東方弔意伝   作:そるとん

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紅霧異変  解決と新たな問題

「ーー殺す」

「!?」

 

目の前で膝をついた青年は一言そう言った。

ーーマズイっ!!

 

「ぐっ!!」

 

殺気を見せた瞬間、彼は私に弾幕を飛ばしてきた。

黒く、鋭利に尖った、憎悪の塊。

紙一重で避けたが、弾幕は大理石を容易く突き刺し、ひびを入れ、壁をビリビリに引き裂いた。

 

!?……何よこの力!尋常じゃないわ!

 

彼の方に向き直ったレミリアはそう感じた。計り知れず、深淵より深い、

「闇」を纏っている。

目にハイライトは無く、死んだような顔を浮かべる。

合わない目線に、血色の悪い肌色、ボサボサの髪、見た目はだらしなさそのものなのに

一体この力は何!?

 

「…………」

「くっ…!」

 

第二波の弾幕をどうにか避け切った。そろそろ反撃……

 

「!?」

 

 

出来なかった。目に映るのは障壁か何かと勘違いするほどの、大量の弾幕。

一つ一つから強烈な殺気が感じられ、一つ一つに殺傷能力がある。

 

 

こんなの、「人間」じゃないわ!!

 

 

「グンッ…グニル!!!」

 

 

向かってくる大量の弾幕に向かって、大きな槍を投げる。

 

大量の弾幕はグングニルが消滅すると同時に消滅した。

グングニルが、青年の感情だけで消されるとは……

それでも、

何とか免れたわね……。

 

 

なんて思うのも束の間、グングニルと弾幕の残滓が残る奥から

ドス黒い瘴気を纏った剣が飛んでくる。

 

 

「!!……っと、危ないわね!」

 

 

危ないと言ってるが少し掠った。

だが、不思議と血は出ない。

が、掠った部分は黒く変色し、瘴気を纏っていた。

 

 

 

「あなた、化け物かなんかかしら?」

「五月蝿いっ!!」

「!?」

 

 

煽り文句に対し、五月蝿いとただ一言。

ただ、その叫び声でさえ、見えない何かとなって、殺意を持ち、レミリアを襲った。

傷は負わなくとも、心を深く抉られたような気分に陥った。

 

 

何だ、この不愉快な感情は。

呑み込まんばかりの闇は。

 

 

いや、違う。今となっては、

青年自身が「殺意」であり、「憎悪」。そして「闇」。

そうなっていた。

気を抜いたら、彼の棲まう深淵に引き摺り込まれる。

何とか、対抗しようとレミリアも気張る。

 

 

「何よ!あなた突然!襲いかかってきては殺すだの何だの、失礼よ!」

「黙れ!!人殺しに失礼もクソもあるか!ようやくできた居場所をまたそうやって奪うのか!!」

「!?…一体何を…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーまた俺から存在意義を奪うのかァ!!!」

「!?」

 

 

目を見開き、青年は吠える。

まるで、遠い誰かを思うように、はたまた、大嫌いな存在を思い出したかのように。

青年の叫び声は、またしてもレミリアの胸を深く抉る。

でもっ…!でも!

 

「分からないわ!私はお前じゃない!あなたの想いを押し付けられたって…「そうか」…え?」

「そうか……なら」

 

 

 

 

より一層闇が深くなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーこっち側に引き摺り込んでやるよ」

 

 

 

 

驚く間もない内に、視界は闇へと屠られた。

遠くなる意識の中、青年の声は響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーお前に地獄を手向けてやる」

 

 

 

 

 

 

瞬間。闇が世界を覆い尽くした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…っつぅ…何よ、一体」

 

突然、目の前で弾けた闇はレミリアを包み、大きく吹き飛ばした。

ところどころを壁にぶつけたのか体に痛みを感じる。

それより、やつは何をして……

 

 

「!?」

 

 

