東方弔意伝   作:そるとん

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風神録 激突×激突

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いよいよ、視界の上を遮るものがなくなってきた。一度この坂を越えれば、先に見えるのは遥か広大に見下ろした幻想郷である。

 異変解決なんて名目がなければ好んでこんな山に登山しようとは霊夢ですら思わなかった。せっかくなら山頂からの景色を拝んでやろうと、速度を緩めず一直線に山道を飛んで抜ける。

 

 

 ザワザワと揺れる木々の音を置き去りに、些か平坦になった道の先へと抜ける。

 さぁっと、風が吹き抜ける音がした。

 

 

「うわぁ、デカ……」

 

 

 霊夢の眼前に広大な地は見えず、見える範囲大体全てを埋めるのは紛うことなき神社であった。

 入ってすぐ、悠々と聳える鳥居。その奥に佇むは本殿は遠くからでもその大きさは伺い知れる。

 そして何より、

 

 

「何この、気持ち悪い量の柱は……石柱…?」

 

 

 長い参道を挟み込むように大量に、それも等間隔に建てられている石柱に思わず顔を引き攣らせる。ご丁寧に一つ一つしめ縄が施されており、さながら神を現しているのだと見せ示すには十分すぎた。

 

 

「一柱、二柱…さん……やめた、具合悪くなってきたわ」

 

 

 なんだか指差しで神を数えているような気がして、少し巫女としては居た堪れなくなった。

 ここにずっと居ては気が触れてしまいそうで、さっさと片付ける事にした。

 

 

「はぁ……出てきなさい!誰がいるのか知らないけど!」

 

 

 我ながらよく通る声だと思った。

 遮るものがなく、遠くまで声が伸びていった気がした。

 霊夢の凛とした、若干語気鋭くなった申し出には割とすんなり応じてくれた。

 

 

 

 

 

 

──────。

 

 

 

 

 

 

 物々しい雰囲気と共に。

 

 

 

「………………」

 

 

 霊夢はグッと息を呑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───────我を呼ぶのは何処の人ぞ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○○○

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 妙な河童との一戦の後、すぐに山頂へと向かったが、道中霊夢と鉢合わせる事はなかった。

 一体何処に分かれ道が有ったのだろうか、麓では同じ入り口から同じ道を通った筈であったのに。

 いやそんな事はどうでも良い。魔理沙は徐々に姿を現し始めた神社に一抹の緊張感を覚える。

 昂揚と云うべきか、治まりそうにない鼓動を鎮める術はこの先に在わす神様を一度ぶん殴る事にあった。

 

 

 山頂へと辿り着くと同時に清涼的な雰囲気を感じる。頭は冷え、鼓膜を激しく打っていた心音は瞬く間に息を潜めた。

 しかし、どう見ても神社の裏手側だった。

 大本命は表立って出てこない。見栄え的にはやや劣るが問題の神様とやらはこちらに居るに違いない。魔理沙は不敵な笑みを浮かべていた。

 

 

 

──────。

 

 

 

 神社が侵入者に気付いたような気がした。規則性のない乱れた風が魔理沙に纏わりつくように吹いた。

 少々伸びた前髪は目の前で暴れ、飛ばされそうになる帽子を右手で押さえて、視界のやや上を見やる。

 

 

 揺れる髪の隙間から覗いたのは明らかな巫女装束だった。

 

 

「ハズレかぁ」

「はぁ!?」

 

 

 舌打ちとともに思わず漏れ出たそんな言葉。

 2Pカラーのような巫女装束を身に纏った少女は、思わず語気鋭く申し向ける。

 

 

「ここは守矢の神社。忘れられた過去の神社よ」

「幻想郷入りも納得だな……」

「外の世界から神社の湖ごと移動してきたのよ!」

 

 

 そんなこと出来るんだ。至極当然に魔理沙はそう思う。神社ごと忘れられれば、神社ごと幻想入りするもんなのだろうか。

 得てしてその社に住まう神は存在出来るものなのか。

 出来ないからここに来たのだろうと魔理沙は考えた。

 

 

「あんた誰?まさか、巫女?」

「私は風祝の東風谷早苗。外の世界では絶え果てた現人神の末裔」

「じゃあ巫女みたいなもんか。霊夢みたいなやつの事かと勘違いするとこだった」

「霊夢……彼女も来てるの?」

「何処に行ったかは知らん」

 

 

 ただ心の何処かでは、差し障りなくこの神社に辿り着いていると信じて疑わなかった。にしてはやけに静かで、悪神以前に巫女すら見て分かる通りピンピンしている。

 何処に行ったのやら。

 

 

「ふーん、ところで。貴方は何者ですか」

「私は魔法使いの魔理沙。悪い神様を懲らしめに来たんだ」

「変な人間ね。私も懲らしめるの?」

「あぁ、邪魔するんならな」

「なら私も懲らしめなきゃね」

「ぁん?誰をだよ」

「貴方よ」

 

