東方弔意伝   作:そるとん

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風神録 山の妖怪ら

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局魔理沙と別行動となってしまった霊夢は、1人淡々と山道を進んでいく。だいぶ進んだと思われ、敵の数は次第に増えていく。正確な弾幕で撃墜数を重ねながら急ぎ頂上へ向かう。

 会って早々喧嘩を売るような巫女だ。どうせ神社は天辺に堂々と構えてるに違いない。

 完全に憶測だが、何より彼女の勘がそう告げていた。

 

 徐々に要塞のような厳つさを纏い始めた道すがら。曲線だらけの道を飛んで移動していると、不意に木が揺れる音がした。

 反射的に霊夢の体は急停止をした。音の正体を認知したのは霊夢の鼻先を正体が掠るのと同時だった。

 

 鋭い弾幕が紙一重で霊夢を擦り、対面の大きな滝に着弾すると水飛沫を上げながら華々しく弾けた。

 

 

「随分なお出迎えじゃない」

 

 

 若干怒りを孕んだ言い方をする。

 正体は未だ掴めていない。周囲を警戒しながら、霊夢は臨戦体制に入った。

 が、次に聞こえたのは随分と拍子抜けな声だった。

 

 

「あややや……」

「げっ、まさか」

「まさかはこっちのセリフよ。侵入者の報告を受けて来てみれば貴方とは」

 

 

 ガサガサと茂みから姿を現したのはやけに見知った天狗『射命丸文』であった。文屋以前に天狗の彼女は妖怪の山に拠点があって当然であった。そもそもこの山の頂点たる存在はそもそも天狗だ。天魔が天狗である事からもそれは伺えた。

 しかしこのタイミングで、お出ましになるとは霊夢も思っていなかった。

 

 

「さては天狗も揃い踏みで新しい神とやらに言いなりな訳?」

 

 

 射命丸はムッと顔を顰めた。

 

 

「聞き捨てならないわね〜。別に新参者の指示じゃないわよ。調子乗ろうもんなら天狗達で片付けるつもりなのよ」

 

 

 どうやら、来てまだ日が浅いようだった。

 確かに騒ぎになったのはここ数日の話ではあるが、それでも段取りや計画を練る時間を要したはずだ。それなりに影響力も大きな神なら尚更、妖怪の山で数日身を潜め続けるのだって簡単な話ではない。天狗のみならず妖怪共が揃いも揃って大層なお出迎えをするこの山に身を潜めるなんざ。

 元からこの山に居た連中も、どうやらその新しい神の動向を気にしているらしい。

 

 

「まぁ、私もそんなような目的なの。ちょうど良いし案内してよ」

「さっきも言った通り私は報告を受けて侵入者の排除に来たって立ち位置なの。おいそれと通すと後々面倒なのよ」

「天狗社会はいやに面倒ね」

 

 

 薄々分かってはいたが射命丸も今回の異変をあまり面白く思っていないそうだ。何かあれば嬉々として駆けつけては茶々入れて帰るような奴なのに。自身のテリトリーで何かあると扱き使われる事になるのだな。少し不憫だと思った。

 

 

「私は新聞屋なのに……」

 

 

 ごもっともである。

 

 

「とにかく、組織として動いてる以上私の責任で勝手は出来ないの。怪しく思われない程度に、適当に突破しちゃってよ」

「とっととやられたフリでもしてくれたらいいのに……」

 

 

 霊夢とはやり合いたくない様子であった。

 お互い口裏を合わせると、それとなく弾幕を展開した。

 あくまで形式的な弾幕ごっこ。

 これぞ本当に"ごっこ"だなと霊夢は感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 霊夢と離れて行動してから、魔理沙は木々の隙間を縫うように機敏に山林をすり抜けていく。

 霊夢と共に登ってきた道とは打って変わって、辺り一面木、木、木。さっさと頂上を目指そうと横着を思いついた結果、あわよくば遭難みたいな景色に飲み込まれていた。

 幸いなことに飛べるものだから、その心配もない。よくそこまで大きな箒で器用に飛べるものだと道行く人は感心すら覚える。

 

 鬱蒼とした森を数分間飛行していると、前方に一筋の灯が差し込んでいた。

 

 

「おっ、ようやく道なりに出たか」

 

 

 恐らく霊夢は、自分が鍵山雛と戦闘しているうちに先に行っていると魔理沙は考えていた。

 それもあってのショートカットであったが、どうやら少し山道から脇に逸れた場所に出たらしい。

 初夏とも言えるこの季節。ただでさえ涼しい山の中でも一際凛と冷えていた。

 

