東方弔意伝   作:そるとん

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ソレまでに〜東方永夜抄〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ソレから。

 慧音が見た景色は、夜空にパッと咲いた花のような魔法陣だった。

 

 一面に広がった星空色の円形は複雑な構築の上に成り立っているようで、その数も少なくない。

 見惚れてしまうほどの壮観。感動すら覚える光景を前に、慧音が一瞬抱いた感情は【畏怖】であった。

 

 八卦炉を構えてから、この膨大な魔法陣が展開されるまでものの数秒。慧音が危険を感じるまで0コンマ数秒。

 

 本能のままに慧音の体は動き出した。

 

 

「魔空、アステロイドベルト」

 

 

 魔理沙がそう呟くと同時に、先程まで慧音がいた場所へと弾幕がたどり着く。

 中空で広がるように舞った慧音の長髪。その毛先を弾幕が焼き切るのはほんの一瞬だった。

 

 

「イかれた魔力だな……!!」

 

 

 一瞬で判断を切り替えると、慧音は一直線に魔理沙へと向かう。この膨大な弾幕を放つには相当な魔力が必要であるが、魔理沙の魔力量が不明確であることに加え、相手は2人だ。

 弾幕は放射状に広がるものだから、遠ければ遠いほど弾幕の感覚は広がり躱しやすくなる。

 逆は、言わずもがな。

 

 こうした高圧力な弾幕をやり切るには、定石としては距離を取ることなのだが。

 しかし慧音は接近することを選択した。

 こちらも弾幕を展開しながら。弾幕展開中は自身の周りにも結界のようなものを展開するのが基本だ。近づかれて本体がやられては元も子もない。当然、魔理沙も展開を怠ってはいなかった。ならどこまで近づくか。

 

 

(眼前まで近寄る……ッ!)

 

 

 結界の範囲外。

 当たらずとも、目の前で弾幕が派手に炸裂すれば万々歳であった。

 

 

 慧音は「ふっ……!」と、ほんの一瞬気合を入れて、魔理沙の目の前まで一気に詰め寄ると、着弾の寸前で自身の弾幕を展開する。

 

 

「将門クライシス!!」

 

 

 そう唱えると同時に、慧音の周りに3つの魔法陣が浮かぶ。攻撃力と実態を持ったソレは、魔理沙の弾幕が密集する空間で赤く光り、ほんの一瞬展開されたかと思えば、当然、魔理沙の弾幕が着弾し、すぐに霧散する。

 

 しかし、しつこいようだが、慧音が弾幕を放った場所は魔理沙の眼前にまで迫る。

 高密度で弾幕が射出され続ける場所で1つ弾幕が炸裂すれば、どうなるか。

 連鎖的に、近くの弾幕は一気に霧散する。

 ドォンという轟音と閃光を伴って。

 

 

「ッ……ちっ」

 

 

 魔理沙は慧音の意図を把握するとすぐさま距離を取る。爆煙に紛れて仕掛けてくることは想定していた。何せこちらは2人組だから。

 視界が阻まれることを避け、すぐさま外へ飛び出さなければ。

 

 二択。

 上か下か。

 いや、4……後ろからも考えられるな。

 

 運が悪ければ、既に拳を振るっている慧音に自ら向かっていくことになる。ただし選択肢が多いのは相手も同じこと。

 ただ、間違えられない。

 

 

「仕方ない」

 

 アリスを巻き込んだら、あとで謝ろう。

 

 

 接近戦に持ち込むということは、肉弾戦で勝てると思われているのだろうと思慮した魔理沙は「その通りだな」と思うほかなかった。

 魔法使いは魔法使いらしく、こちらの土台で戦わねば。

 

 

「魔符、ミルキーウェイ」

 

 

 魔力消費を厭わず、とにかく今は最速での展開と高度な弾幕が欲しかった。

 

