東方弔意伝   作:そるとん

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きっと彼女らは〜東方永夜抄〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 はるか昔より変わらぬ形で見るものを魅了する日本の宝、富士の山。

 

 なよ竹のかぐや姫は月へ帰る最期、自身が想いを寄せる帝へ、不死の薬を渡す。

 自身が月の住民に飲まされたもの同じ薬。

 その名も“蓬莱”。

 

 かぐや姫が蓬莱を帝へ渡したその真意は。

 恋慕か。

 同情か。

 

 帝は蓬莱を飲まなかった。

 誰の手にも渡らぬ様、焼いた。

 煙が月まで届く様。

 

 この国の一番高い場所で。

 

 

 

 

 

「月からじゃ見えないわよ」

 

 

 そんなちっぽけな灯り。

 と、つまらなさそうに蓬莱山輝夜は独り言ちる。

 

 夜が止まってどのくらい経っただろうか。

 輝夜が貼った結界の上から結界が貼られている。広範囲かつ強力な結界がどこまで持続するかは不明だが、輝夜にとってこれは致命的であった。

 異変解決に博麗の巫女が動くのは想定内。相手が巫女含め8人いる事は想定外だった。

 だが、対処可能の範囲内である。

 

 つまり、異変が解決される事自体大した問題ではなかった。

 一番の問題は“夜が明けない事”。

 

 

「偶然か、必然か……妙手を選んだわね」

 

 

 輝夜は舌を打った。

 

 

「せめて今日の夜明けまで」

 

 

 それまで、持ち堪えられれば。

 結界を貼った本人を対処しなければ。

 

 

 

 幻想郷の夜明けまで残り2時間。

 満月は未だ天辺。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○○○

 

 

 

 思った以上に厄介だ、と八雲紫は思った。

 戦闘開始より十数分。未だ紅魔館組は傷一つ付いていない。時を止める能力が強力であることは言うまでもないが、其れを使役するのはまだ年端もいかない少女。霊夢と同い年か、少し上の、ほんの女の子だ。

 それが、こんなにも、

 

 

「ッ……」

 

 

 本能で察知する。また能力を使う。

 十六夜咲夜は未だノーモーション。前触れなく実行される能力は、紫や霊夢の様な卓越した第六感がなければ直ちに体の至る所に穴が開く羽目になる。

 先にも言ったが、予兆は毛程も感じない。

 

 

(さて、次はどう来るの)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「後ろかしら」

「チッ……!」

 

 

 0,1秒のインターバルも与えず、一瞬にして咲夜が視界から消え、代わりに大量のナイフが紫へ鋒を向けていた。

 紫はすぐさま自身の前後に“スキマ”を開く。

 大きな目玉の様なスキマにナイフは吸い込まれ、背後に展開されたスキマの出口へと射出されていく。

 

 ナイフをチャフにして背後からの奇襲はだいぶ見慣れていた。恐らく咲夜の王道パターンなのだろう。

 持ち前の敏速さと頭の回転の速さでこちらを翻弄する役割なのだろうか。対処が難しい相手ではあるが、戦術のレパートリーは今の所多いとは思えない。流石に、戦い慣れているかどうかは紫にアドバンテージがある。

 

 こと、能力の使用に関して、幻想郷内で紫の右に出るものは居ない。数百年分の経験と、超えた戦場の数がそれを物語っていた。

 

 

 全弾紫に直撃するはずだった大量のナイフは悉く紫を通過し、すぐさま咲夜の目の前のスキマから現れる。

 咲夜は、またすぐ能力を使うしかない。

 彼女の攻略方法は“消耗”だ。

 これだけ激しく動き回っていればいずれ苦しくなる。単純だが、効果的だ。

 

 

(ほら、能力を使いなさい)

 

 

 息吐く間もない判断を余儀なくされる。

 目の前にナイフが迫る中、咲夜はすかさず弾幕を展開する。

 

 

(弾幕……煙幕代わりかしら)

 

 

 ただ、その近さで着弾すれば咲夜自身もある程度ダメージを、

 

 

「っ…まさか」

 

 

 予想通り、紫のすぐ背後で激しい閃光が炸裂すると同時に、視界が煙に包まれる。

 右手を一振りし、傘で煙を払うと、やはり自分の背後に咲夜はいなかった。

 能力を使う予兆は無かった。

 嫌な予感。本能が察知するまま、すぐさま後ろを振り向く。

 

 と、同時に、紫の眼前にナイフが迫る。

 寸前で首を傾け直撃を避けるが、横髪が微かに切られ、頬に赤い一線が刻まれた。

 

 

「スキマの中を通ったのね」

「短い距離なら、此処からでも出口が見えたわ」

 

 

 随分長いこと生きている紫も、ここまで無鉄砲な人間はそう見なかった。

 想像以上に。

 面白くなりそうだ。

 

 

「危険だからね?次入ったらそのまま閉じ込めるわ」

「私も、もう2度とごめんですわ」

 

 

 咲夜は、再び両手にナイフを携え、隙のない臨戦体制を見せる。

 霊夢だけでなく、魔理沙も、そしてこの少女も。

 戦い慣れしてきている。

 能力の底上げが目に見える。

 

 