 木々が擦れる音の背後に、絶えず流れるのは大量の水が注がれる音。

 

 

「滝……?」

 

 

 異変と戦闘を経て少しばかり昂揚していた心臓がスッと落ち着く感覚がした。

 が、すぐに魔理沙は辺りを警戒した。メインの山道とは打って変わってやけに静かだった。誰もこちらから人が来るとは考えていない故に天狗を配置していないのか、はたまた奇襲を考え潜んでいる奴がいるか。いや、そこまで頭を使えるやつはいないか。

 箒から一度降りて、あえて敵意を隠した。誰かいるような気がしてならない魔理沙は怠ることなく視線を動かし続ける。

 

 

「ん?」

 

 

 眼前に広がる滝は青々としていた。足元には長年打たれ続けて出来た水たまりはまるで小さな湖のようだった。

 一瞬、この景色が歪んだように感じたが。

 

 

「………………んん?」

 

 

 気のせいではなかった。

 疑わざるは罰する。問答無用である。何もないなら何もないで良い話なのである。

 

 

「ますたーすぱぁーく!!」

「うわーっ!!」

 

 

 透明になる能力なのか。本当に何かがいた。

 狙いが定まらないので太いビームを手当たり次第打って……などと考えていた魔理沙も少しびっくりしていた。

 

 

「あーあ、私の光学迷彩スーツが壊れちった」

「アタシが壊した。何もんだ?」

「河童の河城にとり!よく見つけられたね」

「目立ってたからな」

「じゃあ早く帰んなね、この先は危険だよ」

「なんだよ、どいつもこいつもすぐ帰そうとしてからに」

 

 

 魔理沙はどこ行って誰と喋ってもこれしか言われないものだから少しうんざりしていた。

 もとより妖怪の山は人の来るような場所ではないとの話は散々聞いてきた。事実その通りである事は否定しないが、こうも行く先々人間は帰れと言われると虫の居所が悪くなる。

 間違いではないのだろうけど、自分がそこいらの“人間”と同じ土俵に見られるのが少し苛立った。

 

 

「お前だって入んなって言われたら入りたくなるだろ」

「ならない。だから早く帰んな」

「強行突破するぜ」

 

 

 お互い話が早かった。

 河城にとりも相応の準備はしてあったそうだ。最初に彼女の光学スーツを壊しておいたのは正解であった。でなければかなり厄介な相手だった。

 大きなリュックを背負った小柄な少女は幾何学なマシンを展開する。

 

 

「うげ、なんだありゃ」

「河童の工学力は世界一〜!!!!」

 

 

 決まり文句のようなセリフを一つ吐いて、河城にとりは弾幕を展開した。

 

 

「機械は使わないんか」

 

 

 だったら仕舞っておけば良いのに。

 魔理沙は呆れまじりに八卦炉を取り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 流石に目が慣れるまで時間を要した。

 最速を謳うだけある天狗だ。毎日ちょこまかと鬱陶しいと思ってた文屋だが、いざ相対すると実に厄介。ロクに狙いは定まらないし手数はそれなりに多かった。

 だが、回避するのは別に難しくなかった。いかに射命丸が手を抜いてるかが分かる。

 加えて、彼女は近接格闘が不得意なのかこちらに寄ろうとはしなかった。

 

 

「誤魔化すってたって……」

 

 

 こんなに遠かったら、逆に誤魔化しきれない。乱戦に乗じてそれらしく終わらせようと思っていた霊夢は終局手段に困っていた。

 仕方がない。そう思い、霊夢は射命丸に一気に詰め寄った。

 

 ぐっと、下から抉るような角度で射命丸の眼前に現れると「あやっ…!?」と声をあげる彼女に耳打ちをする。

 

 

「神社の場所はどこ」

「ーーっ!この先。つまり山の上」

「ふぅん」

「もうっ!」

 

 

 近さに耐えかねたか霊夢を引き剥がす、流石に妖怪と人間。力の差は今し方歴然であると感じた。だが、やはりこちらの方が都合が良い。

 

 

「もう、一体……えっ」

 

 

 驚愕に射命丸の弾幕が止んだ一瞬を狙い、霊夢は周囲に大量の弾幕を張り巡らせた。

 

 

「もう一度行くわよ」

「な、なるほど……」

 

 