 すぐさま自身の周りに複数の魔法陣を展開すると、先と似た弾幕が放射状に広がっていく。

 違う点は、消費量を先ほどより抑え、範囲を広くしている。その証拠に、魔理沙の周りに展開されたほか、魔理沙ら全員を囲うように魔法陣を展開している。

 半径100mほどの球体を模るように展開された魔法陣は慧音の移動範囲を制限する上、視界の前方以外から弾幕が迫ってくる。

 小さな星が交差するように全方向から無尽蔵に流れてくる。

 その様はさながら【天の川】であった。

 

 この間実に10秒とない。

 息もつけぬ戦場で、電気信号より速い攻防が繰り広げられている。

 持っている手持ちをいかに素早く探し出し、適切なカードを選んで切り出せるか。

 魔理沙はひたすら自分のペースに持ち込むことを選んだ。未だ爆煙は払いきれていないし、アリスの行方も掴めていない。

 

 

「っ、まさか……!!」

 

 

 突っ込んできたのはブラフ。

 最初から分断して、1人ずつ肉弾戦に持ち込めば数的不利でも関係ない。

 ましてや、魔法使い相手なら確実にその方が手っ取り早い。

 

 狙いはアリスか。

 

 

「しまっ……」

 

 

 た、と言い切る暇も無く。

 予想は見事に外れる。

 

 視界は煙に阻まれ、こちらは弾幕展開中の結界も自身の周りに敷いている。

 にもかかわらず。

 

 

「はぁあああッ!!!」

 

 

 慧音は正面切って突っ込んできた。

 

 

「ハッ、脳筋野郎が!」

 

 

 すでに移動の姿勢に入っていた魔理沙は反応に遅れる。

 今から体勢を立て直して迎え撃つのは無理だ。相手は妖怪だし。

 ならこのまま射程外まで間合いを取るか。その場合、慧音に背を見せることになる。非常に危険だ。

 思考のまとまらぬうちに慧音の攻撃は終わっていた。

 

 振り抜かれた拳をただ見ることしかできず、

 

 

 

 バチッと音を立てて、慧音の拳は手前で止まった。

 

 

「八卦炉のオート防御だよ。接近戦対策してないわけないだろ?」

「随分とハイテクなんだな」

 

 

 展開された黄色い八角形の魔法陣は、慧音と魔理沙の間で、慧音の攻撃から魔理沙を守っていた。魔理沙自身の意思のように動く八卦炉は、もはや魔理沙の一部のようで、その機能の向上は、他でもない彼女の成長を見て感じられるようだった。

 

 

「そんなことより」

「うん?」

「ボーッとして大丈夫か?」

 

 

 魔理沙が不敵に笑うと同時に、視界の隅から素早い弾幕が数発射出された。

 慧音にも2発ほど着弾。くっ……と歯を食いしばった様子の慧音はすぐさま魔理沙から離れ、右手を軽く振り払っては煙を意図も容易く払い去る。

 

 

「魔理沙!大丈夫!?」

「おー、良い狙いだな」

「それより何よあの弾幕!当たるとこだったじゃない!」

「ごめんて、あれしかなかったんだ」

 

 

 慧音の視界が捉えたのは、もう1人、金の髪をした魔法使い。

 たった10本しかない指で、複数の人形をまるで生きているかのように扱ってみせる。

 慧音にしてみれば不思議な感覚だ。相手は2人。しかし実際戦っている相手はもっと多く感じる。

 

 

「厄介だな」

 

 

 慧音は、そう独言ちると、聞こえぬように詠唱を始める。

 幸い、魔法使い2人組は言い争いに夢中らしい。

 その隙に。

 

 

「とりあえず、この話は後にしようぜ」

「そっ、そうね!」

「話し合いは終わったか?」

 

 

 こちらも、もうある程度は済んだ。

 あとは思う存分抵抗するのみ。

 

 

「少しお前らは騒々しいのでな」

「あん?」

「ほら、言われてるわよ」

「アタシかよ……」

 

 

 慧音は、未だ魔理沙達を人とは思っていないようだった。

 真夜中に魔法を撃ち放つ輩を放って置けなかったというのが理由らしい。

 

 

「少し結界を張らせてもらった」

「うん?あっ、え、人里が無ぇ」

「引き下がってくれたら、話は早かったんだけどな」

「まぁ、なんだ、これで思う存分暴れられる」

「やはり妖怪か……」

 