「とはいえ、結界を貼りながらの戦闘は億劫でしょう?」

「…………」

「そう睨まないで頂戴。結界はもう剥がれているわ」

「なっ、ウソ……!」

 

 

 咲夜は急いで月を見る。

 位置は変わらないままだ。

 

 

「安心して。夜は変わらず止まったままよ」

「なぜ……」

「何故って……異変解決のために夜を止める、貴女のアイデアよ?」

 

 

 紫はハナからこの2人を疑っている訳ではなかった。ただ少し、血の気が多いばっかりに。

 咲夜のアイデアを使って、紫は昼と夜の境界をいじっていた。咲夜が結界を張るより遥かに安定する上、能力の使用については紫の方が優れている。

 

 

「目的は一緒なんだもの。それに、あまり貴女を敵に回したくないわ」

「…………お嬢様!」

「はぇっ!?」

 

 

 たっぷり間をとって、咲夜は一息吐くと、よく通る声で主人を呼ぶ。

 急に呼ばれたレミリアは驚いた一瞬を突かれて、霊夢の大幣が直撃する。

 

 

「うぐっ……!!」

「は?え、ちょっと何よ」

 

 

 突然動きを止めたレミリアに困惑しながら、霊夢もその動きを止め、紫の方を見る。

 レミリアも霊夢も随分とボロボロであった為に、なんて激しい戦闘をしていたのだろうと、その想像には容易かった。

 

 

「なに?どういうこと?」

「ここで体力を消耗するのは止しましょう。2人とも敵じゃないわ」

「えー、何それ先言いなさいよ」

「うーん、それはそうだったかも」

 

 

 ナイフより先に言葉だったわね、と素直に反省を示すレミリア。親しき中にも礼儀ありだったと思うところがあるようだった。

 ただこうなれば話は早い。不用意に気力を削がれなくて良かった。少なくとも、この2人相手ではそれも無い話では無かった。

 果たして、ここまで計算づくであるのだろうか。

 

 

「結局、犯人探しは振り出しに戻ったわけね」

「霊夢達はどこに向かうつもりだったの?」

「紫の言うまま」

「えぇ……」

 

 

 咲夜と霊夢が情報共有に興じている最中、紅魔館の館主はそそっと紫へ近づく。

 

 

「検討つかないっていう割には、歩みに迷いがないなと思って」

「いつから怪しんでいた訳?」

「貴方と貴方の式神が入り込んだ3件目の廃屋。ウチから程近いのよ。

 あまり外に出ない貴方が、この肌寒い時期に外出、ましてや連日。怪しまない方がおかしいわ」

 

 

 以前から、紫は今回の異変について調査に及んでいた。幻想郷が、幻想郷であるために存在する“博麗大結界”。自身の境界を操る能力と、かつての博麗の巫女との合力により作り上げられた極めて強力な結界。

 

 ここ千年、これと言った劣化も見られず、その安寧は確かなものだった。

 しかし、

 

 

「8月の中旬頃ね」

「は?」

「妙な胸騒ぎと違和感を持って、夜に突然目が覚めたの」

 

 

 何かに神経を刺激されたかのような。脳内の電気信号が本能的に何かを伝えようとした、そんな衝撃。

 紫は非常に眠りが深く、一度眠れば次に目覚めるのは13時間後なんてのが日常だ。

 そんな彼女が、起こされたのだ。

 

 

「それから少し間が空いて、気づいた頃にはこの異変」

「結界付近で何かあったのかと考えた訳ね」

「定期的に管理はしてたのけれど、案の定、強い力が通った痕跡があった」

 

 

 ピッタリと剥がれぬ様貼り付けられていた札が、明らかに人為的に裂かれていた。ただ、先にも言ったが剥がれない上、裂け口は機械で斬られたように綺麗だった。

 何者かの侵入を防御しようとしたが、その者の力に充てられてしまったようだった。

 

 

「今は修復したけれど、油断ならないわね」

「それで、結界付近にある廃屋に新しめの足跡を見つけたわけね」

「そこまで見てたわけね。よくやるわ」

 

 

 廃屋や、夜の山に蝙蝠がいても何らおかしくは無いのだから、よくここまで上手く隠れていたものだ。

 

 

「で?何か目星はついているんじゃないの?」

「ある程度はね。確証はないけれど……って、あら?」

 

 

 話もひと段落ついたところで、霊夢達に声をかけようとする。

 この夜更けに珍しく、自身らとは別の飛行体が視界に入る。

 というより、

 

 

「人?」

「ちょっと!あの魔女みたいなシルエット!!」

 

 

 レミリアが珍しく叫ぶ。

 だいぶ見慣れた姿なもので、勿体ぶる必要もないだろう。

 問題は、残り3人について。何となく見覚えはあるが。

 

 

「引き止めるわよ」

「言われなくとも!」

 

 

 レミリアの声に反応するように、霊夢と咲夜も同じ方向を向いていた。紫の合図に一番に反応したのは霊夢だった。

 これで関係者が8人。

 何が彼女らを引き合わせているのだろうか。

 

 

「八雲紫」

 

 

 はっきりとした声が耳に届く。

 なるほど、よく通る声だ。

 

 

「私の運命の力は動いてないわよ」

 

 

 

 

 運命ね。

 紫は静かに息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







遅くなって申し訳ありませんでした…!!
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