東方弔意伝   作:そるとん

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戦いの秋〜東方永夜抄〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 0時はとうに過ぎ、時刻は現在深夜1時。

 夜明けまであと4時間程。

 このまま朝まで逃げ切られたら堪ったものじゃない、と細やかに焦燥感を抱きつつも、幽々子と妖夢は、異変の元凶に未だ見当がついていなかった。

 結界の出所を探知するよう、"気"を張ってみようにも範囲は広大。微かに反応が見られるも、いつにも増して多い低級妖精たちに自前のレーダーは阻まれる。

 

 

(なるほど、その為に……)

 

 

 異変の首謀者は相当のキレ者のようだ。探知されることも見越してここまでの量を扇動したのかと思うと、ますます一筋縄ではいかなそうだと、イヤに緊張に駆られる。

 

 

 斬った数が百数体に及んだ頃、幽々子が口を開く。

 

 

「あら?」

 

 

 ただ一言。

 妖夢は幽々子がポカンと目を開いて見つめる先に焦点を合わす。

 

 

「え゛っ、あれって……!!」

「片方は知らないけど……」

 

 

 同じほどの高度を飛行している、やけに目立つ髪色の2人。

 妖夢等と目的は同じくして、行動は別であった魔理沙とアリスである。

 

 本来出会うはずのない時間。

 加えて、人と魔女が何やら行動を共にしていることに、妖夢は激しい違和感を覚えた。

 ましてや、2人の関係性など知りもしない妖夢は、

 

 

「そこの怪しい2人!!止まりなさい!!」

 

 

 盛大に勘違いをした挙句に、

 

 

「これ以上は許さないわよ!!!」

 

 

 話す暇もなく喧嘩を吹っ掛けるのであった。

 

 

「は?」

「誰、この子」

 

 

 魔理沙とアリスは当然状況が分からないし、2人からしてみれば、目の前で今にも走り出しそうなほどの勇み足で啖呵を切ってきた白髪の少女の方が、よほど本件の首謀者に見える。

 その結果。

 

 

「またお前らか。上等だよ吹き飛ばしてやる」

「私達もこのままだと困るのよ」

 

 

 魔女2人も盛大に勘違いをした。

 

 

(あらあら……妖夢ったら……)

 

 

 張り切り気味な己が従者の、引くくらいの喧嘩腰に珍しく困り気味な幽々子は、流石に妖夢が誤解していることも把握していた。

 

 

(まぁ、こっちの方が面白そうだから良いや)

 

 

 実際、この時間にペアを組んで移動している魔女2人というのも中々奇妙な光景であった。

 今回の異変について何か知っていてもおかしくは無い。これを察した時点で、幽々子にとってみれば、2人が一緒にいる理由も、この後異変の元凶に向かうかどうかも、興味の範疇に無かった。

 応戦するか、撤退するかも関係はない。

 この試合の報酬は"情報"だ。

 

 

(何を企んでいるのかしらね)

 

 

 今年に入って3月ぶり2度目。

 魂魄妖夢と西行寺幽々子は、アリス・マーガトロイドと行動を共にした霧雨魔理沙と衝突することとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○○○

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 随分と静かな夜だ。

 まるで異変が起こっているとも感じられない程には、穏やかで、ただ随分と退屈な夜だ。

 秋の夜長とはよく言ったもので、読書の秋だとか、食欲の秋だとか、そう言ったものはこのなんとはなしに過ぎ去っていくだけにしては長すぎる夜を凌ぐ為の古くからの知恵なのかもしれない。

 知恵というか、オススメの時間の潰し方というか。

 だから、何というか。

 少しくらい音が欲しいといえば、そう。

 「会話の秋」なんて、そんな事は言わないけれど。

 

 

「……………………」

 

 

 時刻は1時。異変解決に出向いてから30分程度。

 ここまで喋らない八雲紫を、霊夢は初めて体感している。

 

 

「あの、紫」

「ん?」

「一応、敵がチラホラ見えるけど、合ってる?」

「うーん、どうかしら」

「そう……」

 

 

 いつもは喧しいくらいに喋り倒すというのに。返事もどこか素っ気なく、どこかピリピリした雰囲気を醸し出している。

 異変解決に自ら赴くと言ったときには耳を疑ったが、やはり紫が動かねばならぬ程の事が起こっているのだろうか。

 

 霊夢は未だ感じ取れていなかった。

 ただ、彼女の本能が、無意識下でもって、不気味なくらいに静かな夜に、違和感を覚えていた。

 紫の態度も相まって。

 益々。

 

 

「霊夢」

「はぇ、えっ?」

「?……大丈夫」

「だ、大丈夫大丈夫」

 

 

 突然声をかけられ素っ頓狂な声を上げる。

 茶化すこともせず話を続ける彼女にも、やはり違和感を覚える。

 

 

「今回の異変、何かが大きく動くと思うの」

「え?」

「幻想郷にとっても、貴女にとっても」

 

 

 賢者としても呼び声の高い彼女の口から出た言葉にしては、随分の曖昧であった。

 それとも、濁して言わなきゃいけない理由でもあるのか。

 霊夢は、ほんの数秒、紫の表情を怪訝に見つめた。

 

 

「っと……」

「わわっ、急に止まるじゃないの……!」

「目的地まであと少しね」

 

 