 

 もはや魔理沙は反応も示さなくなった。

 否定したところで、聞く耳を持たないだろう。実力行使。押して押して、押し切った方の勝ちだ。なんとしてもここは通る。

 

 魔理沙は慧音の反応を見てフッと笑った。

 今度の先制は魔理沙だった。規則的に射出と交差を繰り返す弾幕ではなく、鋭い弾丸のような弾幕。

 攻守交代。

 慧音もそれに呼応するかのように再び弾幕を展開する。

 

 

(それは、アタシの得意分野でね)

 

 

 迫り来る弾幕を交わしながらの弾幕展開は魔理沙の得意とするところ。弾幕ごっこの本来である。

 期せずして、戦況は魔理沙のペースとなった。

 

 

「国体 三種の神器 郷……ッ!」

 

 慧音が吠えると、

 

「魔理沙!援護するわよ!」

 

 すかさず蓬莱人形が追撃を行う。

 

「頼んだぜ」

 

 一言そういうと、魔理沙は高速で動き続ける。細かいステップのような動きを繰り広げながら弾幕の囮としての役割も果たす。

 ヘイトを買いながら、自身も弾幕の隙間を縫って慧音への攻撃を止めない。

 

 

(完全にこっちのペースだ)

 

 

 近接を防ぎ切ったのが大きかった。にしたって、妖怪かもしれない相手に近接を仕掛けていたと思うと相当の手練である。ハクタクの大きな特徴は人間時と妖怪時とで姿が変わる。今の慧音は恐らく人間。妖怪たる要素が見つからないから。

 つまり、仕留めるなら今。勝負はこの数分で決める。

 

 元より、異変解決のリミットは月が沈むまで。夜明けが来てしまってはいけない。

 

 魔理沙は、ここを最高速で駆け抜ける必要があった。

 

 

「そこを退いてくれ!!」

 

 

 思わず強くなる語気と感情。

 

 

「アーティフルサクリファイス!!」

 

 

 弾幕が激しく飛び交う中、アリスの声が響いたかと思えば、周りの弾幕が一気に爆ぜる。アリスのスペルカードで慧音のものを弾いたらしい。大量の魔力消費とカウンターに慧音はかなりのダメージを負ったようで、かなり疲労困憊としていた。

 畳み掛けるなら今か。

 すぐさま追撃の為、魔法陣を展開させ、接近を試みる。

 

 

「ッ……!!」

 

 

 しかし、不発に終わる。

 確かに慧音の体力は尽きそうであったが、戦闘体勢は未だ衰えず、接近しようと考えた時には、もう慧音は次の手を打っていた。

 

 突然慧音の周りに展開されたのは魔法陣ではなく、レーザーであった。

 

 

「終符 幻想天皇!」

 

 

 終わりを名乗るその弾幕の起こりは、至ってゆっくりで、言い換えてみれば、何かの前兆のようだった。

 幾本ものレーザーが圧縮されたような高密度な弾幕が、何重にも交差を繰り返すと、次第に広がり、爆発的な熱と共に放射状へ広がる。無数の鋭いレーザーと共に、青い弾幕の雨が降る。

 確かに、今までの弾幕とは毛色が違う。タイミングをずらすように射出されるレーザーと弾幕はこちらのテンポもズラしてくる。しかし、やはりもう体力の限界が近いようであった。弾幕のスピードがそう早くないことが何よりの救いだった。

 

 程なくして、終符を名乗る弾幕は魔理沙が容易に攻略してみせた。

 

 

「はぁ……くそ……」

「さぁ、もう懲りたろ。大人しく人里を元に戻して───」

 

 

 違う。

 なんだ。

 

 

「魔理沙───!」

 

 

 アリスが叫んでいる。

 何かを察知した。アタシの同じように。

 

 

(なんで、)

 

 

 視界に映る慧音は、

 

 

(まだ戦うのか)

 

 

 まだ死んでいなかった。

 

 

 呆然と見つめる中、慧音は徐に祈るように手を合わせ、

 いや、やはり、これは

 

 

「スペルカード…ッ!!」

 