 

 東風谷早苗は依然として余裕綽々な笑みを浮かべる。

 神を信じようとするその魂胆が表情によく滲んでいる。現人神と名乗る程のことはある。ただの人間とたかを括ると痛い目を見そうだ。

 

 

「奇跡をとくと見なさい」

「……気に食わねー」

 

 

 いざ開戦。

 またしても一陣の風が吹く。非常に不安定で稚拙な火蓋を切るには、十分な風だった。

 

 

 魔理沙は箒に跨り、足元の砂利を深く抉った。

 

 ひゅおっと一際強い風が吹く──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 遠くで数回、衝撃音が響く。

 

 

 

 

 

 

 

 

──────瓦が剥がれる音と共に、見覚えのある巫女姿の少女が吹き飛んできたのは、同時のことだった。

 

 ガシャガシャと、まるで硬い鎧が擦れ合い剥がれるような激しい音がする。

 

 

「え、霊夢!?何してんの」

「いっ…………つぁあ…」

 

 

 凄まじい砂埃を上げ、勢いそのままに塀に打ち付けられたのは、他でもない、途中まで同じ道を通ってきた博麗の巫女。

 綺麗に整えられた砂利庭を削り、少し脆くなった塀にヒビを入れ、彼女は止まった。

 

 

「何があったんだよ……!?」

「妖怪とは訳が違うわ……」

 

 

 未だ闘志の宿った目が差し向けられているその先、明らかに異質な気を感じる。

 弾幕なんか遠くから見えなかった。

 やり合っている様子も、音も、雰囲気もなかった。

 

 吹き飛んできた霊夢も、そりゃ全身埃まみれだが、戦意喪失までは見えない。

 もしかして、"初手"か?

 

 

 

「あっ、神奈子様。ちょうど良いところに」

「おー、そっちにもお客人か」

 

 

 神奈子様、と現人神に呼ばせるその存在は、至って飄々としている。しかし先にも述べた通り、異質だ。

 

 

「霊夢立てるか」

「上等……ッ!」

 

 

 心底負けず嫌いの霊夢は軽々しく起き上がる。霊夢の能力のことだから、早々心配はなかったと魔理沙は思う。

 とはいえ、油断は命取り。

 

 

 肌がヒリつくような緊張感は久方ぶりのような気がして、魔理沙はやはり高揚を覚えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

○○○

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は少し遡る。

 

 

「お?なんだ麓の巫女じゃないの。なんか用?」

 

 

 随分と親しげに話しかけられたものだから、一瞬呆気に取られる。

 

 

「随分フランクな神様ね」

「最近はこういう方が信仰あつまんのよ」

 

 

 試行錯誤の結果がよく見える。

 訳あってここに来るに至った神だ。その気苦労は伺い知れないが、まぁそれとこれとは訳が違う。

 

 

「ウチの神社乗っ取ろうとすんの、アレやめてくれない?」

「乗っ取るなんて人聞きの悪い。私は救いたいだけなのよ」

「困るんだけど」

 

 

 こちらの主張など意にも介さず、神はペラペラと喋り始める。

 

 

「私が救いたいのは貴方の神社。人が集まるように、信仰が集まるように、妖怪からだって守ってあげられるように」

「余計なお世話。アンタ祀ったって信仰増えるか分からないじゃない」

 

 

 結局人の価値観を集約することなどまず不可能。ましてや、割とここまで力技のような方法で活動している神社の神なんざ信頼できなかった。もちろん、真面目にやっていたとしても霊夢の信用を勝ち取るには至らない。

 もう既に戦闘必須。どちらかが刀を抜けば、一度にしてここら一帯は荒れる。

 しかし、目の前の神はまだ演説を続けようとする。

 

 

「信仰は0より減らないさ」

「忘れ去られた神が何言ってんのよ」

「幻想郷に足りないのは神様を信じる心だ」

 

 

 言われてふと気づく。

 何者にも忘れ去られた存在が行き着く先。そこに住まう神は果たして信仰なんざそもそも集められるのだろうか。

 どこか腑に落ちてしまう。幻想郷の里にて暮らす人々は、言ってみれば真っ白だ。そりゃあ、中には何かを信仰する者もいるのだろうけれど、良くも悪くも、ここには外の世界において知名度の高い神は居ない。ここに来る理由がないからだ。

 すなわち、信仰対象は神だけに留まらない。

 

 ふっと、色を与えれば、瞬く間に塗りつぶされていく。

 

 いよいよ、退く理由がなくなってしまった。

 

 

「どうやって信仰を集めるかは私が考えること。貴方は必要ないわ」

「なに?」

 

 

 声のトーンが1つ下がった。その表情に先ほどまでの親しみやすさはない。

 

 

