 ぐっ!と箒を傾け左肩紙一重で躱す。

 どうにも視界は暗いし、気が重い。

 

 欠けていた集中力を取り戻さんと一度距離を置く。俯瞰的に状況を把握する。

 

 

(アイツを中心に弾幕が廻ってるのか)

 

 

 いやに規則的な曲線は単なるジャブ。その間に魔理沙を挟み込むように、同じく曲線を描いて雛に戻ってくる弾幕を展開していた。

 前方だけでなく、左右から迫り来るように鋭い弾幕を射出していた。

 

 加えて、気のせいかと思っていたが、やはり本当にこの一帯が暗く感じる。

 彼女の持つ厄が齎す事象なのか。

 長期戦は避けたいところであった。

 

 幸い、彼女はスペルカードの発動中あまり動かないようだった。

 なら、こちらも細かい動いて隙間を縫っていけば良い。

 留まれば動ける範囲が狭くなっていく。前と左右、確認しながら箒を動かしていく。

 

 

「流石に苦しいかしら」

「いーや、序の口だね!」

 

 

 今一度、八卦炉を構えた。

 

 瞬く間に魔理沙の背後で4つに展開されると、赤い魔法陣を作り出した。

 魔理沙は強く箒を自身の方へ傾け、速度を一瞬で落とす。

 

 攻撃範囲が狭い代わりに、持続的かつ高威力なレーザーをお見舞いする。

 

 

「イリュージョンレーザー!」

 

 

 細く赤いレーザーが同時に4本射出される。

 

 

「うぐっ…!!」

 

 

 刹那の間に届いたレーザーに雛は被弾する。迫りきっていた黄色の弾幕も霧散する。

 

 

「まだイケるよなぁ」

「早く帰って頂戴……ッ!」

 

 

 雛の目は一層鋭いものとなる。

 雛は後退しながらも弾幕を展開し続け、魔理沙はその後を追う。山はどうにも彼女ら妖怪の味方のようで、戦況は決して一対一のままではなかった。

 見た目に合わず、先のスペルカード中からも予想は出来ないほど、彼女は樹海の木々を難なくすり抜けていく。

 高速度で魔理沙が付いていけているのは、彼女の高性能な動体視力に他ならない。

 

 猛スピードで樹海を駆けていると、雛は再びピタリと止まる。

 反射的に魔理沙をブレーキを掛けると同時に、雛はスペルカードを発動させた。

 

 

「ブロークンアミュレット…!」

 

 

 彼女がそう唱え、右手を突き出すと途端、まるで六芒星のような弾幕が展開された。

 パッと咲いた星は煌めくように赤く、こちらに迫れば迫るほどバラけては軌道が読めなくなる。

 距離を置いては避けづらいが、弾幕展開時の範囲が広い。迂闊に近づくわけにもいかなかった。

 

 

「ねちっこいな……!」

 

 

 小言を吐きつつ、そっちがその気ならとこちらも星の弾幕を展開する。

 

 

「スプレッドスター!」

 

 

 低速となった事で八卦炉の位置を自身の周りに固定化。魔理沙が射出する星型の弾幕に追随するように弾幕を放つ。

 雛は迫りくる星を自身の弾幕で相殺しようとする。彼女を守るようにも見える六芒星と衝突した魔理沙の弾幕は、一瞬の閃光を放ちながら爆発する。

 

 

「っ……!?なんてものを…!」

 

 

 間近で防御した雛は爆風を浴びる。

 視界も一瞬奪われる。ほんの数秒だが、戦場において数秒は極めて貴重。

 

 そっちが保守的な弾幕を張るなら、こっちはより高火力で挑む。

 

 

「このまま押し切る!」

 

 

 絶え間なく射出される星は放射状に雛へと向かう。彼女には八卦炉の弾幕が被弾すれば良い。星は可能な限り広範囲に。爆風が彼女の行動を制限出来れば上出来だ。

 大量の弾幕を瞬時に展開するこのスペルカードだからこそ、無造作に打っても必ずどこかに当たる。

 気づけば魔理沙自身、爆風と煙で雛の位置が分からなくなっていた。

 