レミリアは驚嘆した。

目の前には"人間の"青年なんて立っていなかった。

いるのは、全身黒い闇と、瘴気で覆われた

 

 

ーー化け物だった。

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

自分が今、どんな姿をしてるのか分からない。

きっと酷く醜いものだろう。

俺は、この幻想郷に恋をしたんだ。

綺麗なこの世界を汚してほしくなかった。

ようやく出来た居場所を奪ってほしくなかった。

 

でも、結局失ってしまった。

また、俺は、失敗してしまった。

 

もう、いいよな。

ばあちゃん。悪い、そっちに逝けそうにねぇや。

 

もう遅いけど、最後に、大切なものを守るよ。

自分が恋をしたこの世界を守ってから、地獄なりなんなり行くよ。

 

 

俺、シオンは、

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー人間である事を辞めた。

 

 

 

 

"シオンは人間である"という事実を

ーー「覆した」。

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

これが能力だと言うの!?これじゃあ、まるで、

 

「ーー悪魔」

 

それも、人の形などしちゃいない。

黒い翼を生やし、全身が黒のオーラで埋め尽くされ、目は紅く見つめただけで殺されそうだ。

まさしく、悪魔。この世の悪意という悪意を寄せ集めたその権化。

レミリアは、死を覚悟した。

 

 

「ウア゛ァァァァァァァァァァァァ!!!!!!」

「くっ……!」

 

瘴気の塊と化した青年は一息でレミリアに襲いかかる。

もはや、青年などと呼べんな……。

紙一重で躱すと、悪魔は壁に衝突する。今の内に、と、レミリアはそこから距離をとる。衝突した部分はガラガラと音を立てて崩れる。

 

ーー刹那。瓦礫が弾けたかと思うと、レミリアの目の前には紅い双眸で睨みつける悪魔がいた。

 

「ガア゛ァァァァァァァァァァァァ!!!!!」

「うぐっ…!!」

 

悪魔の拳をまともに食らったレミリアは、床に叩きつけられる。

大理石ですら砕いて。

 

隕石か何かが直撃したのかと思うほど重い一撃。

レミリアは感じた。

これが本当の「殺意」。

そう思うと、足が竦む。

 

反撃しなきゃ……!!

 

 

「うっ、ぐっ…あ、あぁあぁぁぁぁ!!!」

 

 

カリスマには相応しくない声を上げながら立ち上がる。

悪魔のくせに……!!

 

ーーぶっ飛ばす!!

 

 

「グン…グニルッ!!!」

 

 

全力で大槍を悪魔に投げる。猛スピードで悪魔に向かっていく。

が、

 

 

「グゥ、アァァァァァァァァァッッ!!!!!!

「!!?」

 

思わず耳を塞いだ。胸を張り、上を向いて、大口開いて、悪魔は吠えた。

すると、バキン!と音を立ててグングニルが弾け飛んだ。

ただの、叫び声に……グングニルが……。

こんのっ……!!

 

雄叫びへの怯みを無理やり振り払い、二発目のグングニルを準備した。

 

 

打てなかったのだけれど。

 

 

「オォォァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!!!!」

「ぐあっ…!!」

 

 

一際大きい雄叫びと共にグングニルは弾け、悪魔の周りには一際強く、闇が渦巻いていた。

 

ーー全力の「殺意」。

 

 

あぁ…もう無理ね……。

 

拳を構えて飛んでくる悪魔に、何の準備もせず

レミリアは死ぬ覚悟だけ決めて、目を閉じた。

 

 

まだ、もう少しくらい……生きて……

 

 

 

そう思いながら、レミリアは涙を流す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…いっつぁー……」

 

 

 

 

 

 

 

 

「!?!?!?!?」

 

生死をかけたこの状況に、どこからともなく気の抜けた声が聞こえた。

いったい何処の馬鹿なのかしら。

いや、この場においてそんな事言うのはあいつしかいない。

気づけば、悪魔の拳は目の前で止まっており、しばし呆然とした後その拳を下ろした。

 