 今度は真意が届いたようだった。とても周りから2人の様子は目視できそうになかった。それほどまでに強大かつ大量な弾幕を展開して見せた。絶えず放射状に広がっていく弾幕の中心部は、さながら、台風の目のようで、決して逃げる事は許されない闘技場のようだった。2人はその中で、近接攻撃と細かい手数を与えながら会話をする。

 

 

「いつやって来たの」

 

 

 霊夢は右手に握ったお祓い棒で射命丸狙って振り翳す。

 射命丸はそれを落ち着いて躱していく。

 

 

「ほんの2週間前。湖ごと山の上に神社が引っ越して来たみたい」

 

 

 射命丸は間合いを取るように蹴りで霊夢を牽制すると、すかさず弾幕による射撃を行う。

 わざと霊夢を外すように打たれた弾幕を勿論見切っており、霊夢は大袈裟に躱すとまた距離を詰める。

 

 

「それから布教活動に及ぶまでどれくらい?」

「山を自分のものにしようとし始めたのはすぐよ。そのせいで天狗を手を焼いていたの。本当厄介」

 

 

 また距離を取ろうとする射命丸を見て、先回りするように陰陽玉を展開する。

 

 

「人里に来たのは」

「知らない間に。それこそつい最近じゃない?」

 

 

 射命丸は器用にもアクロバットな動きを見せて避ける。

 

 

「神様ってのはどんな奴よ」

「詳しくは見た事ないわ。霊夢くらいの歳の巫女と、図体のデカい神一柱」

 

 

 間髪入れず射命丸狙って弾幕を数段放つ。無防備な状態であるはずなのに、大きな羽を細かく動かし、空中を自由に泳いで躱わす。

 霊夢は、射命丸の思惑通り距離を取られる。今一度向き直った射命丸はこちらに右手を翳す。

 

 

「私とは違って、ゴリゴリの肉弾戦を仕掛けてくるわよ」

「なに、既にやり合ったのアンタ──ッら!?」

 

 

 霊夢の姿勢が整っていないうちに、射命丸は鋭い弾幕を数発放つ。今度は的を外さず、一直線に霊夢へと向かっていった。

 

 

「……っぶないわねぇ」

「思わず本気になってしまったわ」

 

 

 依然として変わらぬ態度だが額に汗が滲んだ射命丸は、いつになく目が真剣であった。想像以上であった霊夢の実力に手加減等と言ってられなくなったのだろう。

 見えているのか本能なのか。不意打ちですら悉く躱わす霊夢に思わず舌打ちをする。

 射命丸の気持ちもいざ知らず、霊夢は三度距離を詰める。

 

 

「で?交戦した訳?」

「私じゃないけど、身内がね。漏れなく返り討ちにされたらしいけど」

 

 

 華奢な体躯に合わず、天狗相手に肉弾戦を持ち込む少女に思わずたじろぐ。射命丸は落ち着いて飛んでくる棒やら拳やら蹴りを往なしては、防ぎ、体制が崩れたところを間伐入れず反撃する。

 

 

「天狗が返り討ちって……」

「えぇ、肉弾戦でね。複数対1人にも関わらず」

「巫女は?」

「出てこなかったみたい」

 

 

 徐々に押され始める射命丸。ガードの手も緩くなってきた。甘くなった防御の隙を掻い潜ってダメージを与えていく。

 

 

「いつにも増して厄介ね」

「貴方もッ……気をつけなさいよ」

「終いね」

「ヤバッ……!!」

 

 

 霊夢が呟くと、射命丸は本能的に飛び退いた。自身が不利である事は理解していた。ただ、霊夢の猛攻が逃げる事さえ許そうとしなかった。一瞬攻撃の手が緩んだが、それは最後の一撃を与える“溜め”である事は疲弊した脳でも察知できた。

 一つ射命丸が間違えたとすれば、最後の一撃も“近接”だと判断したことだった。

 

 

「───ッぐぅ!!」

 

 

 近接であれば躱せる距離だった。

 霊夢は射命丸が距離を取る事を予想していた。十分な距離を取られる前に、一際大きな弾幕1つを目の前に展開した。

 射命丸に当てる訳ではなかった。2人の間で爆風を伴って炸裂させた。射命丸は衝撃をもろに喰らって───

 

 

「ッッたぁ!!!」

 

 

 高速度で地上へ落下した。

 

 

「ッ……はぁ…まさかここまでとは……」

 

 

 射命丸は落胆しているようだった。思いがけず真剣に勝負をして負けた。その事実がやけに悔しかった。

 

 

「アンタ強いのね」

「そういえば、本気で戦ったことなんてなかったかも」

 

 