 

【日出づる国の天子】

 

 

 突如、慧音が淡く輝く。

 慧音自身が光ったのではないことはすぐに理解できた。

 ただ、考えるのも束の間。

 ばっと咲いたように薄いレーザーが全方向に展開される。一瞬で射程外まで逃げられる範囲ではない。逃げる余地すらない。

 魔理沙は、自身の胸元を貫くように伸びる光線が"予測線"であることを瞬時に理解した。

 

 つまりこのまま動かなければ一瞬で御陀仏だ。

 しかし展開された予測線の幅は実に"人"1人分。

 

 

(しのごの言ってる場合じゃない……!)

 

 

 針の隙間を縫うように魔理沙とアリスは体を動かす。

 高密度で張り巡らされた予測線を辿るようにレーザーが次々と射出される。かと思えば、まだ予測線の消えぬうちに、またその隙間を縫うように予測線が展開される。

 中心の慧音は煌々としていた。

 レーザーの圧力から発せられる熱と光は、さながら太陽のようであった。

 

 

(こんなカードをまだ持っていたのか…!)

 

 

 明らかに難易度が違う。慧音の気迫が攻撃によく現れている。

 

 パターンを読まなければ。

 レーザーだけでなく、弾幕も絶えず魔理沙達に襲いかかる。規則的に広がる青い弾幕の最中、その場に留まることを許さないと言わんばかりに、赤い弾幕がこちらの動きに合わせて追尾してくる。赤い弾幕は魔理沙を容易に詰ませることが出来る。追い込まれるまでに抜け道を探して、慧音に攻撃を続けなければ。

 

 読め。読め。読みきれ。

 交互に照射されるレーザーの順を読み切って、弾幕のスピードと動きを読み切って。

 八卦炉を構える隙もない。

 

 

「魔理沙!」

「っ、なに!?」

 

 

 だいぶ思考が切羽詰まっていた。

 この状況下でもアリスはこちらの動きも見ていた。おかげで、少しだけ頭が冷えたように感じる。

 

 

「これじゃあ移動を制限されたまま有効打がないわ!」

「アタシも八卦炉をぶっ放せない!」

「この子なら使えるから!」

 

 

 アリスはこの弾幕の雨の中、器用にも蓬莱人形を、1体魔理沙に近づけた。

 自立式蓬莱人形の試作品。永続的にとは言わないが、ほんの数分なら、アリスの魔力供給により、操作を必要とせずに行動ができる。

 だが、こう言った場面で使うのは初。

 

 

「一か八か……!!」

 

 

 魔理沙は悩む素振りも見せず、蓬莱人形に八卦炉を持たせた。

 すぐさまアリスはその人形を少し離れた場所に移す。慧音を視界に捉えたまま、魔理沙も八卦炉から意識を離さないまま。

 脳髄が擦り切れるのではないかと思うほど、頭は熱く、視界は赤く染まっていく。

 

 

「行くわよ!」

「おう!」

 

 

 アリスは手早く詠唱を唱えると、

 

 

「お願い!蓬莱人形!!」

 

 

 その言葉を切り札に、八卦炉を持たせた一体に魔法陣が宿る。

 

 

「やっちゃって!魔理沙!」

「恋符!!」

 

 

 詠唱の省略。

 体の一部と化した魔理沙の八卦炉でしか出来ない芸当であった。

 

 遠く離れた八卦炉にも魔法陣が展開され、ただの八角形は、徐々に姿を変え、照準のように慧音を捉える。

 次第に熱を帯び、光を放ち、

 

 

「マスタースパーク!!」

 

 

 灯りのない夜の人里を、昼間の様に照らし出すレーザーが天空に向かって放たれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○○○

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「様子はどう?鈴仙」

 

 

 もう日付も変わった時刻だというのに、永遠亭を照らす光源は、庭先の灯篭のみであった。

 妖しく光る炎は、月明かりの邪魔をせず、ただ確かに、里の郊外に屹立する竹林の豪華さを際立たせるには十分であった。

 最も、月明かりに関しては偽物だが。

 