 

「あら?何やってのよ?」

「…なんで生きてんのよ」

「失礼ね!簡単に死にゃあしないわよ!!」

 

すごいと言うべきか、なんだそりゃと言うべきか……

博麗の巫女ってのも案外化け物ね。

はぁ…何か気が抜けるわ……

 

ふいに、すぐ隣からパキパキと何かが崩れ始める音がした。

悪魔の瘴気が徐々に剥がれていく。

何とか……生きれたわね……。

 

「あら?何よその妖怪」

「あなたを助けに来たやつなんだけどね…」

「私を?私そんな妖怪知らないわ…………え…?」

「どうしたんだ?」

 

隣を見やると完全に纏っていた瘴気は消え去り、あの青年に戻っていた。

能力の副作用なのかは知らないけど髪は所々白くなり、右目は真っ赤に充血していた。まだ人間らしさはしないが、さっきに比べたら十分人間だ。

しかし、霊夢は驚いたままの表情で固まっていた。

 

「シ…シオン……?」

「……あぁ」

 

震えた声で霊夢は青年の名前を呼ぶ。青年も、暗い表情で短く返事をする。

シオンといえば、昨日咲夜が話してたやつかしら。「新しく来た外来人」だと。まさか、こいつとは……。

この様子からするに。霊夢はシオンの事をあまり知らなかったみたいだ。

まぁ、来て早々能力を使う事なんてないし、しょうがないと言えばしょうがない事だろう。

だけど、霊夢にしてもシオンにしても、複雑な感情だろう。

シオンはきっと、この事を隠していた。知らなかった場合もあるが。

霊夢にしても、新しく来た外来人を色々助けてやっていたらしい。そいつの正体が化け物だったと思うと恐ろしいだろう。

 

完全に冷えた空気を破ったのはシオンの重い声だった。

 

「ともかく、お前の負けだ、吸血鬼。今すぐ霧を消せ。用はそれだけだ」

 

そういうと彼は、足早に外へと向かった。

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

一体何なのよ。何が起こったのよ。

目を覚まして映ったものは、恐ろしい妖怪、とも言えぬ異形の生物に襲われるレミリアだった。

起き上がると同時に痛んだ横腹を抑え、「いっつぁー」と言葉を漏らすと、異形の生物の動きは止まった。

レミリアは私を見て、呆然としたり、なんで生きてんのよ!と驚いたりしていた。

が、この見知らぬ生物。私が起き上がり、レミリアと話していると纏っていた瘴気が和らいだ。にしても、この瘴気、どこかで……

 

パキパキと音を立てて瘴気が崩れ落ちていくと、徐々にもとの姿に戻った。

白髪が増えたが、ボサボサとした髪で、全体的に黒い服を着た青年。

ついこの間出会ったばかりの。

 

 

「シ…シオン……?」

「……あぁ」

 

 

それは肯定なの?つまりは、あの異形の生物はシオンだっていうの?

自分でも、今の感情が分からなかった。この2日間で彼の人柄の良さに関しては痛いほど感じてる。

下手くそな笑みを浮かべて、でも声は優しく、すごい優しくしてくれた。

だから、この事実を信じられなかった。

私は、何も言えなかった。

 

 

紅い霧の解除を伝えるだけ伝えて、シオンは部屋を出た。

 

 

ーーーーーーーーーー

ーーーーー

 

 

 

……どうしよう。

帰る場所無くなっちゃった。

 

人間ではない「シオン」を霊夢に見られた俺はどこか遣る瀬無い気持ちになってしまって、思わず冷たい態度をとって部屋を出てきてしまった。

でも、今更「ごめんね」などと言って戻るわけにはいかない。

だって、完全にあっちシリアスだもん。

 

ともかくとして、霊夢が生きていたのならそれでいい。

それさえ分かれば俺のやる事なんて何もない。

これは出しゃばってしまった罰なのだろうか。

 