 けれどどこか楽しそうな表情をしていた。

 

 

「貴方なら本当に倒せるかもね。あの神様に」

「そりゃどーも。先行くわね」

「もうすぐよ。覚悟しておくといいわ」

 

 

 霊夢は後から考えて、結局山の連中も、新しい神とやらを倒して欲しかったのかもなんて仮説さえ浮かんだ。

 よほど厄介者に思われているようだ。確かに勝手に来て好き放題やられちゃ溜まったものではないが、神様の側にいるものとして、どこにも居場所がないように思えてしまうのは少々不憫なように感じた。

 

 

「……甘いわね」

 

 

 自分の思考に厳しい評価をつける。

 随分丸くなったものだ。この世界のバランスを崩すのなら誰であろうと容赦はしない。そういうスタンスでやって来たはずだ。

 

 迷いなく先へ進む体とは裏腹に、些か整理のつかない心は、霊夢に一抹の緊張を与えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦況は不利の状態で始まった。

 河童と水辺で会ったのだから余計な事は言わず帰るフリして誤魔化すだとか、一撃でとっとと突破すれば良かった。

 水辺をテリトリーとする存在と、滝壺でエンカウントしたのは、やはり不運だと思うほかなかった。

 

 

「なんだこのエネルギー量……」

 

 

 にとりの弾幕はさながら水流の如く滔々と放出されていく。魔理沙からしてみれば、これまた水の如く起動が読みやすいものだから躱わす事は容易だった。

 問題なのはその量である。

 

 

 もうかれこれ十数分は持続している。初手から爆発的な勢いでパッと咲いては徐々に追い詰めていく。とてもその小さい体のどこに仕舞われているのか分からない。

 しかし、魔理沙には概ね予想できていた。

 はじめに展開した謎の機器。魔理沙の八卦炉然り、霊夢の陰陽玉然り、河城にとりの膨大なエネルギーを確保する手段に違いない事は確実視できた。その証拠に、やけに大きなホース状の機械はにとりの真下の滝壺へ伸びている。

 おまけに、にとりはあまり大きく動こうとしなかった。

 

 

「水があるだけ無限に戦えるってこったな」

「ぅげ、もう見切られた」

「河童と水なんて、ありきたりな組み合わせよ」

 

 

 お約束、と言ってしまえばそれまでだった。にとりの無尽蔵のエネルギーは無尽蔵に流れる水から供給されるものだった。

 

 

「河童と水は古来より友達なんだよ」

「お前らのテクノロジーはいつか水を腐らせるぜ」

 

 

 科学と技術の進歩につき、第一に犠牲になるのはいつの時代も自然である。

 それはごく必然的で。

 

 だが、このままでは埒があかないものだから、やはり魔理沙には強行突破以外選択肢はなかった。

 

 

「悪いけど、通させてもらうぜ」

「聞き分けが悪いなぁ〜、も〜、あ、えっ」

 

 

 にとりは発言の途中で己が身体に危険が───今まさしく───及びそうになっている事実に直面し、思わず固まった。

 大量に視界を塞ぐ青い弾幕の隙間から見えた魔法使いは、不敵な笑みを浮かべて、八卦炉を構えていた。

 

 やばっ、と彼女が声を漏らすのと同時に、視界は閃光に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 重たいリュックを背負っている筈が、にとりはすぐに力なく水面に浮かんできた。

 

 

「強い〜……ゴリ押しだけど」

「水ごと蒸発させりゃ問題ないね。先行くぜ」

 

 

 一応死なれても後味悪いので無事を確認してから先に行く事とした。強火のマスタースパークはある程度加減し、目的はその背後の機器の破壊に専念した。とはいえ、極太レーザーはにとりの左半身を熱く焦がした。

 プスプスと煙を立てながら、変わらぬ態度をとる彼女を見て問題はないと判断した。

 

 箒に跨り、もう目の前に見える山頂へ向かって飛び立つ。

 

 

「知ってるかもしれんが、山の神について」

 

 

 ぷかぷかと浮かんだまま、にとりは話を始めた。

 

 

「あん?」

「最近山頂に不穏な神が居座ったもんで。河童も天狗もピリついてる」

 

 

 天狗に至っては一度敗走を喫してるもんだから尚更。聞き間違いでなければ魔理沙は確かにそう聞き取った。

 

 

「なんでそれを私に?」

「……あとは好きにしな〜」

 

 

 一瞥もせず手をヒラヒラとするだけのにとりを尻目に、今度こそ滝壺から飛び立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 








遅くなってすみません。
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