 ただそれと同時に、気づけば弾幕も消失していた。直線上に飛ばしていた弾幕はしっかり当たっていたようだ。

 

 空中に漂う爆煙が次第に晴れ、赤いドレスが視認できるようになる。

 まだくたばっていないようなら追撃をするつもりで、魔理沙は近くに寄り八卦炉を構えておく。

 

 

 それと同時に、一瞬の間で赤い弾幕が渦を描くように展開された。

 

 

「創符、ヘインフロー」

 

 

 まずい、油断した。

 すぐさま箒の柄を引き寄せ、彼女から遠ざかる。そもそも、彼女には迂闊に近づいてはいけなかった。今までの弾幕も、思えば近づけないように展開されていた。

 

 どこまでも人想いってやつらしい。

 

 

「くそっ……!」

 

 

 すぐさま後退しようとするが後ろ方向の移動に些か難点のある移動方法なだけに弾幕は極めて接近する。

 

 瞬時に空飛ぶ箒の柄に立ち、宙返りをして自身と箒の間に弾幕を通す。

 

 

「あっぶなぁ……やれば出来るもんだな」

 

 

 再び箒に跨り、体制を立て直してから、弾幕をよく見てみる。

 さっきまでの弾幕と比べ一回り大きな弾丸のような弾幕。鋭くこちらに向かう弾幕は規則的に渦を描いている。

 隙間は十分にある。落ち着いて狙えそうだ。

 

 絶え間なく、ただ直線に向かってくる弾幕の隙間を縫って攻撃を繰り出す。先までの弾幕に比べたら幾分易しいような気がしてならなかった。

 ある程度パターンが読めれば、躱すのに費やす労力を最小限に抑えられる。小さな移動で被弾を免れればこんなにオイシイ弾幕はない。

 

 厄神とは名ばかりかと、少し残念に思っていたところ。突然弾幕が腕を掠めるようになった。

 

 ハッと意識が覚醒する。知らずのうちに没頭していた。重くなっていた空気に釣られ脳が簡単な思考ばかり繰り返そうとしていたことに気づく。

 

 再び距離を取ると、弾幕の異変に気づく。

 

 

「……バラけてる」

 

 

 虎視眈々と雛を狙い続けていると、次第に魔理沙の付近で弾幕が解け始めていた。

 1つの針のような弾幕かと思えば、次第に2つ3つと、遠ざかるほどバラけてくる。

 

 

「お願いだから……はぁ…帰って……!!」

 

 

 鍵山雛は既に限界が近いようだった。

 息も絶え絶えで大質量の弾幕を放つ様は血気迫るものだった。

 時間の経過とともにバラけ始めるのも、彼女の疲れが如実に現れている証拠だろう。

 とはいえ、力任せの弾幕も厄介に変わり無い。規則的だとタカを括って油断していればあらぬ被弾をする。

 

 落ち着いて、一撃加えればここは勝ちだ。

 

 

「悪いけど、通させてもらうぜ」

 

 

 この時、スペルカードもレーザーも爆撃も必要ない。

 ただ一撃。たった一撃。ほんの一瞬生まれる、魔理沙と雛を間を繋ぐ空白。

 狙い澄ました一撃は、ノーガードの雛へ直撃した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうして……」

 

 

 光の粒となって消える弾幕とともに、鍵山雛は落下。

 煤だらけの彼女に魔理沙は近寄る。

 

 

「じゃ、通させてもらうぜ。お大事にな」

「あ、貴女は……」

 

 

 か細い声で魔理沙へ問う。

 

 

「本当に人間なのかしら……」

 

 

 鍵山雛に言わせてみれば、生身一つでこんな山に登る存在は、少なからず彼女が人としてカウントしている存在の中にはいなかったのだろう。

 人里にて、変わらぬ日々を送り、時々訪れる異変に一喜一憂、胸を躍らせながら、しかして死からは遠ざかりたい存在。

 人とは、そうあるべきなのだろう。

 

 誰が決めたのかも知らないが。

 

 

「あぁ、間違いなく人さ」

 

 

 別に誰とは言わないが、妙にヤツの顔が思い浮かぶ。

 

 人なのかどうか。

 

 そんなのこっちが聞きたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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