 おぉ、と霊夢は思った。割とこの空気感も全て含めて冗談でした〜とかいうドッキリも覚悟していたものだから、信憑性半分みたいなところはあった。

 見渡す限り、木ばかりだけれど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その時、体が一瞬強張る感覚。

 視界には大量のナイフが張り巡らされていた。

 

 

「ッ……!!グゥッ……!!!」

 

 

 大幣をすぐさま振るう。

 これで叩き落とせたのが6割。残りは紫の能力で防がれた。

 

 

「目的地まであと少し、と言いたいところだったけど」

「アンタたち……」

「どうやらここで2回戦目みたいね?」

 

 

 瞬く間の出来事だった。

 常人より優れた感覚がなければ、不意に飛んできた刃物で滅多刺しだった。

 紫でさえ捌き切るには多すぎる手数を初手から叩き込んでくるような性悪。

 

 

「あら、流石博麗の巫女とスキマの大妖怪ね」

「ちょっと鈍ったんじゃない?霊夢」

 

「こうしてやり合うのは数年ぶりね、紅魔館連中」

 

 

 不気味なくらいに大きな月を背景に、気障に現れて見せたのは、夜の覇者とその従者。

 レミリア・スカーレットと十六夜咲夜は、大胆不敵にも霊夢等に奇襲を仕掛けてみせた。

 

 

「こんな夜更けに、あろうことか巫女と大妖怪が共に行動しているんですもの。ましてや、2人とも結界遣いとしては名が知れている」

「それで?私達が今回の首謀者だと」

「そこまでは言ってないけど、疑いはあるわね」

 

 

 レミリアは襲った経緯を話してくれたようだった。

 お互いの事情はもちろんだが知らない。その疑念は最もだろう。

 ただ、そんな事は霊夢達も同様だった。

 

 

「貴女が十六夜咲夜ね。時を止めるんだとか」

「知っていただけているとは。光栄ですね」

「えぇ、出来れば相手にしたくないわね」

 

 

 どこまでが本心か。

 双方、不敵に口角が上がっているものだから全て煽り文句にしか聞こえない。というより、煽っているのだろうけど。

 

 

「ところで、そんな時間を止めれる咲夜ちゃんに聞きたいんだけど」

「はい」

「30分は移動した筈だけれど、月の位置が変わっていないみたいなの」

 

 

 霊夢はハッとした。

 無性に治らない違和感の正体。

 

 

「何か知ってるかしら」

 

 

 眠ってしまいそうなほど静かな夜でも、喋らない八雲紫でもなかった。

 結界の内側に別の結界が張られていた。

 それも、夜を止める結界。

 

 

「咲夜、まさかアンタ本当に……ッ!」

「えぇ、止めているわ。夜を止めたのは私達」

 

 

 さも当然のように言うものだから、唖然とした。ただ、いつの間にか、この距離感と関係性に慣れて、彼女達がもう一度"事"を起こさない理由にはならなかった。

 

 いやしかし。

 まて、落ち着け。

 

 そうすると最初の言動に理由がつかない。そもそも、紫が最初に言っていた異変と、夜が進まない事に関係性は無い。

 

 今回の異変の目的が判然としない限り、咲夜達の目的も分からない。

 

 

(クソ……私も弱くなったな……)

 

 

 今までなら問答無用で2人を叩いていた。話を聞くこともせず。

 

 優しくなった、とでも言っておこう。

 霊夢は、ゆっくりと息を吐く。

 

 

「……目的を聞かせてもらえる?」

「それはそっちも同じ事じゃない?」

「夜明けが、タイムリミット」

「そういうこと。首謀者は夜から逃げているみたいね」

 

 

 夜から逃げる。

 言い得て妙だが、しっくりきた。

 

 

「それで、なんで私達を襲うのよ」

「数日前から、何か怪しげな動きをしていたじゃない、八雲紫」

 

 

 まるで準備されていたかのように、レミリアが答える。

 どうやら手当たり次第喧嘩を売っている訳じゃなさそうである。

 紫は少しバツが悪そうに答える。

 

 

「あぁ、最近小蝿がうるさいなと思ったら……」

「蝙蝠よ!!」

 

 

 紫は少し息を吐いて、言葉を続ける。

 

 

「で?タダで話すとでも?」

「なっ…!!」

「奇襲を仕掛けてくるんですもの。信用ならないわね」

 

 

 次に出た言葉は予想外であった。教える流れだとばかり。

 やはり、紫も、レミリアも咲夜も、お互いの持ち得る情報を欲しがっている。

 共有し合えないのは、お互いにとってお互いが容疑者になってしまっているから。

 

 

(これこそ相手の思う壺だったらどうするのよ…!)

 

 

 時間の経過で今回の異変はバッドエンドを迎える。

 もし、衝突するように相手が仕向けていたら……。

 

 

(……衝突するように……)

 

 

 何か思い当たりそうにはなったが、ダメだ、埒が開かない。

 今は目の前の処理からだ。

 とはいえ、どの道この先に行こうにも通させてはくれなさそうだし、首謀者は検討つかないし、コイツら何が何だか分からないし。

 

 

「あぁ!もう!本当にめんどくさい奴らね!」

「やるわよ、霊夢」

 

 

 一度殺し合いをしたもの同士。

 時は経てど、切れぬ因縁で出遭ったものだから。

 

 

「油断は厳禁よ、咲夜」

「1秒とくれてやりません」

 

 

 秋の夜長に再び相見えれば、

 火蓋が切られるのは酷く容易いのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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