「はぁ……」

 

 

なるべく後ろを振り向かず、足早に外を目指した。

 

ふと思う事があり、足を止めた。

 

 

 

 

 

「魔理沙は?」

 

 

一応生存確認だけしていこう。

もうあの姿は見せない。絶対に。

 

 

 

 

「で、ここどこ」

 

 

絶賛迷子中だった。

 

 

 

ーーーーーーーーーー

ーーーーー

 

 

「うわぁっ……」

 

適当にドアガチャガチャしていたら大きな部屋に来たが、

 

「……魔理沙かな」

 

グッチャグチャになった本やら棚やらをみて魔理沙と判断した。

出会って一日も経ってないが何となく分かる。絶対あいつやんちゃだもん。

 

奥に本が山のように積み重なってーー否、散らばってーーいた。

よし、掘るか。

本をかき分けかき分け。

 

「あ、いた」

「んうぅ……ぬぅ…」

「ぬぅ、じゃねぇ。起きろ」

「どぅわぇ!」

 

本の底ですやすや寝ていた魔理沙を文字通り「叩き」起こした。

 

「何だよぉ〜……」

「起きろ魔理沙。帰るぞ」

「あれっ、シオン?何で…異変は?」

「帰りが遅いから心配になって来たんだ。異変は霊夢が終わらせていたよ」

「そうか!そうか!じゃあ戻るか」

 

嘘を吐くのは少々胸が痛むな。

まぁ、見られるよりマシだな。

 

「あぁ、もう帰ろう。それと、その手に持った本を返していきなさい」

「なぁに!借りるだけだぜ!大丈夫だ!」

「大丈夫なわけないでしょ」

「うぇえ!?」

 

ふいに落ち着いた声が聞こえ、魔理沙は焦りを見せた。

声のした方を見やるとボロボロの紫の服を着た少女が立っていた。

大方、この子とやり合ってこの大惨事か。

 

「これを全部直してから帰りなさい」

「いやいやいや!無理!シオン!早く帰「あっ、じゃあ魔理沙をよろしくお願いします」おぉい!!!」

「分かったわ。…えぇと」

「シオンだ。普通の人だよ」

「そう。私はパチュリーよ。魔法使いをやっているわ」

「そうか、よろしく」

「えぇ」

 

終始、てめぇ無視すんなぁ!!とか、私労働なんかやだぞ!とか騒いでる白黒がいたけど、もう少しパチュリーを見習ってほしい。なんて大人の対応だろうか。とりあえず、魔理沙はここで働かせよう。

 

「じゃあ、俺は戻るよ」

「えぇ、それじゃあね」

「あっ、お前!そうやってか弱い乙女を置き去りに…っ」

 

バタン。

 

 

 

 

 

 

さっ、玄関探そ。

 

 

ーーーーーーーーーー

ーーーーー

 

 

 

 

「あぁったぁ……」

 

翻訳すると「玄関があった!」である。

無駄に広いなここ。何にそんな使ってるの?

ともあれ、ようやく帰れる。

 

ドアに手をかける。

 

 

 

 

……っ!!気配!

 

「誰っ…て、咲夜さん」

「咲夜でいいですよ。シオンさん」

「シオンでいいよ。で、どうしたんだ?」

「今夜は紅魔館に泊まっていけとレミリア様が」

 

へぇー、多分レミリアってのはあの吸血鬼の事だろう。たしかここの現当主、ん?

 

「泊まってけぇ!?」

「はい。拒否権はないそうですよ」

「横暴だ……」

 

あ、いやでも、帰るところが確保できるなぁ。

それに、色々謝っておかねば……。

 

「決まりですね」

「あぁ…お世話になるよ…」

 

 

無事では済まなそう。

 

 

 

 

 

 

 




最後の方コメディ感強くなっちゃったなぁ…w

ちなみに!現時点ではシオンの能力は分かりませんよ?分かる人なら分かるか。
次回、真相。
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