 少しの物音も許されない空気感の中、永琳は静かに問うた。

 

 

「手筈通りですが、敵が多いです」

 

 

 どこか不安気な表情を浮かべ、返答をする。

 

 

「まぁ、想定の範囲内だわ」

「合計8人ですよ……」

 

 

 鈴仙の目は赤々と輝いていた。まるで本物のウサギのように。

 波長を操ることのできる彼女は、その能力の応用として、光の波を視覚に集中させることによって、遥か遠くの見えない地点の様子を監視できた。

 能力の拡張。千里眼はその一端に過ぎなかった。

 永琳は眉ひとつ動かさなかった。

 

 

「その為に、呼んだんでしょ」

「……気が引けます」

「気にし過ぎないことね」

 

 

 いずれあることよ。

 そう付け足して、永琳は作業を続ける。

 

 

 鈴仙は静かに月を見上げる。

 かつての望郷で、今や憎むべき敵。

 神も人もあったもんじゃない。

 ましてや、妖怪も、悪魔も。

 

 

「私達は間違えていないはず……」

 

 

 言い聞かせるように。

 

 

 月が沈むまで、あと数時間。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○○○

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「げほっ……げほっ…」

 

 

 煤だらけの慧音を人里の付近の山で拾うと、すぐさま起こした。

 この際鬼畜でもなんとでも言ってほしい。時間がないのだから。

 

 

 予想外の苦戦の末に慧音を撃破した魔法使い2人は、本来の目的を遂行すべく、何か事情を知っていそうな慧音に話を聞くことにした。

 

 

「私もそんなに知らないよ……人里上空で暴れてる妖怪の対応をしようとしたんだ」

「だぁら、アタシ達は月を元に戻したいんだって!」

「さっき聞いたよ。そうとは知らずすまんね」

 

 

 先の表情とは打って変わって、優しそうな笑顔を浮かべる。噂には聞いていたが、流石人里で教師をやっているだけのことはある。大人としての余裕みたいなものを感じた。

 

 

「私も友人の伝手で聴いた程度で、この異変の真意は分からない」

「その友人ってどこの誰だよ」

「誰は教えんが、迷いの竹林のすぐ近くに住んでいる」

 

 

 魔理沙はアリスと目を合わせる。

 迷いの竹林。そういえば、努めて近づこうとは考えたこともなかった。

 

 

(あの先に何があるっていうんだ……)

 

 

 確証とは未だ思えないが、大きな手がかりだとは感じた。

 

 

「分かった、それじゃあな」

「まぁ、気をつけなよ」

 

 

 慧音をその場に置いて行き───どうせすぐ治る───、アリスと共に迷いの竹林へと向かう。

 

 

「魔理沙」

「うん?」

「さっきの人の、その、最後のやつ」

「あ?……あぁ、あの凄いやつな」

 

 

 アリスの顔色は何処か青ざめていた。

 

 

「ラストスペルって言って、言ってしまえば、その人の最後の切り札みたいなものなの」

「どうりで、手強かったわけだ」

 

 

 今まで色んなやつを相手にしてきたが、今までで一番キツかったと魔理沙は想いに耽る。

 しかして、ラストスペルと。

 

 

「今まで聞いたこともないな」

「昔から存在はしていたのだけれどね。ここ最近で使用するのは珍しい」

「……何が言いたいんだ?」

「慧音さん、何か知ってたのかも」

 

 

 この異変の真意を。

 アリスはそう付け加える。

 

 

(そりゃあ、そうだよな。)

 

 

 じゃなきゃ、あそこまでやらない。

 本当に、こちらを妖怪だと思い人里を守ろうとしていただけなのかもしれないが、それにしたってあの弾幕は。

 

 

「どの道、進めば分かることだわな」

「うん….そうよね」

 

 

 異変解決に出かけてから、日付はすでに変わってしまった。

 猶予時間は少ない。迷う暇はないのだ。

 ただ、ラストスペルなるものが現れた以上、この先の敵がそれを使わない理由がない。

 

 

(いざとなったら……)

 

 

 きっとこの意思は、時間の経過と共に固くなってしまう。

 ソレまでに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 









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