「神社は巫女の為にあるのではない。神の宿る場所だ!」

 

 

 一際激しい声が耳を襲う。心なしか耳の奥が地鳴りのように鳴っている。なんだ、いよいよ体も不調かと霊夢は思った。

 しかし耳鳴りは治るどころか激しさを増していく。

 というか、耳鳴りではなかった。

 

 

「そろそろ、神社の意味を真剣に考え直すべきよ!!」

 

 

 さながら男神のような口振りで荒ぶる神は徐に手をかざす。何処からともなく彼女の背後には紙垂をたくさん付けた太い注連縄が現れた。

 バッと花開くように展開された遥かな注連縄に気を取られ、霊夢は地響きの正体に気づくのが遅れた。

 

 

「────!!」

 

 

 足元に違和感を覚え、咄嗟にその場から飛び退く。

 バキバキと音を立てて、地中から現れたのは一本の御柱であった。鋭く角張った石柱が、瓦礫を押し除け天高く突き出る。

 

 

「ッ……なによこれっ」

 

 

 ほんの一瞬相手から目線を外した事に気づくと、すぐさま体制を整え目線を前に向ける。

 

 と、御柱が霊夢目掛けて飛んできたのはほぼ同時。

 

 

「チッ……!!」

 

 

 持ち前の反射神経で直撃を避ける。高速度で眼前に迫っていた柱は霊夢の身長の軽く倍はあり、衝撃地点の破損具合から決して模型だとかサンプルではないことは確かであった。

 不意打ちを喰らったようなもので、霊夢の心拍数は密かに上昇する。

 このままではマズイと考え、弾幕を展開する。あくまで攻撃としてではなく、飛んでくる石柱の直撃を避ける為。大袈裟に爆風が出るようなものを、飛ばさず身の回りに置く。

 

 案の定、着地を狩るようにもう一本飛んでくる。

 

 

(ここで目眩して、距離を詰めるか)

 

 

 着地と同時に一歩飛び退く。鼻先を掠めそうな距離に柱が突き刺さる。

 着弾と同時に、霊夢が展開した弾幕は閃光と共に弾け、煙を上げる。

 

 

(いや、近接が得意だっけ。様子見ね)

 

 

 煙の中ではお互い不利だ。弾幕で牽制しながら相手の実力を測ろうと考え、空中へ飛び出す。煙が尾を引いて霊夢の軌道を描いていく。

 しかしそれも見切られていたかのようだった。

 

 

「ッ────!!」

 

 

 息もつかぬ攻防戦。

 ここに来ると読んでいたかのように飛んできた御柱は、目視で認識した時点で既に霊夢の目の前。

 霊夢は思わず能力を使った。

 

 

 高速度で飛来する石柱はまるで何も"無かった"かのように霊夢をすり抜ける。一切の余分な力が加わることなく直線運動を続け、参道を抉った。

 久々の能力の行使に、霊夢は少し疲弊した。

 

 神はそこを逃すことはなかった。

 

 

「……っいない…!?」

「"浮く力"。厄介だね」

 

 

 声は後ろから聞こえた。

 しまった。あの柱と一緒に。

 

 

 この距離は弾幕の展開が間に合わない。

 幸いここは空中。地面より力が入りづらく、しかしこの距離では相手も肉弾戦を持ち込むしかない。加えて間合いを取りながら体制を整えられる。

 

 

「一撃必至……ッ!!」

 

 

 霊夢は腹部をガードする。読み通り相手が繰り出したのは前蹴り。初期動作も少ないながらダメージは着実に与えられる。

 霊夢は歯を食いしばり、カウンターの機会を狙う。

 初手劣勢の中、頭をフル回転して冷静に対処をしてみせるが、一つ読み間違えたとしたら───

 

 

「ッッシャァッ!!」

 

 

 その力の差であった。

 

 ここまで、実に5秒。

 

 

 

 急所は避けた。前蹴りはガードに徹した腕と太腿に直撃した。完璧な防御だった。

 しかし体躯の差は明らかに不利であった。

 

 

「ぐぅっ…!!」

 

 

 ただの前蹴りでここまで、と驚きは隠せなかった。

 幾らか神社の瓦を剥がし、それでも勢い止まらず障子に襖を数枚破りながら、本殿の裏手側の塀に背中を打ちつけて漸く止まる。

 

 視界の隅には、見覚えのある魔法使いがいた。

 

 

「え、霊夢!?何してんの」

 

 

 アンタこそここで何してんのよ、と思ったが、そうだ、異変解決だった。

 

 ちょうど良い。見てみればあの早苗とか言う少女もいるではないか。

 2対2なら都合が良い。

 

 何か数ターン会話をした気がするがイマイチ頭に残らなかった。

 

 

「上等……ッ!!」

 

 

 霊夢にはすっかり闘争心が燃え始めてしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 








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